コンセッション(公共施設等運営権) にかかる会計処理

Law, Accounting & Tax
不動産ファンドに関する国際財務報告基準
第42回
コンセッション
(公共施設等運営権)
にかかる会計処理
清水 毅
PwC あらた監査法人
パートナー
公認会計士
(ARES マスター M0600830)
太田 英男
藪谷 峰
PwC あらた監査法人
パートナー
公認会計士
PwC あらた監査法人
ディレクター
公認会計士
事業の手法です。これらの手法について日本では官
1.はじめに
民連携ファンドが設立されるなど関連規定等の整備
も進んでおり20 年近い歴史があります。更に、海外
本連載は,不動産ファンドに関係する国際財務報
の方がより以前から取り組まれており、それに対応す
告基準
(
「 IFRS 」
)の基本的な考え方と最新の動向
るIFRSの規定も設けられています。よって、今回は
を解説することを目的として連載しています。
コンセッションについてのIFRSの規定と、日本の状
今回は不動産とは異なるものの、いわゆるリアル
況について解説したいと思います。
アセットとして類似した部分があるインフラ投資、コ
ンセッション
(公共施設運営権)
について解説を行い
たいと思います。
80
2.日本における経緯と現状
近年 、日本においても公的な施設等について官民
日本では、
1999 年に最初のPFI関連の法律である
で連携してプロジェクトを進めるPPP/PFI
( Public
「 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の
Private Partnership/Private Finance Initiative )
促進に関する法律」
( 以下「 PFI法」という。
)が施
と呼ばれる手法の活用が積極化しています。PPPは
行されました。この法律は海外での先行事例に習っ
公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く
た形で整備されたものですが、当初予定していたほ
とらえた概念で、民間資本や民間のノウハウを活用
どサービス購入型以外の事例の導入が進まなかっ
し、効率化や公共サービスの向上を目指すもので
たこともあり、独立採算型事例の拡大を図るべく
す。また、PFIは公共施設等の建設、維持管理、運
2011年に法改正が行われました。この改正 PFI法
営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活
において、コンセッションが初めて日本にも導入され
用することで、効率化やサービスの向上を図る公共
ました。この時合わせて民間事業者による提案制
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.31
度等も導入されました。
独立採算型及び混合型などの類型に分類すること
2013 年 6月には民間資金等活用事業推進会議
。
ができます
(図表 2 )
( 以下「 PFI 推進会議 」という。
)
においてPPP/PFI
の抜本改革に向けたアクションプランが決定され 、
以降10 年間で12 兆円規模に及び官民連携事業を
推進することが決定されるとともに、ファイナンス側
のサポートを強化するべく独立採算型や混合型の
図表 1 日本における PFI 等の経緯
年月
PFI 事業に投融資することができる官民連携ファン
1999 年 9 月
PFI 法施行
ド
( 株式会社民間資金等活用事業推進機構)が組
2010 年 6 月
新成長戦略決定(コンセッション
方式の導入を含む )
2011 年 11 月
改 正 PFI 法施行(コンセッション
方式の導入 )
2013 年 6 月
官民連携ファンドの組成
成されました。
さらに2014 年 6月には、PFI推進会議において、前
年に決定されたアクションプランについて、コンセッ
ション方式を活用するものについては特に集中強化
PPP/PFI の抜本改革に向けたアク
ションプランの決定
期間とした2016 年度までの3 年間に、2兆〜3兆円の
事業規模と件数について前倒して達成することを目
2014 年 6 月
上記アクションプランに係る集中
強化期間の取組方針について決定
2014 年 6 月 /11 月
仙台空港及び関西空港・伊丹空港
について運営事業等募集要項の策
定及び公表
2015 年 6 月
PPP/PFI 手法を優先的に検 討す
るように促す仕組みの構築への取
り組み開始
2015 年 12 月
仙台国際空港 株 式会 社が仙台空
港のコンセッションを取得
2016 年 4 月
関西エアポート株式会社が関西空
港・伊丹空港の運営開始
