米国、金利上昇と原油高招くドル安は回避

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株式会社ジャパンエコノミックパルス
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米国、金利上昇と原油高招くドル安は回避
ドル高牽制を制御、ドル高が米債流入と原油安を後押し
米国では政治的・政策的なドル高牽制が強まって
いるが、現状からのドル安は米債金利低下(債券価格
は上昇)と原油安の反動波乱を招く危うさを秘めて
いる。昨年からは安全逃避やドルの先高見通し、ド
ル高による米国のインフレ抑制が米国債シフトを加
速させたほか、ドル高が需給悪化に伴う原油安をオ
ーバーシュートさせてきた。結果としての金利急低
下や原油急落が、世界減速下での米国の内需復調を
支援しており、ただでさえ FRB の利上げ時期判断が
難しさを増す中で、市場原理に逆行した過度なドル
高牽制は制御されよう。
過去のドル高周期は 5 年、現在は初期段階
「過去 2 回の大幅なドル高サイクルは、1980-1985
年、1995-2000 年と 5 年近く持続された。一方で現
在の(実効相場ベースでの)ドル高局面はまだ 1 年も
たっておらず、他国との相対的な債券利回り格差や
金融政策の違い、相対的な経済パフォーマンスなど
でのドルのポジティブな環境を考慮すれば、ドル高
は長期化する可能性がある」――。
米国の著名独立系エコノミストは、3 月上旬のレ
ポートでこのような見通しを示している。
米インターコンチネンタル取引所が算出している
ドル実効指数は、直近安値である昨年 5 月の 78.90
ポイントから、3 月 12 日には 100 超えと 2003 年 4
月以来の高値を更新してきた。さすがに 1 年足らず
で+27%前後の上昇にはスピード過熱が警戒されて
いるが、同エコノミストは「1985 年のドル指数ピー
クは 160、2000 年は 120 であり、まだ大幅にドルが
過大評価されているわけではない」と指摘。先行き
米 FRB による実際の利上げ開始といったドル高材料
が残されており、ドル一段高の可能性に言及してい
る。
その中でドル/円はユーロ/円でのユーロ安・円高
など、クロス円での円高圧力によってドルの上値が
抑えられている。それでも中期トレンドラインを示
す 13 週移動平均線(12 日時点で 119.25 円前後)
は、
方向性が 2 月からの横這いを経て微妙な上向きへと
回帰し始めた。13 週線などを下値メドとしたドル押
し目買い地合いと、緩やかな下限切り上がりトレン
ドの継続が意識されやすい。ドル/円の上値メドとし
ては、まず 2007 年 6 月の高値 124.14 円前後、続い
て消費者物価指数(CPI)ベースのドル/円・購買力平
価である 130.35 円(1973 年基準、1 月時点、国際通
貨研究所の算出)方向が視界に入ってきた。
もっともドル全面高を受けて、米国から政治的・
政策的なドル高牽制が強まっている。目先は対ユー
[email protected]
2015/3/16
ロなどでのドル高の過熱感もあり、ドル高牽制発言
が調整のドル安材料となるほか、17-18 日の FOMC
声明ではドル高リスクに配慮して、利上げ時期を 6
月以降に遅延するヒントを示す可能性がある。
しかし、米国のドル高牽制は当面、あくまでスピ
ード制御にとどまりそうだ。もちろん、さらなるド
ル高は米国の輸出企業や多国籍企業の収益にマイナ
スとなるほか、デフレ懸念を強めるリスクをはらむ。
一方で短期的な相対リスクでいえば、現段階からの
ドル安は昨年から過熱してきた米国債金利の急低下
(債券価格は上昇)と原油急落の反動調整を誘発。せ
っかくの米国の内需回復機運に対して、冷や水をか
ぶせる危うさを秘めている。しかも適度なドル高に
ついては、FRB による「辛抱強い低金利の維持」を
サポートし、利上げ遅延などを通じて、長期金利の
低位安定に寄与するプラス面もある。
これまで長期金利については、FRB が最優先課題
として徹底した押し下げ策を講じてきた。昨年以降
は安全逃避やドルの先高見通し、ドル高による米国
のインフレ抑制などもあり、米国債シフトが加速さ
れている(金利は急低下)。米国債市場は米国マネー
による本国回帰の受け皿となったほか、海外マネー
の米国流入を呼び込むことで、
「米債金利低下=米債
価格上昇」と「ドル高」という同時進行を招いてい
る。
製造業の雇用限界、当座しのぎでも非製造業重要
その中で米国債は理論値を超えて買われ過ぎてお
り(金利は急低下)、FRB 内部では「過剰な金利低下
の行き過ぎの反動混乱」も警戒され始めた。米国で
は低インフレが懸念されているが、まだデフレには
陥っておらず、昨年 10-12 月の名目 GDP も前年比+
3.6%が維持されている。GDP での個人消費支出
(PCE)デフレーターは深刻な低下が続いているが、
食品とエネルギーを除いたコアは+1.1%と何とか
小幅プラスで踏みとどまった。名目の長期金利は経
済学上、名目成長率やインフレ率が加味されて形成
されるが、その点からすれば現状の 10 年債金利であ
