Re:スーパーマサラ人じゃないはず ID:105236

Re:スーパーマサラ人
じゃないはず
若葉ノ茶
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
な妹。兄はポ
以前書いた﹁マサラ人だけどスーパーマサラ人じゃないはず﹂がかなり不評だったの
で、新しく書き直しました。宜しくお願いします。
ポケモン世界に転生したのは主人公﹁サトシ﹂である兄とただのモブ
ど気のせいじゃないよね
語。でもスーパーマサラ人な兄のせいで原作フラグが叩き折られてる気がするんだけ
がたくさんいる世界の始まりの町で生まれた兄妹とポケモン、そして仲間たちとの物
ケモンに素手で勝負を挑めるほど強いのに、妹は野生ポケモンが怖い。そんなポケモン
?
■以前書いた物語とは全く異なる部分が多いですが、旧作と今回の﹁Re:スーパー
?
マサラ人じゃないはず﹂のどちらかを読んだとしても、必ず﹁私はただのマサラ人です
﹂に繋がるように書いていこうと思っています。宜しくお願いします。
!
目 次 第一話 あなたに会えてよかったと言え
る ││││││││││││││
第二話 ポケモンの子育てとは │
閑話 兄と過ごした七日間 │││
第 十 話 兄 の 異 様 さ を 知 る た め に いる │││││││││││││
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手が
122
132
第十一話 これは全部兄のせいだと思い
ます。 ││││││││││││
156
第三話 オーキド研究所にてやるべきこ
と ││││││││││││││
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
│││││││││││││││
第五話 未来の私はそこにいますか
第六話 悪とは何か│前編│ ││
第七話 悪とは何か│中編│ ││
第八話 悪とは何か│後編│ ││
?
144
1
17
31
44
80
108 93
58
│
﹂
﹄
第一話 あなたに会えてよかったと言える
﹁は
﹃ミュゥ
│││だというのに。
﹄
?
﹃ミュッ
!
﹂
むしろ私は普通の一般人として暮らしていきたいからどっか行ってほしいのが現状
いてもあまりはしゃぐことはしない。
てきてしまった兄のせいでそういった珍しいポケモンは私にとって普通で、ミュウにつ
と呼ばれ、滅多に人に姿を見せることがないはずのポケモン。でも主人公として生まれ
目の前にいるのはピンク色をした可愛らしいフォルムのポケモン。人々からは伝説
!
?
﹁その卵を私にくれるってこと
第一話 あなたに会えてよかったと言える
1
ミュウが両手いっぱいに持っている大きな卵を私に見せ、
﹃あなたにあげる ﹄とでも
言いたいようにドヤ顔をしながら卵を渡そうとしてくる。
!
お兄ちゃんに渡しなよ
﹂
﹂
そういうのはできれば後ろで面白そうな顔をしている兄に渡してくれないかな⋮。
﹄
﹁ほらそこにお兄ちゃんいるよ
﹃ミュゥ
﹄
私はお母さんみたいに普通に暮らすの
﹃ピッカ
﹁やだ
﹂
﹁でもバリヤードいるだろ
﹂
﹁諦めろヒナ。お前やっぱポケモン持った方がいいんだよ﹂
!
手持ちのポケモンじゃないもん
﹁バリちゃんは家族だもん
?
!
!
!
!
ゲットだぜ
﹂﹃ピッピカチュウ
!
﹄とか言わないと思うけど。
まあこの兄はあの主人公でない為、テンションが爆上がりでもしない限り﹁ポケモン
といっても、この世界では私以外には知らないあの彼である。
こそ、知る人ぞ知る少年。
私の兄はピカチュウを肩に乗せ、特徴的な帽子を目深にかぶり苦笑している。その姿
!
?
!
2
!
むしろ︻勝つこと=当然︼とか思ってる節が見られるし、本当に負けることがないぐ
らい最強だから仕方ないと言えば仕方ないだろう。
カントーとジョウト、オレンジ諸島で普通に優勝してるんだからね。チャンピオンに
ならないかとかワタルさんから誘われてるのに旅に出たいから断るって言った兄だか
らね。真面目に主人公の道を進む気満々かっ
ろうか。何故、私にその卵を渡そうとするのだろうか。
!
﹂
﹁ポケモントレーナーじゃねえよポケモンマスターに俺はなるんだよ﹂
⋮って感じだよ﹂
というかまだトレーナーでしょ
!?
﹃ピィカッチュ﹄
﹁どっちでもいいよそんなの
﹄
﹁全然違う。ポケモンマスターに俺はなる
﹃ピッピカチュ
!
!
﹂
﹁ああもうはいはい意味わかんないしわかってるよお兄ちゃんならすぐにでもなれるよ
!
﹂
というか、そんなスーパーマサラ人な兄に何故ミュウはポケモンの卵を渡さないのだ
!?
﹁とにかく、私はお兄ちゃんのようにポケモントレーナーにならないからね
第一話 あなたに会えてよかったと言える
3
!
私が前世にいた世界には、ポケモンなんて実際にはいなかった。兄である︻サトシ︼な
らば前世の頃にアニメで見たことがあるが、それは前世での話。今現在、フラグ総立ち
なサトシが身内になるとは思ってもいなかった。
まあ、兄は兄で私は私なのだからどうでもいいだろう。
私はポケモンを貰うつもりはない。だから、ポケモンの卵を貰ってもいらない。
だって、ポケモンは可愛らしい子もいれば格好良い子もいるが、その分危険性だって
高いのだから。
ポケモンの力は大体がバトルという意味で昇華されているが、普通に考えれば人間に
とって有毒な毒ガスを放つゴースとか、ボールの形をしてるけどいきなり大爆発するマ
ルマインとかいるのだから。そんなポケモンたちと常に身近にいるトレーナーには私
はなれない。むしろそうなったら死ぬのは確実。
例えば、ある日ある時オコリザルの逆鱗に触れて死んでしまったと言うトレーナーの
ニュースが流れるほど、ポケモンというのは人間よりもはるかに強くて恐ろしいんだ。
﹂
だから私はトレーナーになりたくない。なるとしたら普通の社会人になりたい。
﹁とにかくほら、ポケモンの卵
!
4
﹁ああハイハイ﹂
﹄
!
した光景も、ヒナが心底安堵したかのように息をついたからだというのもある。
ミュウがふてくされてヒナにあげるはずだった卵をそのままにどっかヘテレポート
してるだけかと思いきや、何かが違うのだと感付いたからだ。
ポケモンについて前世でゲームやアニメとして知られていたために、単純に現実逃避
俺の妹はポケモンと関わることに対して怖がっている。
・・・・・・・・・・・・
だって、私は普通のマサラ人なのだから。
いて何か言っているけれど、私は何も聞くつもりはない。
そんな思いが実ったのか、兄にポケモンの卵を渡すことができた。ミュウがそれにつ
﹃ミューゥ
第一話 あなたに会えてよかったと言える
5
普通はポケモンの卵を貰ったならば喜ぶかちょっとだけ戸惑いつつもポケモンから
の好意なのだからと受け取らないわけはない。それがトレーナーであり、普通の子供が
とる対応だろう。
﹄
?
﹁知らないのなら知ればいい﹂
トレーナーになりたくないのかなのだろう。
か、知らない生き物に触るというのがどんなに危険なことなのか知っているから、妹は
ピカチュウのいう通り、やはりポケモンとちゃんと関わってないから怖がっているの
を言うのだから。まっ、そんな話どうでもいいか。今は妹のことを考えよう。
から普通のマサラ人だと言える。スーパーマサラ人というのは、父さんか母さんのこと
スーパーマサラ人と妹やタケシ等に言われようが、俺はまだ人間の域から抜けてない
いのだと分かった。
相棒であるピカチュウが普通に首を傾けたから、本気で関わりたくないとは思ってな
﹃ピイカァ
﹁ピカチュウ。やっぱヒナってポケモンを持ちたくないのかな﹂
6
﹃ピカチュ
てやろう﹂
﹄
﹄
﹁ああ。あのポケモンの卵はヒナが持つべきものだからな⋮兄として、きっかけを作っ
﹃ピカピカ
か﹂
﹁妹 の 話 だ よ。⋮ な ぁ ピ カ チ ュ ウ。次 の ホ ウ エ ン 地 方 の 旅 は 一 週 間 く ら い 延 期 に す る
?
?
るのを待つだけだ。
ベッドの上に置いたピカチュウが戻ってくるのが見えたら、あとはヒナが散歩から帰
卵がカタカタと揺れ始めるのが分かったら、ピカチュウに頼んで俺の部屋にセット。
からこそ、ただ歩くだけの作業があまり苦にはならなかった。
る。それにはフシギダネやピカチュウ。そしてベイリーフが一緒に付き合ってくれた
翌日に向けてポケモンの卵を孵化の一歩手前ぐらいにまでオーキド研究所で散歩す
ピカチュウの毛並みを堪能しながらも、計画を立てることにする。
﹃ピイカッチュゥ﹄
第一話 あなたに会えてよかったと言える
7
﹁ただいま、サトシ﹂
﹁ただいまー﹂
﹄
﹁おかえり﹂
﹃ピカチュ
﹃ピカピ。ピッカァ
﹄
び、一緒に買ってきた食料を冷蔵庫へ入れていった。
妹は洗面所へ向かい手洗いうがいをしている。母は掃除をしていたバリヤードを呼
丁度良くヒナが母さんと一緒に家に帰ってきた。
!
・・・・・・・・・・・・・・
分かってるさピカチュウ。
!
8
洗面所で手洗いうがいをしている途中でリビングから聞こえてきた声にため息をつ
いた。
お兄ちゃんが行けばいいでしょ
﹂
﹁ヒナぁ。俺の部屋にポケモンの卵があるからちょっと持って来てくれー﹂
﹁えー
?
んならついでに頼んだぞ﹂
﹁ピカチュウのブラッシングしてるから無理なんだってば。ほら、どうせ着替えにいく
?
ンフーズの作り方についての参考書が本棚に並べられていた。そして、左奥にあるベッ
兄の部屋は普通に無地の壁紙。机と椅子が置いてあり、ポケモンブリーダーやポケモ
そう思いながらも、二階にある兄の部屋へ向かう。
んだろう。
ピカチュウの邪魔をしてはいけない。というか何で卵を持っていかなくちゃいけない
えた。兄はともかく、とろけたような顔で兄の手にすり寄りつつも居心地の良さそうな
リビングをチラリと覗くと、ピカチュウが念入りにブラッシングをしている様子が見
﹃ピィカッチュ﹄
第一話 あなたに会えてよかったと言える
9
ドの上にはあのポケモンの卵が置いてあったのを確認する。
恐る恐る卵を抱き上げ、微かにあたたかい卵の体温を確認しつつも一階へ向かうため
に歩き出した││││時だった。
﹂
カタカタッ。ピシっ
﹁うぇ
﹁お、お兄ちゃぁあああああああああああああああああッ
!?
﹁え⋮ええぇ
﹂
﹂
輝いていた光が止めば、パチクリとした青い目と合った。
そうな体温が両手に襲いかかってきた。
悲鳴と一緒に卵が大きく光り、ヒビが割れていき、そして先ほどよりも熱くて火傷し
!!!!!!!!!!
まるで狙いすましたかのように卵にヒビが割れ、光り輝いてきたのだ。
?!
10
﹃カゲッ
﹄
﹃ピィカッチュ
﹂
﹄
﹁い や い や 何 言 っ て ん の
しょ
﹃カ、カゲェェ﹄
﹁うわちょっ何で泣いてるの
﹂
というか良かったなって⋮お兄ちゃんのポケモンのはずで
生まれたみたいだな。しかも色違いか。良かったな、ヒナ﹂
であった。
オレンジというよりも金色に近いヒトカゲは、どっからどう見ても色違いのヒトカゲ
に何度か見たことがあったのだから。
もその色がおかしい。通常色のヒトカゲについては、オーキド研究所に遊びに行った時
私の両手の中にいるとても小さなヒトカゲは、尻尾の炎が元気に燃え盛っている。で
!
ヒトカゲが私の手の中で静かに泣き始める。それに元気がなくなった影響か、尻尾の
!?
?
!?
!?
!
﹁お
第一話 あなたに会えてよかったと言える
11
炎もちょっとだけ小さくなったような気がする。もしかして生まれたばかりだから、私
が何かよくないことでもしたのだろうか。
慌てて兄を見ると、兄は優しそうな顔を浮かべて笑っていた。
﹄
!
俺が貰ったわけじゃない。それにヒトカゲだってお
?
ヒナ、このヒトカゲはお前の傍にいたいんだよ﹂
?
まさかお兄ちゃんが何か
﹁⋮⋮でも、たまたま私がそばにいた時に生まれただけだっていうのに⋮ん
かしい。何でお兄ちゃんの部屋に行ってすぐに生まれたの
﹄
企んだんじゃ⋮﹂
﹃カゲェ⋮
!!
なんかお
﹁親なら、子供のことを大事にするのは当然のことだ。それがポケモンだとしてもな⋮
﹃⋮⋮カゲ﹄
﹃ピッカ
前の傍にいたいって言ってるぞ﹂
﹁ミュウから貰ったのはヒナだろ
﹁捨てる捨てないの問題じゃなくて、もともとお兄ちゃんのポケモンだから││││﹂
ら、ヒトカゲは捨てられるんじゃないかって泣いたんだ﹂
﹁そ の ヒ ト カ ゲ は お 前 を お 母 さ ん だ と 思 っ て る ん だ よ。俺 の ポ ケ モ ン だ っ て 言 っ た か
12
?
﹁ああごめん泣かないで
君に怒ってるわけじゃないから
﹂
!
まるで、離れないでとでも言うかのように。
きた。
ろされたことで私の足もとにすり寄って来て、頭を撫でる手を引き寄せ逆に握りしめて
ボロボロと泣いているヒトカゲを床に降ろし、その頭を撫でる。ヒトカゲは地面に降
!
﹂
?
酷く優しげな声でヒトカゲが私を選んだんだと言う。その声の主は反抗期だったリ
まるで悪魔の囁きのように聞こえた。
点で生まれたってことはな⋮お前の傍にいたいから生まれたって意味と同じなんだよ﹂
動くぐらい卵と一緒にいたのに、俺の傍で生まれなかった。ヒナ。お前が抱き上げた時
まで一緒にいただけのことだ。でも俺といた時点で生まれようとはしなかった。揺れ
﹁あのな⋮俺は別に神でもなんでもないぞ。俺がやったのは、卵と散歩をして、揺れ動く
﹁⋮お兄ちゃんでも
で生まれるかどうかっていうのは分からなかったんだよ﹂
﹁ヒナ。確かに俺は卵と一緒に散歩してきたけどな⋮別にヒナが抱き上げたタイミング
第一話 あなたに会えてよかったと言える
13
ザードンと拳ひとつで殴り合い青春のような一場面を見せたことのあるスーパーマサ
ラ人な兄だというのに。
﹂
﹄
ため息をついてヒトカゲを見た。
﹁お兄ちゃんだけじゃなくてピカチュウまで⋮
!
﹂
?
﹄とでも言っているかのようだ。私は旅に出ないしポケモントレーナーにもなり
?
がいいと思う。
たくないのだから、ヒトカゲを思うのならお兄ちゃんの手持ちとして一緒に旅に出た方
いの
ヒトカゲはうるうるとした目で﹃私を捨てるの お母さんの傍から離れなきゃいけな
!
﹃ピィカッチュ
﹁脅してなんかねえよ。当然のことを言ったまでだ。な、ピカチュウ﹂
!?
?
﹁ねえそれ絶対に脅してるよね
﹂
﹁ほら、ヒトカゲを見ろ。こんなにも泣いてるヒトカゲに⋮お前は酷いことしたいのか
﹁⋮⋮でも﹂
14
かったな、お母さん
﹂
ルにはがきでも出しに行くか
!
それとも家族が増えましたってシゲ
?
⋮まあとにかく、元気なヒトカゲの赤ん坊が生まれて良
﹁ははっ。なら区役所に出生届でも出しに行くか
﹁お兄ちゃん。私にヒトカゲという名の家族を作らせたんだから責任とってよね﹂
になると
でも、こんなにも泣いて私の手にすり寄ってくる姿に胸が痛む。私は前世の頃からヒ
トカゲが好きだったし⋮色違いとか関係なく可愛いし⋮。
﹄
﹁ねえヒトカゲ。私はずっとこの町にいると思うんだ﹂
﹃カゲ
﹂
﹁お兄ちゃんみたいに旅に出ないと思うし、つまらない人生⋮えっとポケ生
思う﹂
﹄
﹁そんな私でも、いいの
﹃カゲカゲ
?
元気よく発した鳴き声に、ちょっとだけ覚悟を決めた。
!
?
?
﹃⋮⋮カゲ﹄
第一話 あなたに会えてよかったと言える
15
?
﹃ピィカ
﹃カゲ
﹄
﹄
﹁っ⋮さっきのは冗談に決まってるでしょお兄ちゃんの馬鹿
!
たぶんだけどね⋮。
れば何とかなりそうな気がする。
﹂
う。スーパーマサラ人な兄だけど、お兄ちゃんのリザードンかピカチュウを味方につけ
とりあえず、楽しそうな兄の顔面に火の粉をぶち当てられるぐらいには立派に育てよ
?
!
16
第二話 ポケモンの子育てとは
﹄と手を取り合って笑い合うぐらいには機嫌が良かった。
ヒトカゲが家族になったことにお母さんは喜んでくれていた。バリちゃんと一緒に
﹂﹃バリ
!
﹃カゲ
﹄
﹂
﹁礼を言うのはまだ早いぞ﹂
﹁⋮そっか。ありがとうお兄ちゃん﹂
﹃ピィカ﹄
ように⋮ヒトカゲに必要な家具を買う﹂
﹁いつも行ってるポッポセンターに決まってんだろ。そこで家で一緒にいても大丈夫な
?
?
でも、ポケモンを飼育するということの大変さを私は知らなかったのだ。
﹁今日は赤飯ね
!
﹁⋮⋮ねえ、どこ行くの
第二話 ポケモンの子育てとは
17
﹃ピィカッチュ﹄
﹄
﹁うん、そうだね⋮ね、ヒトカゲ。快適に暮らせるようにいろいろと買おうね
﹃カゲ
嫌だと言ったら出かけようと言って│││そして、ここへ連れてきてくれた。
﹂
⋮せっかく家族になったヒトカゲの為だけに買いたいという思いもあったので、それは
兄はオーキド研究所でヒトカゲの飼育用の物を借りに行ってもいいと言っていたが
建物の広さは狭くて微妙。
ケモンの商品が置いてあった。といってもやはり田舎に位置するマサラタウンなので
田舎町なマサラタウンで不便のないように建てられたポッポセンターには、様々なポ
ような場所。
とだけ北に行った場所にあるポッポセンター。分かりやすく言えばホームセンターの
ヒトカゲの手を繋ぎ、兄と一緒に歩きながら向かった先は、マサラタウンからちょっ
言うことなのだろう。私が親になるのだから、一緒に生活するのは当たり前なことか。
ろとはつまり、その片付けるべき部屋の一部にヒトカゲと共に生活できる空間を作ると
出かける前に後で私の部屋を片付けておけと言われた。散らかっていないのに片付け
私達が出かけている間に、お母さんが夕食の用意をするらしい。そしてそんな母から
!
!
18
ピカチュウを相棒にし、様々なポケモンを育てている兄だから私の我儘をちゃんと理
解してくれているのだろう。そういった部分については素直にありがたいと思う。
﹄
﹁さて、着いたぞ﹂
﹃ピィカッチュ
ギュッと握りしめる。
が私のヒトカゲをもの珍しそうに見つめるため、絶対に離れないようにヒトカゲの手を
にキョロキョロと辺りを見回していた。たまにポッポセンターにやってきたマサラ人
トカゲは生まれたばかりなせいか棚が何列にも並んでいる光景が珍しいようで、しきり
ポッポセンターの店内に入り、兄が店に置いてある大きなカゴを持って歩き出す。ヒ
!
﹃ピカ
ピカピ、ピカッチュ
﹄
?
﹃ピッカッチュ
﹄
﹁ああ。全員の分も頼んだ。でも重たすぎるのは却下な﹂
!
﹁ピカチュウ、買いたいものがあったら見てきて良いぞ﹂
第二話 ポケモンの子育てとは
19
!
ピカチュウが兄の肩から降りてどこかへ向かって行く。
﹂
私にはピカチュウ語が分からない為、何処へ行くんだろうと首を傾けた。ヒトカゲも
私につられて首を傾ける。
﹄
﹁ねえお兄ちゃん。ピカチュウは何を見に行ったの
﹃カゲ
にケチャップ味のを探すんじゃねえかな﹂
﹁え、それってピカチュウの大好物だよね
?
﹄
?
﹃カゲェ
﹄
後で私たちも買いに行こうね﹂
﹁ううんヒトカゲ。お兄ちゃんのピカチュウは皆の分のお菓子を買いに行ったんだよ。
﹃カゲカゲ
﹁ふーん⋮そっか⋮﹂
﹁だから全員分なんだ。ピカチュウはケチャップ味、フシギダネ達は別の味ってな﹂
ら皆怒るんじゃ⋮﹂
⋮ケチャップ味のをフシギダネ達に渡した
﹁フシギダネ達の分を合わせたお菓子を見に行ったんだよ。たぶんピカチュウは真っ先
?
?
20
!
片手にはヒトカゲの手を繋ぎ、そしてもう片方は兄の手を繋いで炎ポケモン用のエリ
アへ進んでいく。
これが必要なの
﹂
﹂
奥の棚に置いてある山のような大きな土の塊の前で足を止めた兄に私は困惑した。
布だ
?
﹁えっと⋮土
﹁わっ
﹁触ってみればわかる﹂
?
!!
ぴりくすぐったくて温かいように感じた。
土だと思っていたら布だった。でも感触はザリザリと土っぽく作られていて、ちょっ
!
