境界層遷移 Boundary Layer Transition ~環境負荷が少ない航空機実現へ~ 環境への負荷が少ない航空機を実現させるためには,航空機の軽量化と飛行時の 抵抗軽減が必要不可欠である.本研究は,現在の航空機の全抵抗の50%を占めてい る翼表面摩擦抵抗を軽減させることで燃料消費量を節約しようとするものである. 三次元境界層 表面摩擦抵抗は,翼表面の空気の粒子が 引きずられることにより生じる抵抗のこと である.翼上の流れを見てみると,表面に 速度が遅い非常に薄い層が存在する.これ を境界層という.亜音速旅客機では造波抵 抗を抑制する目的で,翼の前縁が胴体に垂 直ではなく,ある角度を持って取り付けら れている(後退翼).後退翼面上の境界層 では下図に示すように,圧力勾配の方向と 主流の方向が異なるため,“横流れ”と称 される速度成分が生じ,下図のようなねじ れた境界層が発達する(三次元境界層). Streamwise component Crossflow component wall Pressure gradient direction 境界層制御 - 選択的吸い込み制御 航空機翼面上では境界層が層流から乱流へと遷移する.乱流境界層は層流境界層と比較 して表面摩擦抵抗が10倍程度になるため,できるだけ層流境界層を維持したい.乱流境界 層への遷移を抑制するように制御することを層流制御という.本研究は,上左図に示すよ うに,後退翼面上スパン方向に一様な定在渦(横流れ渦)を再現した上で,その横流れ渦 の低速領域のみを局所的に吸い込んで,乱流遷移を遅らせようというものである.これを “選択的吸い込み制御”と呼んでいる.一般的な吸い込み制御は,全ての場所で境界層を 吸い込んでしまうが(一様吸い込み制御),それと比較すると制御に要するエネルギーは 約1/3程度で済む.結果として最低でも全抵抗の約1.4%を減らすことに成功した.これは 実際の成田~ロサンゼルス間の飛行で考えると,ドラム缶約16缶分の節約に換算される. このような研究により,経済的にも環境的にもやさしい航空機実現を目指している. Transdisciplinary Fluid Integration Research Center, Institute of Fluid Science, Tohoku University
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