標とする決定をしました。また、このような流れの中
で、複数の空港や水道、道路等についてコンセッショ
ン方式の導入計画が進められており、特に関西空
港・伊丹空港については2016 年 4月から民間での運
営が開始されています。これまでの経緯をまとめたも
のについて、以下の図表1に示します。
3.PFIとは
前述のとおりPFIは、公共施設等の建設、維持管
理、運営等を民間の資金、経
営能力及び技術的能力を用
図表 2 PFI 事業類型
いて行う手法であり、日本で
サービス購入型
は、PFI法に基づいて実施さ
事業契約
公共
れています。PFI法では、対
料金支払
民間
事業者
サービス
提供
利用者
象とされている「 公共施設
等」として、道路、空港 、水
独立採算型
道等の公共施設、庁舎等の
公共
公用施設、公益等施設
(教育
文化施設等)
等が示されてい
ます。公共サービスの利用
のPFIは、サービス購入型、
民間
事業者
料金支払
サービス
提供
利用者
混合型
料やサービス購入料の事業
者負担の仕方等により、日本
事業契約
公共
事業契約
料金支払
民間
事業者
料金支払
サービス
提供
利用者
May-June 2016
81
( IFRIC12.5 )
。なお、以下で言及されている社会基
4.コンセッション方式とは
盤とは、公共団体が現在保有しているかまたは将来
保有することになる公共サービスを提供する上で必
PFIの一つの手法がコンセッション方式です。コ
ンセッション方式では施設の所有権を公共団体から
移転せず、民間事業者にインフラの事業運営に関す
要となる固定資産等であり、コンセッションの設定
対象として含まれているものを指しています。
営業者が社会基盤によってどのようなサービス
(1 )
る権利を長期間にわたって付与する方式であり、
を、誰に対して、どのような価格で提供しなけ
2011年の改正 PFI法により「公共施設等運営権 」と
ればならないかについて、移譲者が支配又は規
して規定されたものです。一般的なコンセッション
制をしている。
方式のスキームと関係者を以下の図表3に示します。
(2 )
契約期間の終了時点において移譲者が、所有
権、受益権又はその他の権利を通じて、社会基
5.IFRIC 第 12 号の
適用対象となる契約
盤に対する重要な残余持分を支配している。
その上で、IFRIC第12 号では、適用対象を以下の
前述のとおり、コンセッション方式では移譲者で
ある公共団体と営業者となる民間事業者が関与しま
す。これについて IFRIC 解釈指針第12 号「 サービ
ス委譲契約
( Service Concession Agreement )
」
(以
下「 IFRIC第12 号」といいます。なお、ここでは、
ような社会基盤と規定しています
( IFRIC12.7 )
。
サービス契約のために、営業者が建設するかま
(3 )
たは第三者から取得する社会基盤
(4 )
サービス契約のために、移譲者が営業者にアク
セスを許す既存の社会基盤
コンセッションは移譲と訳されています。
)
が設けられ
ています。IFRIC第12 号では、公共団体から民間
対象となる契約を明確にするため、IFRIC第12 号
事業者へのサービス委譲契約について、営業者とな
図表 4 のようなフローチャートが設けられてい
では、
る民間事業者における会計処理についてのガイダン
ます。
スを定めていますが
( IFRIC.12.4 )、移譲者側の会
計処理については規定していません。また、官から
民へのサービス契約にはさまざまな形式が考えられ
ますが、IFRIC第12 号は以下の要件を満たす官か
ら民 へ の サ ービス移 譲 について適 用されます
6.適用条件に関する
補足説明
5
( 1)
の条件で言及されている支配又は規制は、
契約による場合もあれば、それ
図表 3 スキームと関係者
以外の場合もあることが想定さ
(社会基盤)
れています。たとえば、営業者
コンセッション
施設所有権
運営権設定
(運営権)
サービス
民間事業者
(営業者)
公共団体
(移譲者)
対価
のサービスの全てを移譲者で
サービス需要者
対価
ある公共団体が購入するような
状況も想定されています。な
お、そのような場合には、移譲
者とその関連当事者はまとめて
資金
評価される必要があり、移譲者
投資家
銀行等
の関連当事者としては公益活動
を行うすべての規制機関も含め
82
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.31
図表 4 判定フローチャート
スタート
委譲者は 、営業者が社会基盤を用いてどのようなサービスを 、誰に 、どのよ
うな価格で提供しなければならないかを支配又は規制しているか?
