2014年度前期早稲田大学雄弁会 研究会議レジュメ補足 文責:研究幹事 学問における科学的な研究のプロ セスと目的を概観する 理論 モデル 作業 仮説 検証 このプロセスを繰り返すことで、 よりよい理論の構築を目指す 理論 • より一般的な因果関係についての言説 モデル • 個別の現象を説明するための分析道具 作業仮説 • 分析の際の前提条件のようなもの • 具体的な独立変数と従属変数のセット • モデルが正しいときに成り立つこと • 観察可能⇒数量的に検証可能 ただし、これらの用語には異同がある 理論とモデルはほぼ同じ意味で使われる また、理論と仮説にも科学的に本質的な差はない どんな理論も、反証に耐えて現時点で残っている 「仮の説」に過ぎない ある社会現象が なぜ(why?) どのようにして(how?) 起こるのかを明らかにすること! KKVは、科学的研究とは推論であるとする 推論⇒直接観察されたデータの単なる集積ではな く、そのデータをもとに、より広範囲の何かを推 測しようとすること 推論には、 記述的推論(物事がどうなっているか?)と、 因果的推論(物事がなぜそうなるか?)という、 二つの種類がある このうち、 特に因果関係の解明が重要視される 記述的推論により現象の特徴を明らかにした上で、 その現象がなぜ生じたのかについて因果的推論を 行う 科学的な研究のツールとして どのような手法があるか紹介する 実証研究 作業仮説の検証によるモデルの検証 例)計量政治学 数理研究 検証すべきモデルの構築 例)ゲーム理論 今回の発表で触れるのは以下の手法 ・計量分析 ・事例研究 ・実験研究 ・シミュレーション ・数理モデル 研究の目的に沿って、いずれかの手法を選択する 現実の観察データに統計手法を適用し、作業仮説 を数量的に検証することでモデルを検証する 母集団から抽出された標本の性質を、推測統計学 を用いて母集団へ一般化する(帰納的論理)手法 検証すべき作業仮説を反証可能で計量可能にする ため、まずは概念の操作化を行う 観察されるデータをうまく説明するような統計 モデルを選択する 統計的有意性検定によりその妥当性を検証する ただし、統計処理により因果関係を主張するため には様々な制約がある(後述) 1個または数個の事例の過程を研究することで、 仮説検証を行う 因果メカニズムの解明や、逸脱事例の検討による 仮説構築という強みがある 定量的研究からは、観察の数が少ないと因果関係 の検証はできないとの批判もある(N=K問題など) 定性的研究も定量的研究と同様の論理で推論を 行うべきである 少数事例研究(small N study)は、選択のバイアス の問題を避けるため、分析の単位を細分化するな どして観察(N)の数を増やす必要がある 単一事例研究は、観察が増やせなければ無意味 定性的研究にも独自の方法論的意義がある 決定的事例研究 least likely case/most likely caseを用いることで、 単一事例でも仮説検証に使える可能性がある 仮定追跡 少数事例内で仮説構築⇒検証を繰り返すことで、 因果メカニズムを推論する(計量分析だけでは因果 メカニズムの精緻な分析は難しい) 実験で割り当てた条件間の比較により、仮説検証 を行う 他の条件を統制し、独立変数だけを変化させ、 従属変数が仮説通りに変動するかどうかを見る ⇒介入による因果効果をより正確に把握できる ⇒これこそが実験の最大の強み 実験群と対照群を無作為に割り当てることで、 他の条件を一定とみなし、共変量の統制が容易に ⇒「無作為割り当ては実験の王道」 社会科学における適用は難しいとされてきたが、 近年導入が進んでいる 外的妥当性 実験の結果をどれだけ一般化可能か?ということ 実験研究がよく批判されるポイント 自然実験 観察データに基づくが、社会的・政治的なプロセ スの結果による独立変数の割り当てが、無作為に 近いとみなせる事例を用いた研究デザイン Rubinによる因果効果の定義 𝑦1𝑖 − 𝑦0𝑖 を、対象𝑖に対する因果効果と定義する ただし、処置群の場合𝑡 = 1, 統制群の場合𝑡 = 0 しかし、現実に観測できる従属変数𝑦はどちらか 一方のみ 厳密な意味では、観察データから因果効果の推定 をすることはできない また、調査観察研究では実験と違い、独立変数の 無作為割り当てができない したがって、共変量の影響を統制しきれない 近年ではこれらの問題を解決するため、種々の統計 手法が開発されてきている それによって、調査観察データによる因果推論も 可能になってきている 現実をモデル化し、コンピュータ上でそのプログ ラムを走らせ、仮想的な結果を得る シミュレーションを実施するプロセスを観察し、 それを現実の現象と対比することを通して、その 現象のメカニズムの解明を目指す 近年政治学の分野で適用が進んでいるのは、 マルチエージェントシミュレーションという手法 ミクロな主体の行動を定義し、その集合によって マクロ的にどのような現象が生じるかを分析する ただ、社会におけるミクロな主体としての人間の 行動をモデル化するのは難しい 数学的手法を用い、演繹的にモデルを構築する 論理的な厳密性を担保できる 論証のプロセスや、置かれている仮定が明確に 示されるため、モデルの問題点を発見しやすい また、論理性が高いために、自然言語による記述 モデルでは発見できないような隠れた論理的展開 を明らかにできる 数理モデル相互の適切さを判断する先験的な規準 はない ⇒実証データとより整合的なもの、より広い範囲 をカバーするモデルと整合的なものが適切である と判断される ⇒実証研究との接続が必要 自然言語:英語、日本語といった言語のこと 言葉を用いて因果関係のメカニズムを記述するこ とで、因果モデルを構築する 数理的アプローチに比べると、論理的な厳密性は 担保できない 科学的な研究における方法の意義 について 科学的に社会現象を分析するため、どのような手法 を適用すべきかということを議論するのが科学的方 法論 実証研究は、科学的に妥当な手続に基づいて行われ ることによって、確かな知識を得る しかし科学的な方法も、一定不変である訳ではない 異なる方法論的立場を認識し、自らの依拠する方法 にも自覚的である必要がある また、特に政治学という分野においては、政治を分 析する者が、同時にその政治社会の一員でもある 研究者自身の規範的な評価が、客観的であるはずの 実証分析に影響してしまう可能性がある だからこそ、方法論的な自覚が必要 幸いにして、早稲田大学政治経済学部には方法論 を学ぶ環境が整っている 計量分析→計量政治学、政治経済の計量分析、計量経済学 実験研究→実験経済学 ゲーム理論→ゲーム理論、ゲーム理論入門、国際政治学 シミュレーション→シミュレーション分析 政治学方法論全体について→調査研究デザイン 方法論を学び、より確かな方法で政治現象を理解 していこう!! とはいっても… 方法論を知るだけで面白い研究ができる訳ではない (あたりまえ) 研究対象となる政治(学)への知識が必要だし、、、 政治学以外の諸学問の知識が活きることも多い 日常の政治現象に潜む謎を発見していく知的好奇心 がなにより大事!!!(激しく自戒) 荒井紀一郎『参加のメカニズム』 久米郁男『原因を推論する』 清水・河野編『入門政治経済学方法論』 戸田山和久『「科学的思考」のレッスン』 星野崇宏『調査観察データの統計科学』 ブレイディ・コリアー編『社会科学の方法論争』 キング・コヘイン・ヴァーバ『社会科学のリサーチ・デザ イン』
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