暮らしの法律 第 34 回 山村 行弘 Yamamura Yukihiro 弁護士。第一東京弁護士会所属 一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談 などを手がける。 協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所) 相続できるはずの土地が 処分されていたら? ? 相談者の 気持ち 2人兄弟の長男です。先日亡くなった父親の遺言書に 「土地は長男が相続する」 と書かれていました。しかし、その土地は1年前に売却されており、遺言書は 2年前に書かれたものです。せめて土地を売却した金額分だけでも相続して、 もらうことはできないでしょうか。 本件では、遺言書に 「土地は 遺言は、遺言書の作成の時に成立しますが、 その効力が発生するのは、遺言者が死亡した時 長男が相続する」と書かれてい からです (民法 985 条 1 項) 。したがって、遺言 ますが、この遺言書が作成され によって利益を受けることが予定されている者 た後に、遺言者である父親が土 も、遺言者が死亡するまでは、何らの権利も有 地を処分しています。 このように、遺言者である父親が遺言と抵触 していません。 する生前処分をしていたのですから、これは、 そもそも遺言は、遺言者の最終の意思に効力 を認めようとする制度ですから、遺言者は、いつ 前記③の遺言撤回の方法に該当し、 「土地は長 でも自由に撤回し、あるいは新たに遺言をする 男が相続する」という部分については、遺言が ことが保障される必要があります。そこで、民 撤回されたものと見なされます。 法は、遺言撤回の方法として、①原遺言を撤回 その結果、長男は、父親の死後土地について する旨の遺言による撤回 (1022 条)②前の遺言 何らの権利も有していないことになり、土地を と抵触する遺言による撤回 (1023 条 1 項)③遺 売却して得られた金額分についてもその全額を 言と抵触する生前処分その他の法律行為による 相続する権利はありません。 撤回(1023 条 2 項)④遺言書の破棄による撤回 なお、前記③の遺言撤回は、遺言と抵触する (1024 条前段)⑤遺言の目的物の破棄による撤 生前処分の範囲で撤回の効力が生じるものです 回 (1024 条後段)を規定しているほか、遺言を ので、土地以外の遺産については、特段これを 撤回する権利を放棄することはできないものと 撤回するものがなければ、遺言書の記載どおり しています(1026 条) 。これは、遺言が公正証 の効力が生じます。土地を売却して得られた金 書でなされていても自筆証書でなされていても 銭は、これが遺産として残っており、遺言書に 変わりありません。 現金や預貯金の帰属についての記載がなければ、 法定相続分に従って、長男と次男で相続するこ なお、撤回の範囲は、遺言の全部でも一部で ととなるでしょう。 もよく、遺言に条件・期限がついている場合に は、条件・期限だけを撤回することもできます。 2015.3 国民生活 33
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