ささきけいこ 氏名(本籍) 佐々木啓吾(宮城県) 学位の種類 博士(医学) 学位記番号 医第3271号 学位授与年月日 平成14年3月6日 学位授与の条件 学位規則第4条第2項該当 最終学歴 平成6年3月25日 岩手医科大学医学部医学科卒業 学位論文題目 音響化学療法の作用機序に対する基礎的検討: sonoluminescenceおよびsingletoxygenの関与 (主査) 論文審査委員 教授吉本高志 教授高橋昭喜 一581一 教授小林俊光 論文内容要旨 研究目的 標的病変を低侵襲かつ組織選択的に治療する新しい治療法である,音響化学療法二Sonodyna mictherapy(SDT)の臨床応用を目指し,その作用機序の基礎的検討ならびに,臨床応用可能 な超音波増感剤の検索を目的とした。 研究方法 音響化学療,法には,超音波照射により引き起こされるaeoustiecavitaLionと共に発生すると される,音響ルミネッセンス:sonoluminescenceという発光現象による二次的な光力学的治療: Pho七〇dynamictherapy(PDT)の性質があるという知見に基づき,超音波増感物質二sonosen sitizerとして,すでに光力学的治療において光増感物質:photosensitizerとして認められてい るヘマトポルフィリン遊離基,anthracycline系抗腫瘍剤を検討薬として超音波照射による励起 蛍光スペクトルを測定し,以下の2つの実験系を施行した。 1)超音波照射により得られるsonolumineseenceの波形およびpeak波長と,検討薬剤の吸収 波長と励起蛍光波長を踏まえ,超音波照射により薬剤の水溶液より得られた波形およびpeak 波長を比較することで,その薬剤特有の励起蛍光であるspecificexcitationspectrumである ことを証明するとともに,超音波による薬剤の励起を明らかにする。 2)acousticcavitation発生時に生ずるとされる酸素種ラジカルのなかで特に光力学的治療に おいて,その殺細胞効果の一因とされているSingletoxygenがこの実験系においても発生し, 音響化学療法の作用機序の一因をなしていると考え,そのscavengerを条件に付加すること でspecificexcitationspectrumを含めたスペクトルの波形,peak値の変化を測定し,その 関連を検討する。 研究結果 超音波照射により得られる励起蛍光波長スペクトルは,sonoluminescenceが検討薬剤の吸収 波長に一致して吸収されるとともに,その薬剤のspecificexcitationspectrumが付加されたも のであることを明らかにした。 さらにsingleしoxygenのscavengerであるDABCOを投与することによりsonoluminescenceは変化しないものの,検討薬剤においてはspecificexcitationspectrumが著しく減少す ることを証明した。 一582一 結論 1)超音波照射により引き起こされるacousticcavitationに伴い発生するsonoluminescence という発光が超音波増感物質に吸収され,その薬剤を励起させるという二次的な光力学的治療 としての作用機序が音響化学療法にはある。 2)超音波照射によりacousticcavitationとともに発生するsingletoxygenが超音波増感物質 を励起するという作用機序が存在する。 研究の意義・独創的な点 これまで音響化学療法の有効性を示す報告はいくつかあったものの,その作用機序は未だに証 明されていない。 本研究は,超音波照射により引き起こされるacousticcavitationとともに発生する sonolum呈nescenceという発光,ならびに酸素種ラジカルであるsingletoxygenが音響化学療 法の作用機序の一因であるという初めての報告である。 さらに,すでに臨床応用されている光力学的治療と音響化学療法との併用治療の可能性,ある いは新たな増感物質の開発にあたってはsonoluminescenceのpeak波長である415nm付近に吸 収波長をもつものが有望であることを示唆しており,今後の音響化学療法の臨床応用に貢献する 研究である。 一583一 審査結果の要旨 本研究は,音響化学療法:Sonodynamictherapy(SDT)における作用機序の解明,ならび に臨床応用への基礎研究である。 音響化学療法とは,超音波増感物質:sonosensitizerを標的組織に取り込ませた上で超音波を 照射し,薬剤励起させ組織選択的に標的組織を壊死,消滅させる治療法であり,近年,低侵襲か つ低負荷な治療法として主に悪性腫瘍に対する治療の新機軸として,注目されており,これまで にその有効性が多数,報告されてきた。しかし,その反面,その作用機序は未だに明らかにされ ておらず,その解明は大変意義深いものと言える。 本研究は,超音波照射により発生するacousticcavitationに伴い引き起こされる音響ルミネッ センス:sonoluminescenceという発光現象に着目し,音響化学療法には,この発光現象による 二次的な光力学的治療:Fhotodynamictherapy(PDT)の性質がある,という独創的な仮説 による研究である。また検討薬である,超音波増感物剤の溶液中での超音波照射により引き起こ される発光現象を励起蛍光スペクトルの測定から分光学的に考察するという点も特徴のひとつで あり,斬新な研究である。 研究結果は,作業仮説である二次的光力学的治療としての作用機序が存在することを証明し, 今後,超音波増感物質の選択,開発に有用な知見を示唆するものであり,さらに,超音波照射に より引き起こされるacousticcavitationとともに生じる酸素種ラジカル,特にsingletoxygen が超音波増感物質を励起する,という作用機序が存在するということも証明しており,今後の機 序の完全解明と,治療法の開発,発展に大きく寄与するものと考える。 方法,考察ともに明解,秀逸であり,学位に十分値すると考えられる。 一584一
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