開発と借入コストの資産化

Law, Accounting & Tax
不動産ファンドに関する国際財務報告基準
第39回
開発と借入コストの資産化
清水 毅
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
パートナー
公認会計士
(ARES マスター M0600830)
太田 英男
藪谷 峰
PwC あらた監査法人
パートナー
公認会計士
PwC あらた監査法人
第 3 金融部 ディレクター
公認会計士
起因する借入コストを、当該資産の取得原価の一部
はじめに
す。
( IAS16号22 項 )
( IAS23 号 5 項、8 項 )
。これ
本連載は,不動産ファンドに関係する国際財務報
は選択的に適用する会計処理ではなく、必須のもの
告基準
(
「 IFRS 」
)の基本的な考え方と最新の動向
です。対して日本基準では、借入コストの資産化は
を解説することを目的として連載しています。
あくまでも任意適用の規定であり、固定資産を自家
不動産ファンドでは投資効率を上げるため、借り
建設した場合、建設に要する借入資本の利子で稼働
入れを行い、いわゆるレバレッジをかけたファンドの
前の期間に属するものは取得原価に算入できる
(連
運用を行うこともめずらしくありません。また、SPC
続意見書第三 第一 四 2 )
ものとされています。ただ
を用いて不動産の開発事業を行うこともあり、また
し、実際に当該規定を用いて借入コストを資産化し
昨今は一部Jリートでも開発事業を行うことがみら
ている事例は、特定の業種を除き、数多いものでは
れるようになりました。
ありません。
このように不動産ファンドの運用では開発とファイ
なお、IFRSでは、上記の適格資産の対象から金
ナンスも切り離せないことから、今回は、借入コスト
融商品や生物資産などを除外しています。また、取
の資産化が IFRSではどのような取り扱いとなって
得時点で意図した使用又は販売が可能な状態にあ
いるか、日本基準との対比を用いて解説します。
る資産も適格資産には該当しません。
1.借入コストの資産化とは
2. 特定の資産と
借入れの関連性
借入利子などの借入コストについて、IFRSでは、
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として資産化しなければならないことを定めていま
意図した使用または販売が可能となるまでに相当の
適格資産の取得 、建設又は生産に直接起因する
期間を要する資産
(これを「適格資産 」と定義してい
借入コストとは、適格資産に関する支出が行わな
ます。
)
について、その取得 、建設または生産に直接
かったならば回避できた借入コストとされています。
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.28
ここで、このような借入コストについて、特別な借入
コストの資産化について選択適用のオプションが設
が明確に別途行われていればその対応関係は明ら
けられており、費用処理する会計方針を選択するこ
かですが、そのような特別な借入が行われていない
とが可能でした。このオプションは、企業間の比較
場合には、どのように考えればいいのでしょうか。
可能性を高めるなどの目的で 2009 年の改正により
この点について、IFRSでは特別借入と一般借入に
削除されていますが、それを除けば、実質的には
区分して整理し、それぞれについて次のように規定
1993 年から変更されておらず、かなり長期間運用さ
しています。すなわち、特別借入については、発生
れ適用されてきた実績がある基準です。前述のよう
した実際の借入コストから、当該借入に関連する一
に、日本基準との比較においては、ガイダンスが設
時的な投資により生じた投資利益を控除して、資産
けられているだけでも明確ではありますが、数ある
化に適格な借入コストを算定するものとし
( IAS23 号
IFRSの各基準の中ではガイダンスは少なく、比較的
12 項 )、それ以外の一般目的借入についての資産化
シンプルな基準であるため、実際の基準の適用にあ
に適格な借入コストは、適格資産を取得するための
たっては、例えば、資産化をいつ開始するか、資産
支出額に資産化率
( 借入コストを加重平均借入残高
化をするのに適格な借入コストとは何か、外貨の換
で除したもの)
を乗じて算定するものとされています
算から生ずる差額は資産化するべきかどうかなど、
( IAS23 号14 項 )
