平成 27 年 3 月 6 日 版 磁力線の観察 森 1 好平 ねらい、目的 電流と磁界の関係を学習するとき,磁力線の観察は必要不可欠である。しかし,教科書に示され ている鉄粉や方位磁針を使った実験では,平面的にしか観察できない。オイルの中に鉄粉を封じ込 めた器具も市販されているが,価格の面で生徒個々に使用させることは難しいし,専用の磁石のま わりの磁力線しか観察できない製品が多い。安価に自作でき,いろいろな場合の磁界を汎用的に観 察できる器具があれば,磁界の理解が深まると考え,この教材を開発した。 2 教材の内容 (1) 準備物 ・PVA(合成洗濯のり) ・試験管(φ30 ㎜) ・スチールウール ・ゴム栓(No.10) ・小粒のビー玉(5mm 程度のもの2~3個) ・チーズおろし器 ・ビーカー ・爪楊枝 (2)作成手順 ① スチールウールをチーズおろし器ですりおろし,線状の鉄粉をつくる。 (ネット上で見つけたアイディア。通常の鉄粉では固まりになりやすく,磁力線を観察しづらい。) ② PVAを水で薄め,適度の粘性に調整する。 ※ 静的な磁力線を観察する場合,粘性が高い方がきれいな磁力線が観察できる。電流を流した 時など,磁力線の変化を観察したい場合は,粘性の低いものの方がよい。 ※ 粘度の目安として,粘性が高いものとは鉄粉の沈降速度が1mm/秒以下のもの,粘性が低い ものとは鉄粉の沈降速度が3mm/秒程度のものである。 ③ 試験管の中に①で作った鉄粉を薬さじ1杯程度と小粒のビー玉を入れ,②で作った液体を試 験管の口まで注ぐ。 ④ 爪楊枝で隙間をつくりながら,直径がぴったりのゴム栓を試験管の中へ押し込む。 (この時,気泡が残らないように注意しながら,爪楊枝の隙間から液体をあふれさす。) ⑤ あふれ出た液体を洗い流し完成。 ⑥ 使用するときは,試験管を上下に振りビー玉で鉄粉を拡散させてから,磁界の中へ器具を持 っていく。 平成 27 年 3 月 6 日 版 (3)工夫・コツ 粘性液体にPVA(合成洗濯のり)を使うこと,小粒のビー玉で中の鉄粉を拡散することが,独自の アイディア。PVAは安価で扱いやすく,水で薄めることで粘性を自由に調整できる点で,オイル より優れている。鉄粉のさびが心配されたが,数年放置しても変化が見られなかった。PVAの濃 度や鉄粉の量は,実験の目的,磁界の強さなどにより,適宜調整してほしい。鉄粉拡散用ビー玉は, 釣り用のおもりでもよいが,激しく振って試験官が破損したことがある。ゴム栓を下にして振ると 破損の危険が軽減できる。 3 教材の使用方法、活用例 ・作成した実験器具を上下に振って鉄粉を拡散させてから,磁石の近くなど磁界の中に器具を置 き,磁力線のようすを観察する。 ・観察できる範囲が狭いので,器具を磁石のまわりのいろいろな位置に移動させ,磁石のまわり の磁界のようすを観察する。 ・棒磁石の極の前に器具を置き,反対側から別の棒磁石の極(同じ極や反対の極)を近づけ,磁力線 の変化を観察する。 ・電流を流しているコイルのまわりにこの器具を近づけ,電流による磁界のようすを観察する。 ・U字型磁石とコイルを使って磁界の中の電流に力がはたらくことを調べる実験において,この 器具を用い電流を流した瞬間に磁力線が変化することを観察する。 4 まとめ 磁力線のように目に見えないものを視覚化することは,物理現象をイメージとしてとらえ理解す るのにとても有効である。特に,静的なものだけでなく,2 つの磁石を近づけ引きあったり退け合っ たりするときや,磁界の中の導線に電流を流したときのように,磁力線が影響し合って変化するの を観察することは,磁界と磁力の本質にせまることができる。この器具は,安価で簡単に制作でき, 磁界の空間的な広がりばかりでなく,時間的な変動もある程度追尾できる。 「電流と磁界」の単元の 中で,繰返し利用していきたい器具である。 【参考・引用文献】 ・科学技術振興機構のホームページ 「身近な制圧雑貨を利用した実験マニュアル解説集」 http://www.rikanet.jst.go.jp/contents/cp0170a/start.html (スチールウールをチーズおろし器ですりおろして線状の鉄粉にして使用するアイディア) ・平成 17 年度香中研高松市部研究大会(会場:高松市立古高松中学校)大会要項,資料 (筆者がこの器具を使って行った研究授業)
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