﹄
﹁じゃあ三枚ぐらい必要かな⋮
﹃カゲェ
布団と寝間着だな﹂
﹂
﹁ああ。多めに買っとけ。あと防火用の壁紙とクッションと毛布。⋮それと、ヒナ用の
?
?
し、寒いときは温かくなる﹂
﹁こ れ が 寝 床 に 置 い て お く シ ー ツ な。防 火 性 だ か ら ヒ ト カ ゲ の 炎 で 燃 え る こ と は な い
第二話 ポケモンの子育てとは
21
﹁え、私も
﹂
思わず兄を見たら、お兄ちゃんは何故か苦笑していた。
?
﹄
?
﹂
?
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁分かった。⋮⋮でも、着ぐるみ寝間着は止めてね
特にピカチュウ寝間着﹂
で火傷しないようちゃんとした寝間着を着るようにな﹂
﹁ほら、ポケモントレーナーである俺の言葉を信じろ。だからこれからは、ヒトカゲの炎
せた。その様子に兄はまた口を開く。
ヒトカゲは何もわかっていないようで、私の手を握りしめたまま目をパチパチと瞬か
﹃カゲ
﹁⋮そうなの
分の寝床で眠るっていう保証はどこにもないんだぞ﹂
あるし、一緒に寝たいっていう子供らしい感情だってある。だからヒトカゲがずっと自
﹁ヒナ。赤ん坊のポケモンっていうのは寂しん坊でもあるんだ。夜泣きとかもする時が
22
?
﹂
﹄
﹁お兄ちゃん
﹃カゲカゲ
!!!
ピッガァァ
﹄
めに食品売り場へ向かって行った。
﹃ピカピカッチュ
!!!!
﹄
ピカチュウはいただいたー
!!
﹁ふははははっ
﹂
!!
!
﹃ここで会ったが百年目なのにゃー
﹁⋮⋮⋮⋮チッ﹂
!!
!
﹂
その後、カゴの中にたくさんの商品を入れていき、そしてピカチュウを迎えに行くた
使ってそれ以降はタンスの奥に仕舞おうと思う。
何回か兄と言い合いをして、一着だけ着ぐるみ寝間着を買うことになった。一回だけ
?
﹁あのジャリボーイと離れたのが運の尽き
第二話 ポケモンの子育てとは
23
﹄
﹁うわぁ⋮﹂
﹃カゲ
﹁うわぁっと言われたら
﹂
﹂
﹁答えてあげるが世の情け
!
ブチギレた兄にぶっ飛ばされるのは確実だろうから合掌をしておこう。
ケット団の自業自得か。
ろ か。あ の 様 子 だ と ピ カ チ ュ ウ だ け で す ぐ に 檻 を ぶ ち 破 り そ う な ん だ け ど ⋮ ま あ ロ
になっているところをロボット掃除機で吸い上げて防電用の檻に入れたと言ったとこ
りなくてほっこりした。今の状況から推測するに││││ピカチュウがお菓子に夢中
というか、ロケット団凸凹三人組に会うのって始めてで、前世で見た頃とあまり変わ
めて見た。
ロケット団が言おうとしていた口上を遮った兄の額に青筋が浮き出た瞬間を私は初
﹁世界の││││﹁うるせーぶっ潰してやろうかゴラ﹂﹂
!
?
24
﹄
俺たちはまだ死んでねえぞ
﹂
﹁ヒトカゲ。危ないから離れようね。あと三人の安否を願って手を合わせておこうね﹂
﹃カゲ
﹄
!
﹁おい
﹂
あのジャリガール色違いのヒトカゲを持ってるにゃ
!
なら捕まえてやりましょう
!!
﹃見るにゃコジロウ
﹄
﹂
﹁あらほんと
﹁あ゛
﹃ピィカ
!
!!
?
!
?
の眼を塞いで自身の目を閉じた。
兄とピカチュウから聞こえてきたドスの利いた声により、私は静かに両手でヒトカゲ
?
﹄
?
10数える間に聞こえてきたのは、悲鳴と器物破損の音と電撃がバチバチいう不協和
﹃カ、カゲ
﹁さあヒトカゲぇ。一緒に10秒くらい数えよっか﹂
第二話 ポケモンの子育てとは
25
﹄﹂﹂といういつものあの叫び声が聞こえてきたた
音が鳴り響くもの。まさに阿鼻叫喚だ。
8を数える頃には﹁﹁﹃やな感じー
!!
﹄とでもいうかのように、目をキラキラさせて周りの景色が
め、少しだけ安堵して数え終えた後にヒトカゲから手を離し、目を開けた。
﹄
﹁⋮⋮うわぁ﹂
﹃カゲ
ヒトカゲが﹃すごーい
!
とヒトカゲの周りを一周し、怪我をしているかどうかを確認してから首を傾けた。
私のことが心配なのか、ピカチュウが私とヒトカゲの傍に走り寄って来た。そして私
に何かを話しており、兄は冷静に事情を説明している。
そして、野次馬やポケモンたちが何事かと集まって来て、店員さんが慌てたように兄
からやってきたポッポ達によって食べられていた。
どっかヘ吹っ飛んで行った時に開いた穴が天井にあり、散らばったポケモンフーズが空
本当に物凄い状態になっていた。棚が崩れ落ちて商品が床に散乱し、ロケット団が
一変した様子に興奮している。
!
26
﹃ピィカッチュ
﹃カゲ
﹄
﹄
﹁⋮⋮怪我はないよ。ね、ヒトカゲ﹂
?
いるけど⋮⋮。
らないのかな⋮。一応お兄ちゃんはリーグとかで優勝してるからお金はかなり稼いで
この状況をどうお母さんに説明するのだろうか。というか、これ全部弁償しなきゃな
!
?
でも言えないの。これを理解したらトラウマになること確実だからごめんねヒトカ
ず私の足を何度か叩いて問いかけてきた。
私とピカチュウが遠い目をしてこれからの未来を予想し、ヒトカゲは何なのか分から
﹃カゲカゲ
﹄
﹃ピィカァ⋮﹄
﹁お母さんに怒られるのは必須だよねぇ﹂
第二話 ポケモンの子育てとは
27
ゲ⋮。
・・・・・・・・・・・・・・
お母さんによる説教は約二時間くらいで済みそうだ。ヒトカゲと私は巻き込まれた
側だからという理由で免除されたから良かった。あのお兄ちゃんに正座を強要して叱
れる母は本当に凄いとも思うが、今はヒトカゲの物を自室に置くことが先だ。
というか、ポッポセンターで買いたいと思っていた商品が買えて本当に奇跡だったよ
ね⋮⋮はぁ⋮。
﹄
るのが先かな﹂
﹃カゲ
そっちの布団に炎を向けちゃ駄目だよ
﹂
!
?
﹁あっ、ヒトカゲ
!
﹁⋮壁紙は後でお兄ちゃんがやってくれるみたいだから⋮⋮とりあえず、綺麗に掃除す
28
﹃カゲ
﹄
﹃バリバリ
﹄
⋮バリバリィ
﹄
?
﹄
私はホウキとチリトリを手に気合を入れた。
!
お兄ちゃんやピカチュウが来るまでにぜーんぶ綺麗にしておこうね
﹂
んでいく。そんな様子を楽しそうに見つめているヒトカゲの頭を一度だけ撫でてから、
私が運べない重い家具をバリちゃんのサイコキネシスで浮かばせて部屋の外へと運
﹃バリ
片付けておかないとね﹂
﹁うん。壁紙はお母さんに叱られてるお兄ちゃんに貼ってもらいたいから⋮まずは全部
﹃バリ
﹁ありがとうバリちゃん﹂
上げてくれた。おそらく私の手伝いに来てくれたのだろう。
毛布の柔らかさが気持ち良くて横になっていたヒトカゲを、バリちゃんが優しく抱き
!
!
!
!
﹁よーっし
!
第二話 ポケモンの子育てとは
29
﹃カゲ
﹄
﹄
﹃バリィ
!
な可愛らしい姿を見せてくれるから、私はポケモンを嫌いになれないのだろう。
私が拳を天井に上げると、ヒトカゲやバリちゃんが真似をして拳を振り上げる。こん
!
30
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
自室をヒトカゲでも快適に住めるように変え、棚に並んでいるポケモンフーズも新た
に炎用が増えた。
そしてその日の夜にヒトカゲが私のベッドに入り込もうとするため、防火用の布団に
変えて良かったのだとすぐ実感することができた。だからこそ、兄の言葉を聞いてな
かったら大惨事になっていたこと間違いなしだと思う。本当に兄がいてよかった。
││││まあそんな兄は、一週間ぐらいホウエン地方に旅立つのを延期したみたいだ
けど。
﹂
?
キド研究所に行くぞー﹂
﹁お前とヒトカゲがちゃんと一緒にいられるように教えるためだよ。というわけでオー
﹁⋮なんで
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
31
﹂
﹃ピッカー﹄
﹄
﹁いや何で
﹃カゲェ
?
が口を開いて説明してくれた。
﹁昨日ヒトカゲが生まれただろ
﹂
﹄
以外の申請が終わってない﹂
﹁申請
﹃カゲカゲ
?
﹂
?
﹃ピィカッチュ﹄
﹁まあ行けばわかるさ﹂
てこと
﹁⋮それってつまり⋮私みたいな子供がポケモンを所持しちゃいけないから申請するっ
﹁ポケモントレーナーじゃないヒナがポケモンを所持するための申請だよ﹂
?
?
一応昨日のうちに必要なのは用意したけど⋮まだそれ
手を掴まれ、オーキド研究所の前まで戸惑いながらも歩いていく。歩いている間に兄
!?
32
そういって長い道を歩き、時折野生のコラッタが道を横切るのに遭遇しつつもたどり
いね生まれたてなのかな観察させてもらいます
まう。
!!!
﹃カゲッ⋮カゲェェェ
﹄
﹂
﹂
ヒトカゲが恐怖で戦き、泣きべそをかきながらケンジさんに向かって火の粉を放ってし
どこからともなく取り出されたスケッチブックとペンを構え、じっとり見られている
通常個体より小さ
着いたのはオーキド研究所。玄関のチャイムを鳴らしてしばらく待てば、ケンジさんが
やってくる。
﹄
﹂
﹁やあサトシにピカチュウ。それにヒナ⋮ちゃん
﹃ピカピカ
?
﹁あ、うん⋮いるけど⋮それよりその色違いのヒトカゲどうしたの
?
?
!!!
!?
﹁よぉケンジ。オーキド博士は中にいるか
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
33
﹁ぐふぉ
﹂
母さんらしくしよう。
﹄
﹁ああヒトカゲ。落ち着いて⋮ね
﹃カゲ⋮カゲカゲ
﹂
お兄ちゃんが私の背を見てヒトカゲは育つと言っていたのだから、ここはちゃんとお
いはずがない。
でもヒトカゲはまだ生まれたばかりで世界のことを何も知らないから、このままで良
丈だし大丈夫。ベトベトンののしかかりにあっても平気なんだから大丈夫。
ケンジさんはよくポケモンたちに愛情という名の攻撃を受けたりしてるんだから頑
まう。
まま放置していたら人間が怖いのだとヒトカゲが誤解し、人見知りが激しく悪化してし
い﹄とばかりにボロボロ涙をこぼすヒトカゲに大丈夫だと言わなければならない。この
ケンジさんに対して炎を吐くのは駄目だけど⋮今は私にしがみついて﹃何あの人怖
!
﹃カゲ⋮﹄
﹁大丈夫だよ。あなたを傷つける人はどこにもいないからね﹂
?
?
34
﹁ケンジさんのあれはいつものことだよ。ヒトカゲを攻撃しようとか思ってない⋮ただ
﹄
単純に、あなたがどんなヒトカゲなのかを知りたかっただけなの﹂
﹃⋮⋮カゲ
んでいる。
﹃カゲカゲ
﹄
﹄
﹁いや意味わかんないし﹂
﹃ピイカッチュゥ⋮﹄
﹁妹が嫁にいったらこうなるんじゃねえかなって顔。いやお母さんになったらか⋮﹂
?
あとピカチュウも﹂
何故だか兄が温かい目でこちらを見つめている。ピカチュウも兄の肩に乗って微笑
いた顔に笑顔が戻り、ホッとして⋮ふと、視線を感じて兄の方を見た。
ヒトカゲを抱きしめてトントンと背中を叩いたら落ち着いてくれたらしい。泣いて
﹃カゲカゲ
にいて守ってあげるからね﹂
﹁うん。⋮大丈夫だよ。ヒトカゲが怖い思いをしなくてもいいように⋮私がちゃんと傍
!
!
﹁お兄ちゃんその顔なに
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
35
?
というか、私が嫁に行く前にお兄ちゃん普通に﹁妹が欲しければまずは俺を倒すこと
だな﹂とか言いそうで怖い。お兄ちゃんだけじゃなくてピカチュウたちも襲いかかりそ
うで怖い。
それぐらい愛されてるっていう自覚はあるから、嬉しいって思うんだけどね⋮。ポケ
モンが恐ろしいのは分かってるけど、お兄ちゃんに育てられたピカチュウたちは理不尽
に人間を襲おうとしない優しいポケモンたちだから。
そう思っていたら、倒れていたケンジさんがうめき声をあげながら立ち上がってき
た。
オーキド研究所は、どうやら他の研究所とは違ってより自然な形でポケモンたちを観
遠い目をしたケンジさんに思わず同情してしまった。
意識にケンタロス達をけしかけて暴走させるのに比べたら⋮﹂
﹁まあね⋮ベトベトンにいつもやられてるのしかかりに比べたら⋮むしろワニノコが無
﹁おー。気がついたみたいだな、ケンジ﹂
﹁ははっ⋮嫁なんて気が早すぎだよサトシ⋮﹂
36
察し、森からやって来る野生のポケモンたちとうまく共存することができているような
のだ。
うまくやっていけてるのかという意味については、ピカチュウに次いで兄貴分であり
面倒見の良いフシギダネが争いごとに対して物理的に容赦なくソーラービームをぶっ
放すことによってポケモンたちが怯えるからだと答えておこう。オーキド研究所だけ
でなく近くに住んでいる野生のポケモンたちでさえ一括してとりまとめて管理してい
るフシギダネは、意外とお兄ちゃんに似てきてしまったせいか怒るとものすごく怖くて
オコリザルでさえ逃げ出してしまうということを、このマサラタウンにいるポケモンた
ち皆が知っている事実だ。
でもそんなフシギダネによってまとまって管理され、特に厳しい争いもなく平和に暮
らしているオーキド研究所であろうとも、兄が育てたポケモンはやはり個性的かつトラ
ブルメーカーである。そのせいでベトベトンやワニノコ、ケンタロスも兄のポケモンで
ありケンジさんの苦労の一つとなっているのだから恐ろしい。
兄は微妙そうな顔をして、ケンジに問いかける。
﹂
?
﹁また地形でも変わったのか
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
37
﹁⋮⋮⋮むしろ日々更新されてるよ﹂
一瞬沈黙し何とも言いづらそうに答えたケンジさんの心情を正確に察して、私も同じ
ように遠い目をしてしまった。
いつもいつでも行われるソーラービームが最近のマサラ人の小さな楽しみであり、た
まに明日は何発放たれるのだろうかと酒を飲んでる近所のおじさんたちが賭け事をす
るほどだと彼が知ったらどうなるのだろうか。
﹃ピィカッチュ
﹄
﹄
!
﹂
兄が私やケンジさんの顔を見て、居心地が悪いのか頬をかいて苦笑した。
﹁あー⋮悪い⋮﹂
﹃ピイカァ⋮﹄
⋮カゲ
﹁あ、あのお兄ちゃんとピカチュウが謝った⋮だと⋮
﹃カゲッ
?
﹁失敬な。俺も謝るときは謝るぞ。なぁピカチュウ﹂
!?
!?
38
表面上は無害そうに微笑んでいる兄とピカチュウだが、主に兄のポケモンが原因で研
究所の地形が日々変わってきていることを忘れてはいけない。水ポケモンと草ポケモ
﹂
ンの争いが原因で、ある日突然森が更地になったり、森のど真ん中に大きな湖が現れた
りしても私はもう驚かない。
﹁⋮とにかく、中に入ろうか。オーキド博士が待ってるよ﹂
﹁おう。ほら行くぞヒナにヒトカゲ﹂
﹁うん⋮行こう、ヒトカゲ﹂
﹃カゲ﹄
・・・・・・・・・・・・・・・
﹄
﹁ほぉ、ヒトカゲの卵を⋮しかも色違いじゃなぁ⋮どれどれ
﹃カ、カゲッ
!?
?
﹃ピッカ﹄
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
39
﹁ふごぉ⋮
﹂
﹂
﹁なんとも元気なヒトカゲじゃな
これなら大丈夫じゃろう
﹃ピィカ
﹄
﹁じゃあ博士。申請届け出してもいいですか
!
してもいいかのぉ
﹂
﹂
?
?
?
⋮えっと、代理トレーナーって何
?
﹁俺は構わないけど⋮ヒナは良いか
﹁ふぇ
﹂
﹂
﹁そうじゃのう。サトシのいう通り申請を⋮ふむ、サトシが代理トレーナーとして受理
?
?
!
身体が一回り小さいから健康面に不安はあったが⋮
の毛をチリチリに焦がしながらもにっこりと笑って口を開いてくれた。
オーキド博士はポケモンに攻撃されるのもまた元気な証拠だと考えているからか、髪
を放つヒトカゲが博士から飛び降りて私の背中に隠れた。
ひょいっとヒトカゲを抱き上げて身体を触診するオーキド博士に驚き泣きながら火
!
40
﹃カゲ
﹄
設は使えないけどね﹂
とヒナちゃんのポケモンになるんだよ。⋮まあ、バトルとかトレーナーが受けられる施
ることになるけど。⋮だからこそ、形式上はサトシの仮手持ちに認定されても、ちゃん
ナちゃんと一緒にいられるようにトレーナーのサトシが代理人として形式上は所持す
としてなら一緒にいても大丈夫だからね。まだトレーナーとしての資格はないから、ヒ
﹁ヒナちゃんはまだ幼いからね。だからポケモンを所持することは難しい⋮でも、家族
首を傾けて言うと、ケンジさんが書類を兄に渡しながら説明してくれる。
?
﹄
?
﹂
!
﹃カゲッ
カゲカゲ
!?
﹄
るんだよ。ヒトカゲ、一緒にお礼言おう
!!
﹂
﹁ヒトカゲと私が一緒にいられるようにってお兄ちゃんたちがいろいろとやってくれて
﹃カゲ
いです。だから⋮ありがとうございます
もりもないから。だから、ヒトカゲと一緒にいられるなら⋮お兄ちゃんが代理で構わな
﹁ああそっか⋮それでもいいです。私はトレーナーになるつもりはないし⋮旅に出るつ
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
41
?
一緒にぺこりとお礼をすると、兄たちが微笑ましそうな顔で見つめてきていた。
その顔にちょっとだけむず痒くなる。
﹂
?
あとはここに拇印を押してくれんかのぉ﹂
オーキド博士。書きましたよ﹂
﹂
!
﹄
﹁おおそうか
﹁了解
!?
﹃ピッカァ
ロケット団に何するつもりなんだよ
!
!
!
﹁いやちょっとまってサトシ
﹂
﹁そろそろあの三人組がうざくなってきたから根本的な部分を叩き潰そうかなーと⋮⋮
﹁え、何を
﹁ああ⋮そのロケット団なんだけどさ⋮ちょっといろいろと考えてる﹂
﹁いや誰も奪おうとは思ってないから。ロケット団じゃあるまいし⋮﹂
﹃ピィカ﹄
﹁妹はやらんぞケンジ﹂
﹁いやはや⋮良かったねサトシ。こんなにも出来のいい妹を持てて﹂
42
﹁だからそれはまだ考えてる最中なんだって⋮っと、できたぜ博士﹂
ありがとうお兄ちゃん
ありがとうございます博士
﹂
﹂
﹂
!
﹂
﹁よしよし。これで形式上はサトシのポケモンじゃが、ヒナちゃんと一緒にいても大丈
﹄
夫なようになったぞ
カゲカゲ
﹁よかったねヒトカゲ
﹃カゲ
﹂
﹁うむ。何かあれば遠慮なく相談に来るんじゃぞ
﹃ピィカ
﹁あれ⋮もしかしてロケット団に対して危機感抱いてるのって僕だけ
﹄
﹁どういたしまして。ちゃんと仲良くするんだぜ
!
?
!
!
!
驚かないのがマサラ人なのだから。
地形を変えていくことに驚かないのと同様に、兄がいろいろとぶっ飛んでいることにも
ケンジさんが引き攣った笑みを浮かべているが、スルーしておこう。フシギダネ達が
!?
!
!
!
第三話 オーキド研究所にてやるべきこと
43
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
で﹂
気をつけて行くんじゃよ
﹂
﹂
⋮じゃあ博士、俺達森にいるん
﹁そうじゃ。せっかくここまで来たならフシギダネ達に会ったらどうかのぉ
﹄
﹂
﹁そうします。よし行くぞヒナ﹂
﹃ピッカ
﹄
﹁いや何で私まで⋮
﹃カゲカゲ
!?
!
﹁お前のヒトカゲをフシギダネ達に紹介しなきゃだろ
﹁おお
!
?
?
時折ポッポやオニスズメが木々の枝に止まってこちらをじっと観察しているのが見
博士に見送られながらも向かった先はオーキド博士が所有している大きな森の中。
!
?
