ここで、君の隣に任意の異性を代入する

ここで、君の隣に任意の異性を代入する
第一話 平坂龍之介の描く女はきっと醜い
第一話 平坂龍之介の描く女はきっと醜い
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ひらさかりゅう の すけ
かんばらゆう や
坂 龍 之介が俺たちの前で「普通の先生」だった時間は、正確に計ったわけではないけれども、
平
およそ三分ぐらいだと思う。
う
原優弥の通う私立高校は進学校で男子校だ。そして三年間を通じて担任は替わらないが、副
俺、神
担任は学年ごとに替わる。二年の始業式の日、俺は仲間たちに「二年の副担はエロい女教師がいい
かすみ
く
な」とぼやいていた。一年かけて男だらけのむさ苦しい環境に慣れはしたが、慣れと餓えは別問題。
併設された中等部からの内進組には、四年かけて環境に適応した結果、霞を喰って生きる仙人のよう
に悟りを開いている者もいるようだったが、俺は幸か不幸か、まだその領域までは達していなかった。
にお
き
が
、教師と生徒の間で禁断の恋愛が始まることを期待して
別に副担任の先生が女だっよたそかじらと言っかて
っぷく
いるわけではない。ただ、四十路越えの恰幅の良い女性音楽教師に対して、「頑張ればアリ」という
結論がくだる世界だ。食べられなくても匂いさえすればそれで良いというところまで飢餓は進行して
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こ いずみ
いる。何を頑張るのかについては、言っている本人ですら分かっていないので聞かないで欲しい。
泉 先 生 か ら 副 担 任 が 紹 介 さ れ、 そ れ が 若 い 男 の 教 師 だ っ た
だから朝のホームルームで担任の古
時、皆は一様に顔に落胆の色を浮かべた。
「平坂龍之介と言います。担当科目は数学。年齢は三十二。今までずっと講師で、クラスを受け持つ
のは今回が初めてです。よろしくお願いします」
平坂先生はハキハキとした口調で自己紹介を行い、大きく頭を下げた。担任の古泉先生が四十半ば
だから一回りぐらい下か。眼鏡をかけた利口そうな顔つきにロボットのように丁寧なお辞儀。いかに
も堅物な雰囲気だ。質問タイムに入り投げかけられる質問にも、聞いているこちらが恥ずかしくなる
き
ま
じ め
ぐらいに明朗快活に答えていく。教師になるために生まれてきた、というやつだろう。
真面目そうな若い男性教師を少しからかいたくなった。平坂先生が「他になにか聞き
俺は、この生
たいことはないかな」と問いかける中、俺はすっと手を挙げ、指名されると砕けた口調で言い放った。
わ
「平坂先生は、童貞ですか?」
いた。これで沸くということは、俺以外も平坂先生を童貞っぽいと思っていた証拠
ドッと教室が沸
だ。さて、肝心の相手はどう出るか。
よど
「そんなことはないよ。経験ありです」
むこともなく、スラスラと俺の質問に答えた。おや、意外に
平坂先生は恥ずかしがることも言い淀
も耐性がある。ならもう少し突っ込んでみるとしよう。
「じゃあ、過去何人とヤったんですか?」
気がつくと俺以外のクラスメイトも、ニヤニヤした顔で平坂先生のリアクションを観察していた。
こういう時の男子校の団結力は最強である。男女関係なく大人をからかうのは楽しいものだ。もちろ
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第一話 平坂龍之介の描く女はきっと醜い
ん、女だったらより楽しいのだが。
たた
ご
ま
か
はしどろもどろになって誤魔化す。それが俺の予想だった。しかし平坂先生
二 人 か 三 人。 あ る い
あざわら
ほほえ
は、その俺の予想を嘲笑うかのようにニコリと爽やかに微笑みながら、とんでもない数字を俺たちに
叩きつけた。
「九十三人です」
づら
さら