。借入コストは、
「資金の借入に関
考え方を整理する必要があります。もちろん、
IAS23
連して企業に発生する利息およびその他のコスト」
号の原則的な考え方はそれほど複雑なものではな
と定義されており、借入に関連して企業が負担する
く、
「 適格な資産の取得や建設に直接関係する借入
直接的な利息に加えて、その他のコストで、以下のも
コストは資産化し、その他のすべての借入コストは
のも含まれることになります。
( IAS23 号 5 項、
6項)
費用化する」という原則から考えることになります。
◦ファイナンス・リースのファイナンス・コスト
◦外貨建借入金から生じる為替換算差額のうち、
利息の調整とみなされる部分
IAS23 号はそれほど多くの条文がある規定ではあ
りませんが、上記のように、借入コストの資産化につ
4. 定義と適用対象
IAS23 号では、
「 借入コスト」と「 適格資産 」の2
つのみ定義を設けています。
いての計算ロジックに関して一定のガイドラインが提
「借入コスト」とは、企業の資金の借入れに関連し
供されています。これに対して日本基準では、前述
て発生する利息及びその他のコスト
( IAS23 号 5
のとおり、取得原価に算入できるとしているのみであ
項 )、また、
「適格資産 」とは、意図した使用又は販
り、計算ロジックなどの具体的な規定はありません。
売が可能となるまでに相当の期間を要する資産とさ
ただし、業種別の監査上の取扱いで、支払利子に
れています。
( IAS23 号 5 項 )
ついての言及があります。
「 不動産開発事業を行う
一般的に、適格資産の例としては生産設備、不動
場合の支払利子の監査上の取扱いについて―業種
産、橋梁や鉄道などのインフラ資産があげられます。
別監査研究部会の申合わせ―(昭和 49 年 8月20日 なお、投資不動産のように公正価値により評価され
業種別監査研究部会建設業部会・不動産業部会)
」
る資産についての適用は、必須ではありませんが可
能です。また、短期間で継続的に大量生産される棚
3.IAS23号の基本的概念
卸資産は、当該基準の対象から除外されています。
借入コストの資産化について規定しているIAS23
号は、1984 年に設定され 、1993 年に一度改正され
ていますが、その段階では、適格資産に関する借入
November-December 2015
73
の選択の問題となります。
5.相当の期間
また、IAS23 号では適格資産の要件において無
形資産を排除していないため、使用または販売可能
前述のとおり、適格資産は意図した使用又は販売
となるまでに相当の期間を要する無形資産もまた適
が可能となるまでに相当の期間を要する資産とされ
格資産たりえます。これにはソフトウェアのように内
ています。つまり、購入時に既に利用や販売が可能
部で開発され 、完成するまでに相当の期間を要する
となっている資産は適格資産ではなく、そのような
ものが該当すると考えられます。
状態になるために相当の期間を要する必要がありま
す。ただし、この「 相当の期間」についての定義は
IAS23 号では設けられておらず、資産の性質やその
7.適格資産のグルーピング
他の要素を考慮した上で、どのような資産を適格資
適格資産に該当するか否かの判断は当該資産の
産とするかについての判断が求められます。使用が
取得時に行います。しかし、例えば、同種資産でも
可能となるまでに通常1年以上要する資産は、一般
即時に使用する場合と一群の資産に組み込まれて使
に適格資産に相当すると考えられます。なお、いっ
用する場合など複数の使用方法が考えられるケース
たん要件と資産の種類を選択した場合には、同一種
がありえます。このような場合、経営者はある資産を
の資産については継続して適用しなければなりませ
取得した際、そのどちらに該当するのか評価を行わ
ん。
なければなりません。大きな一群の固定資産の一部
として複合的に使用されるか、他の適格資産の建設
6.棚卸資産及び
無形資産への適用の可否
マンション開発などでは、用地取得から顧客販売
に使用される資産として取得された際には、それ単
体では即時に使用可能であっても、他の資産と組み
合わせた全体で当該資産が適格資産かどうかの判
断を行うことになります。
までの期間についての販売用不動産を棚卸資産とし
て保有する場合もあります。このような棚卸資産に
ついて、IAS23 号では、反復的に大量生産される棚
8. 許認可に要する支出
卸資産であっても必須ではありませんが、製造サイ