る 2%前後は、まだ「金利低下の行き過ぎゾーン」
にある。
依然として米国債バブルの過熱警戒が残るなか、
米国サイドが市場原理に逆行して、ドル高牽制を強
め過ぎると、ドルの反落が米国債価格の過熱調整を
招きかねない。リーマン・ショック以降でも、2009
年 3 月以降や 2010 年 10 月以降、2013 年 6 月以降な
どで、米国債価格の下落(金利は上昇)とドル安の
同時進行が観測されてきた。すでに 12 日の欧州市場
でも、一時的に「米国債金利上昇の中でのドル安」
という組み合わせが見られている。
ただでさえ、昨年以降の米国債金利の低下局面で
も、海外の外貨準備高マネーや公的部門は戻り売り
圧力を強めている。FRB が発表した 3 月 4 日時点の
外国中央銀行による米財務省証券保有高は、-145
億 4300 万ドル減の 2 兆 9250 億ドルとなった。直近
ピークである昨年 9 月 17 日の 3 兆 0299 億ドルから
は、-1051 億ドルの減少となっている。同保有高は
リーマン・ショック前後にあたる 2008 年 9 月の 1.4
兆ドル以降、2 倍以上の急膨張となったが、昨年 9
月以降は米債価格の上昇でも減少傾向が続いている。
背景としては、債券価格面での高値警戒感や低金
利を嫌気した敬遠のほか、1)ロシアなどのドル不足、
2)ロシアなど一部新興国による自国通貨買い・ドル
売り介入、3)資源下落による資源産出国の経常黒字
減少と米国債還流の減少、4)同様に世界減速による
中国などの経常黒字減少、5)中国によるシルクロー
ド基金創設(アジア域内のインフラ整備)などへの
外準活用――が影響している。一方で FRB は昨年 10
月で米国債の買い入れを終了しており、その中での
ドル安は米国債からの資金流出を促す脆さが底流部
分で醸成されている。
さらに昨年後半からは、ドル高が原油急落を後押
しさせてきた。根底では世界減速による需要減少や、
資源生産の過剰供給という需給要因があるが、ドル
高が資源急落をオーバーシュートさせている。原油
急落と金利急低下などを受けて、米国経済は世界減
金利上昇↑
3.9
3.6
3.3
3.0
2.7
2.4
2.1
1.8
1.5
98
95
92
89
86
83
80
77
74
Jan-15
Oct-14
金利
上昇↑
Jul-14
Apr-14
Jan-14
Oct-13
Jul-13
Apr-13
10年債(左軸)
26週線
バンド下限
ドル指数(右軸)
Jan-13
Oct-12
Jul-12
Apr-12
Jan-12
Oct-11
Jul-11
Apr-11
Jan-11
Oct-10
Jul-10
Apr-10
Jan-10
FRB保管の外国中銀
米財務省証券保有高
52週移動平均線
米10年債金利
↓減少転換
↓減少
2.9
2.7
2.5
2.3
2.1
1.9
1.7
1.5
保有高(左軸)
52週線
米10年債(右軸)
Feb-15
Dec-14
Nov-14
Sep-14
Jul-14
Jun-14
Apr-14
Mar-14
Jan-14
Nov-13
Oct-13
Aug-13
Jul-13
May-13
Mar-13
Feb-13
Dec-12
Oct-12
Sep-12
Jul-12
Jun-12
兆
㌦
Oct-09
3.01
2.98
2.95
2.92
2.89
2.86
2.83
2.80
米10年債金利;26週移動平均線を
ドル高↑
中央値のボリンジャーバンド
ドル指数(インターコンチネンタル取引所)
↓金利低下
ドル安↓
Jul-09
%
速の中でも内需回復の勢いが加速。米国の雇用統計
は 1 月、2 月と予想を上回ったが、いずれも内需サ
ービス関連の雇用増加が押し上げ要因となっている。
もちろん、非製造業中心の雇用回復は、1)生産性
の低下、2)賃金の伸び悩み、3)非正規社員の増加―
―といった脆弱性をはらんでいる。しかし、現在は
欧州や中国などで減速が深刻化しており、いくらド
ル安にしても製造業の輸出拡大や雇用増加には限界
がある。しかも製造業は中国を始めとして世界的に
過剰供給が重石となっているほか、IT 化やロボット
化などにより、雇用増加の伸びシロは狭まってきた。
米国では 2008 年から 2012 年にかけてドル安政策を
強化させたが、現在の日本と同様、多国籍企業の決
算で見かけ上の為替差益は増加したが、製造業部門
の国内雇用増加は僅かにとどまった。
その中で米国の政治的・政策的な最優先課題であ
る「雇用の増加」のためには、当座しのぎではあっ
ても、原油安や金利低下による非製造業部門の回復
に頼らざるを得ず、現状からドル高ペースの牽制は
あっても、ドル安を促すような政策対応は尚早とい
えよう。原油相場については、足元では供給削減や
在庫調整が進捗し、春以降の資源需要とあいまって、
下げ止まり傾向にある。その中でドル安が重なるよ
うなら、大きく膨張してきた空売りの巻き戻しもあ
り、原油の短期反発がオーバーシュート。景気への
悪影響が警戒され、FRB の利上げ時期判断を一段と
難しくさせることになる。
%
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