小論文 - 河合塾

小論文
慶應義塾大学 看護医療学部 1/2
<総括>
試験時間
70 分
総解答字数
700 字
今年度は 2 問構成の出題である。課題文は、小論文問題としては看護医療学部創設以来3度目の福沢諭吉
関連の出題である。ただし、さすがに今回は福沢自身の著作ではなく、咸臨丸で渡米する際の福沢について
論じた宇沢弘文の文章を素材に、内容の読解と見解論述を求めている。設問形式、課題文とも、例年の傾向
に沿った出題と言ってよいだろう。
問題 1 では、福沢の日記の記述をもとに、筆者が福沢について指摘する「物事の本質を見抜く観察の目」
とはどのようなことかを説明することが求められている。問題 2 でも「福沢諭吉のもっていたリベラリズム
の思想」について、やはり課題文の福沢のエピソードをもとに説明することが求められている。問題 1、問題
2 とも読み取った内容をもとに推測することが設問の要求になっている。
課題文の読解と自分の個人的な経験
を素材とする論述で解答可能であった昨年度の問題とは異なり、文脈を読み取り推測する力や、論述では広
く社会的な視点が要求される問題になっている。
<課題文の分析>
大問番号
内
容
(主題)
福沢諭吉のリベラリズムの思想
出
典
(作者)
宇沢弘文『経済学と人間の心』
、東洋経済新報社、2003 年、pp.243~246 より抜粋
長短・
難易等
前年比較
長短(短い・変化なし・長い) 難易(易化・変化なし・難化)
<大問分析>
大問
出題
形式
課題文
テーマ・課題文の内容
設問
設問形式
一般教養的
問題 1 説明
問題 2 説明+
論述
解答
字数
100 字
コメント(設問内容・論述ポイントな
ど)
下線部①「物事の本質を見抜く観察の
目」とはどのようなことを指している
か、本文の内容を参考にして説明する。
600 字
下線部②「福沢諭吉のもっていたリベ
ラリズムの思想」とはどのような事か。
本文の内容を参考に説明し、それに対
する自分の考えを加えて述べる。
※出題形式は「テーマ・課題文(英文を含む場合は付記する)
・図表・その他」
※テーマ・課題文の内容は「一般教養的・学部系統的・教科論述的・その他」
※設問形式は「論述・要約・説明・分析・その他」
© 河合塾
2016 年
小論文
慶應義塾大学 看護医療学部 2/2
<答案作成上のポイント・学習対策等>
例年通り、ひとまとまりの文章を正確に読解し、その内容を的確に理解する力と、読解した内容を踏まえ
て、自分の考えを論述する、という作業が要請されている。
<総括>でも述べたように、課題文は咸臨丸で渡米する際の福沢について論じた宇沢弘文の文章である。
随筆であるため、決して難しい文章ではないが、説明的な記述に乏しく、解答作成にあたっては文脈から推
測していく作業が必要になる。
問題 1 は、福沢諭吉の日記中のエピソードから筆者が福沢について指摘する、下線部①「物事の本質を見
抜く観察の目」を説明することが求められている。文中には明示的な言及はないため、福沢の日記の記述か
ら、この場合の「物事の本質」とは何を指すのかを推測して説明することになる。
問題 2 は、下線部②「福沢諭吉のもっていたリベラリズムの思想」とはどのようなことかを説明した上で、
それに対する自分の考えを述べることが求められている。ここでも、福沢のリベラリズムの内実について明
示的な説明はないため、咸臨丸での若い水夫とのエピソードをもとに、自分なりの説明をする必要がある。
咸臨丸でのきびしい階級制の中で福沢が自分より低い階級の水夫と親しくなり、その死後も墓を作り墓参し
たことや、
「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」という言葉から考える。福沢の思想やリベ
ラリズムについての知識があれば助けになるだろうが、そうでない場合はハードルが高めの問になるかもし
れない。また、自分の考えは、たんに福沢のリベラリズムの是非を論じても意味がない。現代社会において、
福沢の時代の階級制や水夫の扱いは到底肯定しがたいものなのだから、福沢の思想が現代の社会のどのよう
な側面でどのように意義を持つのか、どのように実現されるべきか、また、実現するにあたっての課題はど
のようなことが考えられるかなど、具体的に論じる必要があるだろう。
医療・看護系の入試の小論文問題の出題内容は、医療や科学技術に関連する内容から社会的な問題の考察、
自分自身の経験をもとにした考察など年度によって変化し、一定の明確な傾向は見られない。そのため、ど
のような問題にも対応できるように、普段から見聞を広めておくことが必要である。
福沢諭吉のリベラリズムの思想を社会的共通資本の重要性を主張する経済学者、宇沢弘文が論じているの
も、福沢の思想が現代社会の抱えるさまざまな問題に通底する視点を与えてくれるものだからである。医療
はもとより、社会・経済問題、環境問題など多様な問題について、人間の尊厳を守り、市民的自由を保障す
る形で解決策を提案することは困難だが、目指すべき目標とされるべきであろう。
医療の社会的な意義やあり方が問われる現在、医療従事者を目指す受験生には、広く社会や人間に関心を
持つことや、医療も含めて科学や技術のあり方について一定の見識をもつことが求められる。また、身近な
ところから広く社会の問題まで、
「物事の本質を見抜く観察の目」を養うべく、問題発見能力、観察眼や分析
力といった能力を身につけることは、医療系学部を目指す受験生に求められるものであろう。医療や看護に
関する問題にとどまらず、広く社会や人間に関心をもつことを普段から心掛けておきたい。
© 河合塾
2016 年