許認可に関連する支出について借入コストが発生
クルが相当の期間を超えるものであれば、借入コス
している場合にも要件を満たす限りにおいて資産化
トの資産化を選択することは可能であり、会計方針
することになります。設例を以下にあげます。
設例1 認可および設備の取得
事例
・ ある不動産会社において 、ビルの建設の認可を取得するための費用が発生しています。この不動産会社は 、複数のビル
の建設に用いる予定の設備も取得しています。
質問
・ ビル建設が完了するまでの期間 、認可および設備の取得に関する借入コストを資産化できますか。
回答
・ 特定のビルに特有の認可については資産化できます。認可の取得は 、より大規模な投資プロジェクトの第一段階です。
それはビルの建設コストの一部であり 、適格資産の定義を満たします。一方 、他の建設プロジェクトで使用される設備に
ついては資産化できません 。当該設備は 、取得日において「意図した使用 」が可能な状態になっており 、適格資産の定
義を満たしません 。
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.28
期間に発生した利息のうち、資産化した借入コスト
9.資産化の期間
適格資産の借入コストの資産化は、開始日より開
始する必要があります。ここで開始日は以下の条件
を利息費用から減額し、投資不動産の帳簿価額を
調整します。投資不動産の公正価値の評価替えは、
公正価値の変動から生ずる期間損益に、直接影響
することになります。
の全てが満たされた時と定められています。
( IAS23
号17 項 )
(a )
資産に係る支出が発生していること
(b )
借入コストが発生していること
(c )
意図した使用又は販売に向けて資産を整える
ために必要な活動に着手していること
また、意図した使用又は販売に向けて適格資産を
整えるのに必要な活動が、ほとんどすべて完了した
11.特定目的の借入れと一般
借入れの借入コストの算定
方法
資産化すべき借入コストの算定についてIAS23 号
では、特定目的の借入れ関するものと一般目的の借
入れのものとに分けて説明しています。
段階で、借入コストの資産化は終了します。そのた
特定目的の借入れとは適格資産を取得する資金を
め、日常的、管理的な作業が未だ継続中であっても
得ることを目的で行われた借入れであり、この場合
通常は実質的に完了していると考えられ 、小規模の
には実際に発生した借入コストが資産化されます。
修正
( 購入者の仕様に合わせるための不動産の装飾
なお、会社が一時的に資金を再投資し収益を獲得
など)だけが残っていてもやはり実質的に完了して
している場合には、そのような収益は、資産化する
いると考えられます。
借入コストから控除されます。
なお、適格資産の活発な開発を中断している期間
一般目的の借入れは特定目的以外の全ての借入
中は、借入コストの資産化は中止しなければなりま
れが該当します。この場合の資産化するべき借入コ
せん。
ストは支出額に資産化率を乗じたものになります。
資産化率は期間中に借入金について発生した借入コ
10.公正価値評価される投資
不動産の借入コストの資産
化の可否
ストの加重平均となります。ただし資産化する借入
投資不動産について公正価値モデルを採用してい
ンスがありますが、一般借入についてはそのような
る場合、将来投資不動産として使用する予定の一定
特有のガイダンスはなく、一時的に投資した資金に
の建設中または開発中の不動産は、公正価値で評
ついて、その他の資金源からではなく、一般借入か
価する必要があります。このような場合にも、必須
ら投資した資金とみなすことはできないと考えられ
ではありませんが、建設期間中の投資不動産にかか
ます。そのため、一般借入に関連して投資収益を得
る借入コストを資産化することができます。
ている場合でも、その投資収益を資産化が可能な
ただし、借入コストを資産化する会計方針を選択
しても投資不動産の公正価値評価による評価損益
コストには上限があり、期間中に実際に発生した借
入コストが上限となります。なお、特定借入の場合に
は、借入コストから投資収益を控除するというガイダ
借入コストから控除することはできないと考えられま
す。
との純額ベースでは、投資不動産の帳簿価額に影響
また、一般借入は、まず適格資産の資金調達のた
を及ぼさないため、IAS23 号では、必須の会計処理
めに使用されると推定されます。営業活動から得ら
とはされていません。