間、平坂先生は俺たちにとって「普通の先生」ではなくなった。俺たちは全員アホみたいな
そのぼ瞬
うぜん
顔で呆然としていたが、平坂先生の横で指導役として受け答えを見守っていた古泉先生が、おそらく
◆
教室で一番のアホ面を晒していた。
うそ
「ぜってえ嘘だって! あんなの!」
始業式の日は午前中で学校が終わる。放課後、俺たちは仲の良いグループで集まって話をしてい
た。話題の中心は当然、平坂先生だ。ここで九十三人斬りの男をスルーするのは、宇宙人が攻めてき
きょう がく
たのに明日の献立について悩むぐらい不自然だ。
愕の暴露の後、慌てふためく古泉先生の手によって「始業式まで
平坂先生の自己紹介は、その驚
た ぶん
時間がないから」と強引に打ち切られた。記者会見で大失言した芸能人のマネージャーって、多分あ
んな感じだろう。まだまだ聞きたいことがあったのに残念だ。出身地とか、学歴とか、本当にどうで
も良いことに質問時間を使って失敗した。
「嘘つくタイプに見えないけどなあ」
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「九十三人も女喰ってるタイプにはもっと見えないだろ!」
俺は平坂先生の発言は全て出任せであると主張した。確かに俺は男女の付き合いに疎いが、「外の
世界では男は女を百人喰って初めて一人前と見なされる」と思えるほど世間知らずでもない。経験人
すご
数九十三人は、明らかに異常だ。偏差値で言うと七十五は固いだろう。多い方が良いとも言い切れな
いので、逆に二十五かもしれないが。
「でも本当だとすると、まずカウントしてるのが凄いよな」
確かにそうだ。俺の携帯に入っている女のアドレス全部より多い。最初から数えようと思っていな
いと数えられない数字だろう。人生にオートカウントの機能はない。
ためいき
「こっちにもちょっと分けろって感じだよな。不公平にも程があるだろ」
息をついた。俺にもその気持
そう言った男は、自分で口にして惨めになったのか、はあと大きく溜
は
ちは良く分かる。平坂先生の自己申告の真偽はともかく、世の中にパンツを穿き替えるように女を替
み じん
えていく男がいるのは事実なのだ。社会主義は死んだ。富は偏在するばかりで、再分配される気配は
微塵もない。
あが
たてまつ
俺たちのスクールカーストはシンプルだ。非童貞に近づけば近づくほど偉い。勉強も運動も下から
数えたほうが早いちょっと抜けたやつが、学園祭でゲットした彼女と最後までやり遂げたというただ
ている女の子がいる」というだけでも、真ん中より上のカーストに位置することが出来る。
一点のみで神のように崇め奉られる。そしてあまりにも出会いがないため、ただ「ちょっと気になっ
俺が、まさにその位置だった。
もら
「優弥さ、ダメ元で平坂先生にアドバイス貰ってみれば?」
いきなり俺に話が振られた。何のアドバイスかなど聞くまでもない。あの子のことだ。
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第一話 平坂龍之介の描く女はきっと醜い
そ
け
「いいよ。自分でなんとかする」
っ気なく答えると、皆が色めきたった。「このリア充め」とからかう友人に、俺は「リア充
俺が素
のハードルが低すぎるだろ」と思ったが、気分が良いので黙っていた。
◆
の帰りはまず会えないだろうと思っていたので、下校時の電車で彼女を
午前中で終わりだから今日
こぶし
見かけたとき、俺はグッと拳を握り締めた。
ほお
き れい
俺は空いていた向かいの席に座り、近くの高校の制服を着て文庫本を読む彼女をチラチラ観察す
る。サラサラした長い黒髪や透き通るような色白の肌は人形のように美しく、小さくて丸い顔の輪郭
や柔らかそうな頬は幼い。パーツで見ると「綺麗」なのに、全体で見ると「かわいい」というそのバ
今日は、あの子の高校も早上がりだったのか。
ランス加減が、実に俺の好みのタイプだ。
