日本株を日本が買う

2015年3月
03
日本株を日本が買う
チーフ・ストラテジスト
神山 直樹
●信託銀行の買いがマーケット上昇とともに増えた
●海外投資家と信託銀行が、どちらも市場と同じ方向で売買をしている
●かんぽ資金にも市場の注目
●リバランスの動きで、日銀のインフレ目標政策成功の可能性が増す
マーケット上昇と信託銀行の買い
2012年後半に始まる日本株の上昇局面に
おいて、信託銀行(日本の公的・企業年金、
共済組合やかんぽ生命などの株式の売買を
行なう)は売越し主体だった。ところが、2014
年から最近までの株価上昇局面では、信託
銀行は買越し主体となっている。これまで長
らく海外投資家から「国内投資家が買わない
市場は危ないのではないか」と懸念されてき
た日本株式市場だが、いまや国内機関投資
家が日本株の買い手に回っている。
(10億円)
300
200
100
0
-100
-200
-300
-400
-500
-600
12/11
信託銀行の売買代金とTOPIXの推移
(2012年11月第1週~2015年2月第2週)
(ポイント)
信託銀行の売買代金(左軸)
TOPIX(右軸)
※週次データ
13/3
13/7
13/11
14/3
14/7
1,500
1,400
1,300
1,200
1,100
1,000
900
800
700
600
14/11 (年/月)
(信頼できると判断したデータをもとに日興アセッ トマネジメントが作成)
一般に日本の年金資金運用では、長期の年金負債の支払い能力を維持するために固定的に基本(ベースラ
イン)アロケーションを決めている。売買の回数を減らすためと戦術的なアロケーション変更のために短期的な
ベースライン・アロケーションからのかい離を許すようになっているものの、許容幅がそれほど大きくないことか
ら、基本線を維持するために「上がれば売り、下がれば買う」投資主体だった。結果として年金など(信託銀
行)の売買は下がったら買うが上がったら売る逆張り型だった。この「上がったら売る」傾向は、2013年の株価
上昇時にも明確に示されていた。
しかし、2014年から最近までの株価上昇時には、信託銀行が買越し主体となっている。これは、年金などの
資金が「上がったら売る」アロケーション戦略を突然変えたからではないだろう。信託銀行を通じた株式の買い
付けは、年金などの資金が、ベースライン・アロケーションを大幅に変えて株式の比率を増やしたと考えるほう
が適当だ。
※上記は過去のものであり、将来の市場環境などを保証するものではありません。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
覧ください。
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信託の売り買いと市場の方向の相関が高まる
株価指数と投資主体別売買高をより詳しく見てみると、株価指数(TOPIX)の動きと同じ方向に売買する
(TOPIXが上がる時に買い越す傾向にある)海外投資家と逆張り(TOPIXが上がる時に売り越す傾向にある)
個人投資家とが日本株市場を特徴づけてきたことが分かる。
売買金額とTOPIX(変化率)の相関(52週)
52週(約1年)の週次売買動向とTOPIXの
(2012年11月第1週~2015年2月第2週)
変化率(前週比)の相関がどう推移してきた
1.0
かを見てみよう。海外投資家はおおむねい
0.5
つもプラス(つまりTOPIXが上がった時に買
い越す)だが、個人はおおむねいつもマイナ
0.26
0.0
ス(下がった時に買い越す、逆張り)であるこ
とがわかる。信託銀行はTOPIXの変化に対
海外投資家
信託銀行
個人
-0.5
してあまり大きな相関をもたなかったのだが、
2014年になるとプラスの相関が強まり、これ
-1.0
12/11
13/3
13/7
13/11
14/3
14/7
14/11 (年/月)
まであまりなかった+0.2を超える水準となっ
※週次売買金額とTOPIXの変化率(前週比)との52週間の相関係数
ている。
(信頼できると判断したデータをもとに日興アセッ トマネジメントが作 成)
海外投資家はTOPIXの方向と売り買いが同じ(TOPIXが上昇するときに買う)ことが多い。なぜならば、海外
投資家は、経済見通しに基づいて戦術的にアロケーションを大きく動かす投資家が多いからだ。ベースライン
重視で逆張りの日本型と景気見通し重視で順張りの海外投資家型のどちらがパフォーマンスがよいかは分か
らない(一般に、相場のトレンドが強い時には順張りがよいが、安定した相場水準では逆張りが有効)が、「海外
投資家が株価指数を方向づけてきた」と考えることは間違いではなさそうだ。+0.7程度という相関の大きさが、
それを示している。
信託銀行は株価指数の方向にあまり影響を与えなかったように見えていたが、2014年に入って、海外投資家
に比べて小さいもののプラスの相関となっており、信託銀行の売買が株価指数の方向に影響を及ぼすように
なったことが示唆される。