44
える。久々に来たけど野生のポケモンたちがこちらを襲うかもしれないからちょっと
だけ怖い。
私は必ず兄か兄のポケモンと一緒じゃないとオーキド研究所の森に遊びに行かない。
何故ならば、以前フシギダネとお昼寝していたら私のことをただの布団か何かと勘違
いしたのか、コラッタとキャタピーがやって来て押し潰されそうになり息が出来なく
なって大変なことになった記憶があるからだ。
幼い手ではポケモンたちを躱すことも難しいから、本当に死ぬかと思った。フシギダ
ネによって救出されなければ私は今ここに居ないだろう。
オーキド博士からは﹁ポケモンたちに愛されてるのぉ﹂と朗らかに言われたけど、愛
ある攻撃はされたくない。私は兄と違って普通のマサラ人なんだから。
でも、だからこそ今オーキド研究所の森にいるのだから、絶対に兄から離れないよう
にしよう。
そう思い兄の手を握り、もう片方はヒトカゲの手を掴んで歩く。
からな﹂
﹁そうだな。昨日は六回ほどソーラービーム撃たれてたから流石に喧嘩は控えるだろう
﹁⋮今日はまだ静かな方だね﹂
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
45
﹁六回
そんなにあったっけ⋮﹂
?
﹄
!
﹂
?
ね﹂
?
﹄
?
﹁ヒナ、伝説について説明するなら自室でやっとけ。ここで話したら奴が来るぞ﹂
覚はあるということだ。
兄は微妙そうな顔をしているし、ピカチュウは苦笑している。でも反論はないから自
いる。
伝説のミュウツーと言われてもピンと来なかったのだろう。ヒトカゲが首を傾けて
﹃カゲカゲ
ツーにも拳ひとつで勝つぐらいなんだからさ﹂
﹁ヒトカゲ、お兄ちゃんとピカチュウはね⋮いろんな意味で強いんだよ。伝説のミュウ
﹃カゲ
﹄
﹁⋮ そ っ か。ま あ お 兄 ち ゃ ん と ピ カ チ ュ ウ が そ う 言 う の な ら ⋮ 確 実 に そ う な ん だ ろ う
﹃ピイカッ
ウ。あれはソーラービームの余波だよな
﹁ヒ ナ と ポ ッ ポ セ ン タ ー に 行 っ て た と き に 何 度 か 振 動 が あ っ た ん だ よ。な ぁ ピ カ チ ュ
46
﹁ふぇ
﹄
奴って⋮﹂
﹃呼んだか
﹃ぐっふぉっっ
﹄
﹁呼んでねーよ失せろ﹂
?
?
!!
﹃カ、カゲッ
﹄
ネシスで飛んできちゃった。
むらにぶっ飛んでフェードアウトしたからなかったことに⋮あ、またこっちにサイコキ
でも軽くキレた兄の手によって右ストレートを食らわされたミュウツーが近くの草
いつの間に私たちの話を聞いていたのか、すぐ目の前にミュウツーが現れた。
!?
﹁おうふ﹂
﹃ピイカッチュゥ⋮﹄
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
47
﹁久しぶりだねミュウツー⋮また来たの
﹃なんだヒナ。俺が来たらいけないのか
﹂
﹄
﹁いやそうじゃないけど⋮ミュウツーの仲間のポケモンたちは
﹃留守番しているぞ。今日は俺一人で来たんだ﹄
﹁暇なのか伝説ポケモン⋮﹂
﹃ピイカァ⋮﹄
兄が呆れるのも無理はない。
﹂
おかげで伝説のポケモンのはずなのにミュウもミュウツーもポッポぐらいの遭遇率
しまったという状況。
研究所の中でピジョットと共に散歩している私に会いに来て⋮何故だか気に入られて
私は関わりたくなかったのに⋮サトシの妹という関係だけでミュウツーがオーキド
た故郷とはどんなところなんだろうかとマサラタウンにやって来たようなのだ。
一度兄に敗北して、コピーについていろいろと考えて││││それで兄が生まれ育っ
あったポケモンなんだから。
だってミュウツーは兄がミュウと共に遭遇したポケモンであり、いろいろと拳で殴り
?
?
?
48
﹂
﹄
﹂
﹄
があるから珍しいとは思えなくなった。それこそ伝説︵ポッポ︶とか言われても納得で
きそうなぐらいに。
﹄
﹁⋮それで俺にまた挑戦しに来たのか
﹃ピイカ
﹁え、私っ
﹃ふんっ⋮お前じゃない。俺が挑戦するのはそこにいるヒナだ
?
しバトルとかも無理だから
そう思っていたら、隣にいた兄の目が軽く据わっていた。
!!
ミュウツーに突然言われた言葉にぎょっとする。私はポケモントレーナーじゃない
!!
?
﹃カゲカゲ
? !?
﹁え
﹂
ないぞ﹄
﹃貴様では相手にならん。だから拳をバキボキ鳴らすな。別にヒナを傷つけるつもりは
﹁⋮おいミュウツーよ。俺の妹に手を出すなら俺が相手になるぞ﹂
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
49
?
﹃ヒ ナ と い う か そ こ に い る ヒ ト カ ゲ
﹂
﹄
ヒナがポケモンを所持するということはつ
貴様はポケモントレーナーに絶対にならないと
言ったヒナをどうやって陥落させたんだ
なってんの
お前無意識に野生
なんでポケモン達の間でそんな重大ニュースみたいに
のポケモン来るなオーラ出してたし⋮﹂
﹃ピカピカ﹄
﹁っ⋮いやだって、野生のポケモン怖いし⋮﹂
﹃カゲッ⋮⋮﹄
!
キレだした大惨事になってフシギダネがソーラービームを空に放たずミュウツーに
それに前に草ポケモンと水ポケモンの争いにちょっかい出して何故か炎ポケモンが
でも無理だよね⋮ミュウツーって私のなかでトラブルメーカーなイメージあるし。
ミュウツーあんまりヒトカゲを怖がらせないでほしいかな。
というか、ミュウツーを見る兄の目が少しずつ恐ろしくなってきてんだけど。あと
?
﹁はかいこうせんが降るって何
まり明日はかいこうせんが降ってくると森のポケモン達が囁いていたぞ
!!?
!
﹁それぐらいヒナの側にポケモンを引き寄せなかったってことだろ
!!?
!?
50
ぶっ放したことあったぐらいだし。
﹄
勝負なんて無理だっ
そう思っている間にも、ミュウツーはヒトカゲを睨み付けていた。
貴様に勝負を申し込む
!!
﹃ヒトカゲ
﹂
!
!
﹁ねえちょっと待ってヒトカゲはまだ生まれたばっかりなんだよ
てば
!!
た方がいいだろう
かしてよお願い
﹄
﹄
﹂
貴様がヒナの側にいるという重大な意味について身をもって教え
﹁ちょっと待ってってば
﹃カッ⋮カゲ
﹄
﹁ヒトカゲ、これが弱肉強食な﹂
てやろうガハッッッ
﹃なんだその目は⋮
!
!
!
!!!! !
?
ああもう、お兄ちゃんこの暴走しきってるミュウツーどうに
﹃生まれたばかりならば弱肉強食⋮自然の恐ろしさやポケモンの強さというものを教え
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
51
﹄
﹄と鳴
﹄と言うかのように首を傾けなが
をしているかのごとく手をゆっくりと振りながら﹃ピィーッカ ピィーッッカ
﹄
いているのだから。
﹃カゲ⋮カゲ⋮
ヒトカゲが私の足を叩いて﹃これが弱肉強食なの
!
!
﹁お兄ちゃん
お願いとは言ったけど別にそこまで⋮いや、ミュウツーにコブラツイス
ぎゅっと抱きしめた。
ら泣きそうな顔で言う。たぶん兄の行動がショッキング過ぎたんだ。私はヒトカゲを
?
?
!
ピカチュウなんて地面に降りてうつむせになりながらも、まるでプロレスのカウント
うとしている光景に思わず現実逃避しそうになった。
兄が物凄い綺麗な笑顔でミュウツーにコブラツイストをしながらヒトカゲに教えよ
﹃つ゛ァ゛ァァァァァッッ
!!!!!
52
トかけるのはどうでもいいけど⋮ヒトカゲを怖がらせるようなことしないでよ
﹂
!
るから止めて
﹃カゲェェェ
﹂
﹄
﹂
!!
その顔ヒトカゲがトラウマにな
だから今のうちに慣れとかねえと⋮なっ
﹁でもなぁ⋮こんなことで怖がるようじゃあケンタロスの群れや草と水のポケモン達に
﹄
﹄
よる争いとかに会ったときが大変だろ
﹃ピィーカ
﹃うぐぐぐぉぉぉッッ
?
味はわかるけど⋮
お兄ちゃんのそれは直接的過ぎて酷いから
!
しいし⋮マサラタウンっていろいろと精神的に来るものがあるから慣れろって言う意
ぶっちゃけ私も泣きそうになった。確かにヒトカゲには外の世界にいっぱい出て欲
!!! !!
!
!!!!
!
﹁ちょっと待ってミュウツーが白目向いて泡吹いてる
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
53
・・・・・・・・・・・
気絶したミュウツーはこの後来たミュウによって運ばれていき、とりあえず森の奥を
目指すことになった。
さっき来たミュウがヒトカゲの周りを飛んで物凄く上機嫌だったけど⋮そういえば
﹂
何でミュウがヒトカゲの卵を持ってたんだろ⋮。
﹁ねえお兄ちゃん⋮⋮あの、お兄ちゃん
﹁へ
﹂
﹁⋮来る﹂
?
あったのかと不安になった。周りを見てもあまり変わらないのに⋮どうしたんだろう
ピカチュウと一緒にどこか遠くを見つめていた兄が険しい顔をしていたので、何が
?
54
?
瞬間
地面を揺らすほどの爆音と極太の光の柱が空に向かって突き抜けた。
音と光にびっくりしたヒトカゲが飛び上がり、私の足にしがみついて震えている。そ
んなヒトカゲに大丈夫だと背中に手を回して抱きしめながらも、兄を見た。
よく分かったねお兄ちゃん﹂
?
﹄
!
ポ達が騒いでたくらいでソーラービームが来るって思わないから
﹂
﹁あのねぇ⋮普通のマサラ人は森の奥にいるフシギダネの声なんて聞こえないし、ポッ
私は込み上げる気持ちを押さえきれないため、兄に向かって叫んだ。
つくづくこの兄が普通のマサラ人じゃなくてスーパーマサラ人だと実感する。
﹃ピイカッ
こえてきたし﹂
﹁まあな。ポッポ達が騒いでたしすぐに分かったぞ。それに一瞬フシギダネの怒声が聞
﹁今のって⋮フシギダネのソーラービームだよね
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
55
!!!
結局は兄にハイハイと流されてしまったので胃を痛めるだけで済んだと言えるのか
言えないのか⋮。
でもその後フシギダネ達にはヒトカゲのことを歓迎されたんだけどね。
私やヒトカゲを取り囲んで喜びあっている後ろの背景が普通とは異なり、隕石が降っ
てきた跡地みたいなのが出来たせいで地面にボコボコとクレーターがあいていたんだ
よね。それがたぶん草と水のポケモン達が争ってフシギダネが仲裁に入ったことで地
形が変わった証拠になるんだろうけど。
﹂
まったく⋮それがなければ平和な光景に見えたのになぁ⋮まあヒトカゲが笑ってい
るならどっちでもいいか。
﹄
ヒトカゲが家族になった祝いにセレビィが木の実畑を作ってくれるんだと
!
﹁ヒナ
﹄
﹃ピィカッチュゥ
﹃レッビィ
!
!
!
56
﹂
﹄
﹁いやいつの間にセレビィいたの
というかお兄ちゃんいつの間にセレビィと会ってた
!?
もとへ、ヒトカゲと一緒に近づいていったのだった。
つけよう。そう心に決め、木の実畑を何処に置くのかフシギダネ達と相談している兄の
とりあえず、まだまだ純粋なヒトカゲだけでも人外ならぬポケ外にしないように気を
私がこのスーパーマサラ人な兄に驚かなくなる日が来るのは何時なのでしょうか。
拝啓、アルセウス様。
?
のよ
!!?
﹃⋮カゲ
第四話 野生と伝説の違いとは何だろう
57
第五話 未来の私はそこにいますか
﹃ピィカッチュ﹄
﹄
﹁殴り込みってこと
﹃カゲ⋮
?
?
﹃カゲカゲ⋮
﹄
!
﹄
自信満々な顔でサムズアップした兄とウインクするピカチュウに対して、ホッとした
﹃ピッカ
﹁大丈夫だぜヒトカゲ。そんな心配しなくても俺とピカチュウだけで勝つからな﹂
!?
にね﹂
﹁ヒトカゲ。お兄ちゃんはこれからバトルしに行くんだよ。ちょーっと怖いバトルをし
?
あんまりお母さんに心配かけさせちゃ駄目だよ﹂
﹁ちょっとロケット団の所に行ってくる﹂
58
顔をするヒトカゲ。
いろいろとぶっ飛んでる兄とピカチュウなら心配はないと思うけど、心優しいヒトカ
﹂
ゲはその強さを知らないから心配していたのだろう。私は全然大丈夫だって思ってる
﹂
し、むしろロケット団がどうなるのかについてが心配なんだけどな⋮。
﹁あ、そうだ。ヒナお前研究所の森で遊んで来たらどうだ
﹁無理。野生のポケモン怖い﹂
﹂
?
?
?
﹁ヒトカゲの為を思って行って来いよ。フシギダネ達が傍にいれば大丈夫だろ
﹁うーん⋮⋮ヒトカゲ。あなたは外に出たい
﹄
!
から安心しろよ。な
﹂
ことを知ってるし、ヒナに何かすればフシギダネ達が許さないってことも知ってるんだ
ら出れば野生のポケモンは容赦ないのもいるが⋮ここら辺のポケモンたちは皆ヒナの
﹁いっつもバリヤードと一緒にいるか本読んでるか昼寝してるかだろ。マサラタウンか
﹁⋮⋮そんなに私家出てないかな﹂
きこもり気味だったんだからたくさん遊んで太陽浴びとけって﹂
﹁ほら、ヒトカゲは外に出たいみたいだぞ⋮ヒナお前ヒトカゲが生まれる前はずっとひ
﹃カゲ
第五話 未来の私はそこにいますか?
59
?
﹄
﹁⋮なんか別の意味で安心できないんだけど﹂
﹃カゲカゲ
﹃ピィカ﹄
うな。
?
﹃カゲ
﹄
﹁うん分かったよ。ほら行こうヒトカゲ﹂
﹃ピッカァ﹄
﹁ほら行くぞヒナ。オーキド研究所までは送って行ってやるから﹂
てもいいのだと理解する。
づいてきてそのヒトカゲの肩を叩いて何度か鳴き声をあげているから、私が説明しなく
足もとにいたヒトカゲが﹃どういうこと
﹄と首を傾けているけど、ピカチュウが近
いでに知ったとかなのかな⋮そういえばミュウツーもなんかごちゃごちゃ言ってたよ
であるフシギダネを筆頭にものすごく目立ってるから、その兄の妹である私のこともつ
というかいつの間に野生のポケモンたちに知られたんだろう⋮。まあ、兄のポケモン
?
60
!
兄の手を繋ぎ、またヒトカゲの手を繋いでお母さんやバリちゃんに見送られつつも
オーキド研究所へ向かった。
││││でもオーキド研究所はケンジさんしかいなくて、どうやら博士はラジオ放送
に向かったらしいとのこと。フシギダネはオーキド研究所に向かう途中で一発のソー
ラービームが森の中から上がったのを見たから忙しいのだろうと考え、近くにいたベイ
リーフに私とヒトカゲが預けられた。
﹄
!
き攣った笑みを浮かべているケンジさんが言ってくる。
オーキド研究所からピカチュウと一緒に出ていく兄を見送っていたら、私の後ろで引
﹃ピィカッチュ﹄
﹁それはあいつら次第だ﹂
﹁気をつけてねお兄ちゃん。あまり物を破壊しちゃだめだからね﹂
﹃ベイッ
﹁じゃあ頼んだぞベイリーフ﹂
第五話 未来の私はそこにいますか?
61
﹁ねえヒナちゃん⋮サトシは何処に向かったの
リーフと顔を見合わせて微笑んだ。
﹄
﹂
?
﹄﹃あ
﹁ベイリーフ。昨日はあんまり森の中を散歩してないから⋮一緒に散歩してもいい
﹄
﹃ベイベイっ
﹃カゲ
!
ベイリーフと一緒に並んで森の中を散歩する。たまにヒトカゲが﹃あれは何
?
!
﹂
ヒトカゲが目をキラキラとさせてこれから何をするのかを期待している。私はベイ
くすぐに部屋の中へ入っていった。
していたケンジさんだったけど、オーキド研究所でやらなきゃいけないことがあるらし
くツッコミをあげているし⋮胃が心配だから言うのをやめておこう。しょっぱい顔を
うん。スルースキルの高いマサラ人とは違って、ものすごく真面目なケンジさんはよ
﹁⋮⋮そっか﹂
﹁⋮⋮⋮世の中知らない方がいいこともあるんだよ﹂
?
62
﹄と説
れって食べられるの ﹄と私達に向かって指を指しながら首を傾けて問いかけてくる。
それにベイリーフと一緒に﹁あれはナゾノクサだよ﹂とか、
﹃ベイベイ⋮ベイィ
明していき、そして森の奥へ向かって行った。
だろう。オーキド博士もそんなこと言ってたし⋮。
モンだけじゃなくて虫ポケモンまでもが敵になるから近づかないと言った方がいいの
ちが縄張りを取ろうとやっては来ない。というかこの場所を荒らしたら確実に草ポケ
体を伸ばしリラックスしている光景が広がっていた。さすがにここには水ポケモンた
森の奥はベイリーフのお気に入りである花畑があり、様々な虫や草ポケモンたちが身
!
?
﹃カゲ
﹄
﹂
⋮⋮ベイ
﹄
﹃ベイベイっ
﹁え
﹃ワーニュ
﹄
草むらの向こうからヒノアラシを巻き込んでダンスしているワニノコが見えた。ヒ
?
!!
﹃ヒノォ⋮﹄
!
?
!
﹁いつ見ても綺麗な花畑だね﹂
第五話 未来の私はそこにいますか?
63
ノアラシが目を回して若干気絶してるようにも見えるが大丈夫なのだろうか⋮。
﹄
?
﹄
!
を掴んで引っ張り始めた。
私たちは踊れないよ
﹂
!!?
﹄
﹄
﹁ど、どうしたのワニノコ
﹃カゲ
?
﹃ワニュ
!
!?
抱きしめていたら│││いつの間にか近づいて来ていたワニノコが私とヒトカゲの手
されているけど正気に戻っていない。心配そうなヒトカゲを安心させようとギュッと
ヒノアラシは混乱状態のようにふらふらとしていて、ベイリーフの蔓で何度かビンタ
ベイリーフがため息をついてヒノアラシを救出に向かう。
﹃ベイィ⋮﹄
﹃カゲ
することもあるけどね﹂
﹁昨日会ったワニノコだよ。お兄ちゃんのポケモンだから怖くないよ。⋮ちょっと暴走
﹃カゲカゲ
﹁ワニノコはいつ見ても元気そうだね⋮﹂
64
まるで﹃こっちこっち
﹄とどこかへ導かれるように強く引っ張られ歩き始めていく。
んだけど⋮ワニノコの引っ張る力が強すぎて止まれない。
?
﹄
﹂
ワニノコはちょっとだけマイペースで楽観的だから、ベイリーフから離れるのは怖い
ベイリーフが見えた。
後ろを向けば私たちに気づいていないのか、目を回しているヒノアラシと介抱している
!
﹁ねえワニノコ皆あっちにいるよ。だから帰ろうよ。⋮何処に行くつもりなの
?
﹄
﹃カゲカゲ
!
あった。
!
﹄
﹁すごい⋮こんな大きな木があったなんて⋮
﹃カゲェ
!
﹂
草むらをかき分けて進んだ先に見えてきたのは││││ちょっとだけ古びた大樹で
﹃ワニュ
第五話 未来の私はそこにいますか?
65
﹃ワニワ二
﹄
そんなマイペースなワニノコに苦笑する。
?
﹄
﹄
﹃レビィ
?
ヒトカゲの後ろに黄緑色の影が見えてギョッとした。
?
﹃カゲ
﹁本当に私たちに見せたくてこっちに来たのかな⋮﹂
た。食べたいのだろうか
そう考えてワニノコを見たら││││ワニノコは普通に木の実をじっと見つめてい
コは見せたかったのかもしれないと思った。
ているかのようだ。ヒトカゲも目を閉じてリラックスしている様子から、これをワニノ
混じって心地よい音色となって鳴り響く。まるでオーキド研究所とは別世界に繋がっ
の花畑とは違って、ポケモンたちの気配が全くしない。静寂の中に木の葉の揺れる音が
私達から手を離して楽しそうに踊っているワニノコ以外の音が聞こえない。先ほど
!!
66
﹁うわっ
﹄
セレビィ
﹃ビィィッッ
﹂
!!?
﹂
﹄
!
んのポケモンがどこにもいない。ヒトカゲを守らないといけないのは私だけの状態。
ちゃった⋮﹄という顔をしたセレビィと私と震えているヒトカゲのみの状態。お兄ちゃ
にいた木の実に夢中になっていたはずのワニノコがどこにもいなくて、いるのは﹃やっ
先程まで明るかった森の中が、目を開ければ薄暗くて不気味になっていた。後ろの方
﹃カゲ⋮﹄
﹁だ、大丈夫。大丈夫だよヒトカゲ﹂
﹃カ、カゲェ⋮
!?
││││││ら、気が付いたら別世界だった。
る。ヒトカゲに怪我を負わせてしまうのかもしてないと咄嗟に抱きしめて目を閉じた
楽しそうにクルクルと舞っているセレビィが光り輝き、私たちに向かって突進してく
!!
!?
﹁何ここ何処なの
第五話 未来の私はそこにいますか?
67
﹄
﹂
これって絶対に⋮ときわたりをしたってことだよね
に戻ることはできないの
﹁セ、セレビィ
﹃カゲェ⋮
今すぐ元の世界
?
