暮らしの法律 第 33 回 山村 行弘 Yamamura Yukihiro 弁護士。第一東京弁護士会所属 一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談 などを手がける。 協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所) 借用書のない借金は返してもらえない? ? 相談者の 気持ち 2年前友人に 50 万円貸しました。「すぐに返す」と言ったので借用書は作りま せんでしたが、催促しても返してくれません。借用書がないと、返してもら えないのでしょうか? 他人にお金を貸す契約を、金銭消費貸借契約 間は、返済期限の定めがある場 (民法 587 条) といいますが、これは、お金を返し 合は当該期限到来時から 10 年 てもらう約束をして、お金を交付すれば成立し、 間、返済期限の定めがない場合 契約書や借用書を作成する必要はありません。 は契約成立後相当期間が経過し このように、契約の成立に格別の形式が必要と てから 10 年間ですので、時効 されない契約を不要式契約といいます (これに対 の点は問題となりません。 して、契約の成立のために一定の形式が必要な 前述のとおり、貸主は借用書の有無に関係な 契約を要式契約といい、例えば、保証契約を締 くお金を返してもらえる、というのが建前です 結する場合、その契約は書面でしなければ効力 が、借主が返してくれない場合、裁判等を起こ が生じないものとされています (同 446 条) ) 。 す必要があるでしょう。その場合、お金を返す 以上のように、金銭消費貸借契約は、借用書 ことを約束した事実やお金を交付した事実は、 がなくても成立しますので、借主は返すことを 貸主側で証明しなければなりません。借主が、 約束してお金の交付を受けた以上、お金の返還 「金銭の交付は受けていない」 「金銭の交付は受 義務を負います。この場合、貸主と借主が返済 けたが、返す約束はしていない」などと主張し 期限を定めていたときは、借主は、返済期限が た場合、借用書があれば上記事実を容易に証明 到来するまでは、返還を拒むことができます。 できるのですが、借用書がない場合には、これ 返済期限が定められていなかったときは、貸主 らの事実を推認させるさまざまな事実を積み重 が借主に返還の催告をして、それから相当の期 ねて証明を行う必要があり、この証明ができな 間が経過すれば、返還時期が到来したことにな ければ、 お金を返してもらうことはできません。 ります (同 591条1項) 。この 「相当の期間」 の長 このように、借用書を作成せずにお金を貸す さは、契約の目的や、金額その他の具体的事情 と、 借主が返済を拒否し裁判になった場合には、 により客観的に決せられます。 返してもらうために手間もコストもかかります。 お金を貸す場合は、必ず借用書や契約書を作成 なお、本件では、2年前に貸したということ するようにしましょう。 ですが、個人間の貸金返還請求権の消滅時効期 2015.2 国民生活 35
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