100万円以上の割増賃金の是正支払状況

農業雇用改善推進事業
経営者と働く人を応援する
“農業の雇用と労務”ガイド
65
Vol.
2015 年 3月号
100万円以上の割増賃金の是正支払状況
(件、百人)
(万円)
2,000
5,000,000
企業数(件)
1,800
対象労働者数(百人)
1,600
是正支払額(万円)
4,500,000
4,000,000
1,400
3,500,000
1,200
3,000,000
1,000
2,500,000
800
2,000,000
600
1,500,000
400
1,000,000
200
500,000
0
H16.4 H17.4 H18.4
H19.4 H20.4
H21.4 H22.4
H23.4 H24.4 H25.4
~H17.3 ~H18.3 ~H19.3 ~H20.3 ~H21.3 ~H22.3 ~H23.3 ~H24.3 ~H25.3 ~H26.3
0
出典:厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果
(平成25年度)
」
特集
労使間のトラブルを未然に防ぐには②
労働時間を把握しよう
特 集
労使間のトラブルを
未然に防ぐには ②
1.どこか ら どこまで が 労 働 時 間 か 決
める
(1)労働 時 間 と は
労働時間にかかわるトラブルは
年々増 加 傾 向 に あ り ま す 。 労 働 時 間
と は、「 労 働 者 が 使 用 者 の 指 揮 命 令
の下に 置 か れ て い る 時 間 」 と 解 さ れ
ていま す 。 ま た 、 た と え 使 用 者 の 指
揮命令 下 で あ っ て も 休 憩 時 間 の よ う
に労働 者 が 自 由 に 利 用 で き る 時 間 は
労働時 間 で は あ り ま せ ん 。
農業 で は 、 従 業 員 の 集 合 場 所 ( 例
えば事 務 所 ) と 農 作 業 の 現 場 が 物 理
的に離 れ て い る 場 合 が あ り 、 こ の 場
合にど こ か ら ( い つ か ら ) が 労 働 時
間とな る か 判 断 に 悩 む ケ ー ス も 見 ら
月刊かわらばん Vol.65
労働時間を把握しよう
満たされる場合に労働時間と解され
ています。
イ そ の 付 帯 作 業 が 作 業 や 業 務 に
とって必要不可欠である。
ロ その付帯作業が労働者の自由裁
量で行われるのではなく、使用者
の指揮命令下で拘束され強制的に
行われている。
(例)
◦法令により保護具の装着等が義務
づけられている、作業後の身体の
洗浄が義務づけられている場合
等、法令上一定の準備、後始末が
定められている場合
◦点検、
格納、
清掃等、
作業の性質上、
一定の準備や後始末を要する場合
◦ 朝 礼 や 終 礼 が 規 定 さ れ て い る 等、
社内の規則等で義務とされている
れます。例えば、朝、事業主と労働
準備や後始末
者がともに事務所に集合し、ともに
◦職場の清掃等、慣習上義務または
事務所を出発し現場に向かうのであ
制度化されている準備や後始末
れば、この事務所を出発する起点が
(3)労働時間の管理方法
労働時間の起点と考えられます。圃
①タイ
ムカードによる労働時間管理
の取扱い
場間の移動時間等の考え方も同様で
タ イ ム カ ー ド の 打 刻 に つ い て は、
ませんので、その時間に対しては賃
しょう。
労使がともに誤解や考え違い等する
金の支払義務は生じません。
表1 をご覧下さい。労働時間は、
さらにいくつか分類することができ (2)労働時間となる付帯時間
ことのないよう、その取扱い方法を
ます。実作業時間はもちろんのこと、
整理し周知することが重要です。タ
使用者の指揮の下で作業に入った
使用者の指揮命令下にあり、労働者
イムカードによって労働時間の管理
時間は当然労働時間ですが、その前
の自由にならない「手持時間」や「準
を行っている場合は、原則としてタ
後の付帯時間、たとえば、作業服に
備時間」も労働時間と解されていま
イムカードの打刻時刻が、労働時間
着替えたり、掃除や整理・後片付け
す。
の始業・終業時刻と推定されること
など、作業時間に密接な時間がどこ
なお、「休憩時間」と「自由時間」
になります。すなわち、実際には労
ま で 労 働 時 間 に な る の で し ょ う か。
は拘束時間ですが労働時間ではあり
働 時 間 の 始 業・ 終 業 時 刻 と タ イ ム
これらの時間は、次の二つの要件が
サービス残業の横行をはじめ、労働時間に関わるトラブル
が社会問題化しています。従業員の労働時間を把握し、管理
することは経営者にとって必須です。特に未払い賃金は過去
2年間分にさかのぼって請求が可能であり、「知らなかった」
では済まされません。
今号では、増加する労使トラブルの中でも、労働時間を