れるキャッシュ・フローが当期発生した資本的支出の
なお、そのような会計方針を選択した会社は該当
資金をまかなうのに十分であり、当該一般借入は他
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設例2 資産化コストの計算事例
2013 年 7 月 1 日 、A 社は 2,200,000 千円のビルの建設に関する契約を締結しました 。このビルは 、2014 年 6 月末に完成しました 。
当期中に 、請負業者に対して以下の支払が行われました 。
A 社の 2014 年 6 月 30 日の年度末時点での借入は以下のとおりでした 。
支払日 金額 ( 千円 )
2013 年 7 月 1 日
200,000 千円
2013 年 9 月 30 日
600,000 千円
2014 年 3 月 31 日
1,200,000 千円
2014 年 6 月 30 日
200,000 千円
合計
2,200,000 千円
1. 年利 10%(単利 )の 4 年債 ( 今回のプロジェクトに特に関連するもの );2014 年 6 月 30 日時点の残高は 700,000 千円 。この負債
に関して当期発生した利息は 65,000 千円 。支払に備えて保有している間の資金から得られた利息収益は 、20,000 千円 。
2. 年利 12.5%(単利 )の 10 年債;2013 年 7 月 1 日時点の残高は 1,000,000 千円で 、当期中はこの残高に変化はなかった 。
3. 年利 10%(単利 )の 10 年債;2013 年 7 月 1 日時点の残高は 1,500,000 千円で 、当期中はこの残高に変化はなかった 。
この設例では 、利息費用は借入コストと同額と仮定します。
支出の分析:
日付
2013 年 7 月 1 日
2013 年 9 月 30 日
2014 年 3 月 31 日
2014 年 6 月 30 日
合計
金額(千円 )
200,000
600,000
1,200,000
200,000
2,200,000
特別借入に配分される金額 ( 千円 )
200,000
500,000
700,000
一般借入に配分される金額 ( 千円 )
100,000*
1,200,000
200,000
1,500,000
期間で加重した残高(千円 )
100,000 × 9/12=75,000
1,200,000 × 3/12=300,000
200,000 × 0/12=0
375,000
* 特別借入 700,000 千円が全額使用されたため 、残りの支出を一般借入に配分しています。
一般借入に関する資産化率は 、適格資産を取得するために特別に行った借入を除く、当期中の借入金残高に対する借入コストの加重平均です。
加重平均借入コスト:12.5%(1,000,000/2,500,000)+10%(1,500,000/2,500,000)=11%
資産化される借入コスト
特別借入分
一般借入分(375,000 千円× 11%)
合計
特別借入に係る利息収益控除額
資産化に適格な金額
金額 ( 千円 )
65,000
41,250
106,250
△ 20,000
86,250
したがって 、資産化される借入コストは 、86,250 千円となります。
の資金ニーズに充当し、適格資産の資金調達には使
じることにより算定します。この資産化率は、企業
用していないから借入コストを一切資産化しないと
の当期中の借入金残高
(適格資産の取得のために特
主張することはできないと考えられます。
別に行った借入を除く)
に対する借入コストの加重平
均です。計算例は設定 2 となります。
76
12.特定借入と一般借入の組
み合わせにより適格資産を
取得した場合の計算
13. 優先出資配当の資産化の
可否
適格資産の取得に関連して発生した支出は、まず
資金調達手段の一手法として優先株を発行するこ
特別借入に配分され 、残りの支出は、一般借入に配
とがあります。優先株はその発行条件によっては実
分されます。つまり、当期中に特別借入について発
態として借入に近いものも考えられます。借入コスト
生した実際の借入コストから特別借入に関連する一
の資産化の要否は、優先出資の会計上の区分
( 負債
時的な投資による投資収益を控除した差額として算
か資本か)
により異なり、優先出資が負債として区分
定し、その後、一般借入に係る資産化に適格な借入
される場合には、優先出資の配当は実質的には利
コストの金額は、適格資産への支出に資産化率を乗
