新!触媒有機反応研究室(福澤,所研究グループ) 序章

新!触媒有機反応研究室(福澤,所研究グループ)
序章 「新しい反応が世の中を変える」
当研究室のテーマは,
「有機合成化学」と「有機金属錯体触媒」の分野で,医薬品のような生物
活性を示す化合物の合成や太陽電池など有機電子材料への応用を目指しています。物質化学の担い
手である有機合成化学は,流行に流されることなくどんな時代でも必要とされています。新しい反
応が,新しい物質を生み出し,新たな産業を生み出し,世の中を変えて行きます。有機化学の研究
室ですが,無機化学・物理化学の得意な学生も能力が発揮できるテーマもそろえています。
第一章 「難しいことを簡単に」ー分子触媒と有機合成の関わりー
有機金属錯体触媒 の設計理念は,和菓子作りと同じです。すなわち,あんこ(金属)を
中味に,その皮(配位子)を色々変えることにより,おまんじゅう, 鯛焼き,もなか,大
福など多彩なお菓子 (有機金属錯体触媒)に変容します。中味(金属)は同じでも,それ
を取り巻く配位子を, 合成の目的に叶うように設計することで, 多様な金属 錯体触媒が設
計できます。当研究室では,配位子を「クリックケミストリー」でつくることで,新しい
有機金属錯体触媒を開発しています。
R
R
N
カチッ
click chemistry
N
第二章 「クリ ックケ ミストリ ー 」か ら生み
N
N 1,2,3-triazole
簡単,安全!
N
N
R
R
出された有機金属錯体触媒
「クリックケミストリー」とはシートベルトを「カ
チッ」としめるように簡単かつ安全に合成するこ
とを意味しています。アジドとアルキンの環化付
H 3C
Fe PR 2
加反応による 1,2,3-トリアゾール合成は代表的
N
不斉合成の配位子� N
PR 2
なクリック反応です。当研究室では,この手法を
N
ClickFerrophos®
Ph
用 い て , ト リア ゾ ー ル環 を 持 つ キ ラル 配 位 子
ClickFerrophos と ThioClickFerrophos,およびト
Me
Me
N
リアゾールから発生するメソイオンカルベン配位
N
N
金属
N
子を開発しました。前者は,不斉炭素—炭素結合生
N
N
成反応に,後者はネオクロスカップリング反応な
どに有効です。最近,世界で初めて,面不斉メ
H 3C
Fe PPh 2
立体障害の大きい
ソイオンカルベンの合成に成功しました(㊙)。ネオクロスカップリングに有効
N
N
SBut
メ ソイオンカルベン
第三章 「有機合成は芸術」である−有機合成化学
N
ThioClickFerrophos®
Ph
研究の目標−
1 新しい反応の探索
新しい反応・新しい
触媒により従来では不
可能だった,また何段
階に渡って合成しなけ
れば到達できなかった化合物が容易に合成できるようになります。
当研究室では,クリックケミストリー決定版とも言える触媒を開発し,反応しにくいアジドとア
ルキンの反応を進行させることに成功しました。この方法で,世界で初めて,立体障害の大きな置
換基が付いたメソイオンカルベンを合成に成功し,この配位子の銅錯体を触媒として用いることで
チアゾールとチオールとの直接的なクロスカップリング(ネオクロスカップリング)に成功しまし
た。この論文は1年間で 500 以上のダウンロードがあり,注目度の高さがうかがえます。この反応
で,環境にやさしい糖尿病治療薬などチアゾールチオエーテルの合成が行えることが期待されます。
2
既存の反応の付加価値
不斉合成反応などが相当します。ラセミ体を作るだけなら,それほど難しくない反応でも,光学
活性体を作るにはかなりの知恵と労力が必要になります。その報償として,ラセミ体の数十倍から
数百倍の価値がつきます。新しいキラル触媒の考案が選択的反応を可能にします。
当研究室では,アゾメチンイリドを活性中間体として用いる生物活性を示すアミノ酸誘導体の一
段階合成を研究しています。グリシンイミノエステルを銀/ThioClickFerrophos 錯体で活性化する
とアゾメチンイリドを発生し,これがアルケンと反応することで C 型肝炎ウィルス阻害剤やアルツ
ハイマー病治療薬などの生物活性を示す光学活性アミノ酸誘導体の骨格が一段階で合成できます。
この反応の凄いところは,立体異性体が複数(23 = 8 個)生成する可能性がありますが,たった1
つの光学異性体しか生成しないことです。
3
既知の反応プロセスの単純化(直截化)
既知の反応を単純化し,より安全に,より効率よく,より広汎に使用できるようにします。この
目的のためにも,新しい触媒・反応剤が考案されます。
光学活性フェロセンは,金属錯体の配位子だけでなく,機能性材料としても注目されています。
従来の方法は,キラル置換基をフェロセンにあらかじめ導入しておくことで,位置選択的にオルト
位に置換基を導入する方法でした。新しい方法として,不斉触媒を用いることで,オルト位の炭素
—水素結合を直截的・位置選択的に活
性化することで,面不斉フェロセン
の合成を目指しています。
4
標的化合物の合成
医薬品や電子材料などの特定のフ
ァインケミカルズ合成が相当します。当研究室では,炭素—水素結合の活性化を利用する新しいポ
リマーの合成に成功しました。また,多環式芳香族化合物の合成(詳細は㊙)にも成功しています。
これらは,太陽電池などに応用できる可能性があります。
最終章 「心豊かに」−特別実験・卒業研究の実施形態−
有機合成化学の研究を通じて,広い教養を身につけ,社会に貢献できる人材を育成することが当
研究室の教育方針です。まず,研究を楽しめるようになれるレベルまで,基礎実験や英文テキスト
の輪講から始めます。何でも良いから,新しい発見を楽しみましょう。大学が定める講義時間中が
特別実験・卒業研究の時間です。9 時 30 分から 10 時頃に研究室に来るように心がけてください。
夜遅い実験(21 時以降)や休日の実験(授業実施日は除く)は認めていません。セミナーは週一回,
午前中に行います。土曜日は,自由時間です。
研究室行事
卒業研究テーマ説明合宿(2 月 28 日–3 月 1 日),春・秋の BBQ 大会 ,他大学(外国の大学
含む)との交流会, 若手研究者の会の参加, 週末の交流会, ビアパーティー,忘年会温泉
旅行
大学院生の表彰
有機合成化学協会発表奨励賞(2012 年度,2名),中央大学学員会会長賞(2009, 2010, 2011, 2012,
2013 年度),学生支援機構奨学金免除者(2009,2010, 2011, 2012, 2013 年度,5年連続),
卒研生,大学院生による学会発表(2014 年度)
日本化学会春季年会( 4 件)(名古屋),高分子学会(2件)(名古屋),テトラへドロンシ
ンポジウム会議(2 件)(ロンドン),均一系触媒国際会議(1件)(オタワ), 有機金属化
学国際会議(1 件)(札幌),有機金属化学討論会(2件)(福岡), 有機合成化学 関東シン
ポジウム(4 件)(東京,新潟),化学フェスタ(3 件)(東京)
本学や他大学の大学院に進学を考えている人,就職か大学院進学かで迷っている人,成績が悪いけ
ど大学院に進学したい人,勉強は少し苦手だけど実験が好きな人など,相談会で話をしましょう。