ローライブラリー ◆ 2015 年 4 月 10 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.118 文献番号 z18817009-00-131181198 減額更正後に増額更正がされた場合の延滞税の成立の可否 【文 献 種 別】 判決/最高裁判所第二小法廷 【裁判年月日】 平成 26 年 12 月 12 日 【事 件 番 号】 平成 25 年(行ヒ)第 449 号 【事 件 名】 延滞税納付債務不存在確認等請求事件 【裁 判 結 果】 破棄自判 【参 照 法 令】 国税通則法 15 条・25 条・35 条・60 条・61 条 【掲 載 誌】 裁時 1618 号 1 頁 LEX/DB 文献番号 25446819 …………………………………… …………………………………… 万円余とする減額更正をした。 (3) I税務署長は、本件各減額更正により上 告人らの納付すべき税額が減少したことから、平 成 23 年 1 月 26 日、各申告に係る納付すべき税 額から各減額更正に係る納付すべき税額を控除し た金額である本件各過納金に還付加算金を加算し た金額につき支払決定し、各過納金を還付した。 これによる支払額の合計は、X1に対しては 1,163 万円余、X2に対しては 1,217 万円余であった。 (4) 上告人らは、平成 23 年 2 月 1 日、I税務 署長に対し、本件各減額更正について相続土地の 評価額がなお時価より高いとしてその取消を求め る異議申立てをした。I税務署長は平成 23 年 4 月 27 日、異議申立てを棄却する各決定をし、同 年 5 月 31 日、各減額更正における相続土地の評 価額は時価より低かったとして、上告人X1に増 差税額 36 万円余、X2に増差税額 37 万円余とす る増額更正をした。上告人らは、平成 23 年 6 月 3 日、各増差税額を納付した。 (5) I税務署長は、本件各増差税額に相当す る部分について、法定納期限の翌日から納付日ま での期間(ただし、法定納期限から 1 年を経過する 事実の概要 1 経緯等 本件は、上告人らが法定申告期限内に相続税の 申告及び納付をした後、その申告に係る相続税額 が過大であるとして更正の請求をしたところ、所 轄税務署長において、相続財産の評価の誤りを理 由に減額更正をするとともに還付加算金を加算し て過納金を還付した後、再び相続財産の評価の誤 りを理由に増額更正をし、これにより新たに納付 することとなった本税額につき、国税通則法(平 成 23 年法律第 114 号による改正前のもの。以下「法」 と い う。 )60 条 1 項 2 号、2 項 及 び 61 条 1 項 1 号に基づき、法定納期限の翌日から完納の日まで の期間(ただし、法定納期限から 1 年を経過する日 の翌日から上記の増額更正に係る更正通知書が発せ られた日までの期間を除く。) に係る延滞税の納付 の催告をしたことから、上告人らが、上記の延滞 税は発生していないとして、その納付義務がない ことの確認を求める事案である。 2 前提事実 (1) 上告人X1 及びX2 は、平成 21 年 7 月 22 日にI税務署長に相続税の申告をし、X1は同年 8 月 1 日に 4,185 万円余を、X2は同月 12 日に 4,556 万円余を納付した。 (2) 上告人らは、平成 22 年 7 月 12 日、I税 務署長に対し、本件各申告における相続財産であ る土地の評価額が時価よりも高いことを理由とし て、それぞれ更正の請求をした。I税務署長は、 同年 12 月 21 日、本件相続土地の評価に誤りが あったとして、各更正の請求の一部を認め、上告 人X1 について納付すべき税額を 3,035 万円余と し、上告人X2 について納付すべき税額を 3,353 vol.7(2010.10) vol.17(2015.10) 日の翌日である平成 22 年 8 月 26 日から本件各増額 更正に係る更正通知書が発せられた日である同 23 年 5 月 31 日までの期間を除く。以下「本件期間」とい う。 )に係る延滞税として、 X1について 1 万 5,800 円、X2 について 1 万 6,200 円が発生しているこ とを前提に、同年 7 月 27 日付けの催告書を送付 し、その納付を催告した。 3 関係法令 法 60 条 1 項は、「納税者は、次の各号の一に 該当するときは、延滞税を納付しなければならな い。」