Economic Trends マクロ経済分析レポート テーマ:増えていなかった2014年の所定内給与 ~過去の賃金指数が下方修正され、2014年の所定内給与は減少へと姿が変わった~ 発表日:2015年4月3日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 担当 主席エコノミスト 新家 義貴 TEL:03-5221-4528 要旨 ○毎月勤労統計で過去の値が遡及改訂された。これまでの公表値では所定内給与は 2014 年6月以降小幅 プラスが続いていたが、改訂により下方修正され、14 年の所定内給与は減少していたという姿に変わ った。規模 30 人以上事業所の抽出替えに際して実施されたギャップ修正が今回の改訂をもたらした。 ○改訂後の値でも 15 年1、2月の所定内給与はプラスに転じており、賃金増加シナリオを変更する必要 はない。春闘の結果を踏まえれば、2015 年春以降の所定内給与は 2014 年対比改善が期待できる。 ○とはいえ、そもそも 2014 年の所定内給与の伸び自体が下方修正されていることを考えると、これまで 想定されていたよりも 2015 年度の所定内給与は伸びが高まらない可能性が出てきた。 ○ 統計の遡及改訂により、2014 年の所定内給与は減少に転じる 公表が延期されていた毎月勤労統計が、本日ようやく公表された。新たに公表されたのは 2015 年1月(確 報)、2月(速報)の値なのだが、今回サプライズだったのは、過去の値の遡及改訂結果だ。 これまでのエコノミストの認識としては、「所定内給与は 2014 年6月以降、小幅ながら増加」というもの だったのだが、今回の改訂では全面的な下方修正が実施され、「2014 年の所定内給与は全く増加していなか った」という姿に変わってしまった。2014 年(暦年)平均で見ると、旧指数が前年比 0.0%、新指数が前年 比▲0.4%であり、0.4%Pt の下方修正となっている。現金給与総額でも 0.4%Pt の下方修正(旧:+0.8%、 新:+0.4%)、実質賃金でも 0.3%Pt の下方修正(旧:▲2.5%、新:▲2.8%)である。今回の改訂により実 質賃金の下落幅は一層大きくなっており、実質賃金の減少が 2014 年度の消費不振をもたらしていたことが改 めて裏付けられた格好になる。また、増加していたと思われていた所定内給与が実際には減少していたこと はショッキングだ。 (%) (%) 所定内給与(前年比) 0.6 差 0.4 0.2 差 改訂前 2 改訂前 改訂後 1.5 改訂後 0 1 -0.2 0.5 -0.4 0 -0.6 -0.5 -0.8 -1 -1 -1.5 -1.2 -2 -1.4 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 12 現金給与総額(前年比) 2.5 13 14 -2.5 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 12 13 14 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 ○ 遡及改訂の原因 今回の遡及改訂をもたらしたのは、規模 30 人以上事業所の抽出替えに際して実施されたギャップ(断層) 修正だ。以下、簡単に説明しよう。 毎月勤労統計では、規模 30 人以上事業所について、調査対象事業所を3年間固定している。これにより、 時系列的な比較が可能になる。もっとも、調査サンプルを固定することにはデメリットもある。サンプルを 固定することにより、時間の経過により相対的に開設時期の古い事業所が多く対象となり、新設された事業 所の状況が反映されにくくなってしまうという問題点があるため、集計結果が経済実態とずれてしまう可能 性がある。 これを防ぐため、毎月勤労統計では約3年ごとに規模 30 人以上事業所のサンプル替えを行っている。これ により、より実態に近い値が集計できると期待されるのだが、一方、旧サンプルと新サンプルでは当然のこ とながら賃金等の水準が異なるため、このギャップをどうするかが問題になる。そのため、厚生労働省では、 時系列的な比較を行えるようにするため、新旧サンプルの間のズレについて調整を行っている。これがギャ ップ修正と言われる作業である。なお、新旧サンプルの差については、(今回で言えば)2015 年1月になっ て急に乖離が生まれたわけではなく、過去3年間において累積的にズレが生じてきたものと考える。そのた め、今回の改訂では 2015 年1月だけにとどまらず、過去3年間について遡及的に指数が改訂されている。こ れが、今回の改訂のあらましである。 (出所)厚生労働省HP「毎月勤労統計の指数等の改訂について」 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 ○ 2015 年度の所定内給与も大幅改善は期待薄? このように、2014 年の所定内給与は増えていなかったということが示されたわけだが、不幸中の幸いは、 2015 年1月は前年比+0.2%、2月は+0.5%と、2015 年入り以降は所定内給与がプラスに転じていることで ある。所定内給与が足元においてもなお減少を続けているというわけではないようだ。また、今年の春闘で は、昨年以上のベースアップが実施されることが示唆されており、2015 年春以降の所定内給与は増加幅を高 めていくことが期待できるだろう。 とはいえ、今回の改訂で、そもそもの目線が切り下がったことは事実だ。2015 年度の所定内給与では 2014 年度対比改善が見込まれるが、そもそもの 2014 年の所定内給与自体が増えていなかったわけであり、2015 年度の所定内給与について大幅な改善を期待することは難しくなった。これまで想定されていたよりも、 2015 年度の所定内給与は伸びが高まらないのかもしれない。公表日の延期や突然の公表といい、遡及改定の 内容といい、なんとも人騒がせな今回の毎月勤労統計だった。 (参考) 厚生労働省HP「毎月勤労統計の指数等の改訂について」 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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