No
Yes
解釈指針の範囲外
サービス契約の終了時点において委譲者は 、所有権 、受益権又はその他の
権利を通して 、社会基盤に対する重要な残余持分を支配しているか? もし
くは耐用年数全体を通じて契約によって社会基盤が使用されるか?
No
Yes
社会基盤は 、サービス契約のために営業者が建設又
は第三者から取得したものか?
No
No
社会基盤は 、委譲者の既存の社会基盤であり 、営業者はサー
ビス契約のためにそれに対するアクセス権を与えられているか?
Yes
Yes
本解釈指針の範囲に含まれる営業者は社会基盤を有形固定資産若しくはリース資産として認識しない
(コンセッションとして処理する可能性 )
営業者は 、委譲者から又は委譲者の指示で 、
現金又は金融資産を受領する契約上の権利を
有しているか?
No
営業者は 、公共サービスの利用者に課金でき
る契約上の権利を有しているか?
Yes
(金融資産モデル )
営業者は 、現金又は金融資産を受領する契約
上の権利の範囲で金融資産を認識する
No
解釈指針の
範囲外
Yes
(無形資産モデル )
営業者は 、無形資産を受領する契約上の権
利の範囲で無形資産を認識する
た公的部門全体として評価することが求められます
( IFRIC12.AG2 )
。
また、価格の支配について、移譲者が完全な支配
な経営の裁量を有していても、あくまでも営業者は
移譲者の代理として社会基盤を管理しているにすぎ
ないとされています
( IFRIC12.AG5 )
。
を有する必要はなく、例えばプライスキャップ制度な
どにより、移譲者、契約又は規制機関により規制さ
れていれば要件を満たすことになりますが、これは
実質に基づいて判断される必要があり、例えば適用
される可能性が非常に少ない上限などは実態が伴っ
ていないと判断されます
( IFRIC12.AG3 )
。
7.IFRIC第12号による
会計処理モデル
IFRIC第12 号の対象となる契約では、公共サー
ビスのために社会基盤の使用を支配する権利は営
業者に譲渡されていません。そのため営業者では、
重要な残余持分に対する移譲者の支配について
そのような社会基盤は有形固定資産として認識され
は、営業者が社会基盤を売却または担保に提供す
ず
( IFRIC12.11 )、かわりに、契約に定められた特定
ることについては実質上の能力を制限し、かつ、移
の条件に従い、移譲者の代わりに公共サービスを提
譲者に契約期間を通じて継続的に使用する権利を与
供するために、社会基盤を運営する権利
( コンセッ
えなけ れ ば ならないとされて います
( IFRIC12.