と定め、2 号に、「期限後申告書若しくは修 1 1 新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.118 正申告書を提出し、又は更正若しくは第 25 条(決 定)の規定による決定を受けた場合において、第 35 条第 2 項(期限後申告等による納付)の規定 により納付すべき国税があるとき。」と定める。 法 60 条 2 項は、延滞税の額は、前項各号に規 定する国税の法定納期限の「翌日からその国税を 完納する日までの期間の日数に応じ、その未納の 税額に年 14.6%の割合を乗じて計算した額とす る。 」と定める。 法 61 条 1 項は、法 60 条 2 項の期間から控除 する期間を定め、1 号に、「その法定申告期限か ら 1 年を経過する日の翌日から当該修正申告書 が提出され、又は当該更正に係る更正通知書が発 せられた日までの期間」と定める。 4 争点 本件各相続税のうち各増差本税額に相当する部 分について本件期間に係る延滞税は発生している か否か。 される前においてこれにつき未納付の状態が発生 し継続することを回避し得なかったものというべ きである。」 「本件の場合において、仮に本件各相続税につ いて法定納期限の翌日から延滞税が発生すること になるとすれば、法定の期限内に本件各増差本税 額に相当する部分を含めて申告及び納付をした上 告人らは、当初の減額更正における土地の評価の 誤りを理由として税額を増額させる判断の変更を した課税庁の行為によって、当初から正しい土地 の評価に基づく減額更正がされた場合と比べて税 負担が増加するという回避し得ない不利益を被る ことになるが、このような帰結は、法 60 条 1 項 等において延滞税の発生につき納税者の帰責事由 が必要とされていないことや、課税庁は更正を繰 り返し行うことができることを勘案しても、明ら かに課税上の衡平に反するものといわざるを得な い。そして、延滞税は、納付の遅延に対する民事 罰の性質を有し、期限内に申告及び納付をした者 との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付 を促すことを目的とするものであるところ、上記 の諸点に鑑みると、このような延滞税の趣旨及び 目的に照らし、本件各相続税のうち本件各増差本 税額に相当する部分について本件各増額更正に よって改めて納付すべきものとされた本件各増差 本税額の納期限までの期間に係る延滞税の発生は 法において想定されていないものとみるのが相当 である。」 3 「したがって、本件各相続税のうち本件各 増差本税額に相当する部分は、本件各相続税の法 定納期限の翌日から本件各増額更正に係る増差本 税額の納期限までの期間については、法 60 条 1 項 2 号において延滞税の発生が予定されている延 滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税 に当たるものではないというべきであるから、上 記の部分について本件各相続税の法定納期限の翌 日から本件各増差本税額の納期限までの期間に係 る延滞税は発生しないものと解するのが相当であ る。」 4 小貫芳信裁判官の意見 「本件各減額更正に伴う過納金の還付前の期間 については、国税通則法 60 条 1 項 2 号にいう納 付すべき国税は存在せず、納税が法定納期限を徒 過した事実もないので、延滞税の発生要件を欠き、 延滞税は発生しないと考える。」そして、本件の 判決の要旨 1 「原審は、上記事実関係等の下において、 要旨次のとおり判断し、本件各相続税のうち本件 各増差本税額に相当する部分について本件期間に 係る延滞税は発生しており、上告人らはその納付 義務を負うものであるとして、上告人らの請求を 棄却した。 本件のように、国税の申告及び納付がされた後 に減額更正がされると、減額された税額に係る部 分の具体的な納税義務は遡及的に消滅するのであ り、その後に増額更正がされた場合には、増額さ れた税額に係る部分の具体的な納税義務が新たに 確定することになるのであるから、新たに納税義 務が確定した本件各増差本税額について、更正に より納付すべき国税があるときに該当するものと して、法 60 条 1 項 2 号に基づき延滞税が発生す るものというべきである。」 「しかしながら、原審の上記判断は是認す 2 ることができない。その理由は、次のとおりであ る。 」 「本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当 する部分については、それぞれ減額更正と過納金 の還付という課税庁の処分等によって、納付を要 しないものとされ、未納付の状態が作出されたの であるから、納税者としては、本件各増額更正が 2 2 新・判例解説 Watch 新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.118 限と同一であることが原則となっているから、こ れらの手続により確定された納付額は納付遅滞と なり延滞税が課される。」