2015年度センター試験世界史Bと新課程入試の展望

サクラサク入試分析∼これからの傾向と対策∼
2015年度センター試験世界史Bと新課程入試の展望
河合塾世界史講師 井上徳子
はじめに
程版の帝国書院『新詳世界史B』(以下,教科書)
来年2016年度は,世界史の大学入学試験におい
は,
「世界史への扉」で日本に関連する内容が増
て新課程が導入される新課程入試元年である。河
えたほか,
「世界史の中の日本」というコラムが
合塾は新課程の学習指導要領や教科書を分析し,
新たに加わり,新課程入試に対応している。
分析結果を報告する研究会を2011年度から定期的
⑵地理的視点
に行い,2015年の春も各地で開催した。その研究
会で,センター試験世界史Bは次の課程を先取り
2015年度センター試験世界史B本試:第2問 問5
(前略)ポルトガルがアジア進出の拠点と
しており,旧課程(2015年度入試までの課程)の
した都市の名と,その位置を示す次の地図中
試験は新学習指導要領で特徴的な内容をすでに多
のaまたはbとの組合せとして正しいものを,
く含んでいることを報告している。2015年度セン
下の①~④のうちから一つ選べ。 14
ター試験世界史Bは,旧課程にもとづく最後の入
試となったが,それは来年度から始まる新課程入
試を占う材料といえるだろう。
◎新課程入試を視野にいれた本年度本試分析
新学習指導要領は⑴世界史と日本史とのつなが
り,⑵地理的視点,⑶時間軸・空間軸にもとづく
歴史理解,⑷資料の活用,⑸主題を設定して考察
させる学習を強調している。これらのうち⑴~⑷
① ゴア─a
に対応する出題を2015年度本試から取りあげる。
② ゴア─b
⑴世界史と日本史とのつながり
③ カルカッタ(コルカタ)─a
④ カルカッタ(コルカタ)─b
第3問Cのリード文では第一次世界大戦期の日
本の捕虜収容所をテーマに,捕虜収容所の所在地
単に都市の位置を問うのではなく,ポルトガル
を示す日本地図が掲載され,第4問Cのリード文
のアジア進出の拠点が「ゴア」とわかったうえで,
も日本における囲碁の発達をテーマに,吉備真備
その位置を探す形式である。これらの都市は,旧
の図版が使用された。設問ではハーグ密使事件を
課程版教科書p.122に掲載されている地図で確認
扱った
できる。世界史を学ぶ際,都市・国家などの位置
27
,20世紀以降のアメリカ合衆国が日
本・中国と関わった出来事についての整序問題
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や貞享暦に関連する
35 など,日本と関
を教科書の地図で必ず確認する必要がある。
⑶時間軸・空間軸にもとづく歴史理解
連した出題があった。ただし,リード文は下線を
空間軸にもとづく歴史理解を問う問題は,上記
引くための素材にすぎず,設問も世界史で学ぶ範
の地図問題や次にあげるスタイルの問題となる。
囲におさまっていた。ただ,2009年度本試 12
のように日本史そのものの内容が正解となる出題
2015年度センター試験世界史B本試:第1問 問1
下線部①(2世紀)の時期の出来事につい
例もあり,世界史の教科書のなかにある日本史の
て述べた文として正しいものを,次の①~④
情報を見落とさないようにする必要がある。新課
のうちから一つ選べ。
世界史のしおり 2015①
− 10 −
1
① ハルシャ =ヴァルダナが,
北インドを統一した。
る図版に必ず目を通すことが対策である。
② 赤眉の乱が起こった。
◎受験生が苦手とする内容とその克服
③ ローマ帝国で,キリスト教が公認された。
受験生は,センターレベルの用語(おおよそ教
④ 大秦王安敦の使者と称する者が,日南郡
科書の太字レベル)は覚えるのだが,その内容や
(現在のベトナム中部)に到着した。
教科書の太字以外からの出題となると,とたんに
この形式は受験生が非常に苦手とするが,新課
苦手となる。
程版の教科書になって新たに加えられた1部・2
2015年度センター試験世界史B本試:第1問 問8
部・3部の扉の展開図(教科書p.9・p.117・p.219)
下線部⑧(公用語)について述べた次の文
を利用し,今学習している内容がどの時代の出来
aとbの正誤の組合せとして正しいものを,
事で,同時代にどのような出来事が起こっていた
下の①~④のうちから一つ選べ。
のか確認することは,よい対策となるだろう。
a ビザンツ帝国では,公用語がギリシア語
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からラテン語となった。
一方,時間軸にもとづく歴史理解を問う問題は,
b ムガル帝国では,ペルシア語が公用語と
年表問題・年代整序問題などである。
して用いられた。
2015年度センター試験世界史B本試:第1問 問7
① a─正 b─正 ② a─正 b─誤
(前略)次の年表に示したa~dの時期の
③ a─誤 b─正 ④ a─誤 b─誤
うち,オーストラリア連邦が成立した時期と
して正しいものを,下の①~④のうちから一
この問題でbを誤文と考えた受験生が多かった
つ選べ。
ようであるが,旧課程版教科書に「ムガル帝国で
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公用語とされたペルシア語」(p.121)とあるよう
a
に,教科書に記述されている内容である。
1783年 アメリカ合衆国の独立が承認される
新課程のセンター試験世界史Bは,これまでの
b
試験を大筋で踏襲しつつ,新学習指導要領で強調
1837年 ヴィクトリア女王が即位する
c
する出題が増加することも予想され,またそれに
1877年 インド帝国が成立する
連動して新しい形式が出現する可能性がある。い
d
ずれにしろ対策としては,教科書そのものにもと
づいた学習であり,その際,地図・図版・コラム
① a ② b ③ c ④ d
などへの目配りが必要である。
年表問題・年代整序問題は,
必ずしも年号を知っ
2012年度センター試験世界史B本試:第4問 問5
ていなくても解けるように工夫されているものが
下線部④(南アジア)の地域の言語につい
ほとんどである。本問については,オーストラリ
て述べた次の文aとbの正誤の組合せとして
ア連邦がイギリスの自治領であること,19世紀の
正しいものを,下の①~④のうちから一つ選
段階でイギリスの自治領となったのはカナダのみ
べ。
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a インダス文字は,20世紀に解読された。
で,それ以外は20世紀以降の成立であることがわ
b ムガル帝国では,ペルシア語が公用語(公
かっていれば解ける問題である。
式文書に用いられる言語)であった。
⑷資料の活用
① a─正 b─正 ② a─正 b─誤
これに関連した出題はなかったが,グラフの読
③ a─誤 b─正 ④ a─誤 b─誤
み取り問題や図版にあげられた図像そのものを
知っておかなければいけない問題などが出題され
この問題は,2012年度センター試験世界史Bの
たこともある。後者の場合,いずれも当時の教科
本試の問題である。2015年度の
書にのっている図像であった。教科書にのってい
いる。過去問の徹底学習も必要といえよう。
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と酷似して
本コーナーは,学校法人河合塾様にご協力いただきました。
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世界史のしおり 2015①