焦点に経営者としての注意点を特集します。
拘束時間と労働時間
表1
拘束時間
賃金の支払い義務なし
賃金の支払い義務あり
労働時間の前
後にある自由
に利用できる
時間
命令下で実際 命令下にあっ 命令下で行わ 命令下にあっ
に作業に従事 て、作業のた れる作業に必 て、労働に必
している時間 めに待機して 要不可欠な準 要不可欠な付
帯作業時間
備時間
いる時間
労働者が使用者の指揮命令の下に置かれて、労働者の自由に 労 働 時 間 の 途
ならない時間
中で労働から
離れることが
実作業時間
手持ち時間
準備時間
付帯時間
保障されてい
使用者の指揮 使用者の指揮 使用者の指揮 使用者の指揮 る時間
構内自由時間
休憩時間
労働時間
第○○条(労働時間)
1.所定労働時間の始業、終業の時刻は以
下のとおりとする。
始業時刻 午前8時00分
終業時刻 午後5時30分
2.始業時刻とはタイムカードを押した上
で所定の就業場所で業務を開始する時
刻をいい、従業員は、タイムカードを
押した後、速やかに始業の準備をしな
ければならない。
3.終 業時刻とは業務の終了した時刻を
いい、従業員は業務を終了したら速
やかにタイムカードを押さなければ
ならない。
カード の 打 刻 時 刻 に ず れ が 生 じ て い
ても、 こ の ず れ に つ い て 労 使 の 間 で
特に取 り 決 め が な い 場 合 は 、 こ の 打
刻時刻 に よ っ て 労 働 時 間 が 推 定 さ れ
ること に な り ま す 。
したがって、たとえば「タイムカー
ドの打刻時刻は入・退室時刻であり、
必ずしも労働の開始・終了時刻では
ない」 と い う の で あ れ ば 、
◦どこ か ら ど こ ま で が 労 働 時 間 か
◦タイ ム カ ー ド の 打 刻 時 刻 と 労 働 の
就業規則規定例
65
開始・終了時刻の関係
社内通達や時間外労働手当の定額
給、配置に活かす仕組みを作ること
を就業規則等で明示しておく必要
払等労働時間に係る事業場の措置
が経営者の重要な仕事です。
があります。
が、労働者の労働時間の適正な申 (2)定期昇給の導入
②自己申告制による場合
告を阻害する要因となっていない
定期昇給は、従業員の能力や勤務
労働者の自己申告制により始
かについて確認するとともに、当
態度・経営状況などを総合的に判断
業・終業時刻の確認及び記録を行
該要因となっている場合において
し決定します。
農業では一般的に「定
わ ざ る を 得 な い 場 合、 使 用 者 は、
は、改善のための措置をすること
期昇給」は難しいと言われています
次の措置を講ずる必要がありま
が、 従 業 員 か ら す る と、生 計 費 の 増
す。
2.賃金を見直す
大に応じて一定の昇給が行われるこ
イ 自己申告制を導入する前に、そ (1)仕事を評価し処遇に反映させる
とで、将来設計が可能となり、生活の
の対象となる労働者に対して、労
農業の賃金水準は、他産業の6割
安定につながります。たとえ少しず
働時間の実態を正しく記録し、適
と い わ れ て お り、 低 賃 金 に 不 満 を
つであっても毎年確実に昇給するこ
正に自己申告を行うことなどにつ
もっている労働者が多いのは事実で
とに非常に大きな意味があります。
いて十分な説明を行うこと
す が、 賃 金 に 係 る 労 使 ト ラ ブ ル は、
従業員は、毎日の仕事を通して少
ロ 自己申告により把握した労働時
「額や昇給の根拠が不明」なことに
しずつ成長しています。入社1年目
間が実際の労働時間と合致してい
よるものが多いのが実態です。した
には5しかできなかったのに2年目
るか否かについて、必要に応じて
が っ て、 賃 金 等 の 処 遇 に 関 し て は、
には本人の努力やコツを飲み込んだ
実態調査を実施すること
経営者は、従業員に「自分の仕事か
結果10できるようになっていたり
ハ 労働者の労働時間の適正な申告
らすればこの処遇で納得できる」と
するでしょう。経営者がこの従業員
を阻害する目的で時間外労働時間
思わせることが大事でしょう。その
の 努 力 や 成 長 に 対 し て、「 昇 給 」 と
数の上限を設定するなどの措置を
た
め
に
は
、
可
能
な
限
り
公
平
な
目
で
従
して従業員に還元することは、従業
しないこと
業員の仕事を観察し、評価すること
員の「やる気」を維持向上させるた
ニ 時間外労働時間の削減のための
です。そして、その評価を賃金や昇
めに必要な要件なのです。
(3)固定残業手当の活用
農業では正社員に対して時給や日
給で支給しているケースが多く、大
きな特徴となっていますが、月給で
支給している場合でも残業代を支払
わず毎月一定額を支給しているケー
ス が 多 く、
「月額賃金を労働時間で
除 す る と 最 低 賃 金 を 割 っ て い る 」、
