「自立した生徒を育てる」~生かして「挑戦」,生かされて「感謝」 ,学ぶ喜びと「感動」の創出~ 【職員版】 校長だより №8 平成 27 年 6 月 17 日(水) 安芸太田町立筒賀中学校 校 長 近藤 毅 【 「学ぶこと」と「生きること」のつながりを求めて! 生き方をみつめる 】 生徒一人一人の夢が志につながる可能性を信じて! ●先日,生徒全員に対しての面接を終えました。校長のたっての希望による面接で,昼休みと放 課後で一人当たり10分程度の面接でした。上級生には将来の夢についてたずねました。 車,スポーツ,林業,宅配業,教育関係等。一人一人の夢は異なっていましたが,就きたい仕 事のきっかけは周りの大人とのかかわりの中にありました。 「両親が車が好きで,自分もタイヤ交換を手伝ったりしていて車 に興味を…」 「小学校のとき,とてもお世話になった先生から卒業時にいただ いた手紙に『将来一緒に仕事できたらいいね』と書いてくださっ たことから…」 「冬場,雪で隠れて見えないくらいの細い坂道をやっとの思いで 自宅を探し,大切な贈り物を届けてくださった宅配業の方の真剣 な姿が忘れられなくて…」等々。 ●一人一人の生徒から将来の夢について聞いていると,ある教え子のことを思い出しました。 「将来,料理人になりたい」といっていた当時中学3年の男子生徒です。母子家庭であり,病気 がちの彼の母親は入退院を繰り返す状態でした。参観日や体育祭などの行事のたびに母親から参 加できない旨の電話があり,私に詫びておられました。 進路決定の時期を迎えたある日,「おかあさん,懇談はこれそうか」と彼にたずねると,「病気 がひどくなっていて,また入院するようになるかもしれんので…」といいます。彼はうつむきな がら口を結んでいました。気になって何度かそっと家庭訪問すると,せっせと洗濯や掃除などを している彼がいました。教室では見せない母親の支えとなっている彼の姿がそこにありました。 卒業文集の「10年後の私へ」という彼の作文です。 10年後の私へ。もう一人前の料理人になっていますか。 いま私は,病気の母のためにも, 『人の心まで元気にする料理』をつくる料理人になりたいと思 っています。確かに,私は短気で飽きっぽいところがあるので,そう簡単にはいかないことは, 亡くなった漁師である父からよく聞かされていたのでわかっています。でも,料理は好きなこと だし,たとえ料理修行がきつくても辛抱して続けられていると思うのです。 だから10年後の私へ。あなたは,店を構えるまでにはなってないと思いますが,もう一人前 の料理人にはなっていますよね。中学卒業前の今,私は「この夢をかなえる」と決心したのです。 ●病弱の母を元気にするような料理,心まで元気にする料理をつくれる料理人になるのだ,と いう彼の確かな志が伝わってきます。卒業後も,彼は何度か学校を訪ねてきて,先生たちへの感 謝の言葉とともに, 「母が来てくれたあの日,自分にとって感謝と決意の日でした」と,卒業式の 日のことを話してくれました。息子の夢を聞き,この作文を読んで「ありがとう」と言ってくれ た母の顔が,泣きはらした笑顔だったそうです。 「上手になったら,最初の料理はかあさんに食べ てもらうんだぞ」というと,彼は「はい!」と笑顔でこたえてくれました。 以後,私は他の学校への異動もあり,彼とは音信不通となりました。 のちに知ったことですが,彼が高校ニ年になった春に母親は他界し,一人になった彼のことを 心配した親戚からの口添えで,大阪の料理店への住み込みの見習いとなったそうです。 一番食べて欲しかった人への彼の願いは叶いませんでしたが,きっと彼のことだから,人の心 までも元気にする料理をつくるという,その志は必ず叶えていると思います。そして叶うならば, いつか彼の料理を食べてみたいと思うのです。 ●本校生徒も,しっかりとした夢を持っています。私たちは,中学生という現時点で描いている 生徒一人一人の夢が,志にまでつながる可能性を信じ,学ぶことと生きることのつながりを生徒 とともに探究しようとしています。描いた夢を確かなものにするためにも,日々の授業や地域活 動,職場体験等,一つ一つの活動における生徒にとっての意味づけを確かにしつつ,自分の可能 性と出会うことができ,すばらしい生き方と出会えるよう,教育実践の質を高めていきましょう。
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