浜銀総合研究所 調査部 2016年11月16日 調 査 速 報 メキシコ自動車市場月次統計(2016年10月) トランプ米大統領誕生でメキシコビジネスの投資拡大を正 当化するのは困難な状況に 主任研究員 深尾 三四郎 045−225−2375 [email protected] 要 約 トランプ米大統領誕生で通商政策の不透明感が高まったメキシコへの投資優先度は明らかに低下する 米国自動車市場の後退局面入りがメキシコビジネスへの投資拡大を軌道修正する正当性を高める 足元のメキシコ国内自動車生産台数のトレンドは下向き 1. メキシコ自動車産業への政治的圧力は不可抗力:自動車関連企業の投資拡大計画は要軌道修正 メキシコを名指しで批判したドナルド・トランプ氏が大統領に就任することは、同国での投資拡大や事 業進出を目論む日系自動車関連企業にとって明確にネガティブな材料であり、軌道修正が迫られよう。メ キシコ自動車産業の成長の大前提である NAFTA(北米自由貿易協定)と、日系企業が拠り所のひとつとし ている TPP(環太平洋連携協定)からの離脱を公約として掲げた候補者が米国民の多数の支持を得て大統 領に就任したからである。 なお、米国現地時間 11 月 10 日、民主党の主要支持基盤のひとつである UAW(全米自動車労組)のデニ ス・ウィリアムズ会長は米主要メディアに対し、 「NAFTA は再構築するか離脱すべき」 (同日付 Wall Street Journal)であり、 「TPP は死んだ」 (USA TODAY)とコメントした。このように、トランプ氏の保護主義政 策が与野党党員の間でコンセンサスとして形成されつつある点に要注意である。米自動車市場は後退局面 入りした可能性が高く(後述) 、業界全体が「守り」の姿勢に入る中、隣国メキシコの自動車生産が増え続 けることに対する風当たりが強くなるのは避けられない状況である。 トランプ新大統領の就任期限、そしてメキシコ自動車産業に対する政治的圧力が収まることのない 2020 年まで、世界自動車産業は「勝負の時期」を迎えることとなる。すなわち、電気自動車と自動運転車 を中心としたコネクテッドカーでの主導権争いが激化し、それに伴い関連企業においては、これら次世代 自動車ビジネスへの積極投資を迫られる正念場となる。かつてないスピードで業界環境が変化する中、自 動車関連企業では、有限の経営資源をどの領域に投下すべきかを熟慮する時間があまり残されていないの が現状だ。トランプ氏の保護主義政策の具体案が明確でない現状では、日系企業では静観スタンスをとる のが基本線となろうが、このような自動車業界の過渡期において、通商政策の具体的な方針転換が明らか になるまでの時間的コストは、それが例え半年であっても極めて大きいと言える。なお、NAFTA は、公約 通りトランプ氏が大統領就任後にメキシコとカナダに協定からの離脱を通達すると、6か月後に脱退が可 能となるので(NAFTA 第 2205 条項) 、その「悪夢」は差し迫ったリスクである。時間的制約がある中で、通 商政策の不透明感が一気に高まったメキシコへの投資優先度は明らかに低下しよう。米州にて生産増強を 図るのであれば、法人税減税の可能性がある米国内で行うか、メキシコであるとしても NAFTA 以外への輸 出を拡大する見通しが立てられるかがポイントとなろう。 2. メキシコ自動車生産台数のトレンドは下向き 足元の月次統計に話を移すと、メキシコ自動車工業会(Asociación Mexicana de la Industria Automotríz)が発表した 16 年 10 月の総生産台数は、前年同月比 0.5%増と5か月連続で前年超えし、季 節調整済年率換算値(当社試算、以下 SAAR)は前月比 8.7%増の 364 万台と増加したが、SAAR の3か月後方 移動平均値でみたトレンドは2か月連続で減少している(図表1) 。 10 月の総輸出台数は前年同月比 4.0%増と3か月連続の増加となり、SAAR も前月比 6.0%増の 290 万台 1 浜 銀 総 研 調 査 速 報 と増加したが、こちらも3か月後方移動平均値で見たトレンドには頭打ち感がある(図表2) 。 メキシコの主要輸出国である米国での新車販売の成長鈍化には引き続き要注意である。米国の 10 月の新 車販売台数(SAAR)は前月比 1.0%増の 1,803 万台(弊社試算)となった(図表3) 。10 月の販売は前月比 で2か月連続の増加となったが、一進一退の不安定な動きが続いている。大手メーカーが販売奨励金を積 み増しており、競争激化を背景に需要の脆弱性は強まっている。足元で米国新車市場がピークアウトした という自動車メーカーのマネジメントのコメントが増えてきており、ついに米国自動車市場が後退局面入 りした可能性が高い。米国新車市場の後退により、メキシコからの自動車輸出に対する下方圧力が今後更 に強まる可能性が高い。 メキシコの総販売台数も高水準を維持しているものの、頭打ち感がある。