固定資産税における登録価格の適法性 - LEX/DBインターネット TKC

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◆ 2015 年 2 月 20 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.115
文献番号 z18817009-00-131151181
固定資産税における登録価格の適法性
【文 献 種 別】 判決/東京高等裁判所
【裁判年月日】 平成 26 年 3 月 27 日
【事 件 番 号】 平成 25 年(行コ)第 285 号
【事 件 名】 各固定資産評価審査決定取消等請求控訴事件
【裁 判 結 果】 原判決変更(上告、上告受理申立)
【参 照 法 令】 地方税法 341 条 5 号・349 条 1 項・388 条 1 項・403 条 1 項
【掲 載 誌】 判自 385 号 36 頁
LEX/DB 文献番号 25504207
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……………………………………
登録価格が固定資産評価基準の定める評価方法に
事実の概要
従って決定される価格を上回るとき、あるいは、
X(控訴人)は府中市に夫婦で区分建物及びそ
(2) これを上回るものではないが、固定資産評価
の敷地権を共有しており、その敷地権の目的で
ある土地(本件各土地)は、都市計画法 8 条 1 項
基準の評価方法が適正な時価を算定する方法とし
1 号の「第一種中高層住居専用地域」(建ぺい率
その評価方法によっては適正な時価を適切に算定
60%、容積率 200%) にあった。府中市の都市計
することのできない特別の事情が存する場合で
画によれば、本件各土地は、都市計画法 11 条 1
項 8 号の「一団地の住宅施設」に該当し、建ぺ
あって、同期日における当該土地の適正な時価を
い率 20%、容積率 80%に制限がされていた。府
中市が平成 21 年度の固定資産課税台帳に登録し
正な時価が登録価格を上回ることしか判断してお
た本件各土地の登録価格は、建ぺい率 60%、容
積率 200%による鑑定評価を基礎にしており、建
て、原判決を破棄し、原審に差し戻した。
ぺい率及び容積率の制限を十分に考慮したもので
はないとして、平成 21 年 7 月 2 日頃、Xは固定
判決の要旨
資産評価審査委員会に審査の申出を行ったが、棄
「固定資産税の課税において、市町村長は、評
却された。そこで、Xは、Y(府中市、被控訴人)
価基準によって固定資産の価格を決定しなけれ
ばならないとされている(地方税法 403 条 1 項)
て一般的な合理性を有するものではないか、又は
上回るときであるとした。さらに、控訴審では適
らず、(1)(2) に対する審理を尽くしていないとし
を相手に審査決定の取消訴訟を提起した。
第 一 審( 東 京 地 判 平 22・9・10 民 集 67 巻 6 号
1292 頁)は、Xの請求を棄却し、控訴審(東京高
ところ、この価格とは『適正な時価』をいい(同
法 341 条 5 号)、正常な条件の下において成立す
判 平 23・10・20 民 集 67 巻 6 号 1304 頁 ) も、
「固
る取引価格、すなわち客観的な交換価値を指すも
定資産課税台帳に登録された価格が適正な時価を
のであって、この『適正な時価』を求めるために
超えた違法があるかどうかを検討すれば必要かつ
市街地宅地評価法が適用されるときは、地域の区
十分である」とし、都市計画で定められる建築制
分、状況が相当に相違する地域の区分、主要な街
限と「一団地の住宅施設」のそれとの関係等を考
路の選定、標準宅地の選定、標準宅地の適正な時
慮して適正な時価を算定したが、登録価格は適正
価の評定、主要な街路とその他の街路の各路線価
な時価を超えていないとして、Xの請求を棄却
の比準、画地計算法の適用等が、いずれも適正に
し た。 上 告 審( 最 判 平 25・7・12 民 集 67 巻 6 号
行われることが必要であり、これらを適正に行う
1255 頁) 1) は、登録価格が違法となるのは、(1)
ことなく決定された価格は、そもそも評価基準に
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新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.115
よって決定された価格ということはできないとい
の土地課税台帳に登録される価格を決定するに当
うべきである。そして、このような固定資産税の
たって、これを標準宅地の適正な時価の評定(H
課税において、全国一律の統一的な評価基準に
鑑定)の中で個別的要因として減価することを容
従って公平な評価を受ける利益は、それ自体が地