─
一つ彼女のことをまた知ることが出来た感覚に、俺はささやかな興奮を覚える。俺が彼女について
知っていることは少ない。というか、ほぼない。電車の中で俺が一方的に見かけているだけの関係な
のだから当たり前だ。制服から通っている高校はわかるが、名前すら知らない。彼女の方は、俺とい
う存在を意識したことすらないだろう。
ただ、俺が観察と調査によって取得した情報はいくつかある。彼女が乗り降りする駅、登校時の乗
車時間と乗車車両、下校時の乗車車両だ。下校時の乗車時間はマチマチで確定出来ていない。だから
こんな変則的な時間に下校しているのに会えた今日の俺の運勢は、相当に幸運であると評価できる。
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─
何、読んでるんだろう。
のぞ
て本を読んでいた。中を覗いてみようかと毎回思うが、
彼女はいつも茶色い革のブックカバーこをどし
う
毎回断念してしまう。見ているだけで鼓動が速まるのだ。近寄りなどしようものなら、どれほど挙動
不審になるか、推して知るべしである。
俺はただ黙って彼女を観察し続けた。やがて彼女はいつも降りる駅で降り、俺は一仕事終えたよう
にふうと息を吐いた。別に、何もしていないけど。
三ヵ月ぐらい前の朝、普段は乗らない時間の、普段は乗らない車両に乗って彼女を見かけたとき、
俺は言葉を失った。女と触れ合う機会がないと、許容範囲は広がるが、スイートスポットは狭まる。
女優やアイドルが基準になるからだ。俺も当然そうであり、マイナス方向に純粋な環境で培養された
ひ
理想像を脳内に抱え、しかし実際は俺の手の届く範囲にそのような偶像など存在しないことも理解
もんもん
し、悶々としていた。
かれるのは当然だ。俺は翌日も
その有り得ないはずの理想が、実体を伴って俺の前に現れた。心惹
同じ時間の同じ車両に乗り、そして再び現れた彼女を目にして初めて、彼女が俺と同じ生活圏内に生
息する女子高生であるという事実を現実として確信した。それから、俺の四畳半の心の三畳ぐらい
は、常に彼女の存在で占められてしまっている。
世界で一番美しい女の絵を描ける男は、たぶん女を見たことがない男だ。きっと俺が描く女はこの
上なく美しいし、九十三人斬りの男が描く女はこの下なく醜いだろう。だから俺の生き方だって、そ
んなに間違ってはいないと思う。
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第一話 平坂龍之介の描く女はきっと醜い
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らいだった。
俺が平坂先生と初めて個人的に話したのは、始業式の一週間後ぐ
たず
あの衝撃の自己紹介以降、平坂先生にその撃墜スコアの詳細を尋ねるものはいなかった。存在が異
質すぎて触りづらい。だがそのせいで、平坂先生は少しみんなに受け入れられていないように俺には
感じられた。普通にみんなと会話が出来ているように見えても、昼間に都会のど真ん中で全裸の人間
と談笑しているような違和感を覚える。「ところでなぜ全裸なんですか」という根幹に関わる質問を
避け続けたまま、分かり合うなんて不可能だ。
だから俺は、放課後に別の先生への質問で職員室に行くことになった時、ついでに平坂先生のとこ
した
ろに寄って話をしてみようと決めた。元々、俺がした質問が発端なのだ。そのせいで慕われないのは
少し責任も感じる。
けた
い
す
職員室内を探すと、すぐに平坂先生は見つかった。職員室の全教員デスクの中
本来の用件が終わり
せいとん
でも屈指なほど整理整頓された机の上で、難しい顔をして書類とにらめっこしている平坂先生は、三
桁近い女を喰ってきた男には全く見えなかった。
ためら
子に腰掛けたまま振り向い
俺が「あの」と声をかけると、平坂先生はすぐさま「どうした?」と椅