「残業代が未払いになっている」等
のトラブルの種を抱えていることが
多いのが実態です。
NEWS-2
月刊かわらばん 3月号
発行元:全国農業会議所・全国新規就農相談センター 〒102-0084 東京都千代田区二番町9-8 中央労働基準協会ビル2階
TEL:03(6910)1126 FAX:03(3261)5131 Eメール:[email protected]
農業雇用改善推進事業ホームページ http://www.nca.or.jp/Be-farmer/roumu/
デザイン制作:株式会社あーす
の
N
E
W
S
農業の経営継承
継承者と移譲者の
信頼がカギ
就農希望者と経営移譲を希望する
農業者との信頼関係の構築だ。
経営継承を希望する農業者に
は、農 業 経 営 を 確 立 し て 維 持 発 展
を成し遂げた実績がある。就農希
望者は、
この点 を尊重して、
事 業で
実施する研修などを受けてほしい。
また、就農希望者には、自らが
将来夢に描く農業の姿がある。経
営移譲する農業者は、それを支援
する就農希望者の師であり、最大
の相談者であってほしい。
経営継承の実現にむけた事業実
施の到達点は、就農希望者と経営
移譲農業者の「合意書」の締結だ
が、その際に、経営資産の譲渡に
よる見解の相違で、継承を断念す
るケースが少なくない。
さらに、農薬使用などの農法や
農産物の販売方針、養子縁組や法
人化など継承方法などの見解の相
違 が、 継 承 事 業 の 中 止 の 理 由 に
なっている。
継承事業では、地元の農業委員
会やJAなどのコーディネート
チームによる相談対応で、これら
に対して支援している。
就農希望者と経営移譲農業者
は、
それぞれの希望と目的を達成す
るために、
まずは双方が相手を尊重
して、
各種支援を活用しながら継承
事業を有効にいかしてほしい。
農業の雇用と労務に関するご相談や質問をお寄せください
ニ� �ス
個別相談ブース
名古屋市に集結
天候等の条件に大きく左右さ
れ る 農 業 で は 残 業 も 多 く、月 の
労働時間が所定労働時間を大幅
に超過することも多いものです。
こんなニュースがありました
固定残業手当は、
これを設定し導
入することで実質的に所定労働
時間を増やす制度です。基本給
の1時間当たり単価を地域別最
低 賃金以上で設定し、「 所定労働
愛知県名古屋市
平成26年11月14日(金)全国農業新聞掲載
時間+固定残業時間」を過去1
平成26年11月21日(金)全国農業新聞掲載
年間の最も労働時間の長い月を
新城設楽地域担い手育成総合支
カ バ ー す る 時 間 で 設 定 す れ ば、
援 協 議 会 は 1、2 の 両 日、 名 古 屋
残業代の未払い等の大きなトラ
農業経営継承事業に関する問い
市のウインクあいちで「おいでん
ブルは未然に防げるでしょう。
合わせが増えている。
奥 三 河! 農 林 業 来 て み て 夢 か な
固定残業手当は、いわゆる「ブ
その多くは、全国新規就農相談
う! 就 農 林 相 談 会 2 0 1 4」 を センターのホームページなどで事
ラック企業」を連想させ、一般
開いた。移住して農業や林業に就
的にはイメージもあまりよくな
業を知った就農希望者からのもの
きたい人、定年を機に帰農を考え
いかもしれませんが、農業法人
だ。
て い る 人 な ど が 対 象 で、 2 3 人
等の就業者に対して行ったアン
新規就農のためには、生産技術
ケ ー ト 調 査 を 分 析 し ま と め た (17組)が訪れた。
や 経 営 ノ ウ ハ ウ の 習 得 を は じ め、
今回で8回目となるが、初めて
「農業法人等の雇用の実態と改
農地・機械・設備などの取得が必
の試みとして現地ではなく名古屋
善 の 記 録 」( 2 0 1 2 年 / 全 国
要になる。これらを一括して経営
市に市町村、JA、森林組合など
農業会議所)によると、固定残
継承できれば、円滑な就農につな
の担当者が出向き個別相談ブース
業手当の導入が正社員の定着に
がる。こうしたメリットが、就農
を開設した。地域の農林業の特徴
もっとも貢献している要因と判
希望者に広く浸透してきたといえ
や受け入れ条件、必要な技術、心
断されました。これは、最低賃
よ
う。
構えなどを熱心に説明した。
金ベースの基本給のみ支給して
一方で、後継者のいない農業者
同協議会では「熱心な相談者が
いる経営体が多い中、①残業代
の事業登録も進んでおり、経営移
多く、具体的な相談に進みそうな
を支給されているという納得感
譲希望者の農業経営継承事業に対
人もいる。地域の担い手が現れて
がある、②固定残業手当が支払
する期待も大きい。
わ れ て い る 分 賃 金 が 多 い こ と、 くれれば」と期待していた。
事業を通じて経営継承が成就す
などが理由と考えられます。
るためのポイントは何か。それは、
NEWS-1