認しているから、本件敷地登録価格の決定につい
方税法において保護されているものということが
ても、同様に個別的要因として減価されるべきも
できるから、仮に、地域の区分、状況が相当に相
のと解するのが相当である。」
違する地域の区分、主要な街路の選定、標準宅地
「本件敷地の登録価格の決定は、本件制限が減
の選定、標準宅地の適正な時価の評定、主要な街
価要因として考慮されておらず、仮に本件制限を
路とその他の街路の各路線価の比準、画地計算法
減価要因として適切に考慮した場合の本件敷地の
の適用等が適正でなければ、そのような手続で決
登録価格は、実際に府中市長によって決定された
定された価格は、そもそも評価基準によって決定
本件敷地登録価格よりも下回るものとなるはずで
された価格とはいえないから、違法なものという
あり、府中市長によって決定された本件敷地登録
べきである。」
価格は、本件敷地部分に適用される評価基準の定
「本件の……団地は、都市計画法 11 条 1 項 8
める評価方法に従って決定される価格を上回るも
号により都市計画に定められる都市施設である
のであると認められる。したがって、本件敷地登
『一団地の住宅施設』であり、一団地の住宅施設
録価格は、標準宅地の適正な時価の評定が適切に
を構成する建築物の敷地について、当該地域に関
なされたものとはいえず、本件敷地登録価格の決
する都市計画において定められる建ぺい率及び容
積率(60%及び 200%)よりも制限された建ぺい
定及びこれを是認した本件決定は、この点を看過
率及び容積率(20%及び 80%)が定められてい
求めるXの請求には理由があるというべきであ
ても、それは、当該一団地の住宅施設に限って適
る。」
した違法なものであるから、本件決定の取消しを
用されるものであるが、一団地の住宅施設を構成
する建築物を増築したり、その一部を建て替えた
判例の解説
りする場合には、一団地の住宅施設について定め
られている建ぺい率及び容積率の制限を受けるこ
とになり、上記の建ぺい率は 3 分の 1、容積率は
一 登録価格決定の違法性の判断枠組み
2.5 分の 1 という制限は、一団地の住宅施設の敷
定資産課税台帳に登録された価格(以下、「登録価
地として利用されている土地の有効利用の限度を
格」という) であり(地方税法 349 条 1 項)、当該
固定資産税の課税標準は、賦課期日における固
制限していることは明らかであって、土地の取引
価格は、「適正な時価」とされる(地方税法 341 条
価格にも一定程度の影響を与える要因になること
5 項)。
「適正な時価」は、通説では客観的な交換
は否定できないところである」。
価値と解され2)、賦課期日における登録価格が客
「一団地の住宅施設の敷地である宅地の価格を
観的な交換価値を上回れば、当該登録価格の決定
決定する上で、一団地の住宅施設について定めら
は違法となる3)。
れている建ぺい率及び容積率をもって土地の更地
地方税法は、固定資産の評価方法及び手続を固
状態での評価に影響しない当該土地上に建築され
定資産評価基準によることとし、市町村長は、当
ている建物の現況(建ぺい率及び容積率の実際の
該評価基準によって固定資産の価格を決定しな
使用度合い)と同視することは相当とはいい難く、
ければならない旨を定める(地方税法 388 条 1 項、
本件敷地部分について、その適正な時価を評定す
同法 403 条 1 項)。これは、全国一律の統一的な
るに当たっては、本件制限を考慮して、適切な比
評価基準による評価によって、各市町村全体の評
率で減価する取扱いをすることが相当である。た
価の均衡を図り、評価に関与する者の個人差に基
だし、これが市街地宅地評価法の適用に当たって
づく評価の不均衡を解消するために、固定資産の
どの箇所で考慮されるべきかは更に問題となり得
るが、上記のとおり、府中市長は、平成 24 年度
価格を決定することを要するものとする趣旨であ
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ると解される4)。
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新・判例解説 Watch
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固定資産の価格については、理論上、「適正な
二 評価における減価要因の考慮
時価」
、
「固定資産評価基準によって決定される価
上記の判断枠組みによれば、納税者が登録価格
格」、
「登録価格」が考えられ、これらの関係が問
題になる。最判平 15・6・26 は、「登録価格」と
の違法性を争う場合に、登録価格が固定資産評価
客観的な交換価値である「適正な時価」の関係を