た。俺は周囲に他の教員がほとんどいないことを確認し、声をやや潜めて問いかける。
「経験人数九十三人って、本当ですか」
躇うことなく、あっさりと俺
まずは事実の確認から入ることにした。平坂先生は、ほんの少しも躊
の質問に答える。
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「本当だよ」
や
をついていたら見抜いてやろうと強く視線を合わせていた。だが平坂先生がその視線に真っ直ぐ
こ嘘
た
そ
応えるので、俺の方がさっと目を逸らす。
「それは、なんていうか、自然に気がついたらって感じですか?」
「自然にそんなことになる人間なんていないさ。趣味だよ。今はもう止めたけれどね」
「改心したんですか?」
すがすが
つくろ
「飽きたんだ。テニスやゴルフに飽きたりするように、女性を落とすことに飽きた」
々しいまでのクズ発言。教師なんだからもう少し取り繕った方が良いのではないかと、俺の方が
清
心配になってしまう。
「それで実際に九十三人喰えるんだから、凄いですね」
よみがえ
俺は本音と皮肉を半々に込めて平坂先生を持ち上げた。すると平坂先生は、事も無げに言い放つ。
「難しいことじゃないよ。やろうと思えば、君にだって出来る」
─
俺にも出来る。その言葉を聞いたとき、ふと脳裏にかつてかけられた言葉が蘇った。
ダメ元で平坂先生にアドバイス貰ってみれば?
「……例えばの話なんですけど」
俺は、定番の予防線を張りつつ、話を誘導する。
「通勤中に電車で偶然一緒になるだけの人も、先生は落とせたりするんですか?」
無理に決まっている。口にしながら、俺は俺に強い否定を返していた。ぼんやり夢見ているうちは
気づかなかったが、いざ言葉にしてみると、いかに自分が望んでいる展開が突拍子もないか思い知ら
される感じだった。
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第一話 平坂龍之介の描く女はきっと醜い
しかし平坂先生はこれまたあっさりと、会計の小銭が足りないときに「一円持ってる?」と聞かれ
て「持ってるよ」と返すぐらい簡単に、言葉を返した。
「落とせるよ」
ポカンとする俺に、平坂先生は一言継ぎ足した。
「まあ、恋愛に絶対はないけれどね」
せ
絶対ではないけれども、勝算は十分にある。その口調はそう語っていた。そんな馬鹿な。いまいち
状況を把握してないんじゃないだろうか、この人。
「いや、でも、電車で会ってるだけですよ?」
平坂先生は何も答えず、ただじっと俺を見つめていた。沈黙に急かされるように、俺はあたふた言
葉を続ける。
」
み けん
「名前すら知らないし、相手はこっちのことなんか全く意識してないんですよ? 顔面偏差値が八十
─
ぐらいあればともかく、普通は
せりふ
「神原君」
詞が唐突に遮られた。平坂先生は俺の眉間のあたりに視線を合わせながら、慈愛すら感じる穏や
台
かな声で俺に語りかける。
「その辺りの細かい事情は個人差だから、詳しい話を聞かないと分からない。相談に乗って欲しいな
ら、喜んで乗るよ」
─
バレてた。俺は場を取り繕おうと慌てて口を開いた。いや、自分でなんとか
─
なんとか今のところは話しかけることすら出来ていない名前も知らない彼女と深い仲になってみせ
るんで
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─
無理だろ。
「……じゃあちょっと、相談のってもらってもいいですか」
俺は素直に頭を下げた。平坂先生は「それじゃ、これから作戦会議と行こうか」と弾んだ声を出し
つつ、俺の肩をポンと叩いた。
◆
進路相談などに使われる小部屋で平坂先生は、堂々と「こういう相談に乗りたくて教師になった」
と言ってのけた。しかし共学でヤリチンアピールなどしたら、それだけでクビになることはないにし
ても、問題になるのは目に見えている。だから男子校を選んだそうだ。