のポケモンが怖いけど⋮セレビィは喜びのあまりときわたりをしただけなんだ。だか
時にだって技を使っちゃうことがあるんだって。そういった部分があるから私は野生
く言っていた。ポケモンというのは怒るとき以外にも⋮例えば、喜んだときや悲しんだ
を込めちゃったからときわたりをしただけなんだと思うし⋮。それにお兄ちゃんもよ
に対して怒ってはいないんだ。だってセレビィは上機嫌に喜んで笑って│││つい力
反省した顔で﹃ごめんね。本当にごめんね﹄と謝っているのだから。というか、セレビィ
セレビィによって過去に戻れないという不安はない。だってセレビィがものすごく
多分力を使ったからしばらくの間は使えないということなのだろう。
い。諦めた顔で首を横に振ったセレビィに絶望した。
セレビィがちょっとだけ力を込めるかのようにギュッと目を閉じたが、何も起きな
﹃ビィ⋮ビィィ⋮﹄
?
?
!
68
ら、謝ってくれたから私は怒らない。でも不安はあった。
ここは絶対にマサラタウンじゃない。だから怖い。震えているヒトカゲと同じよう
に私も身体を震えさせた。セレビィが私とヒトカゲを安心させるかのように頭を撫で
てくれたけど⋮それでも不安は拭い去れない。
﹁どうしよう⋮野生が出てきたら⋮﹂
﹃カゲェ⋮﹄
﹁あ、ごめんヒトカゲ。大丈夫⋮あなたは私が守るからね﹂
﹃カゲ⋮﹄
ヒトカゲはまだ生まれたばかりなんだ。だから親である私が守らないと駄目なんだ。
││││そう思った時、ガサガサッと草をかき分けてくる音が聞こえてきた。ビクッ
!
と身体を震わせ。団子のように皆で固まる。野生のポケモンが来るかもしれない。攻
﹂
撃されるかもしれない⋮
﹁駄目駄目来ないで⋮
!
第五話 未来の私はそこにいますか?
69
﹄
﹄
﹃カゲェェ
﹃レビッ
!!
﹁子供だと⋮
﹄
﹄
﹂
?
?
﹁え、えっと⋮トレーナー
﹃カゲ
﹃レビッ
?
﹂
﹁ポケモンハンターから逃げてきたのか
﹁え
?
﹂
?
らセレビィを見てとっても低い声で言ってくる。
眉をひそめてしかめっ面している10歳くらいの少年。私とヒトカゲを見て、それか
?
﹂
の野生ポケモン│││ではなく、赤い髪の少年だった。
震えている私たちに向かってやってきたのは、縄張りを守ろうとやってきた興奮気味
!!
70
それとも親とはぐれたということか⋮どち
﹁色違いのヒトカゲとセレビィを連れているだろう。何かトラブルがあってわざわざこ
のウバメの森に来たと見たが⋮違うのか
目つきが鋭いけど、正義感が強くて私たちのことを心配してくれているから││││
た架空の大人たちに対して怒っていた。
として、森の中まで逃げてきた子供なんだと誤解をし⋮⋮そして、そのトラブルとなっ
でも、色違いのヒトカゲとセレビィを見ても動じず、むしろ厄介ごとに関わった子供
いてはいけないという意味で怒っているのだろう。
怒っていると思ったら本当に怒っていた。私はまだまだ幼い子供だから。森の中に
らにせよ。ここは幼い子供が来るような場所じゃないぞ﹂
?
私達はその⋮セレビィのときわたりに巻き込まれてここに来
まるでお兄ちゃんのようだと感じてしまった。
﹁ときわたりだと
⋮そうか、セレビィは確かにときわたりをするポケモン⋮ならばセ
!
レビィを叱らなければならないな﹂
?
ちゃって⋮﹂
﹁あ⋮あの、違うんです
第五話 未来の私はそこにいますか?
71
﹃ビィ
﹄
叱ると言った言葉に対してセレビィが驚き、私の背中に隠れた。
?!
﹂
?
﹂
?
﹄
﹄
﹃レビィ
?
少年は怖そうな表情から一変して、苦笑しながら私に向かってデコピンする。ちょっ
首を傾けているヒトカゲとセレビィを見て、赤い髪の少年を見た。
?
﹃カゲ
ると思うんですが⋮﹂
﹁その⋮色違いのヒトカゲと伝説ポケモンであるセレビィを見て普通なら何か反応をす
﹁何がだ
﹁⋮というかあの⋮何も思わないんですか
﹁そうか。貴様がそう言うなら叱るのは止めておこう﹂
怒らなくても大丈夫です﹂
﹁いや、でもセレビィは無意識のうちにときわたりをしてしまったみたいで⋮⋮だから、
72
と痛い。
﹁野生のみならず伝説のポケモンまでも懐かせ、色違いのリザードンを相棒にしている
女が俺の友人でありライバルなんでな⋮。だから、驚きはしない﹂
﹁へ、へぇぇ⋮お兄ちゃんみたいな人が他にもいるんだ⋮⋮﹂
野生だけじゃなくって伝説のポケモンを懐かせるスキルがあるだなんてまるでお兄
ち ゃ ん そ っ く り だ。と い う か 兄 が 女 体 化 し た よ う な 人 な の か な ⋮ 相 棒 が ピ カ チ ュ ウ
じゃないのが残念だけど⋮。
﹂
?
一瞬目を丸くした少年が、何故か納得したような顔で頷いた。
﹁ヒナっ⋮⋮そうか、貴様が⋮⋮﹂
﹁あ、私はヒナです。こっちはヒトカゲとセレビィ⋮って分かるよね﹂
﹁そうだ。貴様の名前は何だ
第五話 未来の私はそこにいますか?
73
﹁え
﹂
﹂
?
﹃ビィィ⋮レッビィ⋮﹄
﹁それで⋮セレビィは何時になったらときわたりするんだ﹂
悩んでいる私に対してシルバーさんが口を開いた。
前世のどっかで見たような気がする⋮うーん⋮。
というかシルバーさんってどっかで見たことある顔なんだよね⋮どこだったっけ⋮。
なかった。
首を傾けてどういう意味なのかシルバーさんに聞いたんだけど、彼は何も答えてくれ
﹁へ
﹁ああ、これから先もよろしく頼むぞ﹂
﹁シルバーさんですか。よろしくおねがいします﹂
﹁いや⋮⋮俺はシルバーだ﹂
?
74
﹁ふむ。ヒメリの実をあげれば問題ないか⋮﹂
﹂
野生のポケモンにやさしく接す
そう言ったシルバーさんが、バックの中からヒメリの実を取り出してセレビィに渡し
てくる。
それを見ながら、私は疑問に思う。
﹁あの⋮何でそこまで親切にしてくれるんですか
るのは当たり前のことだ﹂
?
?
﹁貴様らはともかく⋮このセレビィは野生なんだろう
﹂
?
﹁ポケモンたちは優しいけど⋮やっぱり残酷な一面だってある。弱肉強食が野生にとっ
についても話した。
いて話す。それだけじゃなくて、野生のポケモンたちが人を襲って死にかけたニュース
私は以前あった眠っている間にキャタピーとコラッタがのしかかってきた事件につ
﹁⋮どういう意味だ﹂
﹁急に襲いかかって来るかもしれないのに
第五話 未来の私はそこにいますか?
75
て当たり前だから、私はそれが怖い﹂
﹂
?
くれればちゃんと返してくれる素直な生き物だ。だからヒトカゲに対して抱く愛情の
﹁安心しろヒナ。貴様はポケモンに好かれている。ポケモンたちは愛情を持って接して
﹁⋮⋮でも﹂
が理解をすれば気をつけて人と接してくれるようになる﹂
人間が脆いことを知らない生き物だっているんだ。野生なら尚更な⋮だから、ポケモン
なんだろう。その対処の仕方さえできるようになれば理解できる。それにポケモンは
﹁キャタピーやコラッタがのしかかってきた一件も⋮単にお前と一緒に寝たかっただけ
﹁え
が良いポケモンだぞ﹂
﹁ポケモンたちに残酷な部分があることを否定しないが⋮それでも、奴らは優しくて頭
んは呆れたような顔で私を見ていて⋮。
俯いたヒトカゲの頭を優しく撫でて、そしてシルバーさんを見た。何故かシルバーさ
﹁あ、別にヒトカゲは怖くないよ。だってヒトカゲは家族だもん﹂
﹃カゲ⋮﹄
76
一部を⋮その野生のポケモンたちに見せてあげればいい﹂
﹁それでも⋮やっぱり私は怖い﹂
関わっていくのが当然の世の中なんだからな﹂
﹁無理はしなくてもいい、ゆっくりと慣れていけばいい⋮。人間とポケモンは隣人同士。
!
タ達と仲良くなりたい。危険があったらすぐに助けてくれるバタフリーたちに、きちん
ぐらいにはなりたい。オーキド研究所を散歩していて、さりげなく近づいてくるコラッ
ンだっているんだ。恐怖心はなくせないと思うけど⋮それでも、渡された愛情を返せる
と同じように│││セレビィやミュウのように、笑いながら一緒に遊んでくれるポケモ
でも、中には人と接してくれる心優しいポケモンだっている。お兄ちゃんのポケモン
いから。
い攻撃力があるから。爆発したり毒を放たれたり、普通に死ぬ攻撃を受ける可能性が高
野生のポケモンたちが怖いのは、ふとした瞬間に死んでしまうかもしれないとても強
トカゲはギュッと私の手を握る。
その隣でヒメリの実を食べたセレビィが﹃もう大丈夫 ﹄とばかりに鳴き声を上げ、ヒ
ゆっくりと話してくれるシルバーさんに頷いた。
﹁⋮⋮はい﹂
第五話 未来の私はそこにいますか?
77
としたお礼を言いたい。
私も一緒にいるよ
﹄と言うかのように笑いか
ふと、ヒトカゲが私の足を叩いてきた。ヒトカゲを見たら、拳をギュッと握りお兄
ちゃんのようにドヤ顔をして﹃大丈夫
!
けてくれる。うん。ヒトカゲだっているんだから、大丈夫だよね。
!
﹁⋮⋮ありがとうございますシルバーさん。私、頑張ってみます﹂
﹂
﹁お前ならやれるさ﹂
﹁はい
﹃ビィィ
﹄
﹄
﹃カゲ
!
!
間、黄緑色の閃光が私たちに襲いかかってきた。
またいつか⋮会えた時に
!
﹄
﹁ありがとうございましたシルバーさん
﹃カゲェ
﹂
気合十分なセレビィの身体が光り輝く。クルクルと回るセレビィが大きく鳴いた瞬
!
!
!!
78
﹃レビィ
﹄
?
﹁ん⋮あれ
﹂
目を開いた。
ヒトカゲを抱きしめて目をギュッと閉じ⋮音が何も聞こえなくなったらゆっくりと
手を上げて私たちの声に応えてくれたシルバーさんから離れ、元の場所へ。
!
﹄
?
│││
何でワニノコがベイリーフ達によってボッコボコにされてんの⋮
?
元の場所に帰ってきたし、ここがちゃんとマサラタウンなのはわかるんだけど│││
﹃カゲ
第五話 未来の私はそこにいますか?
79
第六話 悪とは何か│前編│
フシギダネ達の説教を終わらせた後、セレビィはさっさと何処かへ逃げていく。でも
ベイリーフはまだ気が収まらないのか、ワニノコとヒノアラシを蔓で引きずってどっか
ヘ連れて行った。たぶん何処か広い場所でバトルでもするつもりなのだろう。
﹂
││││そしてふらふらとしながらもフシギダネに連れられて研究所に戻った私た
来ておったのかヒナにヒトカゲ﹂
ちを出迎えてくれたのはオーキド博士だった。
﹁おおっ
﹁あ、オーキド博士⋮お邪魔してます﹂
﹃カゲ﹄
﹁何か疲れたような顔をしておるが⋮どうかしたのか
﹁い、いえ⋮何でもないです⋮﹂
﹃カゲェ⋮﹄
?
!
80
﹃ダネ
﹄
されるかもしれないなぁ⋮。
?
﹄
﹁そういえばサトシはどうしたんじゃ
﹃ダネ
﹂
ど、まだちょっぴり怒っているみたいだ。これは後で帰ってきたお兄ちゃんにまた説教
私達の後ろでフシギダネがにっこりと笑ったことに寒気がした。説教は終わったけ
!
?
﹄
?
﹃カ、カゲ⋮
﹄
﹁気にしないでヒトカゲ﹂
﹃カゲ
﹁そ、そうですね⋮﹂
﹁おやおや。サトシはマサラタウンに帰って来てもバトル三昧じゃな﹂
﹁ああっと⋮お兄ちゃんはちょっとバトルしに行ってて⋮﹂
第六話 悪とは何か─前編─
81
?
アレをバトルと表現していいのかどうかわからない。フシギダネはやはり兄のポケ
モンだからか、なんとなくわかったのだろう。ちょっとだけ苦笑して蔓で私とヒトカゲ
の頭を撫でてくれる。慰めてくれているのだろう。
﹃カゲ﹄
!
瞬間だった
何っ
!!?
﹁へっ
!?
いのだろう。だがフシギダネにとってみれば、その騒動の音に苛立ちしか湧いてこない
声が二人分聞こえてきた。おそらく草ポケモンと水ポケモンが争っているわけではな
突然の轟音。いつも鳴り響いているものと似ているが、それと同時に高笑いのような
﹂
ルーしつつも⋮兄があまり暴走しないよう祈った。
不思議そうな顔をしているオーキド博士と、引き攣った顔を浮かべるケンジさんをス
﹃ダネフシッ
﹄
﹁⋮ありがとうフシギダネ﹂
82
わけで⋮。
﹃ダネェ⋮
﹄
﹂
!
んが顔を見合わせて言う。
﹂
じゃから行くぞ
﹂
!!
くなるかもしれないんだ﹂
﹁ヒナにヒトカゲ。ワシらも一緒じゃ
!
﹁ああ、今ここには君たちを守るポケモンがいない。だから何かあった時に助けられな
!?
﹁博士
私達もですか
おいでヒナちゃん。一緒に行こう﹂
ワシらもフシギダネの後を追うぞ
そのヒトカゲの頭を撫でて大丈夫だよと落ち着かせていたら、オーキド博士とケンジさ
轟音は鳴りやむことないため、ヒトカゲが私の足にすり寄り、目をギュッと瞑っている。
まるで舌打ちしたかのような鳴き声を一つ上げ、フシギダネが走り出す。その間にも
!
﹃カ、カゲェ⋮﹄
﹁へ
!
﹂
﹁うむ
!
森の中で何かあったんじゃろう
﹁はい
!
?
!
第六話 悪とは何か─前編─
83
確かに、ケンジさんとオーキド博士のいう通りだろう。騒音はいまだに響いている。
その音がする方へ皆が向かうと研究所が空になるから、私とヒトカゲを置いてはおけな
いのだろう。トラブルの元となっている場所に行って皆に助けられるのが良いのか、そ
あなたは私が守るから⋮大丈夫だよ
﹂
れとも研究所に残って誰かに襲われ逃げるのが良いのか⋮⋮となれば、もちろん前者の
方がいい。
行こうヒトカゲ
!
﹁うぅ⋮⋮はいッ
﹃カゲ⋮⋮﹄
!
その近くまで寄った後、私とヒトカゲがケンジさんの腕から降ろされ、後ろの方に庇
数匹のポケモンたちを睨みつけていた。
騒動の元凶である森の中では、ポケモンたちが円になってその中心にいる人間二人と
カゲと共に抱き上げられそのまま連れて行かれたんだけれども⋮。
へ向かい走り出す。幼い身体ではケンジさんたちと並走していくのは無理なため、ヒト
震えるヒトカゲの手を握り、ケンジさん達と一緒にその騒動の原因となっている場所
!
84
われる。その背から野次馬のごとく覗き込んでみてみるが、何ともまあカオスな状態に
なっていた。
研究所のポケモンたちに囲まれているのに、ロケット団の二人は焦っていない。そし
てポケモンたちも歯がゆくその様子を窺っている。博士の近くにいた研究所の御庭番
﹂
であるフシギダネが口をひくひくさせてロケット団二人を睨みつけるけど、攻撃するこ
とができない状態でもある。
﹂
この草ポケモンと水ポケモンの姿が見えないのか
それはつまり、最悪でありカオスな状況。
﹁ハーッハッハッハッ
!?
は﹁また喧嘩してたのか⋮﹂とため息をついているのだから。
中にロケット団二人に囚われてしまったのだろう。オーキド博士は苦笑し、ケンジさん
でも、網の中にいても双方いがみ合っている様子から、おそらく喧嘩している真っ最
モンがいるのだから。
│││だって二人組の手の中にはなにやら頑丈な網で囚われた草ポケモンと水ポケ
!
!!
﹁あんたたちが攻撃したらこいつらもただじゃおかないよ
第六話 悪とは何か─前編─
85
﹂
というか、このロケット団⋮えっとカスミさんの話だと確か⋮
コサブロウだ
﹁⋮ヤマトにコサンジ
﹁違う
!
﹂
ポケモンたちを返せ
達もいるし大丈夫か。
﹁ヤマトにコスギ
﹂
!!
から預かった大事なポケモンたちじゃ
返してもらおうか
!
﹂
﹁何じゃ⋮また来おったのかヤマトにコサハタ。ほれ、そのポケモンたちはトレーナー
!!!!
!
﹁誰がコスギだコサブロウだといっているだろうが
﹂
食わない。色違いだからと私やヒトカゲを狙うのはやめてほしいな⋮まあフシギダネ
でもヒトカゲの身体の色を見てヤマトの顔がちょっとだけニヤッと笑ったのが気に
て、邪魔にならないよう遠くの方へ後退した。
私の背に隠れ、震えている。その身体をゆっくりと抱きしめ背を撫でながら落ち着かせ
コサブロウだと鋭くツッコミを上げたロケット団の一人にヒトカゲが飛び上がって
!!! ?
86
!!
コサブロウだって言ってるだろ
なんだ貴様らわざとやってんのか
!!
だからと乱獲するポケモンハンターがいて騒ぎになったことだってあるのだから。
彼らが今やっている網と同じように⋮ニュースでも地方によっては珍しいポケモン
を無理矢理反して捕まえるのはもはや強奪と同じだ。
彼らは彼らなりのテリトリーが存在する。バトルして正当に捕まえるならいいが、それ
ポケモンは家族。野生はゲットするという可能性があるから意味はないが、それでも
れるだなんて考えたくないからそこらへんはお兄ちゃんに同意しておこう。
兄の考えだし、私も家族であるバリちゃんや最近娘みたいに思えてきたヒトカゲを取ら
というか、他人のポケモン盗むような連中だから容赦なんていらない⋮っていうのが
は底辺にまで落ちたけど。
そうではある。普通に鼻を鳴らしてこちらを見て嘲笑ってきたので可哀想という思い
でも。ヤマトはコサンジさんの言葉をちっとも気にしてないみたいだから若干可哀
コサンジさんの方が言いやすいしコサンジで良いよね。
いや、ただの天然だと思うよコサンジさん。コサブロウって名前言いにくいしなんか
!!
!
﹂
﹁ど ぅ ぁ ぁ か ら
第六話 悪とは何か─前編─
87
私たちはロケット団
ヤマトはボールを掴んでニヤリと笑う。
誰がポケモンを返すもんか
﹂
悪を貫くのが我らのやり
もちろんそっちにいる小さなヨルノズクでも良いわよ
やってくれるか
﹂
!!
﹁ふんっ
!
⋮というか草ポケモンと水ポケモンがいるのが傷つくのが嫌ならその色違
いのポケモンよこしなさい
﹄
⋮というわけで、さあ行け。デルビル
﹃ガゥゥ
﹃ダネ﹄
﹁おおっフシギダネ
﹃ダネフシ﹄
!
ポケ質は献上品として持ち帰るみたいなこと言ってたし、むやみやたらと傷つけるよ
立しているように見える。
一見すれば脅しているように見えるが、ポケモンを出した時点でポケモンバトルは成
!
﹁むっポケモンバトルか。ならワシは⋮﹂
!
!!
!
方なのよ
!
!
!!
88
第六話 悪とは何か─前編─
89
うなことはしないのだろう。ポケモンを商品だと思っているような連中だからこそ、そ
の商品が劣化したらいけないと思うのだろうが│││ここから脱出するには全員を相
手取らなければならないのは当然のことだ。
でもそんな時間はないから、この森で強い相手とバトルする。そうすれば一番強い相
手とバトルして勝てばポケモン達が捕まえられないと察して隙が生まれる。その隙を
突けば、逃げ出せる。安易すぎて無理なんじゃないかと思えるが、この状況が野生のポ
ケモンだけならば本当に簡単なのだ。
ポケモンというのは、ボスがやられればもう無理だと判断して逃げるか様子を伺うか
のどちらかになる。それこそが弱肉強食。頂点に立つポケモンが負けたら誰もが動揺
するのは当然のこと。
そのため、たとえオーキド博士とケンジさんが捕まえようとやって来てもポケモン達
︼について兄が実践経
が動かないのなら意味はない、とヤマトとコサンジが考えているのだろうと推理した。
まあ全部︻脱出困難な状況下でどうやったら逃げ出せるのか
あった。
そして、この状況でオーキド研究所にいる強い相手こそ、お兄ちゃんのフシギダネで
当てはめた結果なんだけど⋮。
験のもと、オコリザル達に囲まれた時について詳しく話してくれた内容をロケット団に
?
﹃⋮ダネッ﹄
フシギダネの鳴き声に感情なんて入っていなかった。
今やフシギダネ達の妹分として認められているヒトカゲを奪おうとしたロケット団
に対しての怒りが天啓突破したせいか、それとも草ポケと水ポケの争いが激化してこん
なトラブルを引き寄せたことにキレているのか⋮いや、どっちもだろう。
それにお兄ちゃんのポケモンでありフシギダネ達の仲間であるヨルノズクも奪おう
としてるからもう駄目だよね。いろいろと地雷踏んでるから無理無理。ベイリーフ達
﹄と諍い
でさえフシギダネの様子を見てヤマトとコサンジを相手することに対して素直に彼に
譲ったのだから。
﹄
﹃ツボッ
他にも、周りのポケモンたちはフシギダネの異変に気付いたみたいだ。
網に囚われている草と水ポケモンたちでさえ先程まで﹃ニョロ
!!