息費用となり、借入コストに含められます。そうでは
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.28
なく資本として区分される優先出資については、配
ワップや為替スワップ)
の利益および損失は、IAS23
当は借入コストには含めることはできません。
号に定義される借入コストとみなされず、資産化する
ことはできません。
14.資産除去債務及びその他
の引当金に係る利息費用
資産除去債務に係る規定であるIFRIC
( 解釈指
16. 外貨建借入金から生ずる
為替差損益の取扱い
針)1号の第 8 項では、資産除去債務に係る利息の
IAS23 号は、為替差損益のうち、金利コストの調
増価について、IAS23 号による資産化は認められな
整とみられる範囲まで、借入に関連する為替差損益
いと規定しており、借入コストから除外されます。ま
の資産化を要求しています。金利コストの調整であ
た、その他の種類の引当金に係る利息の増価につい
る利得および損失には、企業が機能通貨で資金を
ても、通常、借入コストから除外されます。
「 資金の
借入れた場合に発生する借入コストと外貨建借入金
借入に関連して発生 」という前述の借入コストの定
に関して実際に発生する借入コストとの間の金利差
義から、IAS37号「 引当金、偶発負債及び偶発資
が含まれます。しかし、為替差損益には、その他の
産 」の要求事項に基づいて生じた引当金に係る利息
経済的な要因の影響も含まれる可能性があります。
の増価は、通常、その定義を満たさないと考えられ
このため、為替差損益のうち、二国間の金利差に
るためです。
よって生じ、金利コストの調整に相当する部分をどの
ように判断するかが問題となります。
15.デリバティブ取引から生ず
る損益とヘッジの効果の
反映
資産化率の算定に際して、借入に対するキャッ
17.機能通貨よりも強い通貨建
ての借入金に係る
為替差損
シュ・フロー・ヘッジまたは公正価値ヘッジの影響を
外貨建取引に関して IFRSでは機能通貨という考
考慮する必要があります。IAS39 号によるヘッジ関
え方を有しています。すなわち、機能通貨とは企業
係が指定された場合、借入コストは影響を受けます。
が営業活動を行う主たる経済環境の通貨をいい、
一般借入を行った場合、IAS23 号第14 項に従って算
外国通貨は機能通貨以外の通貨が外国通貨とされ
定される資産化率は、特別借入を除くすべての借入
ています
( IAS21号第 8号)
。外国通貨の取引はいっ
金残高に関して、IAS39
号に基づいて指定され
図表3
た有効なヘッジ関係を
外貨建借入金通貨の
金利コスト
考慮した上で、算出され
ます。なお、当該ヘッジ
関係の非有効部分は、
引き続き損益に認識する
必 要があります。 しか
機能通貨建ての金利コスト
為替差損
し、ヘッジ関係として指
定されていないデリバ
ティブ取引
( 例:金利ス
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77
たん機能通貨への換算
図表 4
を行います。そのうえで、
財務報告を行うにあた
り、機能通貨とは別の表
示通貨を選択することも
できます。
機能通貨建ての金利コスト
外貨建借入金通貨の
金利コスト
機能通貨よりも強い外
国通貨建ての借入金の
金利は、通常、当該機能
通貨建ての同等
(等価)
為替差益
の借入金の金利よりも低
くなります。ある期間に、
外貨建借入金の通貨に
対して機能通貨が下落した場合、企業には当該借
金に関する金利コストに近似します。この状況にお
。
入金に関する為替差損が生じます
(図表3)
いて、為替差益は、より高い金利を相殺し、金利コ
外貨建借入金の費用合計
( 金利コストに為替差損
スト
( または少なくともその一部)の調整項目である
を加えたもの)
は、同等の機能通貨建ての借入金に
可能性が高くなります。このような場合、為替差益
関する金利コストに近似します。この場合、為替差
は金利コストからの控除項目となります。その上で、
損は、より低い金利を相殺し、金利コスト
( または、
資産化可能な実際の費用額を決定する必要がありま
少なくともその一部)の調整項目である可能性が高
す。
くなります。このような場合、為替差損は金利コスト
への加算項目となります。なお、資産化する金利コ
図表 3 及び 図表 4 のシナリオは、異なる通貨建て
ストを算出する上では実際の費用額を決定する必要
