論述力 慶應義塾大学 <総括> 法学部 1/2 試験時間 90 分 総解答字数 1000 字 まず、立憲主義というテーマは、 「近代」なるもの( 「近代」の社会原理)の意義の確認とその現代におけ る問い直しというこの学部の出題傾向を踏襲したものであり、予想の範囲内である。また、立憲主義は、法 学部受験生の多くが学習済みのテーマであり、 「ケアの倫理」 (2014 年) 、 「関係価値」 (2015 年) 、 「世界文明」 (2016 年)といった課題文ではじめて目にする例年のテーマに比べるなら、受験生には取り組みやすいテー マであったと言える。抽象度が高い例年の課題文に比べて、具体的事例が豊富に示された課題文は読みやす く感じられたかもしれない。また、課題文の筆者は、安保法制において自民党に招かれながら、 「集団的自衛 権に基づく安保法制は違憲である」と断じ、いきなり「時の人」となったから、課題文の出典を含め長谷部 教授の著書を読んだことのある受験生も少なくなかっただろう。 但し、筆者の立憲主義理解は、 「権力を抑制し、人権を守る」ことをその前提としつつも、そのために公私 の区別の重要性を説くものであり、その点をしっかり読解することなく、 「立憲主義とは憲法によって権力を 縛ること」だと早合点し、憲法9条や安保法制について議論しても的外れとなる。 出題形式については、課題文の長さ、試験時間、総解答字数とも変化はなかった。但し、今年は設問にお いて筆者の立憲主義理解を明示することは求められているものの、 (例年のような本格的な) 「要約」は課せ られていない。2014 年以来のことであるが、慶大法学部では、 「要約+見解論述」を基本としつつ、数年お きにそれ以外の要求が課せられるから、過去問を十分に学習していた受験生にとってはこれも予想の範囲内 であったであろう。 <課題文の分析> 大問番号 内 容 (主題) 立憲主義とは何か 出 典 (作者) 長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』 (ちくま新書、2004 年) 長短・ 難易等 前年比較 長短(短い・変化なし・長い) 難易(易化・変化なし・難化) <大問分析> 大問 出題 形式 課題文 テーマ・課題文の内容 学部系統的 設問 設問形式 論述 解答 コメント(設問内容・論述ポイントなど) 字数 1000 字 筆者が立憲主義をどのような原則として 理解しているかを明らかにしつつ、それ に対する自分の考えを述べる。 ※出題形式は「テーマ・課題文(英文を含む場合は付記する) ・図表・その他」 ※テーマ・課題文の内容は「一般教養的・学部系統的・教科論述的・その他」 ※設問形式は「論述・要約・説明・分析・その他」 © 河合塾 2017 年 論述力 慶應義塾大学 法学部 2/2 <答案作成上のポイント・学習対策等> 設問では、 (1)筆者が立憲主義をどのような原則と理解しているか明らかにすること、 (2)筆者の言う 立憲主義の原則に対する自分の考えを述べること、以上、二つの作業が求められている。 (1)では、筆者の立憲主義理解の内容とその核心を明確にする作業が求められている。立憲主義が、① 個々人の抱く価値観は互いに比較不可能であり、②泥沼の対立を避けるためには、個々人が自分の価値観に 従って生きる権利が公平に保障されなければならず、③公私を区別しそれを保障する枠組を構築するために 憲法があることなどが、筆者の立憲主義理解の要点として示される必要がある。その上で、そうした立憲主 義理解からどのような原則が帰結されるかについて、さまざまな解釈を付け加えることも可能である。 (2)では、筆者の立憲主義理解に対する自分の考えが求められている。 「対する」とあるからといって賛 否を示すことが求められているわけではない。設問は、筆者の考えに対する自分なりの評価やスタンスを示 した上で、筆者のいう立憲主義の意義や問題点を、現代社会の具体的な現実を踏まえて検討することを求め ていると理解すべきだ。筆者の立憲主義理解に即して、公私が区別されず、個人の価値観と自己決定に委ね られるべき私的領域に権力が不当な介入をしていることを論じるのが順当であろう。公教育における日の丸 掲揚・君が代斉唱の強制、道徳の教科化、政権分離に抵触する首相の靖国神社公式参拝、自由な価値観に従 って生きる個人を否定する自民党の憲法改正草案などを具体例として考察すればよい。また、公私の区別に よって公的問題が私的領域に封じ込められていることを主題化することもできる。新自由主義に基づく「自 己責任」論や障がい者や子どもといった自己決定できない存在の権利などを例に、公私の区別や自己決定へ のこだわりがもたらす問題を取り上げて論じていけばよい。河合塾で小論文講座を受講していた受験生にと っては、設問の意図さえ読み違えなければ、こうした作業は必ずしも難しくなかったはずだ。 学習対策としては例年どおり、以下の四点を指摘しておきたい。 ① 個人主義、人権、社会契約、立憲主義など、世界史や倫理・政経などの学習を通じて「近代」の社会原 理に関する知識と教養を高めておく。 ② 現代社会(日本および世界)において、今、何が、どのような問題となっているのか、新聞や読書、ネ ットの情報などを通じて、問題関心を養っておく。 ③ 過去問学習を通じて、出題側の一貫した問題意識を理解するとともに、 「概念」を用いて、具体的な現実 を分析する能力を身につける。 ④ 予備校の授業や講習、模試などを積極的に受け、自分にどれだけの能力があるか、学習の到達度を確認 すると同時に、小論文を解答する作業に慣れ親しみ、苦手意識を克服する(小論文は、その性質上、自 学自習が困難だからだ) 。 © 河合塾 2017 年
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