博士論文内容要旨 氏名(本籍) 稲田 文(長崎県) 学位の種類 博士(理工学

(様式4) 博士論文内容要旨 氏名(本籍) 稲田 文(長崎県) 学位の種類 博士(理工学) 学位記番号 学位授与年月日 学位授与の要件 学位規則第 10 条第 1 項該当 研究科 福島大学大学院共生システム理工学研究科(博士課程) 学位論文題目 ポリペプチドの合成と吸着特性 論文審査委員 (主査)金澤 等 大山 大 中村 和正 高安 徹 大波 哲夫 論文目次 第1章 緒言 第2章 実験 第3章 結果と考察 第4章 まとめ 論文内容要旨 生命体において、タンパク質は低分子化合物を見分けて、機能性を発現する事が知
られる。典型例は酵素反応で、その本質は「高分子と低分子の相互作用」である。こ
の相互作用の理解のためには、より単純化した分子間相互作用のモデルが必要である。
当該研究室は、アミノ酸 N̶カルボキシ無水物(アミノ酸 NCA)の重合によるポリ
アミノ酸の製造を行ってきた。そこで、
「アミノ酸 NCA の重合によるポリアミノ酸の
生成」、
「生成したポリアミノ酸に対する有機化合物の相互作用」の二つの課題の研究
を行った。
【アミノ酸 NCA の重合】L-体α-アミノ酸および、そのエステルを環状化したアミノ
酸 NCA の重合は、1940 年代から行われてきた。元来、アミノ酸 NCA の第一級アミ
ン開始重合は開始剤 1 分子からポリペプチド 1 分子が生成するために分子量分布の
狭い生成物が得られると考えられたが、成功例はなかった。そこで、「副反応による
阻害」説が 1997 年 Deming、2006 年 Kricheldorf により発表された。一方、金澤はア
ミノ酸 NCA の結晶構造の反応(固相重合)と溶液重合を比較するうち、高純度のアミ
ノ酸 NCA の使用と反応系への水分混入の防御に注意して、ほぼ単分散の分子量分布
のポリペプチドの生成に成功した。但し、まだ未解明の点があった。そこで、反応機
構の解明、アミノ酸 NCA の結晶構造と反応性の関係、固相重合の有利性について追求す
る事を目的とした。さらに、反応性を検討する3つのアミノ酸 NCA の結晶構造がまだ
解析されていないので、それらの X 線結晶構造解析を行った。
【ポリペプチドの吸着特性】合成ポリペプチドに対する単純な有機化合物の吸着実験を
行い、「ポリペプチドの構造の違いが吸着特性の違いに反映されるか」という課題の検討を
目的とした。
本論文の内容の概要は、次の通りである。
第1章 本論文の背景と目的
第2章 実験 2.1 アミノ酸 NCA の合成と重合方法、2.2 ポリアミノ酸の吸着実験
の方法
第3章 結果と考察 3.1 アミノ酸 NCA の重合 下記4つの内容を述べた。
3.1.1. γ-ベンジル-L-グルタメ−ト(BLG)NCA の固相重合と溶液重合の反応速度と分
子量、3.1.2. BLGNCA、γ-メチル-L-グルタメ−ト(MLG)NCA、γ-エチル-L-グルタメ−
ト(ELG)NCA の反応速度の比較。
3.1.3 MLGNCA、ELGNCA、L-イソロイシン NCA の単結晶 X 線構造解析
3.1.4 MLGNCA と ELGNCA の反応速度、結晶構造、ポリマ−の分子形態の関係
3.2 吸着実験 ポリアミノ酸に対する有機化合物吸着について次の内容からなる。
3.2.1 ポリグリシン、ポリ(L-アラニン)、ポリ(L-バリン)、ポリ(L-ロイシン)、ポ
リ(L-イソロイシン)ポリ(L-フェニルアラニン)、ポリ(β-ベンジル-L-アスパルテ
ート)(PBLA)、ポリ(γ-メチル-L-グルタメート)(PMLG)、ポリ(γ -ベンジル-L-グル
タメート)(PBLG) に対する9種の有機化合物の混合物からの各化合物の吸着:各ポ
リアミノ酸は固有の吸着パタ−ンを示した。すなわち、アミノ酸側鎖の違い、分子形
態の違いなどが総合的に反映する事がわかった。
3.2.2 吸着傾向の詳細な検討 ポリグリシン、ポリ(L-アラニン)、ポリ(L-バリン)、
ポリ(L-ロイシン)に対して、炭素数の異なるアルコ−ルを吸着させた。その結果、
2-プロパノ−ルの方が 1-プロパノ−ルより吸着しやすいことが明らかになった。結果を
踏まえ、アミノ酸の側鎖とアルコ−ルの分子間相互作用の観点から考察した。
第4章 まとめ 本論文で得られた研究成果についての総括を記載した。