としている。この両書は、 成立の時期を明確に説明していないが、更正等の 税額確定の手続が取られた時に納付遅滞の課税要 件を充たすと解するのであろう。 これに対し、延滞税の前身である利子税及び延 滞加算税についてであるが、昭和 45 年大阪高裁 判決(昭和 39 年大阪高裁判決の差し戻し控訴審判 5) 決 ) は、 「所定の納税を怠った者に対し法律に よって課する遅延利息の実質を有し滞納日数に応 じて日々発生するものである」とする。 また、現行の延滞税について、金子宏教授は、 その納税義務の成立時期について、「法定納期限 経過後、1 日ごとにその日の経過する時」とす る 6)。そして、「延滞税の納税義務は、その基礎 をなす租税の納税義務とは別個独立のものであ り、その基礎をなす租税の納付の遅延に対応して 1 日ごとに成立・確定すると解される」とする7)。 どちらが正しいかは、法 60 条の規定の解釈の 問題であり、それにより本件の判断も異なること になると考える。 過納金還付後の期間は、延滞税が課されない期間 (法 61 条 1 項 1 号) であり、延滞税は発生してい ない。 判例の解説 一 本判決の意義 本判決は、課税実務を適法とした一審判決 1) 及び控訴審判決2) を覆し、減額更正により還付 した後に増額の更正をした場合は、一度納付した 部分の増差税額について、法定納期限の翌日から 更正による増差税額の納期限までの期間、延滞税 は発生していないとの解釈を示した。しかし、そ の結論に至る論理は必ずしも明確ではなく、その ためか、国税庁の本判決に対する対応は、極めて 限定的である。 国税庁は、平成 27 年 1 月に、「最高裁判所判 決に基づく延滞税計算の概要等について」を発表 している。そこでは、今後、本判決に基づき延滞 税を計算する場合を、財産の評価誤りに関する減 額更正後の増額更正を行った場合に限っているよ うである。本判決によれば、後の調査に係る延滞 税を回避するため、納税者が更正の請求を前提に 意図的に過大な税額を申告・納付することも可能 になるからである。 ただし、本判決の結論に疑問はあるが、更正に よる増差税額について、一時的に納付があったこ とと関係なく、法定納期限の翌日から延滞税を計 算する課税実務を見直したことは、極めて重要で あると考える。 三 国税通則法 60 条の解釈 法 60 条 1 項は、納税者は、次の各号の一に該 当するときは、延滞税を納付しなければならない 「納 とし、2 号において更正を受けた場合につき、 付すべき国税があるとき。」と定める。 法 60 条 2 項は延滞税の額について、法定納期 限の「翌日からその国税を完納する日までの期間 の日数に応じ、その未納の税額に年 14.6 パーセ ントの割合を乗じた額とする。」と定めている。 ただし、納期限後一定期間までは年 7.3%と定め ており、この 14.6%と 7.3%は、現在租税特別措 置法により特例基準割合+ 7.3%と特例基準割合 + 1%に軽減されている。 更正により税額が増加した場合、増加した税額 は未納であるので、その税額に延滞税の率を乗じ て計算するのが課税実務であり、本件のI税務署 長の催告書もその計算によるものである。「国税 通則法コンメンタール」及び「国税通則法精解」 の見解であろう。 本件のように、法定納期限後一定期間過納の状 態があったとしても、それは別途還付金及び還付 加算金の処理として解決されているのであり、延 二 延滞税の成立と確定 延滞税は成立と同時に確定する(法 15 条 3 項 6 号) ので、何時成立するかが問題となる。 「国税 通則法コンメンタール」3)は、延滞税の成立・確 定について、 「延滞税は、国税に関する法律の定 める課税要件に該当する事実が発生した時に成立 する。すなわち、本税が法定納期限を経過しても、 なお納付されない事実が生じた時に成立すると考 えられる。 (ただし、昭和 39 年 7 月 7 日大阪高裁は、 1 日ごとに確定的に成立するとしている。)」と解 説している。