であっても借入コストの総額が著しく異なるようなこ
があります。
とは見込まれないことを説明しています。多くの場
合、為替差損益は、異なる通貨建ての借入のコスト
18.機能通貨よりも弱い通貨建
ての借入金に係る
為替差益
を平準化し、そのような場合の金利コストの調整で
前例とは逆に、機能通貨よりも弱い通貨建ての借
通貨規制などの他の経済的な要因が為替レートに
り入れを有している場合もあります。
これらの通貨間の為替レートに影響を与える唯一の
要素ではありません。失業率 、生産性、または政府
重要な影響を与える可能性があります。それぞれの
このような場合、外貨建ての借入金の金利は、機
要因が為替レートにどのように影響するかを断定す
能通貨建ての同等の借入金に関する金利よりも高く
ることは困難です。そのため、為替差損益が異なる
なる可能性があります。外貨建て借入金の通貨が企
通貨建ての借入コストを、近似させるのではなく、乖
業の機能通貨より下落した場合、為替差益が計上さ
離させるような場合には、金利コストの調整とみなす
。
れます
(図表 4 )
ことはできません。
外貨建ての借入金に関する高い金利コストは、為
替差益によって一部相殺されます。外貨建て借入金
の費用純額は、企業の機能通貨建ての同等の借入
78
あると考えられます。しかし、二国間の金利差は、
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.28
を修正再表示する必要はありません。すでに建設
19.初度適用
中の適格資産について、この日付より後に発生した
借入コストは、IAS23 号に従って会計処理しなけれ
日本基準からIFRSに移行する場合、これまです
ばなりません。
べての借入コストを費用処理するもしくは IAS23 号
とは乖離がある方法で資産化を行っていた可能性が
あります。IFRS1号は、IAS23 号の遡及適用につい
て経過措置を設けて、2 つの選択肢を認めています。
おわりに
上述のように、借入コストの資産計上については、
すなわち、移行日もしくは IAS23 号第 28号に従い
日本基準では選択適用でありあまり多くの適用事例
経営者が開始日と指定する日のいずれか早い日か
はないかと思います。これに対して IFRSでは、適
ら、IAS23 号に従って借入コストの資産化を開始す
用が必須であり、シンプルな基準ではあるものの適
ることができます。
用にあたり実務上多くの判断が必要となることか
企業は、IAS23 号の適用を選択した日時点で、従
ら、留意が必要です。
前の会計基準に従って資産化した借入コストの金額
しみず たけし
おおた ひでお
やぶたに たかし
公認会計士、日本証券アナリスト協会
検定会員、不動産証券化協会認定マス
ター PwC あらた監査法人・プライス
ウォーターハウスクーパース株式会社
パートナー 資産運用インダストリー
公認会計士、PwC あらた監査法人 第
3金融部(資産運用)パートナー 不動
産運用インダストリー全般、J リートお
よび私募不動産ファンドなどに対して、
監査およびアドバイス業務を提供。主た
公認会計士、PwC あらた監査法人 第
3金融部(資産運用)ディレクター 不
動産運用インダストリー全般、J リート
および私募不動産ファンドなどに対し
て、監査およびアドバイス業務を提供。
リーダー 不動産ファンドおよび運用会
社に対して、監査およびアドバイス業務
を提供。主たる著書として、「投資信託
の計理と決算」
(中央経済社・共著)、「不
動産投信の経理と税務」(中央経済社・
共著)
「集団投資スキームの会計と税務」
、
(中央経済社・共著)等。あらた監査法
人の不動産業・IFRS チャンピオン、お
よび PwC・Global の IFRS・業種別委
員会・不動産部会の委員を務める。
る著書として、「ファンド投資のモニタ
リング手法」(中央経済社・共著)、「不
動産投資法人(J リート)設立と上場の
手引き」(不動産証券化協会・共著)、「集
団投資スキームの会計と税務」(中央経
済社・共著)、
「投資信託の計理と決算」
(中
央経済社・共著)等。不動産証券化協会
IFRS コンバージェンスグループ委員及
び日本公認会計協会 投資信託等専門部
会及び経営研究調査会、バリュエーショ
ン専門部会 専門委員。
PwC ニューヨーク事務所で 2 年間勤務、
不動産ファンド及び運用会社の米国基
準・IFRS 基準財務諸表の監査に従事。
November-December 2015
79