(前節下線 (1))、又は、登録価格が適正な時価を上
明らかにしたものの、「登録価格」と「固定資産
回っている旨(前節下線 (2))の主張が考えられる
評価基準によって決定される価格」との関係につ
が、いずれか又は双方を主張することができるの
いては必ずしも明確にしていない。しかしながら、
か、それとも、両者に優先劣後の関係があるのか、
調査官解説によれば、
「登録価格」が「適正な時価」
これらの関係と理由づけについて原審では必ずし
を上回らないこと、「登録価格」が「固定資産評
も明らかにされてはいない7)。本件では、Xは、
価基準によって決定される価格」であることが指
不動産鑑定評価でも、画地計算法の適用における
基準によって決定される価格を上回っている旨
摘されており、後者を満たせば、評価基準の評価
所要の補正でも本件制限の考慮がなされていない
方法の一般的合理性を媒介として、前者を満たす
(前節下線 (1))、評価方法で考慮されないとしても、
とされていた5)。
当該制限は評価基準の定める評価では適正な時価
家屋の評価について争われた最判平 15・7・18
集民 210 号 283 頁では、
「本件建物について評価
(前節下線 (2) ②) と主張したのに対し、Yは、標
基準に従って決定した……価格は、評価基準が定
準宅地の適正な時価の評定につき、一団地の住宅
める評価の方法によっては再建築費を適切に算定
施設に係る制限を地域要因や個別要因等として考
することができない特別の事情又は評価基準が
慮する必要はなく(前節下線 (1))、特別の事情に
定める減点補正を超える減価を要する特別の事
もあたらない(前節下線 (2) ②)とそれぞれ判断枠
組み (1)(2) の 2 つの面から主張している。しかし
を算定することのできない特別な事情に該当する
情の存しない限り、その適正な時価であると推認
するのが相当である」とし、最判平 21・6・5 集
ながら、本判決は、主として (1) についての判断
民 231 号 57 頁も、評価基準の市街化区域農地の
を示しており、(2) についての判断はしていない。
評価方法は適正な時価を算定する方法として一般
固定資産評価基準による評価は、統一的な評価
的な合理性を有すると認定した上で、評価基準に
と評価の均衡性を前提とする。固定資産評価基準
よって決定される価格は、特別の事情のない限り、
適正な時価であるとし、同様の論理から特別の事
の法的拘束力をめぐっては、従来から議論があっ
たが8)、本件の原審である最判平 25・7・12 は、
情の存在を消極に解した6)。
固定資産評価基準に従って公平な評価を受ける利
本件高裁判決の原審である最判平 25・7・12 は、
最判平 15・7・18、最判平 21・6・5 を基本的に
的拘束力を強める判断を示したといわれている9)。
踏襲し、(1) 登録価格>固定資産評価基準による
固定資産の評価については、評価基準による評価
価格の場合及び、(2) 固定資産評価基準による価
が大前提になるが、適正な時価を上回る評価が許
格≧登録価格の場合で、①固定資産評価基準の評
されるわけではない。それぞれの土地は、地域の
価に合理性がないか、②特別の事情があり、登録
実情や個別性を有していることから、当該評価基
価格>適正な時価のときに、登録価格の決定が違
準による評価方法では、適正な時価が算定できず、
法になるとする判断枠組みを示した。つまり、原
必ずしも適正な評価が行えない可能性がある。期
審は、「登録価格」、客観的な交換価値である「適
間的な制約の中で固定資産を大量に評価するとい
正な時価」、
「固定資産評価基準によって決定され
う固定資産評価基準による土地評価の特徴に照ら
る価格」の関係を整理し、その違法性の判断基準
せば、土地の個別的要因等を加味することには限
から、登録価格が適正な時価を超えていないとい
界がある。それゆえ、評価基準では補正率を定
うだけで結論を導き出すのは審理不十分とし、高
め、市町村長は、宅地の現況に応じ、必要がある
裁に差し戻した。本件では、上記判断枠組み (1)
ときは、「画地計算法」の附表等について、所要
又は (2) の該当性が主たる争点となる。
の補正を行うことが認められ、固定資産評価要領
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益は地方税法上保護されるべきものとし、より法
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などでそれを定めている。例えば、標準的な補正
その減価が行われていないとして、登録価格の違
率では、価格の低下等の原因が画地の個別要因に
法性を争う場合に、評価基準等による評価を問題
よることやその影響が局地的であること等の理由
にするのか、あるいは、「特別な事情」の該当性