ション)
を有しているのみということになります。
AG4 )
。
また、営業者は公共等に対するサービスの提供者
となりますが、そのサービス内容は、公共サービス
なお、支配と管理とは区別するべき留意事項とし
の提供のために使用される社会基盤を建設または
てあげられており、移譲者が5
( 1)
や
( 2)
で求めら
改修するサービス
(「 建設又は改修サービス」)と
れるような支配の程度と社会基盤に対する重要な残
一定期間当該社会基盤を運営及び保守するサー
余持分の両方を保有する場合には、営業者が広範
ビス
(「 運 営 サ ービ ス」)とに 分 け ら れ ま す が
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( IFRIC12.12 )、建設又は改修サービスに関して、
営業者が受け取った
( 又は受け取ることになる)
対価
は、IFRIC第12 号では契約内容に従い、金融資産
図表5 日本における検討の状況
時期
2013 年 9 月
公共施設等運営権に係る会計処理方
法に関する PT 研究報告(中間とりま
とめ )が内閣府より公表された 。
2015 年 7 月
財務報告基準機構(FASF)の基準諮
問会議において 、公共施設等運営権
に係る会計上の取扱いが 、内閣府より
新規テーマとして提案された 。
2015 年 11 月
企業会計基 準委員会(ASBJ)の実務
対応専門委員会において 、本件につい
て新規テーマとしての適否の評価が行
われた 。
同
基準諮問会議において本件の評 価結
果の報告と審議が行われ 、新規テーマ
として検討することが ASBJ へ提言さ
れた 。
2016 年 1 月から
実務対応専門委員会において 、本件
に関する検討が行われている(適宜 、
ASBJ に検討結果が報告され 、会計上
の論点分析等を含めた審議が行われて
いる )。
モデルまたは無形資産モデルの2 つの会計モデルの
どちらか
(またはそれぞれの要素に区分して)
を適用
して会計処理することになります。
8.金融資産モデル
営業者のキャッシュ・フローが移譲者により保証
される場合、つまり、建設サービスの対価として、
営業者が移譲者から現金又は別の金融資産を受
け取る無条件の契約上の権利が発生する場合、そ
の権 利を有 する範 囲で 金 融 資産を認 識します
内容
( IFRIC12.16 )
。たとえば、営業者は道路を2 年以
内に建設するサービスを提供し、サービス完了後、
移譲者はそれに対する対価を支払うケースなどが考
えられます。このケースでは営業者は、建設サービ
スに関する収益及び費用をIFRS第15号により処理
うことが可能なコンセッションが設定される場合に
する
( IFRIC12.14 )
ことになるため、結果的には、建
は、当該モデルの要件に該当する可能性が高いと思
設会社が行う会計処理と同様な考え方になるものと
われます。
考えられます。日本のPFI 類型のうち、サービス購
なお、営業者が、建設サービスについて、その対
入型はこのようなケースに該当することが多いと考え
価の一部を金融資産として受け取るとともに、併せ
られます。
て無形資産で支払いを受ける場合も考えられます。
そのような場合には、営業者は対価のそれぞれの公
9. 無形資産モデル
正要素をIFRS第15号に従って、個別に会計処理す
る必要があります
( IFRIC12.18 )
。
一方、営業者のキャッシュ・フローが利用状況に
応じて変動する場合では、営業者が、公共サービス
の利用者に課金する権利
( ライセンス)を得る範囲
で、無 形 資 産 を 認 識し な け れ ば なりま せ ん。
84
10.日本における会計基準の
検討状況
( IFRIC12.17 )
。これは、金融資産モデルとは異な
前述のように、日本でもコンセッションに関する制
り、営業者が受け取る金額は一般の公共サービス
度整備が進んでいます。これに合わせて、会計面の
利用者がサービスを利用する程度に左右されるた
検討についても以下のような取組みがなされてきまし
め、キャッシュ・フローが固定されておらず、このよう
。
た
(図表5)
な利用者に課金する権利は、金融資産モデルが前
なお、実務対応専門委員会は、企業会計基準委
提とするような現金を受け取る無条件の権利とは言
員会
( ASBJ )
の専門委員会の一つで、会計基準レベ
えないためです。日本でも、利用料金の決定等を含
ルの問題ではなく、既存の会計基準の解釈や新た
めて、民間事業者による自由度の高い事業運営を行
な取引等のより事務的レベルの問題を取り扱う専門
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.31
委員会として設置されているものです。また、基準