注目の新しい資金とは
国内の新たな株式の買い手について、市場
参加者はかんぽ生命の動向に興味を持っ
ている。なぜなら、かんぽ生命は2014年に
入って日本株保有を急速に増やしつつある
からだ。 2004年3月末には時価5.9兆円の
日本株を保有をしていたが、その後大幅に
減少させ、2014年12月末では時価9,500
億円程度と発表されている。そのため、昨年
からの買い増しの動きは、大幅な保有増の
始まりに過ぎないのかもしれない。
かんぽ生命の国内株式残高の変化額
(億円、対前四半期末)
(2012年4‐6月期~2014年10‐12月期)
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
-500
4-6月
7-9月 10-12月 1-3月
2012年
4-6月
7-9月 10-12月 1-3月
2013年
4-6月
7-9月 10-12月
2014年
(信頼できると判断したデータ をもとに日興アセットマネジメントが作成)
日本のデフレ脱却が進むとすれば、日本の機関投資家の国債保有はあまりに多額と考えられる。今後、米国
や日本の景況感の改善にしたがって、日本の機関投資家は徐々に株式などリスク資産の保有を増やし続ける
可能性が高い。米国では1.6%程度まで低下した10年国債の利回りが2%を超えてきた。世界的なデフレ懸
念の終焉が今後も進むとすれば、日本の機関投資家は長期にわたり続けてきた債券偏重のポートフォリオに
いよいよメスをいれざるを得なくなるだろう。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、以前基本ポートフォリオを国内債券60%、国内株式12%、
外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%としていたが、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、
外国株式25%と変更した(2014年10月)。GPIFの2014年12月末の資産構成(運用資産残高137兆円)は、
国内債券約43%、国内株式約20%、外国債券約13%、外国株式約20%、残りが短期資産となっており、今
年に入っても引き続きリバランスが続いていると見られる。
※上記は過去のものであり、将来の市場環境などを保証するものではありません。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
覧ください。
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日銀のインフレ目標政策成功の可能性が増す
日銀の黒田総裁は、2013年4月に既にポートフォリオ・リバランスは金融緩和の波及経路の一つだと説明して
いる(例えば2013年4月12日読売国際経済懇話会)。黒田総裁は、人々のインフレ予想が強まるほど実際に
インフレになる確率が高まると想定しているようだ。インフレになるとすれば、金利は上昇するだろう。多くの投資
家がそう信じる場合、債券を持つことは損失を意味する。投資家が債券を減らし他のリスク資産を買う(ポート
フォリオ・リバランス)ことは、これまで以上にリスクに見合ったリターンを探すことにつながる。具体的には優良
な社債の発行者や融資先、成長しそうな株式などを探して投資するだろう。そのような企業が資金を調達して
設備や雇用に投資すれば、商品が売れて景気は良くなりインフレが進みやすくなる。また株価上昇による資産
効果で消費が拡大し、インフレにつながる経路も働くかもしれない。
日本の公的・私的年金やさまざまな投資資金が債券を売却し、株式や海外資産を購入しリスクをとってリター
ンを狙おうとしている。今後、日本企業の輸出、設備投資などの活発化や賃金上昇が続けば、さまざまな規模
の金融機関や年金資金などでもポートフォリオ・リバランスの動きが出るだろう。このような幅広いポートフォリオ
の変更は、インフレ予想が強まっていることを示す一方で、既に述べたように、インフレに自らなろうとする働き
を持っている。日銀の金融緩和によるインフレ目標の達成の可能性は、投資家のリバランスの動きで高まって
いることになる。
これまで世界的な景気回復局面で株式に新規資金を投入してくる投資主体は主に海外投資家であった。こ
の動きは今回の世界的な景気回復でも同じだろう。海外年金資金やソブリンファンドなどが世界的なデフレ懸
念の終了を期待して資金を株式へ振り向ければ、一定比率が日本株にも向かって流入する。さらにこれまで
日本のデフレの脱却を信頼しなかった国内機関投資家が日本株に新規資金を投入すれば、日本株の上昇
には2000年代の一時的な株価上昇とは異なるスピードと水準を期待できるかもしれない。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
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