調 査 速 報 タイ自動車市場月次統計(2015年5月)

調 査 速 報
浜銀総合研究所
調査部
産業調査室
2015.6.26
タイ自動車市場月次統計(2015年5月)
5月は大型モデルの新旧切り替えに伴う輸出減少で大幅減産:国内販売は反転増加
○トヨタ新型 IMV の輸出展開の規模とスピードが今後の注目点
・6月 23 日にタイ工業連盟(Federation of Thai Industries)が発表した 2015 年5月の四輪車
生産台数は前年同月比 8.8%減の 13.5 万台と3か月連続の前年割れとなり、季節調整済年
率算値(X-12-ARIMA にて当社試算、以下 SAAR)も前月比 9.3%減の 167.2 万台と、大き
く落ち込んだ。
(図表1)
。
・5月の大幅減産の背景には、トヨタ自動車が世界戦略車「IMV」のピックアップトラック
「ハイラックス」をフルモデルチェンジしたことがある。同モデルは5月 21 日にタイで
発売されたが、全世界に向けて輸出されていた旧モデルの生産は4月末に打ち切られた。
新モデルの当初の販売はタイ国内向けとなっており、全世界への輸出は今後、順次開始さ
れる予定である。従って、IMV の新旧モデルの切り替えに伴い、輸出が減少したことによっ
て、国内生産が一時的に大きく減少したことになる。
・実際、5月のタイの四輪車総輸出台数は前年同月比 6.2%減と7か月ぶりに前年同月を下
回った。SAAR も前月比 14.1%減の 110.2 万台と大きく減少した(図表2)
。
・一方、5月のタイの総販売台数は前年同月比 18.3%減と 25 か月連続で前年を割り込んだ
が、SAAR は前月比 5.5%増の 72.8 万台となり、新型 IMV の市場投入もあって、若干で
はあるが持ち直した(図表3)
。もっとも、農産物価格の低迷により農民の購買意欲が減
退していることと、自動車ローン審査の基準厳格化が国内販売の足かせとなっている状況
に変わりはなく、依然として予断の許さない市場環境であることには変わりはない。
・目先の注目点は、引き続き、トヨタ新型 IMV の輸出展開の規模とスピードとなる。輸出が
生産の下支えとなる状況が続くと予想するが、内需低迷が続く中、タイ国内生産のけん引
役である輸出が世界景気の悪化により下押しされるリスクもあり、要注意である。
図表1 5月の自動車生産台数(SAAR)は大幅に減少
タイ四輪車総生産台数
季調済、千台
前年同月比、%
200
3,000
15年5月SAAR 167.2万台
前月比▲9.3%
2,500
150
2,000
100
1,500
50
1,000
0
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
500
-50
-100
0
.
.
2010年
11
12
13
14
15
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
1
図表2 輸出台数の SAAR も大幅に減少
季調済、千台
前年同月比、%
タイ四輪車総輸出台数
1,600
80
15年5月SAAR 110.2万台
前月比▲14.1%
1,400
60
1,200
40
1,000
20
800
0
600
-20
400
-40
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
200
-60
0
.
.
-80
2010年
11
12
13
14
15
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
図表3 国内販売は反転増加したが予断を許さない状況が続く
季調済、千台
前年同月比、%
タイ四輪車総販売台数
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
2,000
120
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
1,800
100
1,600
80
15年5月SAAR 72.8万台
前月比+5.5%
1,400
60
1,200
40
1,000
20
800
0
600
-20
400
-40
200
-60
0
-80
.
.