似の権利である鉱業権やダム使用権の会計処理を
諮問会議の依頼を受けて実務対応レベルのテーマ
参考として無形固定資産として資産計上する会計処
提言に関する評価を行うことも目的とされています。
理が考えられるとしています。
これに対し案 2の考え方は、公共施設等運営権
11.会計上の論点その1
(公共施設等運営権の会
計処理 )
方式による契約を役務提供契約と捉えるもので、運
営権者は、公共施設等を毎期使用する役務提供を
管理者から受け取っていると考えられるため、運営
権対価を、公共施設等を毎期使用することの対価と
前述のとおり、公共施設等運営権について実務対
して捉えることができると考えます。よって、この場
応専門委員会で検討がなされていますが、その際、
合、当初に一括して運営権対価を運営権者が管理
以下の項目が 論点として示されています。なお、
者等に支払った際には、翌期以降に帰属する役務
IFRIC12 号における移譲者と営業者に相当するもの
提供の対価は、長期前払費用として認識することに
は、この論点検討ではそれぞれ管理者と運営権者と
なると考えられるとされています。
されています。
(3 )
運営権対価を複数の公共施設等に按分して
(1 )
会計処理の単位
案A: 運営権対価を一括して会計処理する方法
会計処理する場合の論点
運営権対価を一括して処理するのではなく、もと
の資産の構成に従い、複数の公共施設等に配分して
案B: 運営権対価を複数の公共施設等に配分して会
計処理する方法
会計処理する方法を採用することも考えられます。
このような場合には、異なる耐用年数を有していると
運営権対価を一括して会計処理する方法では、公
考えられる各々の公共施設等に含まれる資産にどの
共施設運営権の会計的性質については以下
( 2)に
ように配分するか、また、その配分の際にのれんを
示すように無形固定資産とする考え方と長期前払費
認識するかという論点が検討するべきものとされて
用として考える方法の2 つが挙げられています。
います。
(2 )
運営権対価を一括して処理する場合の会計
的性質の検討
案1: 運営権対価を 、運営権者が一定の期間にわた
(4 )
リース会計基準との関係の整理
考え方によっては、運営権の設定はリース取引の
定義に該当する資産が含まれる可能性があります。
り公共的施設等を使用する権利の取得対価と
一方、運営権の設定には、通常のリース取引では見
捉える考え方
られない特徴があるため、運営権について、リース
会計基準の適用の要否について論点となりうると整
案2: 運営権対価を 、管理者等が所有権を有する公
理されています。
共施設等を毎期使用するこの対価として捉え
る考え方
案1の考え方は、主に、公共施設等運営権がPF
I法上のみなし物件
( 財産権 )とされ 、運営権者が
12. 会計上の論点その2
(更新投資の会計処理 )
独占的に公共施設等を使用することを認める法律上
公共施設等運営事業を実施する運営権者は、公
の権利であるため、運営権対価を、権利の取得の対
共サービスの提供だけではなく、公共施設等の管理
価として捉えることができると考えます。よって、類
者等が所有権を有する公共的施設等について、運営
May-June 2016
85
及び維持管理を行う必要がありますが、建設及び改
時から償却を行うという考え方であり、
( 1)におけ
修については運営権者の義務ではないものの、いわ
る案A及び案Bの両方に対応することができる考え
ゆる増築や大規模修繕も含めて運営権者の義務と
方です。ただし、運営権の期間が定められているこ
されており、運営権対価の算定に含まれています。
とを踏まえると、更新投資が複数回行われることを
そのため、このような更新投資について、以下の点に
仮定すると、前期に行われたものと後期のもので償
ついて会計処理を検討する必要があるとされていま
却が異なってくるという点等について問題がないか
す。
どうか検討する必要があるとされています。
(1 )
更新投資に関する資産及び負債の認識につ
いて
案2: 運営期間中の更新投資について運営権と一体と
して費用配分する方法
運営権対価について権利の取得の対価として捉え
更新投資が既存の運営権に及ぶ点に着目し、更
る考え方を取る場合、更新投資に係る資産及び負債
新投資を運営権対価と一体のものとして会計処理す
の認識については、既存の会計基準との整合性の
る考え方であり、仮に償却方法として定額法を採用
観点から、以下の2つが考えられるとされています。
した場合、案1で発生する償却費用が平準化しない
という問題が発生しないことになります。なお、この
案A: 当初の運営権の設定時で、更新投資に係る負債
方法は
(1)
における案Aに対応するものです。
を認識し、見合いの資産を認識する方法
これは更新投資については、運営権の設定におい