たい。やっぱりオーキド博士もスーパーマサラ人なんだろう⋮。
オーキド博士だけが普通にフシギダネと接しているのがものすごく恐ろしいと思い
んでさえ、﹁地形がまた変わる⋮地形がまたカワル﹂って呟いてるぐらいだし。
を起こしていたと言うのに、今は冷や汗を大量に流して震えてしまっている。ケンジさ
!
90
﹄
とにかく私は、ケンジさんの後ろに隠れながらもヒトカゲの目を閉じた。
﹃カゲ
﹄
?
﹄
﹁うん⋮⋮え
﹂
ら、兄のヨルノズクが私の視界を遮ってくれたのが分かった。
だが、背後から﹃ホォー﹄という声を聞き、頭に若干感じるポケモン特有の温かさか
突然視界が見えなくなり私は驚いた。
?
﹃カゲ
﹁大丈夫よ。皆がいるからね﹂
﹃カゲカゲ
﹁ヒトカゲ、ゆっくり10まで数えようねー﹂
?
!
﹃ホォー﹄
﹁⋮ありがとうヨルノズク﹂
第六話 悪とは何か─前編─
91
92
うん。ヨルノズクもヒトカゲと同じで色違いだから⋮いろいろと苦労はあったはず
だよね。
何かしら聞こえてくるバトルの音とか悲鳴とかは聞こえないふりをしつつ、ヨルノズ
クの温かさに身体の力が抜けた気がした。
というか、お兄ちゃんがロケット団に喧嘩売ってるのにこの二人組いても大丈夫なの
かな⋮
?
る。
警察が尻尾を掴んでこちらへ乗り込んできたのだろうか
ンツェルンの実態が明かされてしまったのか
それとも、ポケモンたちを使って商売を
らこの警報音は一体何なのだろうか⋮。まさか、我らが表で活動しているロケット・コ
いや、それならばボスが何かしら察知して自分らに言うはずだ。だが、それだとした
?
ポケモンを人々が求めているのかについて考えていた者の思考は一気に切り換えられ
について会話をしていた者、ポケモンを研究しその実験結果をまとめていた者、どんな
警報が鳴るまでの間、奪ったポケモンたちをブラックマーケットに売るための手続き
いた人々の耳に届き、思わぬ一大事が発生したという事実を知らしめた。
赤色に光り輝くランプと警報音は危険と警告を象徴するもの。その音はビルの中に
けたたましいサイレンがビル中に鳴り響く。
第七話 悪とは何か│中編│
第七話 悪とは何か─中編─
93
?
94
しているポケモンハンターから逆に我らがその商品を全て奪ってしまったことで逆襲
しようとしているのか
どうせ死体は何も語らない。ポケモンによる傷があればなおさら、森の中で野生のポ
が。
ばいいだけの話だ。まあただ置いていくのではなく、物言わぬ亡骸として処置をする
のビルの中で取り押さえて緊急事態が無かったことにし、何処かの森の中に置いて行け
その言葉を聞いた誰もが安堵の息をつく。少年ただ一人とピカチュウだけならば、こ
集団の組織ではなく、少年一人とピカチュウだけらしい。という事実を。
それは、ビルに侵入してきたのが警察や敵対しているポケモンハンターなどといった
により、それらの予想を全ていい意味で打ち砕かれた。
しかし、警報音を聞きつけ即座に対応しているらしい一人の仲間によるアナウンス音
面目が立たないのだと。
の中にはボスがいる。ボスを第一優先とする我らが先に逃げてはロケット団としての
がいいんじゃないかという声でさえ上がるが、それは全て一蹴された。なんせこのビル
そんな疑問と焦燥が人々の脳裏に飛び交っていく。逃げる準備だけはしておいた方
?
ケモンに遭遇し、殺されてしまったのだろうといつもと変わらぬニュースの一つとして
流れてくれるはずなのだから。
少年とピカチュウが何故このビルを襲撃したのかはわからないが、それは捕まえて拷
問し、聞けばいいだけの話。
その少年に対して頭の悪い命知らずがやってきたのだと嘲笑を漏らす人間たちは、己
のモンスターボールを持って足早に駆け出して行った。
ただ、顔を知っていれば、そんな態度なんて取ることはなかったと言うのに││││
│。
﹂
!
﹄
!!
しかもだ。ピカチュウさえ戦闘不能にしてしまえばあっけなく捕まえることができ
と悟った。そもそも、このビルの中に侵入してきたこと自体異常だったのだから。
情を思い出させる。たかが少年一人と侮っていた者たちが、その状況こそ甘かったのだ
多数対一でさえ電撃で容易に蹂躙していく少年とピカチュウに、誰もが焦りという感
﹃ピィカッチュ
﹁全体的に10まんボルトで痺れさせろ
第七話 悪とは何か─中編─
95
ると思っていた少年が異常におかしい。
トレーナーに直接攻撃をすればいいんじゃないかと考えた仲間が指示をして、その手
持ちであるゴルバットが少年の喉元を狙って口を大きく開けて襲いかかっていった瞬
間。
﹃ゴルバッ
﹄
ふっくらした柔らかさが垣間見えたのだから。
た腹でさえ、ショタが好きだと言う特殊嗜好の人間が好みそうな少年特有のちょっと
見た目は細くて筋肉もついていないように見える少年だ。シャツからちらりと見え
れ返って反撃されているのがおかしい。
アーボックやラッタなどといったポケモンたちもトレーナーを狙うが、全て攻撃を防が
か り に ポ ケ モ ン よ り も 大 き な 力 を 発 揮 す る 者 が い る に は い る が、そ れ で も お か し い。
普通人間とポケモンではその身体能力の差は大きくある。時折火事場の馬鹿力とば
強烈な回し蹴りをして抵抗し、ゴルバットを吹っ飛ばしていったのだ。
ゴルバットの鋭い牙が少年の喉元に迫ったというのに、少年が舌打ちを零しながらも
!!!?
﹁うぜえ。来んな﹂
96
そんな少年のどこにゴルバットを吹っ飛ばす力があるんだ。何処にポケモンたちを
殴り飛ばす力があるんだ。
そして何故、ポケモンにものともせず攻撃することができるのだろうか。
疑問と焦燥が駄目だったのだろうか。少年とのポケモンバトルにおいて反則と非道
と卑怯を振るうロケット団のしたっぱ達は、皆少年とピカチュウに蹂躙され、地に伏し
ていく。
﹁よし行くぞピカチュウ﹂
﹃ピィカ﹄
少年とピカチュウは視界に入った部屋を徹底的に荒らしていった。
捕えられたポケモンたちはすぐ逃げられるように檻を壊して逃げ道を作り、襲いか
かってくる連中には容赦ない攻撃を浴びせ││││廊下を走り角を曲がり、階段を昇
﹄
り、そして部屋に入ってはまた廊下に出て⋮それを何回か繰り返して到達した扉を乱暴
に開く。
﹃おおっと
!
第七話 悪とは何か─中編─
97
﹁ここは通さねーぞジャリボーイ
﹂
﹁あんたらが強いのは百も承知だけどね
私たちにだって意地ってもんがあるのよ
﹂
!
!
﹃ピィカッチュ﹄
﹁だからそのボスに会わせるつもりはないって言ってんだ
﹂
﹂
!
ジャリボーイ
!
﹁ここで引いてもらうわよ。絶対に
つまり、その扉の奥にボスがいるんだな﹂
!
!
﹃ニャー達のボスを傷つけるようなことをするにゃ
﹁⋮⋮ふーん
?
﹄
﹁⋮悪いけどお前たちに用はない。俺が会いたいのはお前らのボスなんだよ﹂
らしく⋮面倒そうにため息をついて口を開いて話しかけた。
したっぱ達に会ったら即座に攻撃し気絶させるサトシたちだったが、この三人組は別
鉄で頑丈そうな扉の前に立ち、サトシとピカチュウを阻むかのように立っている。
とを新人時代からよく知っている執念深い三人組であった。彼らは部屋の奥にある鋼
部屋の中にいたのは、いつもの凸凹三人組。少年│││││サトシとピカチュウのこ
!
98
﹃ピカァ
﹄
﹄﹂﹂
マレベルになるほどの攻撃を││││││したことはあったが、それでも叩き潰そうと
言って協力してくれた。そんな三人組だから、サトシはピカチュウを奪われてもトラウ
トシがいれば問題ないと思われていた時でさえ、何も言わずに助けが必要なら入ると
最強だと人々から言われ、当時仲間であったカスミやケンジ、そしてタケシも若干サ
らは時に手を貸してくれたことがあったのだから。
が起きたり⋮まあ他にもエンテイやらセレビィやらラティ兄妹やらとの戦いでさえ、彼
そしてたまにミュウツーがミュウに対して逆襲してきたりアーシア島で世界の危機
頼できる対等の仲間である。
るはずの人語を喋るニャースでさえムサシとコジロウにとっては研究対象ではなく信
組だけれども、彼らはちゃんとポケモンたちを愛してくれている。野生のポケモンであ
未然に防がれてはいるが⋮人のポケモンを奪うという絶対的な悪を行っている三人
とはできない。
何ともまあわかりやすい三人組だ。だからこそ、サトシは彼らを本当に嫌いになるこ
!!?
?
﹁﹁﹃ギクッ
第七話 悪とは何か─中編─
99
は思えなかった。
それにサトシに攻撃されてもネバーギブアップ精神で何度だって挑戦する三人組に
世界から見てもロケット団の
呆れを通り越して感嘆の息を漏らす旅仲間たちがいたのだから、彼らもある意味凄いと
言えよう。
そんな三人組に、サトシは若干の疑問を感じていた。
﹁なあ、何でそんなにロケット団のボスを慕ってるんだ
﹄
やってることは悪いでしかないっていうのに⋮﹂
﹃⋮ピカピ
前にいる三人組を見つめて言い放った。
?
だって俺は思う。それなのに、何で悪でしかない組織についたんだ
﹂
ような組織にいなくても⋮活躍することだってできるぐらい大きな才能があるはず
﹁お前たちは三人とも、それぞれのポケモンを愛しているだろう
人のポケモンを奪う
ピカチュウが首を傾けてサトシを見る。サトシは相棒に何も言わずに、ただひたすら
?
?
?
100
﹃⋮⋮⋮ピカ﹄
は⋮﹂
﹂
﹁フンっ子供ねジャリボーイ。そんなに強いポケモンを持っていても世間を知らないと
﹁ムサシ、ジャリボーイは普通に子供だぜ
?
﹂
チャンピオンと対等に戦って勝った時点で子供とかそういう概念はど
﹃コジロウのいう通りニャ﹄
﹁うっさいわね
うだっていいのよ
!
ムサシのいう通りだ
﹂
﹂
それが我らロケット団なのよ
ニャー達がいるから悪は栄えるのニャ
!!
そ
でもそのおかげでロケット
!
翻しつつ叫んだ。
私たちが悪であり続ける
!
﹁この世に悪がある限り
﹁そ、そうだぜ
﹃逆に考えるニャ
!
して私たちはそんなボスについて行くって心に決めたわ
!
微妙にごちゃごちゃと仲の良い言い合いをしつつ、ムサシが自身の髪を一度ばさりと
﹁いやムサシが子供とか言い出したんだろー﹂
!
!
!
!
第七話 悪とは何か─中編─
101
団のような巨大な組織はできていないのニャ
﹄
!
ることもない⋮といいたいわけか﹂
﹁それだけじゃないわよ。私達はロケット団
﹁世界の破壊と平和を守り﹂
﹄
﹁愛と真実の悪を貫くのがロケット団なのさ
﹃なのニャ
﹂
!
!!
組と言えどそれは変わらない。
る限り、悪が栄えるのは仕方ないことだと言えよう。例え別の意味で優秀で馬鹿な三人
正義と悪は表裏一体であり、正義がある限り、悪がある。むしろこの世に生き物があ
しさを感じていた。
サトシは小さくため息をつき、この三人組の信念と情熱をロケット団に捧げている惜
﹃ピィカァ⋮﹄
﹁⋮⋮大体言いたいことは分かった﹂
!!
﹂
﹁⋮つまり、お前たちロケット団がいるから、カント│地方に巨大な悪の組織が他にでき
102
ロケット団は確かに悪として栄えているうざい部分はあるが、そのせいで他の組織に
対抗するストッパーとなっている部分があるのもまた事実。カントー地方だけじゃな
くジョウト地方にまで進出し、表でも裏でも行動してきたロケット団がいる限り、巨大
で最悪な悪が栄えることはない。たまにポケモンコレクターやポケモンハンターなど
がいるが、ロケット団ほど大きくなった組織というのはサトシはこのカントー地方から
ジョウト地方、そしてオレンジ諸島で見たことがなかった。
おそらくそろそろ向かおうかと思っているホウエン地方に行けばまた別の悪の組織
を見るかもしれないが、それはロケット団がホウエン地方にまで進出していないから言
えることかもしれない。
それに人のポケモンを奪いポケモンを使って研究する許すまじな部分も多々見られ
ているが、それでも三人組のようにポケモンをちゃんと愛し、ボスを慕って何があって
もついて行くという可愛い一面が見られたからこそ、サトシは全てを葬り去ろうとは思
わなかった。これらを全て叩き潰そうとは思わなかった。
でも、このままでいるつもりもなかった。
﹁ムサシ、コジロウ、それにニャース。お前らは俺やピカチュウとずっと旅で関わってき
第七話 悪とは何か─中編─
103
たから分かるだろうが⋮俺はもうこのままにするつもりはねーんだよ。ミュウツーっ
私たちのボスは私たちが守る
﹄
﹂
それが私達ロケット団よ
ていう被害者を出した以上。落とし前をつけなくてはいけないからな﹂
﹁そ ん な こ と を 言 わ れ て も
﹂
!
﹁そうだぜ。俺達ロケット団は悪を貫くのが信条なんだからな
﹃ニャー達が壁になってでも止めるニャー
!!!
きなかったよ。殺しはしないが、全力だ││││ピカチュウ﹂
ちは本当に、とてつもない悪党で何があっても襲いかかって来て⋮ある意味見ていて飽
﹁ずっとずっと新人だった頃からの付き合いだ。だからこそ、敬意を評しよう⋮お前た
だが、サトシの表情は何も無い。怒りも悲しみも、そして呆れも苦笑も何もない。
る三人組を見て苦笑し、そしてサトシを見た。
そんな固い決意が三人組から感じられた。ピカチュウはある意味腐れ縁となってい
ここは守り通す。
何があろうともこれ以上は通さない。例えジャリボーイであったとしても死んでも
!!!!
!!
!
104
﹃ピッカ﹄
部屋一面を焦がし、膨大な電撃量によって││││今までにないほどの瞬殺で彼らを
それが全力のかみなり。
る種の敬意を見せた。
そして、今現在どんなことがあってもここを通さないという心情を察して、彼らにあ
気に入っている節が見られたのだ。
な一面を持っていた。だからサトシは嫌いになれなかった。それぐらい、彼らのことを
対するロケット団三人組も⋮本気な時は本気だが、遊ぶときは全力で遊ぶ子供のよう
全力なんて出さずに遊び半分で相手していた時があった。
いつもいつでも吹っ飛ばしてどこかへ飛び去る三人組だったが、サトシとピカチュウは
部屋を満たす黄色い閃光と、痺れを圧倒しそうな雷は、ピカチュウにとっての全力。
今までにない膨大な電撃が三人組に襲いかかってきた。
﹁かみなり﹂
第七話 悪とは何か─中編─
105
吹き飛ばしたのだ。
﹃ニャー
﹄
﹄﹂﹂
﹄
﹂
絶対に数分で戻って来てやるからな
﹂
!!!
﹁サカキ様⋮逃げてくださいッ
﹁﹁﹃やな感じぃぃー
﹁くっそ∼覚えてろよジャリボーイ
!!!
天井に大きく空いた穴から飛んで行った彼らの捨て台詞を背後に聞きながら、サトシ
﹃ピッカ﹄
﹁⋮さあ、行こうか﹂
もしれない。それぐらいには、彼らも通常とは常軌を逸していた。
数分で戻るという声も聞こえてきたから、もしかしたら本当に有言実行してしまうか
て聞こえてきた。
何時の間にボールから出てきていたのか、いつもの声と共にソーナンスの声も重なっ
﹃ソォォーナンスッ
!! !!
!!
!!!!!
106
第七話 悪とは何か─中編─
107
とピカチュウは奥の部屋へ向かう。
あの三人組が慕う唯一のボスとはどんな奴なのかと⋮少しだけ期待と嫌悪感を感じ
ながらも。
第八話 悪とは何か│後編│
誰かが来ると言うのは察知していた。
警報音に時折聞こえてくる破壊音。そしてポケモンたちの騒ぎ声や悲鳴⋮様々な音
が合唱となって鳴り響き、この奥の部屋にまで轟いていた。
カツン と。
扉を挟んだ薄暗い部屋の奥から靴の音が高く鳴り響いた。先ほどまでバトルをして
いたのか騒がしかったが、今は靴の音しか聞こえない。扉の近くに寄ったのか、一瞬の
静寂が空気を包む。
﹁⋮⋮はいッ
﹂
﹁フッ⋮ずいぶんと度胸のあるトレーナーが来たものだ⋮アポロ、そのままで構わん﹂
﹃⋮ニャァ﹄
﹁⋮サカキ様﹂
108
!
しぶしぶと言うかのようにアポロはサカキの左後方に陣取った。先ほどまではモン
スターボールを手に、やって来るであろう侵入者に対して扉が開いた瞬間不意打ちをか
まそうとしていたが、サカキの命に従い睨むだけに留める。
ペルシアンも扉を睨みつけながら、サカキの足にすり寄った。
ギィィ⋮と、扉のノブが回され、その侵入者の正体が明らかとなった。それにアポロ
は驚愕した。
扉から出てきたのは何処にでもいそうな少年。まだポケモンを貰って半年とちょっ
とぐらいしか経っていないような、幼い顔をした子供と、一匹の小さなピカチュウだっ
た。
﹂
!?
ピカチュウ一匹だけで、ビルの中にいる部下を全員ぶっ飛ばしてきたのか。
こんな子供が、このアジトに易々と侵入し、ボスの部屋までやってきたと言うのか。
のだ。
いや、確かにアナウンスで言っていた特徴と合致する。だがやはり信じ切れなかった
﹁こんな⋮子供が⋮
第八話 悪とは何か─後編─
109
少年の拳に血らしきものが見えるが、まさかピカチュウだけでなく自らも手を汚して
きたのか。
アポロは少年の姿が人間だとは思えなかった。ポケモンが人間の皮をかぶっている
と言われたら信じることができるほど、このビルのセキュリティはカントー地方の中で
も指折りの頑丈さと厳重さを誇る場所。警察やポケモンハンターなどと言った連中に
見つからないように様々な罠や防御を備えた場所なのだから。
だと言うのに、この少年はピカチュウ一匹でやってきた。その事実に驚愕しているの
はアポロだけであった。
ると話に聞いたが⋮⋮そうか、貴様か﹂
部下のことはちゃんとわかってるんだ。やっぱボスだからか
?
﹁へぇぇ
﹂
﹃ピィカッチュ﹄
もいいけど﹂
?
﹁このガキ⋮
!
⋮まあどうで
﹁ムサシやコジロウ、そしてニャースがある特別なピカチュウを奪うために奔放してい
110
ハ ッ と 嘲 笑 う 少 年 と ピ カ チ ュ ウ に ア ポ ロ が 歯 軋 り を し て 拳 を ギ ュ ッ と 握 り し め る。
もしもサカキに動くなという命が無ければ即座にモンスターボールを取り出してこの
ガキを最上階の窓から放り投げてやったというのに⋮。
だが、サカキは気にしていないようで⋮こちらも少年とピカチュウに対して嘲笑って
いた。
﹁初めまして。私がロケット団のボス、サカキだ﹂
﹂
﹁知ってるよ。ロケット団ボスであり、ロケット・コンツェルンの会長であり⋮そして、
﹂
トキワジムのジムリーダーサカキだろ
?
?
だが、それが今ようやく変わったのだ。
たとしてもそれは変わらなかった。
ル全体が揺れるほどの大騒動になったとしても、少年とピカチュウが部屋の中に侵入し
前の少年が来るような予感を察知しているかのように、冷静に物事を見つめていた。ビ
始めてここでサカキが驚いたように声をあげた。今までのサカキは何処かこの目の
﹁ほぉ
第八話 悪とは何か─後編─
111
てやったけど﹂
﹁ふっ⋮それはそれは⋮⋮私もその場で見てみたかったものだな﹂
﹁その場にいたならアンタに相手してもらうつもりだったぜ。なあピカチュウ
﹃ピッカ﹄
?
﹁それで
﹂
わざわざこのアジトに侵入し、私の前までやってきたんだ⋮何か用があって
来たんだろう
﹁ああ﹂
ニヤリと笑う少年に、アポロが息を呑む。
?
?
いながらだが。
まるで慣れ親しんだ友人と世間話でもしているかのように⋮お互いがお互いを嘲笑
軽い会話がテンポよく進む。
﹂
組が相手してくれたよ。まああいつらが罠とか仕掛ける前に瞬殺してさっさと出てっ
﹁言っておくが、トキワジムに挑戦した時はお前じゃなくて別の連中⋮ってか、あの三人
112
おそらくは世間の定義では悪と定められているこのロケット団を叩き潰すために来
たのだろう。サカキ様に何かあってはいけないと、もしもピカチュウで攻撃してくるよ
⋮私たちに悪行を止めさせるのではなく、変えてもらう⋮か﹂
珍しいポケモ
うならこちらが先に仕掛けてやろうかとボールを握り、反撃できる体勢を整えていた。
﹁ロケット団の方針を変えてもらう﹂
﹂
だが、想像していたものとは別の言葉が紡がれた。
﹁ほぉ
ンなり貴重な道具なり⋮だからそのやり方を変えてもらう﹂
﹁ぶっちゃけアンタ等は金稼ぎのために悪行を積み重ねているんだろう
?