「国税通則法精解」4) は、延滞税の 課税要件の 1 つとして、法 60 条 1 項 2 号を挙げ、 更正、決定を受けた場合「これらの手続は法定申 告期限後であり、しかも法定申告期限が法定納期 vol.7(2010.10) vol.17(2015.10) 3 3 新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.118 告納税制度の下で、法定申告期限(法定納期限) までに申告がなかった場合、または申告税額が過 少であった場合に、納税者に何らかの負担が生じ ないとすれば、適正な申告を行い法定納期限内に 納付をした納税者との公平を欠くことになる。し かし、税額が未確定で具体的な納期限が未到来で ある期間について、延滞加算税を課すことはでき ない。そのため、法定納期限の翌日から納付の日 まで日歩 4 銭の利子税を課すこととされていた。 負担の公平を目的とするものである。現在の延滞 税が法定納期限の翌日から税額未確定の時期を通 じて成立するのは、その理由である。 このことは、申告納税制度の下では、納税者が 税額確定の主体であり、その義務があるとの考え を前提としている。 滞税の計算に影響を与えることはないとするの が、一審判決及び控訴審判決の判断であった。 これに対して、本判決の多数意見は、法定納期 限から更正による増加税額の納期限までは、延滞 税は発生しないとした。その法的根拠は、「法 60 条 1 項 2 号において延滞税の発生が予定されて いる延滞と評価すべき納付の不履行による未納付 の国税にあたるものではないというべきである」 とする。そして、 「判断の変更をした課税庁の行 為」により未納税額が発生したのであり、これに 課税することは、「明らかに課税の衡平に反する」 とする。 小貫裁判官の意見はこれと異なり、過納金の還 付前の期間については、納付すべき国税は存在し ないとする。この見解は、常識的に肯けるが、法 規定上でこの期間だけ除く根拠があるのであろう か。小貫意見はそれに触れていないが、考えられ るのは、法 60 条 2 項の延滞税額の計算の規定で ある。この規定では、 「期間の日数に応じ、その 14.6%を乗じると定めている。課 未納の税額に」 税実務はその未納の税額を更正による増差税額と 解するものである。しかし、金子説によれば、延 滞税は法定納期限の翌日から日々成立しているの であり、その場合、税率を乗じる対象は各日々の 未納額となる。そうすると、還付前には未納の税 額はないのであるから延滞税は成立していないこ ととなる。 延滞税は、更正等によって未納付の課税要件を 充足した後も、現実に完納するまでの期間につい て成立するのであるから、延滞税は日々成立確定 すると解すべきであろう。 以上の考え方と整合する小貫意見の見解は、正 当と考える。 五 まとめ 更正の請求による減額更正は、過大な税額を申 告した納税者が行う申告の修正手続の一環であ る。通常の場合、更正の請求の理由が正当であれ ば、還付加算金の関係もあり速やかにその部分を 減額更正し、その段階で税額全体を精査すること はない。したがって、減額更正後に増額更正がさ れることは通常起こり得ることであり、当然法の 想定の範囲内にある。本件には特殊な事情があっ たのかもしれないが、そうであったとしても本判 決の多数説には賛成できない。減額が過大であれ ば、納税者は、修正申告により容易に未納付を回 避できるのである。しかし、現実に過納であった 期間について延滞税を課す課税実務には疑問を感 じるであろう。その点を問題とした小貫裁判官の 意見は貴重であり、その見解は正当と考える。国 税庁が、小貫意見を前向きに検討することを期待 したい。 四 延滞税の性質 延滞税には 2 つの性質があると解される。遅 延利息の性質と法定納期限内に納付した者との負 担の公平の性質である。 現行の延滞税は、法制定前に設けられていた利 子税と延滞加算税を統合したものである。延滞加 算税は、明治時代の延滞金を引き継ぐもので、督 促状の指定期限までに完納されない税額につき課 すもので、遅延利息に相当するものである。 利子税は昭和 22 年の申告納税制度導入により 設けられた税で、当初加算税と呼ばれていた。申 4 ●――注 1)東京地判平 24・12・18 裁判所ウェブサイト。 2)東京高判平 25・6・27 裁判所ウェブサイト。 3)武田昌輔監修『DHC 国税通則法コンメンタール』(第 一法規、1981 年)3333 頁。 4)志場喜徳郎ほか編『国税通則法精解』(大蔵財務協会、 2004 年)593 頁。 5)大阪高判昭 45・4・17 判時 596 号 30 頁。 6)金子宏『租税法〔19 版〕』(弘文堂、2014 年)724 頁。 7)金子宏・前掲注6)書 735 頁。 久留米大学名誉教授 図子善信 4 新・判例解説 Watch
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