あき
「もう女を落とすのは飽きたって言ってたじゃないですか」
れてそう言うと、平坂先生は眼鏡をクイと直しながら言葉を返した。
俺が呆
「神原君は、テレビゲームをするかな?」
「ゲームですか? やりますけど」
「じゃあ、ゲームをやっているのを見るのも好きだろう」
「ええ、まあ」
「それと同じだよ。プレイヤーは飽きたけれども、プランナーはまだ飽きていない」
「恋愛はゲームのようなもの、ということですか?」
「方程式を解くようなもの、と言った方が僕の感覚的には正しいかな。人生を満たす彼女Xに任意の
異性を代入して解を求める作業だ」
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第一話 平坂龍之介の描く女はきっと醜い
ゲスい。任意の、が特に。やっぱり相談する相手を間違えただろうか。いや、もう考えないように
しよう。乗りかかった船だ。
「じゃあ戦略を練ろう。詳しい話を教えてくれ」
平坂先生に促され、俺はこれまでの経緯や、ここまでの観察で彼女について得た情報を語った。か
あいづち
らかわれるかと思ったが、平坂先生はふむふむと相槌を打ちながら、真剣な顔をして俺の話を聞いて
いた。そして全ての話を聞き終えると、腕を組んで考え込む。
「……やっぱ、まずは話しかけないとダメですよね」
厳しい顔をする平坂先生に、俺は恐る恐る声をかけた。客観的に見て、俺はまだスタートラインに
すら立っていない。そこはもう、戦略だの知略だのでどうにかなる話ではなく、俺自身が勇気を出す
しか選択肢はないと思った。
しかし平坂先生は、俺の予想とは全く違う答えを返した。
「いや、それは最後の手段にしよう」
最初にやらなければならないはずのことが、最後の手段。俺は困惑して尋ねる。
「どういうことですか?」
「そのままだよ。直接のアプローチは後回しにして、出来る限り他の接点を探そう。状況がだいぶ不
利だから、成功率を上げるためには、運命感を高めた方が良い。ところで君は海外で、日本人の女性
に声をかけたことはあるかな?」
いきなりなんだ。というか、あるわけないだろう。
「ないです」
「なら機会があればしてみるといい。困った顔して一緒に行動しませんかとでも言えば、驚くほど簡
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単に仲良くなれる。旅先でガードがゆるいのに合わせて、異国の地で同郷の人間と知り合う偶然を運
命的と捉えるからだ。今回、それと同じことを起こす」
「どういうことですか?」
「直接アプローチをかけても、彼女にとってその出来事は、近くに住んでいたから話しかけてきたと
いう、因果関係の中に収まってしまう。しかし別の方向からアプローチをかけて、
『たまたま』近くに
こ ざか
─
」
住んでいて、『偶然にも』通学で同じ電車を使っているという話になれば、
運命的だとは思わないか?」
賢しい。
俺は「あ」と短い気づきの声をあげた。なんて小
「でも他の接点って言われても、ないですよ」
「だから、これからそれを探すか、なければ作るんだよ。そうだな、まずは
平坂先生は言葉を切った。そしてごくりと唾を飲む俺に、爽快な笑顔と共に告げる。
「盗撮でも、してきてくれないかな」
◆
翌日、俺は指示通りに登校中の彼女を携帯のムービーで撮影して、放課後に平坂先生の元に持って
いった。ガチの犯罪級盗撮指示ではなくて助かったが、やってみて今の世の中、いかに簡単に盗撮が
出来る構造になっているか良く分かった。女性は一度やってみるべきである。二度とミニスカートを
穿く気が失せることだろう。いや、ミニスカ女子が絶滅しても俺にとっては損しかないから、やって
もらわない方が良いか。
「こんなんで、何がわかるんですか」
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