いて分かったんだ。この世界にはある程度の悪が必要なんだってな﹂
出るしオニスズメの餌になって死んじまえぐらいのことは思ってる。⋮でも、旅をして
﹁別に叩き潰したって構わねえよ。今のアンタ等がやっている所業は不愉快だし反吐が
?
?
﹁どういう意味だ
第八話 悪とは何か─後編─
113
それは、コイキングを売りさばいていたおっさんと出会った時か、それともアーシア
島でポケモンコレクターに出会った時かラティ兄妹を利用しこころのしずくを奪おう
とした怪盗姉妹と出会った時か⋮否、それら全てに遭遇し解決してきたからこそ思えた
こと。
蛆虫のようにワラワラと出てくる悪党どもは、叩き潰しても全てが滅却されるわけで
はない。消せばすぐ次の悪党が現れる。どんなに旅をしていても、新しい悪党というの
は今この瞬間からできてしまっている。それらをいちいち一人で倒すのはやっていけ
ないというものだ。
が﹂
﹁俺 は あ る 程 度 の 悪 が 必 要 な ん だ っ て 言 っ た だ ろ。数 秒 前 の 話 も 忘 れ た の か こ の 馬 鹿
﹁貴様は、私たちに正義の味方になれと言いたいのか﹂
知ってるはずだ﹂
同じように⋮そして、悪党として活動してきたアンタ等なら、その悪党を叩き潰す術も
能だ。だが集団ならそれが可能になる。ポッポが集団でオニドリルに挑んで勝つのと
﹁人が一人⋮そしてポケモン6体だけで世界すべての悪党を叩き潰せることなんて不可
114
﹂
﹂
嘲笑と共に放たれた言葉を聞き、アポロの顔が怒りで歪む。
﹁貴様ッ
﹁いい。やめろアポロ﹂
﹁ですがサカキ様⋮こいつは⋮
﹁止めろ﹂
いた。
ポロが攻撃してこない限り空気のように扱っていた。それに静かに怒りをたぎらせて
見つめていた。ピカチュウでさえ、頬をピリリと電気を走らせていたが⋮それでも、ア
アポロが少年を睨みつけたが、少年は特に興味ないという風にただただサカキの方を
その声にアポロは従うしか意味はなかった。
サカキがアポロをじっと見つめ、威圧感と強制を含めた声が静かに部屋に響き渡る。
!!
!!!
﹁っ⋮⋮⋮﹂
第八話 悪とは何か─後編─
115
だが、サカキに言われたならば仕方ないとアポロは激情を抑え込む。
だがポケモンを傷つけるようなことをしないのだからグレーになるのだと少年は言
悪には悪をぶつけようとする。小さな虫どもを一人で潰すのではなく集団で倒す。
悪党として活動している連中には、同じく悪であるロケット団が対処するのがいい。
ていいということなのだろう。
ポケモンには保護以外手を出してはならないが、それ以外の物に関しては適当に扱っ
ンハンターなどの悪党連中に向けていけということ。
つまりこれから先は、今までロケット団がやってきた悪行の矛先を│││││ポケモ
少年が言っている事の意味を理解する。
ることそれだけだ﹂
等が好きに扱っていい。売り飛ばすのも自由にやれ。⋮俺が望むのはポケモンを助け
抱と保護を約束してもらうが⋮生き物以外の貴重な道具や金目のものなんかはアンタ
の情報を掴んだアンタ等にはそいつらと戦ってもらう。捕まったポケモンたちには介
﹁そうだな。⋮例えばの話だが、ポケモンハンターたちがカントー地方にいたとして、そ
﹁必要悪か⋮⋮白ではなくグレーに染まれと貴様は言いたいんだな﹂
116
う。
そんなの理想を語っているだけだとアポロは少年を馬鹿にした。そんな面倒くさい
﹂
ことをサカキ様はやらない。ロケット団は悪に徹している組織なのだから。
サカキは少年を見て、口を小さく開く。
﹁ふんっ。貴様は私たちがその通りに動くと本気で思っているのか
﹂
﹁本気だよ。俺たちがそうさせてもらうからな﹂
﹁サ、サカキ様⋮
?
面白いことを言う小僧だ
私たちに挑もうとする度胸に強くセンスあ
!!
できれば敵ではなく我らがロケット団の一員になってほしいものだが││││﹂
﹁ハッハッハッ
る力
!
なんて何もない││││ただの嘲笑が入り混じった歓喜であった。
アポロがサカキの異変を感じ取り、恐る恐る彼を見る。だがサカキの顔は失望や怒り
?
﹁⋮⋮⋮⋮ふっ﹂
第八話 悪とは何か─後編─
117
!
﹁そ れ こ そ コ イ キ ン グ が 空 を 飛 ぶ よ り 有 り 得 な い こ と だ な。っ つ ー か 気 持 ち 悪 い こ と
言ってんじゃねーよ﹂
サカキが少年を見て気に入ったかのように嘲笑えば、少年もサカキを見て嘲笑う。
お互いがお互いの信念を感じ取り、負けるつもりはないのだと遠回しに言っている。
その光景こそアポロはあり得ないと目を白黒させた。
我らがやっていることは全て団員一人一人が血と汗を
?
﹂
数百以上もの生き物のうち2∼3匹が売り飛ばされ、我ら
の財力の糧となることの何がいけない
?
﹁そう甘いことを言っているほど現実は甘くないぞ小僧﹂
﹁それが駄目だって言ってんだ。ポケモンは生き物であり物じゃねえんだよ﹂
?
様々な生き物がいるだろう
流 し て 活 動 し て き た こ と ⋮ 金 儲 け に 至 っ て も そ う だ。ポ ケ モ ン と い う の は そ れ こ そ
﹁たかが小僧一人に何ができる
等が金儲けをしたいという願いは叶えてやる﹂
行ってきた悪行の償いという形でポケモンたちを救ってもらうぞ。その代わり、アンタ
売 り 飛 ば す だ な ん て 殺 し た く な る ぐ ら い 反 吐 が 出 る。だ か ら ⋮ ア ン タ 等 に は 今 ま で
﹁俺はポケモンを利用する連中が嫌いだ。ポケモンを実験台のように扱い、物のように
118
﹁そう非道的なことばっかやってたらいつか痛い目見るぞおっさん﹂
サカキの信念と少年の信念がぶつかり合う。
ポケモンを道具のように扱い、金儲けのために利用するサカキの純黒に染まる絶対的
な悪。
ポケモンは人間と一緒に助け合い、生きていくことが当たり前だと考える少年の純白
に染まる絶対的な正義。
その二つが入り混じるには、お互いの信念を捻じ曲げなければならない。
少年はポケモンに対する信念を曲げようとしない。サカキも、金儲けに関するビジネ
スを変えようとしない。
だが、サカキが小さく息を吐き⋮そして、妥協という形で少年に向かって口を開く。
だが、貴様が負けたらその身ただでは帰さんぞ﹂
が私たちについて知っていると都合が悪いのでな⋮私が負けたら貴様の条件を呑もう。
﹁貴様が我らに物を頼むと言うのなら、勝ち負けで決めた方が早いだろう。それに、貴様
﹁何の勝負だよ﹂
﹁一つ⋮勝負をしようか﹂
第八話 悪とは何か─後編─
119
﹄
﹁言ってくれるじゃねえか。な、ピカチュウ﹂
﹃ピカピカ
左右に、サカキと少年がトレーナーの位置へ立つ。
﹁じゃあ改めて⋮俺はマサラタウンのサトシだ。今後ともよろしくな
﹂
現れる。整地させた地面と広く暴れても構わないように作られた大きな場所││││
サカキが指をパチンと鳴らす。すると壁がせり上がり、奥の方にバトルフィールドが
だからこそ、ポケモンバトルが始まるのは当然と言えた。
りはないはず。
年を帰すわけにはいかない。それに少年も、サカキを前にしてこのまま素直に帰るつも
ロケット団のボスの正体がトキワジムのジムリーダーだということを知っている少
!
インを取り出した。
サトシはただピカチュウ一匹をバトルフィールドに出し、サカキはボールからニドク
お互いがお互いのポケモンを出す。
﹁ふっ⋮。私はサカキ。長い付き合いにならないことをこの勝負で示そう﹂
?
120
第八話 悪とは何か─後編─
121
審 判 な ん て ど こ に も い な い。ア ポ ロ で さ え 観 客 と し て バ ト ル フ ィ ー ル ド の 勝 負 を
じっと見つめているような状況。お互いのプライドと信念を賭けた戦いが始まった。
その後、
アポロのようにサトシとサカキのバトルに感銘を受け目をキラキラと輝かせながら
見物する、将来有望な赤い髪の幼児が部屋の扉から覗いていたこと。
ロケット団がサトシの読み通りに方針を変え、それを認めたくはないアポロたちが組
織から出ていき新生ロケット団を作り出してしまうこと。
その未来で、サカキとサトシが協力し動き始めることを││││今の彼らは知らな
い。
たジェルが汚れと共に全部落ちていき、ヒトカゲが綺麗になった。
身体に塗り、ドライヤーで乾かして真っ白なタオルでごしごしと擦る。すると塗ってい
ジェルは渇けばボロボロと汚れが落ちていくというもの。まずジェルをヒトカゲの
で買ったジェルを身体に塗りたくった。
も場所はお風呂ではなく庭。汚れてない細長い板にヒトカゲを乗せて、ポッポセンター
のこと。最初なのでまずはピカチュウを手本にしてお兄ちゃんにやってもらった。で
炎ポケモンに関して、お風呂は水を使わないジェルタイプのボディーソープを使うと
センターで買って来た。いろいろとトラブルはあったものの部屋の模様替えも済んだ。
エン地方に行くのを延期すると言っていたので、ヒトカゲが過ごすための道具をポッポ
ヒトカゲが生まれたので日記を記そうと思う。まずはお兄ちゃんが一週間ほどホウ
一日目
閑話 兄と過ごした七日間
122
閑話 兄と過ごした七日間
123
ミントの香り付きジェルを選んだんだけど⋮ヒトカゲはそれが気に入ったようでお
風呂が好きになったみたいだと気付いた。
その日の夕飯で、モモンの実とオレンの実を混ぜたフーズをピカチュウと一緒に食
す。ヒトカゲは最初どうやって食べるのか分からず困惑していた。でもお腹は空いて
いたようで、ピカチュウとバリちゃんが手本を見せて食べ方を学び、一口食べたらすご
い勢いで食べ終えた。これからゆっくり食べることを教えていこうかなと思う。
追記として、眠ろうかなと思ったらヒトカゲがベッドにもぐりこんできたことを書い
ておこう。
ヒトカゲはどうやら寝相が良い方なので私の顔面に炎が直撃し火傷すると言う惨事
はなかった。だがこれから夜泣きや布団にもぐりこんでくることが多いようなら火傷
の一つや二つは覚悟を決めた方がいい。髪の毛が燃えないようまとめておく。大変だ
がヒトカゲの為なので苦ではない。
二日目
お昼頃、ヒトカゲが自分の尻尾を追ってぐるぐると回っていた。その光景を見て思わ
124
ず写真に撮ったので日記に貼っておく。なんか犬が自分の尻尾を追ってるみたいだと
思ったのは私だけじゃなかったようで、お兄ちゃんが﹁なんかワニノコが尻尾を追いか
けてぐるぐるしてるみたいだな﹂と言っていた。
そして今日、ヒトカゲが正式に私のポケモンになるよう、お兄ちゃんがオーキド博士
のもとで書類を申請してくれた。今はまだお兄ちゃんが代理トレーナーとして処理さ
れているが、私が10歳になったらそれは解除されるとのこと。
なんだかようやく家族になれたみたいでほっとした。森の中でまたトラブルがあっ
たけど、全てお兄ちゃんのせいだからスルーしておく。
ヒトカゲがトラウマになってなければいいけど⋮。
あと、フシギダネ達によって隕石が落ちてきたみたいな荒れ果てた地形がポケモンた
ちの力によってすぐさま復活し、草原になった瞬間を見てヒトカゲが感激し喜んでい
た。
今はまだ草原だけど、たぶんもうちょっと時間が経てばまた森として育っていくのだ
ろう。それも木の実が生い茂るとても豊かな森に。
草木に栄養を取られる土の状態が心配だったが、お兄ちゃんから聞けば土はちゃんと
ポケモン達によって栄養が運ばれてるから大丈夫だと言われた。まあ荒れ果てた土地
に緑が生えるぐらいだし⋮地形が毎日変わっていっても滅びることはないのがポケモ
閑話 兄と過ごした七日間
125
ンたちの凄さだからね。
だからこそ、私はそんなポケモンたちの力が恐ろしいと思う。
三日目
朝起きたらヒトカゲが寝ぼけ気味に火の粉を飛ばしていた。びっくりしてお兄ちゃ
んを呼んじゃったけど、こういうのはよくあることだって言っていた。ちゃんと育てて
い け ば 火 の 粉 を 飛 ば さ な く な る と 言 う こ と も。寝 ぼ け 気 味 に 放 っ た 火 の 粉 は 天 井 を
ちょっとだけ焦がして模様みたいになってる。なんだか大きな薔薇の花みたいになっ
てた。
ついでに書くと、お兄ちゃんがついにロケット団に喧嘩を売りに行った。絶対に勝利
して帰ってくるとその時察した。だってピカチュウ以外のポケモンたちは手持ち要因
として連れて行ってないし。
でも研究所にはロケット団がいた。その前にいろいろとトラブルはあったけど書く
つもりはない。とにかく、ヤマトにコサンジが帰るときにロケット団のアジトがつぶれ
ていないことを祈ろう││││と思ったら、夕方帰ってきたお兄ちゃんの口から普通に
いで良かったと記しておく。
い︶に会った時、ヒトカゲの表情はいつもと同じだったからトラウマになってないみた
森の中でお兄ちゃんにコブラツイストをかけられたポケモン︵ここに名前は書かな
四日目
てるのは分かるから照れくさいけどね。
ン通り越して娘を溺愛してる感じ﹂とのこと。だからお兄ちゃんに感謝してる。愛され
と考えてくれているんだって思った。シゲルさん達から見ると、お兄ちゃんは﹁シスコ
笑って言ってた。たぶん私とヒトカゲがこのマサラタウンで過ごせるようにいろいろ
旅に出たいのかなって思ったけど、﹁大丈夫。俺はやりたいからやってるんだ﹂って
じゃないからスキンシップに向かったのだろう。
森でフシギダネ達と一緒に一晩過ごすらしい。お兄ちゃんの手持ちはピカチュウだけ
お兄ちゃんは一度家で夕食を食べてから研究所の方へ向かった。オーキド研究所の
れ以上のツッコミは限界です。
お兄ちゃんの頭の方。でも詳しい話は聞かなかった。というか聞きたくなかった。こ
﹁これからロケット団はダークヒーローになる﹂って言われて大丈夫かと思った。主に
126
閑話 兄と過ごした七日間
127
その後、お兄ちゃんはもともと海とつながっている泉で何か釣れるかもしれないと釣
り糸を垂らしていた。私もやってみたらどうだと誘われたけど、野生のポケモンはまだ
ちょっと怖いのでやめておいた。見物して見てたら、お兄ちゃんのポケモンであるピカ
チュウやベイリーフ、そしてワニノコがそれぞれ尻尾と蔓を使って泉に垂らしてじっと
待っていた。それを見たヒトカゲが自身の尻尾も泉につけようとしたので慌てて止め
さ せ た け ど ね。お 兄 ち ゃ ん や ピ カ チ ュ ウ た ち の 光 景 が 面 白 か っ た の で 写 真 に 撮 っ た。
カメラを持ってきて良かった。
ついでに言うと、お兄ちゃんの釣り糸から飛び出してきたのは白くて大きな身体をし
たアーシア島の出身ポケモン︵名前を書くつもりはない︶。
お兄ちゃんがブチギレて﹁アーシア島に戻れ﹂とか言ってたけど、その後釣れたピン
クで小さいポケモン︵名前は書かない︶に怒りを通り越して呆れてしまっていた。とい
うか何で普通のポケモンが釣れないのかな⋮。いや、お兄ちゃんがポケモンホイホイな
のがいけないのか。なお、ピカチュウはコイキング。ベイリーフはトサキント。そして
ワニノコは何故かシェルダーに噛みつかれていた。
五日目
128
ピジョットが遊びに来たとのことで私とヒトカゲはお兄ちゃんに引きずられながら
も研究所に向かった。
そこで何故かヨルノズクとヘラクロス、そしてこれまた遊びに来ていたゴーストとお
兄ちゃんの相棒であるピカチュウによるポケモンレースがスタートした。お兄ちゃん
に抱えられながらもピジョットの背中に乗って大空へ飛んだのは怖かったけど楽し
か っ た。お 兄 ち ゃ ん が 何 時 の 間 に 持 っ て い た メ ガ ホ ン で 実 況 み た い な こ と し な が ら
レースを見てたのは意味わかんなかったけどね。
でもヒトカゲが心地よさそうに目を細めて笑ってたから、空を飛ぶという体験ができ
て良かった。それをお兄ちゃんに伝えたら、頭を撫でられながらも﹁ヒトカゲはもしか
したら進化するかもしれないな﹂とのこと。でも進化するかどうかはわからない。お兄
ちゃんのピカチュウやフシギダネのように進化したくないポケモンもいるのだからそ
れ は ポ ケ モ ン 自 身 に 任 せ な い と 駄 目 だ と 言 わ れ た の で 頷 い て お い た。ヒ ト カ ゲ は リ
ザードンになりたいのかな⋮でも、進化するかどうかはどうでもいい。ヒトカゲは私の
家族なんだから、どんな未来を歩もうともヒトカゲと一緒ならそれでいい。
閑話 兄と過ごした七日間
129
六日目
マサラタウンで小さな祭りがあった。マサラ人だけで行われるバトルトーナメント
だけど、どんなトレーナーでも参加可能なもの。もちろんお兄ちゃんも参加して⋮⋮そ
して、今日帰ってきてたシゲルさんも参加していた。
ヒトカゲは祭りが珍しいのかちょっとおろおろしながら、今日の保護者であるフシギ
ダネと一緒にくつろいでいる。たまにヒトカゲが色違いなのを珍しく思って近づこう
とした余所者のトレーナーがお兄ちゃんのピジョットの子分であるポッポ達にフル
ボッコにされていたけど自業自得なので同情はしない。
ポッポ達には祭りで買ったクッキー型のポケモンフーズを感謝のしるしとしてあげ
ることができた。ヒトカゲと一緒にあげて、野生でも触れるってことが分かった気がし
た。
私 が も の す ご く 幼 い 時 も │ │ │ ま だ ポ ケ モ ン が 恐 ろ し い と は 知 ら ず 大 丈 夫 だ っ て
思ってた時期に、最初に触れ合ったのが野生のポッポだったってことを思い出した。そ
の時は近くにいた子供に怒鳴られて大変な思いをしたけど⋮でも、やっぱりポケモンは
恐ろしいけど、優しい生き物なんだって思い出した瞬間だった。
ちょっと泣きそうになったけど、フシギダネとヒトカゲ⋮そして野生のポッポ達が慰
めてくれたので再び泣きそうになった。その後私たちは祭りを楽しんだけど⋮バトル
130
フィールドがものすごい状態になったことだけは書いておこう。お兄ちゃんとシゲル
さんはやり過ぎ。
七日目
そろそろお兄ちゃんが旅に出るとのことで準備に取り掛かった。
ヒトカゲが寂しそうにしていた。食欲がないのか朝食はあまり食べなかった。私は
ずっとヒトカゲの隣にいてヒトカゲの手を握っていた。寂しいのは分かるけど、永遠に
会えないわけじゃない。お兄ちゃんはもともとポケモントレーナー⋮だから、旅に出る
のは仕方ないことなんだ。
それを分かるようにヒトカゲに何度も説明した。一度だけ小さく鳴いて、ピカチュウ
の傍によって抱きしめていたけれど⋮もう大丈夫だろう。
夜にお兄ちゃんからいつの間に買ったのか、ヒトカゲの育成法みたいな本を貰った。
何かあったらオーキド博士たちに言うんだぞって言葉も貰った。
大丈夫だよお兄ちゃん。私はヒトカゲと一緒に⋮ずっとここで帰りを待ってるから。
だから一緒に旅に出ようとか誘わないでね。私はマサラで生まれてマサラで死ぬっ
閑話 兄と過ごした七日間
131
て決めてるの。絶対にトレーナーなんかにならないんだから
!!
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手がいる
ホウエン地方へ行く船に乗るため、港へやって来ていたサトシとピカチュウ。二人を
見送ってくれた母たちについては、マサラタウンまでで充分だとサトシ自身の説得のお
かげでここへは来ていない。
﹂
そう⋮純粋に彼らを見送ろうとする奴なんて、ここにはいない。
﹁チーッス今回も大活躍したんだってなー
﹁何でてめえがここにいやがる﹂
﹂
?
﹃ピィカッチュ﹄
の三人組みたく星空の彼方へ吹っ飛ばすつもりだった﹂
﹁残念だったなピカチュウだけじゃなくてフシギダネのソーラービームも当ててどこぞ
ろー
﹁だって君、俺がマサラタウンに取材しに行ったらそのピカチュウで電撃ぶっかますだ
?
132
そうしたら俺は君のことを傷害罪で訴えなきゃならねえな
﹄って記事を書くぜ
そうなったら
﹂
!
?
﹁はっはっ
﹄
記事に﹃哀れ、英雄が悪党に堕ちた現場を目撃
﹃ピィッ
!!?
