職場の法律相談 合、②はそういった命令はないけれども、業務活 動を行わないと懲戒処分や人事考課上のマイナス 評価といった不利益を被る場合を想定したもので す。 さらに、場所的拘束が課されているかどうかも 重要な判断要素になります。最高裁の有名な判例 で は、作 業 服 を 着 脱 す る 時 間 に つ い て、﹁社 内 の 所定の更衣所で着脱しなければならない。自宅で 着がえてきてはならない﹂という場所的拘束があ ることを前提に、労働時間に該当すると判断され ました。 ⑵持ち帰り残業は﹁労働時間﹂に該当するか では、自宅に持ち帰って仕事をする時聞が﹁労 働時間﹂に当たるかというと、原則として当たら ないと考えられます。なぜなら、先に述べた場所 的拘束がないからです。 自宅であれば、テレビを見たり音楽を聴いたり しながら仕事をするのも自由です。決められた机 で仕事をする必要はないですし、風呂上がりの濡 れた髪のまま、どてらを着て仕事をするのも自由 で す。つ ま り、﹁社 内 の 所 定 の 勤 務 場 所 で 仕 事 を する﹂という場所的拘束がなくなることで、会社 で仕事をするときに受けていたさまざまな規律か ら解放されます。 こうした時間は、使用者の指揮命令下に置かれ た 状 態 と は 質 的 に 異 な る も の で、﹁労 働 時 間﹂と はいえないのが原則です。 橘 大樹 ︵弁護士、石嵜・山中総合法律事務所︶ 自宅に持ち帰って残業。残業代は支払われる? 私 の 会 社 で は、午 後 時 に 消 灯 し て し ま う た め、そ の 時 間 に は 基 本 的 に 退 社 し なければいけないのですが、私はいま大きなプロ ジェクトに参加しており、毎日その時間に帰って いたのでは仕事が終わりません。顧客に迷惑をか けるわけにはいかないので、帰宅してからも1∼ 2時間は仕事をしている状況です。 こうした持ち帰り残業も、場所が自宅というだ けで勤務時間と変わらないはずです。自宅での勤 務時間には、残業代︵割増賃金︶が支払われるこ とはないのでしょうか? 10 ⑴労働基準法の﹁労働時間﹂とは 割 増 賃 金 が 支 払 わ れ る に は、そ の 活 動 が、労働基準法にいう﹁労働時間﹂と評価される ものである必要があります。 ﹁労 働 時 間﹂と は、使 用 者︵会 社︶の 指 揮 命 令 下に置かれている時間を意味するものです。例え ば、自宅でお酒を飲みながら書類を作成した場合 などは、明らかに使用者の指揮命令下の活動とは いえませんので﹁労働時間﹂に該当しません。 そ し て、①使 用 者 か ら 業 務 活 動 を 義 務 付 け ら れ、または②余儀なくされた場合には、使用者の 指揮命令下に置かれた時間、つまり﹁労働時間﹂ に該当するとされています。これは現在、最高裁 の 判 例 で 確 立 さ れ た 判 断 基 準 に な っ て い ま す。① は会社から﹁これをやるように﹂と命令された場 しかし現在は、OA機器の発達やワークライフ バランスの浸透などを背景に、在宅勤務が推進さ れる状況にあります。こうした時代状況の中で、 自宅での仕事時間を一概に﹁労働時間﹂でないと 否定するのは妥当ではありません。 そ こ で、以 下 の 事 情 を 満 た す 場 合 に は、﹁自 宅 で仕事するように﹂との命令がなくても、自宅で の 仕 事 を 余 儀 な く さ せ て い る と し て︵②︶、労 働 時間に該当すると解されます。 ⓐ 自宅に持ち帰って仕事をしなければ、一定 の期限に担当業務を処理できない ⓑ 担当業務を一定の期限までに処理しなけれ ば、使用者から人事考課などで不利益に取り 扱われる ⓒ 使 用 者︵上 司 を 含 む︶が 持 ち 帰 り 残 業 の 実 態を認識している ⑶相談事例の場合 相談者は、正にⓐの状態に置かれ、また業務を 処理できないことで顧客に迷惑が掛かれば担当者 として会社からマイナス評価を受ける可能性があ りますから、ⓑの事情も満たすといえます。 し た が っ て、ⓒ会 社 が 自 宅 持 ち 帰 り の 実 態 を 認 識できていたのであれば、相談者の自宅での仕事 時間は、労働基準法の﹁労働時間﹂に当たるとい えます。この場合、自宅で仕事をした時間につい ては、会社に割増賃金の支払い義務が生じてきま す︵労基法 条︶。 会社としては、このような実態を把握次第、時 間外労働に対しては割増賃金を支払うようにし、 また従業員の業務量を調整するなどの措置が求め られます。併せて、時間外労働につき許可制、事 後申告制などのルールを定め、従業員の勤務を管 理するのが適切です。 37 Q A 第355号 8 は こ だ て 法人ニュース 平成28年 8 月 1 日
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