から、その価格事情を路線価の付設又は状況類似
を問題にするのか、違法性の主張立証の優先順位
地域の設定によって評価に反映できない場合があ
をどのように考えるべきかの課題が残る
る。価格事情に特に著しい影響があると認められ
。
●――注
るときに限り、個々の画地ごとに特別の価格事情
1)最高裁の評釈として、吉村典久「判批」ジュリ 1461
に見合った所要の補正をすることができるとされ
る
11)
号(2013 年 )8 頁、 人 見 剛「 判 批 」 ジ ュ リ 臨 時 増 刊
10)
。
1466 号(2014 年)58 頁、宮本十至子「判批」ジュリ臨
都市計画上の地域的な規制は、土地の取引価格
時増刊 1466 号(2014 年)222 頁、徳地淳「判批」ジュ
リ 1465 号(2014)91 頁、仲野武志「判批」自研 90 巻
にも一定程度影響を与える要因となることから、
5 号(2014 年)132 頁、田中治「判批」判時 2220 号(2014 年)
本判決は、宅地の価格を決定する上で、当該制限
157 頁、石島弘「判批」民商 149 巻 3 号(2014 年)97 頁、
を考慮して評価することが必要であるとした。裁
石島弘「固定資産税の課税標準――『登録価格』の決定
判所は、都市計画による建ぺい率及び容積率の制
の違法性」税研 178 号(2014 年)50 頁、手塚貴大「判批」
限が減価要因として考慮されておらず、登録価格
税研 178 号(2014 年)243 頁等がある。
2)金子宏『租税法〔第 19 版〕』
(弘文堂、2014 年)631 頁。
の決定が評価基準の定める方法に従っていないた
3)最判平 15・6・26 民集 57 巻 6 号 723 頁。
め、固定資産評価基準による評価を上回る結果と
4)前掲注3)。
なり、(1) の判断基準から登録価格の決定は違法
5)阪本勝「解説」最判解民事篇平成 15 年度(上)(2006
であると判断した。このような制限を減価要因と
年)373 頁。
して、
「地域要因」や「個別的要因」として鑑定
6)宮本十至子「固定資産税の適正な時価」税法学 563 号
(2010 年)353 頁。
評価で減価するのか、それとも画地計算法の適用
7)田中治・前掲注1)159 頁。固定資産税における「価
における「所要の補正」として減価するのか、ど
格」の証明責任については、今村隆「税法における『価格』
の段階で考慮すべきかが問題となるが、本判決で
の証明責任」『納税者保護と法の支配 山田二郎先生喜
は、登録価格決定にあたり採用された鑑定評価の
寿記念』(信山社、2007 年)305 頁、314 頁。
段階で当該制限を減価要因と考慮していたことか
8)増井良啓「固定資産評価基準の法的拘束力について」
ら、適正な比率で減価すべきとしたにすぎず、
「所
資産評価システム研究センター編『固定資産税の判例に
要の補正」での減価の考慮を選択しなかった理由
関する調査研究』(2003 年)25 頁、増井良啓「判批」法
協 122 巻 9 号(2005 年)145 頁、161 頁、渋谷雅弘「固
は明確には示されていない。
定資産税における適正な時価」租税判例百選〔第 5 版〕
(2011 年)174 頁、人見剛・前掲注1)59 頁等。
三 本判決の意義と残された課題
9)吉村典久・前掲注1)9 頁。
本判決は、都市計画法による建ぺい率及び容積
10)石島弘「固定資産税の路線価における所要の補正につ
いて」『納税者保護と法の支配 山田二郎先生喜寿記念』
率の制限を評価で考慮する必要性を判示し、それ
(信山社、2007 年)3 頁、11 頁、宮本十至子「土地の評
を考慮しないことは評価基準による評価に該当し
価に係る裁判例」地方税 61 巻 11 号(2010 年)12 頁、
ないとし、(1) の判断基準を当てはめた事例であ
24 頁。
る。しかしながら、法規制などがある場合の減価
11)占部裕典「固定資産税の『適正な時価』と相続税法の『時
の要因について、特別の事情に該当するか否か
価』の解釈――固定資産税の登録価格等の鑑定評価によ
る主張立証責任について」同法 355 号(2012 年)1 頁、
(前々節下線 (2) ②)
、あるいは、どの段階でどのよ
阿部祐一郎=山本一清「固定資産税土地評価における『適
うに評価に反映させるのかが問題となるところ、
正な時価』を再考する」税 68 巻 12 号(2013 年)13 頁、
本判決は一般的な判断基準を示したとはいえず、
14 頁。
今後の類似の判決においてその判断が注目され
る。具体的には、
土地の価格に影響する画地条件、
立命館大学教授 宮本十至子
環境条件、法律上の規制・制限などがあり、鑑定
評価、あるいは、評価要領等の「所要の補正」で
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