!
男が何故ここに居るのかをサトシはすぐ察して、面倒そうに舌打ちを零す。
が高いぬいぐるみのようなピィが乗っていた。
そんな男の肩にはサトシがピカチュウを肩に乗せているのと同じように、人々に人気
代であるのだと推測される。
笑っている青年。一見すればサトシより年上だが、幼さの抜けていない顔からまだ10
黒と黄色がアクセントの帽子を目深にかぶりボイスレコーダーを起動させ朗らかに
!
カントー地方の旅の途中に出会い、あの凸凹三人組と似たように旅先で何度も鉢合わ
サトシはこの男を知っていた。
﹁お前と同じとか反吐が出る﹂
﹁残念俺はマサラ人。故郷は君と同じだ﹂
﹁取材はお断りだストーカー野郎。ジョウトに帰れ﹂
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手がいる
133
せをし、サトシがやってきた所業を︵マサラタウン出身とだけ書き、サトシの名前は伏
せてだが︶大々的に記事に書くフリーライターなのだから。男はまだまだ子供だが、カ
ントー地方では10歳から成人と見なされるからこそ、10代後半でも立派に仕事をす
ることができる。
そんな男は慢性的にネタを探し求めていた。そして見つけたのだ。サトシというネ
タの宝庫を。
﹄
!
そ う い や ぁ こ い つ の 手 持 ち に は 闇 夜 に ま ぎ れ て 空 か ら 観 察 す る こ と が で き る ク ロ
態だったならば頭を抱えるぐらいのことはしただろう。
サトシとピカチュウは小さくため息をつく。もしもここで男がおらず身内だけの状
﹃ピカァ⋮﹄
﹁⋮またどっかで見てやがったのか﹂
﹃ピッ
ではなくグレーの組織にしてみせた感想を聞きたいなー﹂
事ラスボスを攻略。人の物を盗みポケモンを売りさばいていたロケット団をブラック
﹁ビル全体の監視システムをぶっ壊しビルにいた連中をなぎ倒し、最上階の部屋にて見
134
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手がいる
135
バットがいたはずだ。最上階の部屋には窓がいくつかあったし、そこから覗き見たんだ
ろう。
嘲笑う男の顔面を殴ったらちょっとは気が晴れるだろうか。そんなことしか考えら
れないが、暴力沙汰なんて起こしたらいろいろと面倒なことになる。記事に書かれるこ
と自体ほとんど放置しているので問題はないが、殴られた代償としてそれ以上のことを
この男から要求される可能性は高い。弱みをわざわざ作る馬鹿はいないとサトシは考
えていたからこそ、握った拳を降ろすことができた。
というか、何度かこいつを打ち負かしてトラウマを植え付けようかと思ったことがあ
るが⋮⋮この目の前の男には調教│││もとい、話し合いで負かすことを得意とするサ
トシが直接ぶっ潰すのは難しい相手であることも理解していた。プライドをへし折っ
てもこいつは必ずまたやって来る。記事を書くと言うことこそ彼の生き様であり人生
においての重要なもの。人を利用しポケモンたちをネタに書くことなんてあたりまえ
なこと。
サトシに何度も話し合いという名の物理的な攻撃をされたとしても、こいつのやり方
は変わらない。なんせ生き物すべてをネタにし記事を書くというのがこいつの人生そ
のものなのだから。つまりは魂に刻まれた当たり前なことだった。だからこそ、どんな
にゲスな性格を矯正しようとも治らない。
直球かつ大胆に責めるサトシにとって、この男は変則球であり状態変化などの遠回し
な攻撃しかしない苦手な分類であった。遠からず未来で││││この男と類友になれ
もしかして先
るであろうアクロマに会うまでは、こいつ以外会って即座にぶっ潰したいランキング不
動の一位はいなかったはずなのだから。
﹁ポケモンを素手でぶっ倒してみせたって聞いたけど君って本当に人間
そうなると君はかくとうタイプのポケモンが先祖に
?
﹁いやねえよ﹂
?
﹂
君がわざわざ動くほどの事でもねーよ。というかもう俺の記事のネタに書かせ
てもらったし⋮それでようやく警察が動いたし
!
﹁屑が﹂
?
﹁ああ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹃ピィッ﹄
作って兵器にしようとする研究だっていたしなー﹂
て言われた時代があったんだし⋮どこぞの組織には人間とポケモンの間から子供を
﹁ないとは言い切れねーだろー
大昔にポケモンと人間が結婚するのが当たり前だなん
いる可能性があるからあそこまで化け物じみた攻撃ができるのかもしれねえぜー﹂
祖の中にポケモンが混じってる
?
136
﹃ピカ﹄
﹁はっはっは。君に言われたくないなー⋮歩く伏魔殿とかおもしれーあだ名付けられた
サトシくんに、黄色い悪魔と言われたピカチュウ﹂
﹃ピィィ﹄
どうせこの男は記事を書くまでの間その研究を止めようと動いてはいなかったのだ
ろう。記事を書いてようやく警察が動いたと言うことは、こいつしか知りえなかった情
報⋮それを、被害にあったポケモン達のために動かず助けず⋮ただ、記事を書いただけ。
人やポケモンの命なんてどうでもいい、ただのネタの対象だと思っているこの男をサ
トシは好きになれなかった。もちろんピカチュウもだ。どんなに記事を書いて救われ
た命があったとしても、こいつが善意で動いたわけじゃないことをサトシは知ってい
る。ネタだけのためにポケモンが酷い目に遭ったとしても助けに行かないこいつの無
情さをピカチュウは知っている。
ピカチュウが頬に電気をバチバチとため込んでいる様子を見て、男は笑いながらもボ
君がインタビューに応じないのはいつものことだし、こっちで好き勝手に書か
イスレコーダーの音声を切る。そしてそれをポケットにしまいこみ口を開いた。
﹁まっ
!
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手がいる
137
せてもらうぜー
かける程度に﹂
ロケット団から敵意を買わない程度に⋮サトシくんに若干の迷惑を
?
﹁は
﹂
﹂
﹁はっはー。俺のことよく分かってんじゃん
?
﹂
でもまー今はそれだけだな。君がホウエ
ン地方から帰ってきたときが楽しみだぜ。そん時は話ぐらい聞かせろよー
!
?
﹁⋮それだけか
きつい。だからここでお別れってことだ。まっ頑張ってやってくれよ﹂
場だし君の後ろを追って行くことはできたけど⋮さすがにホウエン地方まで行くのは
﹁俺はカントー地方を中心に書くフリーライター。ジョウトやオレンジ諸島までなら近
方にも乗り込んできそうだと思っていたのだが⋮。
珍しいと思う。あんなにも執着しまくっていた男ならば取材するためにホウエン地
?
?
﹃ピィカ
﹄
てだけのことだぜー﹂
﹁おお怖い怖い。とにかく俺が来たのはここで一時的にお別れするから挨拶しに来たっ
﹁全然若干なんかじゃねえんだよぶっ殺すぞ﹂
138
﹃ピィィ
﹄
﹄
フリーライターに注意しろ﹄って言っておこう﹂
﹁ホウエン地方に着いたら博士たちに連絡しようぜ。できればフシギダネに﹃あの変人
﹃ピィカ
﹁⋮ピカチュウ﹂
逃げ足だけは早く、即座にフェードアウトした男とピィに再び深いため息をついた。
!!
?
﹄
!
マサラタウンに可愛い弟を持つ、ただの雑誌記者である。
ちなみにそんなサトシをネタにし追いかけていたフリーライターの名前はゴールド。
少々気分を損ねながらも、サトシとピカチュウはカントー地方を後にした。
﹃ピィカッチュ
﹁ああ。あの野郎ヒナの前に現れやがったらただじゃ済まさねえってかぶっ潰す﹂
﹃ピカピカ﹄
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手がいる
139
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お前何でヒトカゲ持ってんだよ
﹂
!!!?
﹁おいヒナ
﹂
﹁ふぇ
﹄
﹃カゲ
?
?
うか幼馴染であり以前野生のポケモンが怖いのだと教えてくれた元凶でもある。
幼児はヒトカゲを観察し、ぷるぷる肩を震えさせながら口を大きく開いた。
!!
んてなんもポケモン貰ってねーってのに⋮研究所の中にも行ったことないっていうの
﹁しかも色違いのヒトカゲ⋮お前やっぱり博士に特別扱いされてもらったんだろ
俺な
る幼児がヒナを見て怒鳴ってきたのだ。その幼児をヒナはちゃんと知っていた。とい
だかったのは、ヒナと同い年の幼児。ぶかぶかの帽子をつけ、ゴーグルを首にかけてい
母に頼まれ研究所までクッキーを届けに行こうとしたヒナとヒトカゲの前に立ちは
!!
140
﹂
一応言っておくけどね。私のヒトカゲは卵から生まれたんだよ
そ
それに
?
に
﹁えっと⋮ヒビキ
れに研究所の中にも⋮博士かケンジさんが一緒なら中に入れてくれるでしょ
?
よ
ふざけんな馬鹿
!!
ヒビキは何故か勝ち誇ったような顔で嘲笑した。
色違いでも大したことねーのな
﹂
!!
﹁何だよそのヒトカゲ。全然弱っちーじゃねーか
﹄
ないからね
﹃カゲ⋮
!
﹂
!!!!
﹁むっ⋮私のことは馬鹿にしても構わないけど、ヒトカゲのことを馬鹿にするのは許さ
!
ヒトカゲはずっと怒鳴っているヒビキが怖いのかヒナの後ろに隠れる。それを見て
﹂
﹁誰もお前のように自由に研究所に行けるわけじゃねーし卵だって俺は貰ってねーんだ
⋮﹂
ポケモンだって私と同い年の子が親からたまごを貰って孵すのも珍しくないことだし
?
!!!
!!
﹃カ⋮カゲ⋮﹄
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手がいる
141
﹁なっ⋮﹂
唖然としたヒビキに、ヒナは鼻を鳴らす。そしてヒトカゲは目をうるうるとさせなが
らもヒナに嬉しいと抱きついた。
ヒトカゲを娘のように扱っているヒナだからこそ、ヒビキが心ない言葉で言ったとし
ても許せなかった。ヒトカゲの暴言はヒナにとって地雷となっていたのだ。
ちなみに言っておこう。
ヒビキはこう見えてヒナのことをちょっとだけ気にしていた。いろんな意味でポケ
モンに恵まれていて、かつオーキド博士とは親戚も同然の付き合いをしている家族。そ
し て あ の 兄 で あ る サ ト シ は マ サ ラ タ ウ ン の 一 番 の 出 世 頭 と も 言 わ れ て い る ほ ど 強 い。
そんなヒナのことをヒビキはいろんな感情をごちゃまぜにして睨みつけていた。恋情
憧れやきもちその他││││だが一番に感じていたのは、嫉妬であった。憎しみも込め
た嫉妬。どんなに憧れていても届かない環境を、彼女はすべて持っている。それをヒビ
キは嫉妬していた。憎んでもいた。
⋮お前なんて大っ嫌いだばーーっか
﹂
﹂
!!!!!
ヒトカゲに謝ればかやろー
!!!
﹁っ∼∼
﹁うるさーい
!!
!
142
第九話 兄妹にはそれぞれ面倒な相手がいる
143
ヒビキが負け犬の遠吠えみたくどこかへ走り去っていく背中に向かって、ヒナが怒鳴
り返す。マサラタウンにとってこんなの些細な喧嘩だ。だがヒナ達にとってはいつも
のこととなる始まりの合図でもあった。
今までは││││ヒビキが怒鳴れば、ヒナはどうでもいいとばかりにスルーする。嫌
がらせのごとく突撃してくるヒビキに対してヒナはちょっぴり面倒な相手だと思って
いたが、自分自身が恵まれていることにも気づいていたからこそ、嫌われているのは当
然だと考えヒビキの薄暗い感情を受け入れていた。
だがそこにヒトカゲが加わったからこそ、ヒナも怒鳴り返すようになった。ヒビキに
とって、いつも反応を返してくれなかった彼女が⋮ようやくこちらを見てくれたのと同
じことだったのだ。
ちょっといいっすかね
﹂
第十話 兄の異様さを知るために
﹄
﹂
﹁はーいそこのお兄さん
﹃ピィッ
﹁なっ⋮急になんだ
﹁フリーライター⋮
﹃ピッ﹄
﹂
﹁ああ俺こう見えてもカントー地方で活躍してるフリーライターなんですよー
!
ものの無視をせず青年の話に耳を傾ける。
﹂
を見つめ、笑いかける。肩に乗っている可愛らしいピィがいるせいか、戸惑いはあった
少年は警戒したかのように立ち止まったが、話しかけた青年は敵意のない顔でこちら
?
!
?
!
!
144
﹁⋮そのフリーライターが俺に何の用だ﹂
﹂
その英雄としての話をたーっくさん記事に書き
なっ
?
雄だってネタは上がってるんだぜー
﹁またまたぁ∼。君がシオンタウンでのポケモン強奪事件を解決したヒーローであり英
﹄
たいからちぃっとばかし付き合ってくれよ
﹃ピィィ
!
?
は⋮少々声をどもらせつつも話始める。
出し男の前に突き出す。そのボイスレコーダーに録音されているのだと意識した少年
頷いた少年の仕草を見て、青年はポケットにしまってあったボイスレコーダーを取り
表面上はそっけなく⋮でも、英雄と言われて嫌な気持ちはしない為快く受け入れた。
﹁⋮⋮そ、そう言うなら良いけど﹂
?
いぜ
﹂
だから謙遜なんてしなくてもいい
当然のことだと思っ
その当然のことをやる人間っていうのは今の時代ほとんどいな
絶滅危惧種ってやつ
?
!
!
て実際に行動するのは凄いことだ
!
?
﹁んなわけねーっすよ
﹁まあでも⋮⋮インタビューって言っても⋮ポケモンを助けるのは当然の事だろ﹂
第十話 兄の異様さを知るために
145
﹂
﹁へへっ⋮ま、まあ俺は将来ポケモンレンジャーとかになりたいって思ってるし
﹂
﹂
じゃあもともとヒーローとしての素質は十分にあるってことっすね
ためにも助け合うっていうのは当たり前だし
﹁おおー
﹁まあな。⋮なあ、本当にこれ記事になるのか
その
?
﹄
!
﹂
?
!
人になりたいわけじゃない。ヒーローになるのはちょっとだけ憧れるけど⋮それでも、
という思いは充分あったため、多少の後悔は飲み込もうと思っていたのだ。自分は有名
ないと少年は思っていた。だが将来ポケモンレンジャーになるために助けてよかった
残っていたならば⋮夢であったポケモンレンジャーへの道が大きく開かれたかもしれ
ヒ ー ロ ー と し て 有 名 人 に な れ た わ け で は な い。も し も あ の 時 普 通 に シ オ ン タ ウ ン に
跡 だ っ た。だ が あ の 時 は 格 好 つ け て シ オ ン タ ウ ン か ら す ぐ 出 て い っ て し ま っ た た め、
シオンタウンで偶然あったポケモン強奪事件で一躍ヒーローになれたのは本当に奇
煽てられた青年の声に釣られて、少年も饒舌になる。
﹁へへっ⋮そうか⋮﹂
﹃ピッ
のヒーロー﹄ってね
﹁心配しなくてもちゃーんと記事にしますから ﹃凶悪強盗犯を捕まえたシオンタウン
!
?
?
!
146
一番なりたいのはポケモンレンジャーなのだ。
だ か ら こ の イ ン タ ビ ュ ー は 降 っ て 湧 い た 奇 跡。も し か し た ら こ れ で ポ ケ モ ン レ ン
ジャーへの道が開かれるかもしれない。
やはり夢の為ならば多少の近道ぐらいはしても構わないだろうと少年は思っていた。
﹂
記事に載ることで何かが変わるかもしれないと少年は考えていた。
﹁ポケモンを強奪してる悪党さんたちにどうやって遭遇したんだ
!
咄嗟に身体が動いたんだ﹂
﹂
後から
﹁そりゃあたまたまというか⋮偶然というか⋮ボールを奪おうとしてる男たちがいて⋮
?
じゃあ咄嗟にってことはその時は怖くなかったってことなんだな
怖いって思ったりしたか
!
正義感っていうのかな⋮そう言うのがあった。ま、まあ俺の
?
﹂
!
度胸も正義感も十分あるってことなんだ
!
﹁へへっ⋮まあな。そういう事件を解決するのはジュンサーさんの役目かもしれないけ
なー
﹁おおーさすがは未来のポケモンレンジャー
将来の夢はポケモンレンジャーだからな⋮そういうのが当然っていうか⋮﹂
だっていう使命感⋮うん
﹁い や 全 然 ⋮ そ ん な 気 持 ち は こ れ っ ぽ っ ち も な か っ た。と い う か 早 く 助 け な い と 駄 目
?
﹁へぇぇー
第十話 兄の異様さを知るために
147
ど⋮ポケモンレンジャーだって困ったポケモンたちを助けるのが役目だ。だから今度
そんな英雄の君ならこの先にある
またそういうのに遭遇しても絶対に助けてやるって思うな﹂
﹁まさにヒーローってことだ。すっげぇ格好良いぜ
﹂
﹂
﹂
ヒーローなのに⋮
があるってこと知ってるよな
﹁え
﹁あれ、知らないのかー
?
なんだっけ。えっと確かタマムシシティの森の北東にある大きな工場施設で
?
﹂
?
ってことに
!
﹁だろー
それこそ君みたいな正義感の強いヒーローが悪党を全員捕まえてくれるなら
﹁それは⋮早く解決しないとヤバいな﹂
ならないらしいぜー。たーっくさんのポケモンたちが売買されてるっていうのにな﹂
る位置が微妙に悪くってなー。なかなかその現場に踏み込んで全員逮捕
﹁警察ってかそのジュンサーさん達でさえ情報を知っちゃーいるんだけどさ。工場があ
﹁⋮お、おう﹂
ないわけないよな
ポケモンたちが売られてるって噂になってたよなー。そんな噂をヒーローさんが知ら
﹁だろー
﹁い、いや⋮ちゃんと知ってる
?
?
?
!
﹂
タマムシシティでちょーっとしたポケモンの売買が行われているブラックマーケット
!!
148
?
良かったのに﹂
﹃ピィ﹄
﹁あ⋮ああ。そうだな⋮﹂
﹁まあそれはいいとして、次のインタビューだけどよ│││││﹂
良い記事を書かせてもらうぜー﹂
﹃ピィ﹄と青年たちが離れていった後でも考
少年は青年が質問する話を答えつつ、考えていた。それはインタビューが終わり、
﹁あ
りがとな
将来ポケモンレンジャーとして活躍する自分自身の為にも、行動に移した方がいい。
せるんじゃ⋮。
なら⋮それこそ、俺の出番なのではないのだろうか。また、夢のための第一歩を踏み出
が傷つき泣いているのなら⋮ジュンサーさん等警察の人たちが踏み込めないと言うの
自分のようなヒーローがこのタマムシシティには必要なのだろうか。ポケモンたち
えていた。
!
﹁森の中にある北東⋮その中の工場⋮⋮⋮へへっ。こういう時こそヒーロー参上ってね
第十話 兄の異様さを知るために
149
﹂
・・・・・・・・・・・・・・・
少年は意気揚々とその森の中へ目指して歩き始めていった。
!!
かしいとすぐに気付いたはずだ。
きている事件についての情報を少年の目の前で喋ったのかについて考えれば、何かがお
軽く考えればわかることだ。なぜゴールドがわざとらしくこのタマムシシティで起
年の様子を見て嘲笑しながら建物の裏路地から出てきたのだ。
少年が森の中へ目指すために走り去っていった後。青年│││││否、ゴールドが少
﹃ピィ﹄
﹁馬鹿だろあいつ﹂
150
だがあの少年は自らの夢の為だとか正義感の為だとかで森の奥深くへ行ってしまっ
た。ヒーローとしての優越感をシオンタウンで知ってしまった時から、危険な行動をし
てでもポケモンを助ければ人々から拍手喝采を受けることができる。有名人になれる
かもしれないという甘い蜜を知ってしまったために起きた悲劇。
このネタを掴んだ時に│││どうせこの少年はポケモンレンジャーとしての夢を叶
えるという欲望を持ってシオンタウンでポケモンたちを助けたんだろうとゴールドは
予想していた。そしてそれは当たっていた。
恐ろしく馬鹿でヒロイズム精神があって扱いやすくてうざい奴。それが少年に対す
る評価だった。
正 義 感 と 実 力 が 同 等 に 高 い の な ら ば ゴ ー ル ド 自 身 も こ こ ま で 馬 鹿 に す る こ と は な
かったというのに⋮。
﹃ピィッ
﹄
が書ける。あの男は死ぬと思うけど﹂
﹁まあこれでネタは大きく広がったと考えれば安いもんか。金は稼げるし記事も良いの
第十話 兄の異様さを知るために
151
!
ピィはゴールドの頬にすり寄り、彼もすり寄ってきた頭を撫でた。一見すれば微笑ま
しい行動だが、その中身は恐ろしく違う。
とを考える高い正義感とその実力で悪党全てを叩き潰す圧倒的な力。それこそが純粋
そして、何かしらの目標のために動こうとする偽善ではなく、ちゃんとポケモンのこ
サトシと少年の違いは、自分自身の実力をちゃんと知っているという点にあった。
う。
うに森へ行き││││少年とは違って、ちゃんとその悪党どもを叩き潰しに行くのだろ
情報を吐かされるのだろう。そして先ほど出て行ったヒーロー気取りの少年と同じよ
サトシならばこの話を聞いて真っ先に嫌そうに顔をひそめ、ピカチュウの電撃込みで
﹃ピィィ﹄
たはずなんだけどなー﹂
﹁あーあー⋮あのシオンタウンの英雄がサトシだったらぜってー俺の意図に気づいてい
152
なマサラ人としてのサトシの生き様なのだろうとゴールドは考える。
﹄
マサラタウンははじまりの町。まっさらだからマサ
﹁マサラ人には何かある⋮っていうのは確実なんだけどなー⋮﹂
﹃ピィ
﹁ほらピィ、聞いたことはないか
ラタウンなんだぜ﹂
だってすぐに身に着ける。そのせいで死亡率というのは圧倒的に多かったが⋮。
登ることも木々に飛び移ることもマサラ人は子供のうちに覚えていく。川で泳ぐこと
自然と一体化したマサラタウンは、ポケモンも人間も自由奔放に暮らしている。山を
│││││マサラタウンはその比ではない。
きていた。まあ多少の自然は残されたまま道が整地されている場所もあるにはあるが
ニビシティやハナダシティなどといった普通の町はちゃんと森と町が分けられてで
カントー地方を旅していて本当に思う。マサラタウンは異常だと。
?