案3: 負債
(引当金)
として会計処理する方法
て不可避的に生ずるため、運営権設定の時点で、運
資産の保守のような用役を費消する取引のために
営権設定期間中の更新投資をあらかじめ負債として
費用を要する場合、一般に修繕引当金が計上される
全額認識する考え方で資産除去債務と同様の考え
場合があり、運営権に係る更新投資についても同様
方に基づくものです。
の考え方で会計処理を行うものです。なお、この方
法は
(1)
における案Bに対応するものです。
案B: 運営権の設定時には、運営権対価を資産として
計上し、更新投資に係る負債を計上しない方法
この方法では、事後的に発生する更新投資分は
控除された金額で運営権が認識されるため、更新
投資に関する負債も認識されないことになります。
13.基準化に向けた今後の予定
2016 年1月以降、これらの論点について継続して
議論が行われており、各論についての長所及び短所
や、理論的な観点及び実務的な観点で各委員から
(2 )
更新投資に係る費用配分方法について
様々なコメントが出されています。今後もこれらの議
前述のとおり運営権者は一定の更新投資が維持
論が継続して行われ 、しかるべきタイミングで公開
管理の枠内で必要となる場合もありますが、この会
草案が公表・コメント募集が行われます。そして、コ
計処理について以下の複数の方法が考えられるとさ
メント募集期間終了後に更に議論を重ねたうえで、
れています。
コンセッションに関する会計のルールを定めた基準
が公表されることになるものと考えられます
( なお、
案1: 更新投資の支出時から償却する方法
運営権は法律上の権利であるのに対して、更新投
資は維持管理のために運営権者により支出されるも
のであるため、運営権対価とは別に更新投資は支出
86
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.31
2016 年 4月末日現在で公開草案は未公表)
。
ファンド市場が設けられ 、再生可能エネルギー発電
14.おわりに
設備等を投資対象としたインフラファンドの一つが
現在、上場承認されています。当該インフラファンド
現在、日本におけるコンセッションはまずは案件
は投資法人制度を利用していますが、投資法人では
を組成する段階でありますが、今後、海外のように、
今般の投信法の改正により、コンセッションについ
投資家がファンドを組成するなどの投資が行われる
ても投信法上の適格資産とされています。実務上、
可能性もあります。さらには、公募商品の可能も将
税務上の課題は引き続き残るものの、今後、制度の
来的には考えられます。
改正等によっては、コンセッションもインフラファンド
つまり、東京証券取引所に昨年 、上場インフラ
への組入れが可能となることも考えられます。
しみず たけし
おおた ひでお
やぶたに たかし
公認会計士、日本証券アナリスト協会
検 定 会 員、 不 動 産 証 券 化 協 会 認 定 マ
ス タ ー、
PwC あ ら た 監 査 法 人 パ ー
ト ナー 資産運用イン ダ ス ト リ ー リ ー
ダー 不動産ファンドおよび運用会社に
対して、監査およびアドバイス業務を提
供。主たる著書として、「投資信託の計
理と決算」
(中央経済社・共著)、「不動
産投信の経理と税務」
(中央経済社・共
公認会計士、PwC あらた監査法人 第
3金融部(資産運用)パートナー 不動
産運用インダストリー全般、J リートお
よび私募不動産ファンドなどに対して、
監査およびアドバイス業務を提供。主た
る著書として、「ファンド投資のモニタ
リング手法」(中央経済社・共著)、「不
動産投資法人(J リート)設立と上場の
手引き」(不動産証券化協会・共著)、「集
公認会計士、PwC あらた監査法人 第
3金融部(資産運用)ディレクター 不
動産運用インダストリー全般、J リート
および私募不動産ファンドなどに対し
て、監査およびアドバイス業務を提供。
PwC ニューヨーク事務所で 2 年間勤務、
不動産ファンド及び運用会社の米国基
準・IFRS 基準財務諸表の監査に従事。
著)
、
「集団投資スキームの会計と税務」
(中央経済社・共著)等。PwC あらた
監査法人の不動産業・IFRS チャンピオ
ン、および PwC・Global の IFRS・業
種別委員会・不動産部会の委員を務める。
団投資スキームの会計と税務」(中央経
済社・共著)、
「投資信託の計理と決算」
(中
央経済社・共著)等。不動産証券化協会
IFRS コンバージェンスグループ委員及
び日本公認会計協会 投資信託等専門部
会及び経営研究調査会、バリュエーショ
ン専門部会 専門委員。
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