10 月の総販売台数は前年同月 比 14.6%増と 30 か月連続でプラスとなり、 SAAR も前月比 5.2%増の 173 万台と2か月連続で増加したが、 3 か月後方移動平均値でみたトレンドは横ばい推移となっている。 1∼10 月の総販売台数の平均 SAAR (158 万 台)は 15 年実績(135 万台)を上回っており、国内需要は今のところ堅調と言えるが、足元の販売減速が 今後も続くかに要注意である(図表4) 。 図表1 生産台数(SAAR)のトレンドは下向き 3,500 16年1∼10月 平均SAAR 343万台 3,500 30 3,000 3,000 20 2,500 10 2,000 0 1,500 -10 16年10月SAAR 364万台 前月比+8.7% 1,000 2012年 288万台 500 2013年 293万台 2014年 322万台 -20 2015年 340万台 0 . 40 30 2,000 1,500 10 1,000 0 -40 0 2012年 236万台 2013年 242万台 2014年 264万台 -10 2015年 276万台 -20 2010年 11 12 13 14 15 16 注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。 注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。 出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータを基に作成 図表4 国内販売は2か月連続増加もトレンドは頭打ち 図表3 米国新車販売は増加継続も持続性は期待できず 米国新車販売台数 16年1∼10月 平均SAAR 275万台 16年10月SAAR 290万台 前月比+6.0% 20 500 11 12 13 14 15 16 2010年 注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。 注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。 出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータを基に作成 前年同月比、% 50 メキシコ総輸出台数 季節調整済年率換算値:SAAR(左軸) 3か月後方移動平均値(左軸) 前年同月比(右軸) 2,500 -30 . 季調済、百万台 19 季調済、千台 40 . メキシコ総生産台数 季節調整済年率換算値:SAAR(左軸) 3か月後方移動平均値(左軸) 前年同月比(右軸) . 季調済、千台 4,000 図表2 輸出台数(SAAR)のトレンドは横ばい推移 前年同月比、% 18 30 17 20 16 10 メキシコ総販売台数 季調済、千台 前年同月比、% 季節調整済年率換算値:SAAR(左軸) 60 16年1∼10月 3か月後方移動平均値(左軸) 1,800 50 平均SAAR 前年同月比(右軸) 158万台 1,600 40 15 0 1,400 30 14 -10 1,200 20 -20 1,000 10 13 12 11 10 9 前年同月比、% 40 16年10月SAAR 1,803万台 前月比+1.0% -30 季節調整済年率換算値:SAAR(左軸) SAARの3か月後方移動平均値(左軸) 前年同月比(右軸) -40 -50 -60 . 2,000 800 0 600 16年10月SAAR 173万台 -10 前月比+5.2% 400 -20 2012年 99万台 200 09 10 11 12 13 14 15 16 2007年 08 注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。 注2: SAARは米国センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。 出所: Autodata、Bloombergのデータより作成 2013年 106万台 2014年 114万台 2015年 135万台 0 -40 . . 11 12 13 14 15 16 2010年 注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。 注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。 出所: メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータを基に作成 本レポートの目的は情報の提供であり、売買の勧誘ではありません。本レポートに記載されている情報は、浜銀総合研究所・調査部が信 頼できると考える情報源に基づいたものですが、その正確性、完全性を保証するものではありません。 2 -30 浜 銀 総 研
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