?
﹃ピィィ﹄
第十話 兄の異様さを知るために
153
火事場の馬鹿力を使えば同等になるかもしれないがそれは一時的のこと。そんな火
ポケモンの力は人間よりも強い。
きるわけねーし﹂
﹁ありゃー絶対に何かあるぜ。じゃなけりゃあポケモンと拳ひとつで殴り合いなんてで
││││││だが、そんな時に生まれたのがサトシだった。
ケモンとの距離が離れたように見えた。
からいる純粋なマサラ人というのは減ってきていた。オーキド研究所が出来てから、ポ
調べてみて分かったが⋮そんな異様なマサラタウンにも、余所者が増えたせいで大昔
が離れているのかと。
から思うのだ。マサラ人以外の町の人たちというのは⋮こんなにもポケモンとの距離
野生の怖さもポケモンの大切さもマサラタウンで全て教えられる。だから町に出て
﹁圧倒的に⋮マサラの方が馬鹿みてーにポケモンと近い﹂
154
事場の馬鹿力以上の力を振るってポケモンたちを圧倒するサトシは本当に異様だ。そ
してまるで何かに導かれているかのように、様々な事件に巡り合う。
おそらく彼はホウエン地方でも様々な事件と巡り合うことになるのだろう。
何故サトシがそんな運命を背負って生まれたのか。マサラタウンと他の町の差は何
なのか。それをゴールドは知りたいと思っていた。マサラタウンの真実を知り、記事と
して書くのがゴールドの夢であったのだ。
今はあのヒーロー気取りの馬鹿がやらかす場面を目撃して⋮追悼記事とし
!
てネタを拾いにいかなきゃなー﹂
﹁⋮⋮まっ
﹄
!
﹄
!
少しだけ面白くなさそうな顔で、ゴールドとピィはその場を後にした。
﹃ピィッ
﹁いいかピィ。誰かに出会ったら速攻で歌うんだぞ﹂
﹃ピィ
第十話 兄の異様さを知るために
155
﹄
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
カゲ⋮
﹄
﹃フリーフリー﹄
﹃フリィ
﹃カゲカゲ
!
﹁う、うん⋮﹂
!
どうやら野生に慣れるようにしていきたいという私の考えを読み取ってくれたのか、
ラッタの後ろには数匹の赤ちゃんなコラッタ達がちらほらいた。
ポケモンに慣れようと考え今現在私の目の前には一匹のラッタがいる。ついでにその
フリーとそのお嫁さんであるピンクのバタフリー。そして私のヒトカゲと共に野生の
オーキド研究所の森の中。今回の私たちの保護者役である兄の手持ちであったバタ
!
156
コラッタやポッポといった小さなポケモンたちを触れるようになった私に対し、大きな
野生ポケモンで挑めるよう彼らが連れて来たみたいだった。
最初は﹃よぉ。なんか嬢ちゃんも苦労してるみたいだな。俺らが協力してやるよ﹄っ
﹄とばかりにラッタ
て感じでラッタが10匹ぐらいいたせいで悲鳴を上げてしまったが、それを見たお嫁さ
んのバタフリーが﹃全員で来るなんて馬鹿でしょ。一体で充分よ
私達より遠くの方で見守っているラッタ達もいる。
全員にサイコキネシスをお見舞いしていた。だから今ここにはラッタが一体だけいる。
!
野生のポケモンたちをむやみやたらと怖がらないよう、ゆっくりと深呼吸をする。
た愛情を、私はちゃんと返せるようになりたい。
くれるとても優しいポケモンだってたくさんいるんだ。そんなポケモンたちから貰っ
だから、私は理不尽に襲ってくるポケモンたちが怖い。でも、中には人と馴れ合って
き物であり、同時に頭が良い生き物でもあるのだから。
私は野生ポケモンが怖い。それは今も変わらない。ポケモンというのは恐ろしい生
﹁大丈夫⋮大丈夫⋮﹂
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
157
﹃ラタッ﹄
﹄
﹁うん⋮さ、触るよ。優しく触るから⋮﹂
﹃ラタラタッ
寄ってきた。
したらフシギダネが怖いから落ち着こう⋮ね
﹄とお嫁さんを落ち着かせるようにすり
習ったソーラービーム放つから大丈夫よ﹄と慰め、兄のバタフリーが﹃あまり大騒動に
かって感じで怖いと思えたけれど⋮でも、お嫁さんが﹃何かあったらフシギダネから
上げていたが、怖いとは感じない。まあその鋭そうな出っ歯に噛みつかれるんじゃない
ラッタは何も言わずにそのままじっとしてくれていた。返事をするように鳴き声を
!
と駄目だ。私はヒトカゲのお母さんなんだから。
大丈夫。お兄ちゃんのポケモンもいるし⋮何よりヒトカゲにいいところを見せない
なくなった時よりマシ。
ポの大群に近寄られたときよりマシ。キャタピーやコラッタがのしかかって息が出来
だから、心臓はバクバク言っているけれどあまり恐怖は感じられない。小さい頃ポッ
?
158
﹃カゲ
﹃ラタ
﹄
﹄
﹁うん⋮行くよ⋮
﹂
数秒か数分か││││時間を忘れるほどに私は息を呑んだ。
れてゆっくりと。
少しずつ距離を短くしていき、たまに立ち止まって深呼吸。冷や汗を流し、瞬きを忘
ふるふる震えている手をゆっくりと伸ばしていく。
!!
! !!
﹃カゲェェ
﹄
﹄
のバタフリーがクルクルと回転しながら大はしゃぎし、そしてお嫁さんのバタフリーが
気が付けばラッタの頭を撫でていた。ヒトカゲがそれを見て飛び上がるほど歓び、兄
﹃⋮フリィ﹄
﹃フリィ
!!!
!!!!
﹁⋮⋮ふさふさだ﹂
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
159
そっと息を吐いた。
﹄
﹃ねえ撫でてよー
﹄と笑いかけてく
撫 で て い る ラ ッ タ は 気 持 ち が い い の か 目 を 細 め て も っ と も っ と と さ ら に 手 に す り
寄ってくる。コラッタ達が近づいて﹃こっちも
!
ラッタに対する恐怖心もどこかに消えてなくなった。
これなら⋮と、私はポケットの中にあったものを取り出す。
﹂
?
﹃ミュゥゥ
﹄
⋮で
る。その笑みに応えることができた。少しづつだけど、野生のポケモンと交流できる。
!
﹁よしよし⋮ブラッシング用の櫛をお母さんから貰って来たから⋮順番に並んで
きれば最初はヒトカゲで良いかな
﹄
﹄
﹃カゲカゲ
﹃ラタッ
﹄
﹄
﹄
﹃キュゥゥゥゥ
﹃ああ良いぞ﹄
﹃フリィィ
﹃コラッタッ
!
﹃何だ、ぶらっしんぐとやらをしてくれるのか⋮優れたる操り人の妹よ﹄
!!!
!
!
!!
?
!
160
﹁ねえ待ってなんか増えてる﹂
ちが黙っちゃいないってことも分かってるみたいだから平気平気。でもブラッシング
まあとにかく、人の言葉を話す伝説もいるし、ここで私を攻撃したならバタフリーた
み出てるけど⋮。
ムを食らってるけどそっちは呆れるだけで特に恐怖心なんてない。残念オーラなら滲
は兄たちに好意的だし大丈夫⋮ミュウツーは好戦的でよくフシギダネのソーラービー
は何時攻撃してくるのか分からないってところだから⋮。それにミュウたちに関して
撃はしてこないだろうって気持ちの方が強いんだけどね。野生ポケモンの怖いところ
一応伝説だけど野生ポケモンだし⋮無駄に野生ポケモンより頭良いから理不尽な攻
⋮まあブラッシングはするけど。
うか暇なの伝説ポケモン。
│何故かまたその背後にミュウツー、ラティアス、ルギア、ミュウが並んでいた。とい
並び、その後ろにラッタ10体が並んでいる。それぐらいなら大丈夫だけれど││││
お嫁さんのバタフリーと共に小さくため息をついた。ヒトカゲの後ろにコラッタが
﹃フリィ⋮﹄
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
161
にも限度ってもんがある。
男女平等を宣言する
なってるから絶対するけど﹂
﹄
﹄
!!
﹃キュゥゥッ
﹃貴様⋮ポケモン差別反対
よ﹂
﹃ミュッミュッミュッ
﹄
!!
﹃ええい笑うなァァァァァァ
﹄
!!!!!!!
うでもいいけど⋮でもそんな残念な感じだからいっつもミュウに馬鹿にされてるんだ
?
!
!
﹁何に対して宣言してるのミュウツーというかミュウツーって性別男だったの
まあど
﹁ミュウツーはなんかやだ。ラティアスには普段木の実とかボール遊びとかでお世話に
﹃おいヒナ。俺は大丈夫だろう﹄
﹁うんごめんね⋮﹂
妹よ、お主が難しいと言うのならば私は諦めよう﹄
﹃ふむっ⋮⋮ぶらっしんぐとは身体を撫でる行為かと思ったのだが⋮優れたる操り人の
﹁ルギアぁ。あなたの身体は大きすぎるからブラッシングは難しいよ⋮﹂
162
ミュウとミュウツーがバトルし始めたせいで怖い思いしたけど、ルギアがさりげなく
私たちの横に寝転んでくれたため余波などは感じられるゆっくりとヒトカゲたちのブ
ラッシングに集中することができた。
﹃ほぉ⋮それがぶらっしんぐか⋮﹄
﹂
﹄
﹂
﹁う ん。⋮ 今 日 は こ の 後 お 母 さ ん と 出 か け な く ち ゃ い け な い ん だ け ど さ。ま た 時 間 が
たっぷりあるときにルギアにもブラッシングしても⋮いいかな
﹁うん
﹄
﹃ラタァ﹄
﹃フリィィ
﹃そうか。それは楽しみだ﹄
﹁ヒトカゲも手伝ってくれるって
﹃カゲッ
!
?
ない﹄
﹃安心しろお主らには頼まん。そもそもやる気ない奴らにぶらっしんぐされるつもりは
!!
!
﹃キュゥゥ﹄
?
﹂
﹃ああ。もちろんだ優れたる操り人の妹よ﹄
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
163
﹄っ て 感 じ で お 嫁 さ ん の バ タ フ リ ー が ミ ュ ウ ツ ー に 向 か っ て
﹁バタフリー達が何言ってるのか大体想像ついたよ⋮あ、爆発した﹂
﹃カゲ﹄
﹃い い 加 減 に し な さ い
﹄
﹃キュゥゥ
﹃カゲ
?
・・・・・・・・・・・
とりあえず、ヒトカゲに常識を覚えさせないとなんだよね⋮。
﹁⋮⋮ううん。なんでもない﹂
?
﹄
ないよね。お兄ちゃんに毒され過ぎな気がしてきたしヤバいな⋮。
なんか今更ながら思うけどこういう爆発とか伝説とかに会うのって本当に普通じゃ
ソーラービームを放ったのが見えた。
!
164
ほんっとばーっか
﹂
!!!!
﹁というわけで来ました﹂
﹁いやどういうわけで来たんだよ馬鹿
しょ
﹂
の非常識
﹂
﹁俺が凡人だと言いたいのかお前はっ
﹄
﹁な、何だよっ⋮﹂
あーっもう
ヒビキなら知ってるで
そうだよ俺は凡人だよこのマサラ
!
!
とだから﹂
﹃⋮⋮カゲカゲ
﹄
お前ほんっっと馬鹿
!!!! ?
﹂
うーんこの様子だとやっぱり頼らない方が良かったのだろうかと思えてくる。私の
﹁っ∼∼あーっ
!!!!!!
﹁ああごめんヒビキ⋮あとヒトカゲ気にしないで。というか私が非常識なのは本当のこ
!
!?
﹃カゲェ⋮
!! !!
!!
﹁はいはい私が馬鹿なのは認めるからマサラの常識を教えてよ
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
165
言い方も悪かったし迷惑⋮だよね
丈夫⋮なんだと思うけど。
﹁⋮ってか何で俺なんだよ。他にも頼れるやついるだろ
﹂
ヒビキの様子を見て諦めて帰ろうとしたらバカバカ言いながら引き止めてきたから大
彼は悶絶し顔を赤くしながら﹁馬鹿﹂しか言わない。強引過ぎたか迷惑だったか⋮でも
そもそも家に乗り込んでヒビキの部屋に来たこと自体初めてだと言うのに何故だか
?
﹂
!
そんな今となっては笑える話を他所の大人たちは兄が出るリーグをテレビで見なが
んじゃないかとシゲルさんに疑問に思われたこともあったらしいけど。
た。ポッポを素手でぶん殴ったのが確か五歳ぐらいの時か⋮。その頃からポケモンな
兄は子供のころからやんちゃ過ぎていろいろと大人たちに手を焼かせる問題児だっ
やっぱりお兄ちゃんのこともあるし⋮﹂
﹁ヒ ビ キ み た い に 私 が 真 っ 向 か ら 話 し か け て そ れ に 応 え て く れ る 人 な ん て い な い よ。
﹁他の子供はどうした
から論外。もちろんうちのお母さんも﹂
﹁オーキド博士やケンジさんは⋮まあケンジさんは苦労人だけどお兄ちゃんに毒される
!!
166
ら子供に話した。そしてリーグ成績のこともあり兄は有名になって│││私が嫉妬の
目に晒された。まあそれはいい。全然気にしてはいない。喧嘩を売ってくる男の子は
ヒビキ以外にもいるけど⋮それはちょっとだけうっとおしいと思えるだけで済んでる
し、私が話したら答えてくれるのはヒビキだけであったからこっちに来た。
別 に 友 達 い な く て も 構 わ な い。私 に は ヒ ト カ ゲ い る し お 兄 ち ゃ ん の フ シ ギ ダ ネ 達
だっているし。
﹂
そう話すと、途端に静かになるヒビキが⋮金色の瞳を瞬かせながら気の毒そうに口を
開いた。
﹄
﹁何か言われるとムカつく。ヒトカゲ小さくたいあたり﹂
﹃カゲッ
﹁ボッチなのは本当の事だろいだだだおいヒトカゲ地味に足に乗ってるやめろっ
!
なんというか⋮泣き虫だったヒトカゲがここまで成長しているとなるといろんな意
をどかそうとヒビキが頑張って押し退けている様子が見えた。
ヒトカゲがヒビキの腹に突撃し、足の小指を中心に踏みつけている。そんなヒトカゲ
!!!!
﹁そうか⋮お前ボッチなんだな⋮﹂
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
167
味で感慨深いものだ。見事にフシギダネ達に影響を受けているようでちょっとだけ泣
きたくなった。お母さんに家にばかりいるんじゃないと研究所の森の中にいることが
増えたしお兄ちゃんのポケモンたちと交流することも多くなったから仕方ないよね⋮。
ヒビキ達が騒いでいる間、ちょっとだけ部屋の周りを見る。壁にはリーグ戦で優勝し
た時に持たされたトロフィーを手に微笑んでいる兄のポスターがあって、最近町の人た
ちが面白そうにフシギダネ畑とか言って兄のフシギダネを中心に撮ったフシギダネ集
さっさと終わらせて
合写真とかが貼ってある。ポスターも写真も全部お兄ちゃん関連のものばっかだ。あ、
﹂
お兄ちゃんが載ってる雑誌とかもコンプリートしてる。
﹁⋮⋮ヒビキってお兄ちゃんのファンだったの
﹂
﹁うるせえもういいお前が言うマサラの常識について話してやる
さっさと出ていけ
むやみにトキワの森の中に入るな
凶暴なポケモンが襲ってくるから
!
﹁ま ず そ の 一
﹂
!
!
指を指して大きな口で言うヒビキに、私とヒトカゲは並んで正座し直す。
!!
!!
?
168
﹁保護者ポケモンと一緒なら入っていいんだよね。あとポケモンたちも私たちが怒らせ
﹂
好意
たら襲ってくるって意味なんだよね。理不尽に攻撃してくるポケモンはマサラタウン
俺聞いたことねーぞ
付近にはいないから大丈夫だって聞いたし⋮﹂
﹃カゲ﹄
﹂
﹄
﹁なんだよそれ
﹁へ
!!!
﹁まず保護者ポケモンじゃなくて人間と一緒にトキワの森の中ならオーケーだろ
!?
﹂
!
現れた瞬間にたいあた
!!
﹄
⋮⋮え、それってマサラタウンでも当たり前なの
﹃カゲカゲ
﹂
!
?
人に慣れたポケモンならともかく⋮
!!?
?
﹁当たり前に決まってんだろ
﹂
づくときはゲットする時であってポケモンを持ってない人間は近づいたら駄目だって
﹁⋮⋮⋮⋮う、うん。ニュースでよくそういう注意流れてるよね⋮野生のポケモンに近
りだってされる可能性があるから
るって博士が言ってたしうかつに近寄ることはできねーから
的なポケモンならいいけどこっちが無防備に近づいたらポケモンによっては警戒す
!?
?
?
﹃カゲカ
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
169
﹁⋮あー﹂
分かった。そういえば前にお兄ちゃんがマサラタウンのポケモンたちが私に手を出
し た ら フ シ ギ ダ ネ 達 が 許 さ な い っ て 分 か っ て る っ て こ と 言 っ て た よ う な 気 が す る。
ミュウツーたちも野生のポケモンがどうこう言ってたしこれはお兄ちゃんのせいか。
マサラの中央の森には凶暴なポケモンはいな
だからヒビキが引いたような顔をしてるのも全部お兄ちゃんのせいだ。
﹁大丈夫だよヒビキ。次お願い﹂
﹁⋮⋮嫌な予感がしてきたぞ。じゃあ次
﹂
!
﹄
?
﹃カゲカゲ
﹄
﹁気にしないで。私が分かれば大丈夫﹂
﹁おいヒトカゲ首傾けてんぞ﹂
﹃カゲェ⋮
﹁ああうん。それはちゃんとわかるよ﹂
と
いから子供たちだけでも入っていいけど一日二日野宿するなら先に親に言っておくこ
!
170
?
﹄
﹁後で教えてあげるからねヒトカゲ﹂
﹃カゲ
﹁⋮いやもうその時点でお前知らなかったってことじゃねえか馬鹿
か何か作って持ってくよ。
﹂
ヒビキがなんだかツッコミ疲れたような顔をしている。ごめんヒビキ後でクッキー
とぐらいなら分かってるからね。
ことならあるからね。その時にお母さんや博士にちゃんといわなきゃいけないってこ
失礼な。中央の森には入ったことないけど研究所の森でヒトカゲと一緒に泊まった
!!
!
﹄
﹁うんそれは完璧
﹃カゲカゲ
大丈夫
﹂
!
﹁え
鹿
﹂
歩するだけだからな
!!
でもお兄ちゃんがオーキド博士に預けてるポケモンたちと一緒なら大丈夫って感
? !!!
お前みたいに自由に森の中を歩けるわけじゃねーンだよこの馬
﹁お前な⋮ふっつーの子供なら博士に頼んでも施設案内みたく博士と一緒に森の中を散
!
!
﹁⋮じゃあ最後。研究所の森で遊びたいときはオーキド博士にちゃんと言う﹂
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
171
﹂
﹂
﹂
普通のトレーナーなら博士に
じで⋮同じく兄弟がいる人でお兄さんかお姉さんのポケモンを博士に預けてたならそ
﹄
のポケモンに頼んで森の中を探検とかできるよね
﹃カゲカゲ
そうなの
﹄
!!!
?
﹁サトシさんと他のトレーナーを一緒にすんじゃねーよ
﹁えっ
﹃カゲカ
!!?
なことできるわけねーだろ普通のトレーナーとサトシさんを一緒にすんな
﹂
そういえばよく一緒にいるのって草タイプばっか⋮いや、研究所まではフシギ
?
代ってことはよくあったような⋮。
ダネと一緒で、その後やってきた離脱ポケモンなバタフリーとかピジョットとかと交
⋮あれ
ンジさんだって﹁じゃあ頼んだよベイリーフ﹂って感じで手を振ってくれたぐらいだし
だって博士も当たり前みたいに﹁頼んだぞフシギダネ﹂とか見送ってくれてたし、ケ
ノンブレスで叫ばれた言葉に絶句した。それこそ始めて知った事実だった。
!!!!!
ンについてもらって野生のポケモンに守られながら森の中を一緒に探検だなんて高度
﹁そりゃごく一部はボールの中から出してやってるトレーナーもいるけど普通にポケモ
!!?
!?
預ける時点でポケモンをボールに入れたままにしてるからなこの馬鹿野郎
!!!
?
172
目を白黒させている私とヒトカゲに対して、ヒビキが心底苛ついたかのように歯軋り
をして怒鳴ってきた。
﹂
!!!
うねヒビキ。私が心底非常識の空間にいるってことが理解できたよ。
あとヒビキに迷惑かけたからモモンケーキを作ってあげようと思う。本当ありがと
│││││とりあえず、常識をもっと見直そうと思う。
﹁だからお前むかつくんだよっ
第十一話 これは全部兄のせいだと思います。
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