タイ自動車市場月次統計(2016年12月)

浜銀総合研究所 調査部
2017年1月31日
調 査 速 報
タイ自動車市場月次統計(2016年12月)
輸出減速が強まっており 17 年生産台数の 200 万台超え
は容易ではない。国内販売は「量より質」が問われる。
主任研究員
深尾 三四郎
045-225-2375
[email protected]
要 約
 16年12月国内生産(季調値)は前月比大幅減の年率169.2万台。内需が盛り返すも輸出が失速。
 業界の17年生産予測は200万台だが、足元で輸出減速感が強まっており190万台以下に落ちるリスクも。
 長期低迷後の内需回復局面では、シェア拡大を急ぎ収益性を犠牲にした販売強化が起こり易く要注意。
内需は5年ぶりに増加する見通し:注目点は大手自動車メーカーの国内販売シェアの見通し
タイ工業連盟(Federation of Thai Industries:以下、FTI)が発表した 2016 年 12 月の四輪車総生産台数は、前
年同月比 11.1%減少し、季節調整済年率換算値(当社試算、以下 SAAR)も前月比 12.5%減の 169.2 万台と
大きく減少した。3か月後方移動平均値でみたトレンドは7月以降、減少基調が続いており、11 月は久方
ぶりに微増となったものの、12 月は大きく失速した(図表1)
。
12 月生産台数の失速の背景には、輸出台数の大幅な減少がある。12 月の総輸出台数は前年同月比 0.6%
減と6か月連続で前年割れとなり、SAAR も前月比 7.9%減の 107.8 万台と大きく減少した(図表2)
。国
王が薨去した 10 月以降、内需減少を抑えるために輸出生産を強めていると推察するが、中近東やアフリカ
での景気悪化と南米の景気低迷などを背景に、新興国向けの輸出の弱さが引き続きタイの自動車輸出に強
い逆風となっている。
一方、12 月の国内販売台数は前年同月比 14.4%減と3か月連続で2桁%の減少となったものの、SAAR
は前月比 10.1%増の 79.8 万台と5か月ぶりに増加した(図表3)
。国内販売の SAAR は 10 月、11 月と2
か月連続で 70 万台前半の水準にまで落ち込んでいたが、12 月は 80 万台水準にまで盛り返した。12 月の消
費者信頼感指数は3か月ぶりに上昇し、内需の足かせとなっている消費ムードの減退は緩んだ(図表4)
。
16 年の総生産台数は 194 万台(前年比 1.6%増)と2年連続で増加したが、総販売台数は 77 万台(同
3.9%減)と4年連続で減少し、総輸出台数も 119 万台(同 1.4%減)と5年ぶりの減少となった(図表5)
。
なお、前回のレポートで(16 年 12 月 26 日発行)
、弊社予測の 17 年生産台数は 197 万台としたが、足元
の輸出がかなり弱いため、国内生産が 190 万台以下に落ち込むリスクを想定する必要性を感じ始めている。
国内販売も楽観は禁物だ。5年前にインラック政権による First Car Buyer Programme(初回購入者に一部
税還付する自動車購入奨励策)で購入された車の買い替え需要が増加することから、2017 年のタイ国内販
売台数は5年ぶりに増加する見通しである。しかし、長らく減少傾向が続いていた内需が回復傾向に転じ
る局面では、大手メーカーがシェア獲得を狙って収益性を
図表1 16 年 12 月の国内生産は失速
季調済、千台
犠牲にした積極販売を強めるリスクが高まる。また、各社
3,000
はここ1~2年の間に基幹車種のフルモデルチェンジを終
2,500
えており、目下、新モデル投入効果を期待することが難し
タイ四輪車総生産台数
前年同月比、%
100
80
16年12月SAAR 169.2万台
前月比▲12.5%
60
40
2,000
い中、タイ国内工場の稼働率を維持・向上させるために、輸
出減少を国内販売の増加で補おうとする圧力も強まろ
20
-20
う。17 年の自動車メーカー各社のタイ国内販売では量より
1,000
も質が問われる。大手メーカーによるタイ市場の全需見通
500
しよりも、シェアに対する考え方が注目点となる。
0
1,500
-40
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
3か月後方移動平均値(左軸)
前年同月比(右軸)
2012年
245万台
2013年
246万台
2014年
188万台
2015年
191万台
-60
2016年
194万台
-80
-100
0
.
12
13
14
15
16
2011年
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
1
浜 銀 総 研
調 査 速 報
図表2 輸出台数(SAAR)は前月比で大幅減
図表3 国内販売(SAAR)は 12 月に盛り返した
前年同月比、%
タイ四輪車総輸出台数
季調済、千台
1,600
80
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸)
16年12月SAAR 107.8万台
3か月後方移動平均値(左軸)
前月比▲7.9%
1,400
60
1,800
40
1,000
20
1,400
1,200
1,000
800
0
600
-20
400
-40
400
-60
200
-80
0
200
2012年
103万台
2013年
113万台
2014年
113万台
2015年
120万台
2016年
119万台
0
800
-20
600
-40
-60
2012年
143万台
2013年
133万台
2014年
88万台
2015年
80万台
2016年
77万台
2011年
12
13
14
15
.
16
12
13
14
15
16
2011年
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に作成
図表4 12 月の消費者信頼感指数は前月比上昇
タイ四輪車総販売台数(SAAR)と消費者信頼感指数の推移
2,000
100
1,800
消費者信頼感指数(右軸)
1,600
90
四輪車総販売台数SAAR(左軸)
1,400
1,200
80
1,000
800
70
600
400
60
.
2012年
13
-80
-100
.
0
前年同月比、%
季節調整済年率換算値:SAAR(左軸) 80
3か月後方移動平均値(左軸)
60
前年同月比(右軸)
40
16年12月SAAR 79.8万台
前月比+10.1% 20
1,600
前年同月比(右軸)
1,200
タイ四輪車総販売台数
季調済、千台
14
15
16
注1: 赤塗りマーカーは各年の1月実績値。
注2: SAARは米センサス局法X-12-ARIMAにて浜銀総合研究所が試算。
出所: Federation of Thai Industries、University of the Thai Chamber of Commerceのデータを基に作成
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調 査 速 報
図表5 輸出減速感が強まっており、17 年生産台数が 190 万台以下に落ち込むリスクを想定する必要あり
インラック政権
自動車購入支援策実施
タイ自動車市場の長期推移
(1995年~)
万台
250
生産
国内販売
輸出
200
(11年9月~12年12月契約車両)
245
タイ大洪水
東日本大震災
リーマンショック
150
146
139
113
143
75
アジア通貨危機
57
53
0.7
0
100
58
59
56
1.4
36
4
16
14
7
33
22
13
41
46
26
30
15
18
63
90
72
68
69
54
63
78
55
44
113
120 119
197
79
117
113
80
103
88
53
42
191
133
119
93
100
194
188
165
129
50
246
61
80
74
80
77
54
33
18
24
注: 17年は浜銀総合研究所予測。
出所: Federation of Thai Industriesのデータを基に浜銀総合研究所が作成
本レポートの目的は情報の提供であり、売買の勧誘ではありません。本レポートに記載されている情報は、浜銀総合研究
所・調査部が信頼できると考える情報源に基づいたものですが、その正確性、完全性を保証するものではありません。
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