2010年
11
12
13
14
15
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
2
○2015 年第1四半期輸出台数:豪亜に加え欧米向け輸出も拡大。乗用車の世界展開も後押し
・2015 年第1四半期の輸出台数の中身を見ると、タイ周辺国の豪亜地域向けに加え欧米向け
でも拡大しており、タイ生産車の世界拡販が進んでいる。また、車種別で見ると、ピック
アップトラックに加え、エコカーを中心にした乗用車の輸出が増えていることも注目され
る。タイの国内販売は低迷が続いているが、日系を中心とした自動車メーカー各社は、全
世界でタイ生産車を拡販することで、タイでの自動車生産の拡大を推進している。
・タイ工業連盟のホームページでは仕向地別の輸出台数の推移を確認することができない。
しかし、同連盟に加盟する現地部品企業 Somboon Advance Technology PCL.(SAT 社)が、
アナリスト・機関投資家向けに公表した決算説明資料には詳細数値が掲載されている(同
資料は同社のホームページにも掲載されている)
。図表4と5は同資料に掲載されている、
仕向地別輸出台数および車種別輸出台数の推移を示したものである。
・仕向地別輸出台数の 2014 年第1四半期からの推移を前年同期間比でみると、アジア市場
向けの四輪車輸出は、ASEAN 域内でのマクロ経済成長の鈍化を背景に 14 年第3四半期ま
で低調であったが、第4四半期からは回復基調に入っている。豪州向けの四輪車輸出は新
型モデルの積極拡販で 14 年第3四半期から拡大し、欧州向けの輸出も同四半期から増加
している。中南米及び北米他地域向けは、直近の 15 年第1四半期において大きく増加し
た。以上のように、タイ生産車両の輸出は、周辺国向けのみならず、欧米向けへと世界展
開が進んでいる。
・一方、車種別輸出台数の推移をみると、まず、ピックアップトラックの輸出台数が直近の
15 年第1四半期に大きく増加に転じたことが分かる。これは、いすゞ自動車の輸出が堅調
なことに加え、三菱自動車が新型車「トライトン」を市場投入したこと、日産自動車が
「NP300 ナバラ」の輸出仕向地を拡大させていること、などが背景にある。
・そして、最後に注目すべきは、乗用車の輸出が 15 年第1四半期に大きく拡大したことで
ある。中でも、エコカーの輸出台数の増加が著しい。ちなみに、タイにおける「エコカー」
の定義は、タイ政府の第1期エコカー政策において優遇税制が認められる、燃料1リッ
ター当たり 20.0km 以上の燃費性能を有し、二酸化炭素排出量が1km 走行当たり 120g 以下
(欧州 Euro 4 対応レベル)のガソリン車(排気量 1,300cc 以下)及びディーゼル車(排
気量 1,400cc 以下)となる。日系自動車メーカーが得意とするエコカーの世界展開が、従
来ピックアップトラックを中心としていた輸出の拡大を後押ししている。
・輸出台数の中期的な見通しとしては、
1ページで述べたトヨタ IMV の新旧切替えの影響が
15 年第2四半期(4∼6月)の下押し要因となる可能性がある。もっとも、15 年第3四
半期以降は、IMV の輸出仕向地の拡大や、その他ピックアップトラックのマイナーチェン
ジを含む新型車の投入、エコカーを中心とした乗用車の更なる輸出拡大を背景に、輸出は
堅調に拡大していくものと予想する。
3
図表4 豪亜に加えて欧米地域への輸出も拡大
千台
400
350
300
250
200
中近東
豪州
欧州
北米他
288
15
21
29
71
50
253
13
19
30
84
仕向地別輸出台数の推移
281
14
19
43
59
58
79
59
71
68
69
66
79
87
82
72
69
65
73
Q3
Q4
2014
Q1
Q2
Q3
Q4
2015
Q1
62
67
64
54
2013
Q1
Q2
289
17
328
15
12
39
292
8
17
22
34
307
18
20
44
68
150
100
アジア
中南米
アフリカ
269
13
13
21
28
279
11
13
23
34
54
60
70
14
30
27
39
74
75
0
出所:Somboon Advance Technology PCLのHP公表資料
図表5 ピックアップトラックに加えエコカーを中心に乗用車の輸出も拡大
千台
400
エコカー
車種別輸出台数の推移
乗用車(エコカー除く)
ピックアップトラック
350
300
250
200
288
38
59
328
307
253
28
40
73
292
281
37
37
63
61
55
269
30
279
36
289
75
64
59
48
65
56
150
100
189
170
2013
Q1
Q2
195
175
187
167
180
175
Q3
Q4
2014
Q1
Q2
Q3
Q4
213
50
0
2015
Q1
出所:Somboon Advance Technology PCL公表資料を基に浜銀総合研究所が作成
担当:調査部 産業調査室 深尾三四郎
TEL 045−225−2375
E-mail: [email protected]
本レポートの目的は情報の提供であり、売買の勧誘ではありません。本レポートに記載されている情報は、浜銀総合研究所・調査部が
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