海外在住者が見る日本の事象についてのコラム 「イスラム国」日本人人質事件 ―異質な現象をありのままに捉える 小林恭子 在英ジャーナリスト (ロンドン在住) 2 月 1 日、 イ ス ラ ム 教 ス ン ニ 派 過 激 グ ル ー 確かに、「イスラム国」側の身代金要求額が同 プ「イスラム国」 ( 自称の組織名であり国ではな じ2億ドルであることは決して偶然ではないだろ い)に拘束されていた2人の日本人人質のうち、 う。首相の中東訪問も「イスラム国」を刺激した ジャーナリストの後藤健二さんが殺害されたと見 可能性がある。また、政府やその政策の批判は常 られる動画がネット上に公開された。もう1人の にあってしかるべきものだろう。 はる な 人質であった湯川遥菜さんの殺害動画も1月末に しかし、声高に首相や政府を批判し、人質事 公開されており、 人質事件は最悪の結末となった。 件を首相の自衛権拡大を目指す動きや特定秘密保 第2次大戦後、平和憲法の下で戦争を放棄して 護法に結びつけて論じる人の顔ぶれを見ると、少 きた日本からするとなかなか実感として捉えにく なくともその一部の人たちは以前からの政権批判 いが、世界では平和時の常識では考えられないほ 者であったり、改憲反対者だったりする。逆に「こ どの残酷な出来事が毎日のように発生している。 れを機に現行の憲法を何とかしよう」という一部 国際的事件が発生し、日本あるいは日本人が 何らかのかたちで関わったとき、 「日本」という ふ かん の新聞報道も後に出た。 筆者が懸念したのは、「イスラム国」によるテ 枠組みの外に出て全体を俯瞰したり、他国の動き ロをすぐに「日本側に ・ 日本政府に落ち度があっ はどうか、過去に同様の事件があった時にどんな たのではないか」と考えてしまうことの危険性だ。 対応があったのかを調べたりすることで、事実を 「イスラム国」は残酷で熾烈な方法で敵を殺傷し、 し れつ より曇りのない目で捉え、より良い善後策が生ま 殺害の様子をネットで公開することで恐怖心を広 れてくるのではないか――。そんな思いで、今回 めたり、組織のプロパガンダ(主義・主張の宣伝) の人質事件で気づいた点を記してみたい。 として使ってきた。他国 ・ 他の人に何の迷惑もか けてないと思われる国 ・ 人であっても、テロ攻撃 テロが起きたのは日本政府のせいか? の対象になり得る―― 悲観的なようだが、これが 拘束が公に知るところとなった1月 20 日以降、 ために行動している面があるため、これまでの政 世界の現実の姿だ。テロ組織は国の政策を変える 「こんなことが起きたのも日本政府のせいだ」 「安 、 策をあえて変えないのも1つのテロ対抗策だ。こ 倍首相が中東諸国を訪問して、2億ドルの支援を うした点を今一度、確認しても良いのではないか。 約束したからだ」 、 「テロ戦争での人道支援が実際 には戦闘支援に受け止められた」など、人質事件 の責任が政府あるいは首相にあるとする批判が出 てきた。 24 日英で異なる自己責任論 何年か前にイラクで数人の日本人が拘束され 2015年3月号
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