不動産取得税における非課税規定の適用要件 - LEX/DBインターネット

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◆ 2014 年 12 月 19 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.113
文献番号 z18817009-00-131131155
不動産取得税における非課税規定の適用要件
【文 献 種 別】 判決/大阪地方裁判所
【裁判年月日】 平成 24 年 7 月 5 日
【事 件 番 号】 平成 23 年(行ウ)第 73 号
【事 件 名】 不動産取得税賦課決定取消等請求事件
【裁 判 結 果】 認容
【参 照 法 令】 地方税法 73 条の 4
【掲 載 誌】 判例集未登載
LEX/DB 文献番号 25483036
……………………………………
事実の概要
……………………………………
設を建築し、平成 22 年 4 月 1 日、それらを開設
した。
大阪府知事から権限の委任を受けた処分行政庁
(大阪府中河内府税事務所長)は、平成 22 年 7 月 5
日付で、原告に対し、本件取得については、不動
産取得税の非課税規定(地方税法 73 条の 4 第 1 項
4 号の 2) は適用されないものとして、不動産取
得税の賦課決定処分をした。
原告は、平成 22 年 7 月 27 日付で、処分行政
庁に対し、大阪府条例 42 条の 18 第 1 項 3 号に
基づき、本件従前土地に係る不動産取得税の免除
を申請し、併せて、物件目録 1 記載 3 の土地の
うち平成 19 年 10 月 11 日分筆後の本件神社敷地
については神社用敷地の取得であることを理由と
して、不動産取得税を減免したが、その余の部分
を不承認とした。
原告は、大阪府知事に対し、平成 22 年 9 月 2
日に上記賦課決定処分について、同月 27 日に上
記不承認処分について、それぞれ審査請求をした
が、大阪府知事は、同年 11 月 18 日、各審査請
求を棄却する各裁決をした。
被告(大阪府)は、平成 16 年 11 月頃、被告所
有の土地(以下「本件従前土地」という。) に児童
福祉施設を整備する社会福祉法人を募集した。
平成 17 年 11 月 1 日、被告は、社会福祉法人
である原告との間で、本件従前土地及びその地上
建物について、府有財産売買契約を締結した。同
売買契約においては、原告は、平成 22 年 4 月 1
日までに、売買物件を直接児童福祉施設の用途
に供しなければならないとの用途指定がされてい
た。
原告は、平成 17 年 11 月 28 日、本件従前土地
の所有権を取得し(以下「本件取得」という。)、平
成 19 年 8 月 17 日、本件従前土地について所有
権移転登記をした。なお、本件従前土地のうち、
物件目録 1 記載 1 の土地は、平成 19 年 10 月 11
日に、物件目録 2 記載 1 の土地、A土地及びB
土地に、物件目録 1 記載 3 の土地は、同日、C
土地並びに物件目録 2 記載 6 及び 7 の各土地に
分筆された。
東大阪市長は、平成 19 年 12 月 21 日付で、原
告を共同施行者とし、本件従前土地のうち物件目
判決の要旨
録 2 記載の各土地(以下「本件区画整理対象地」と
1 本件非課税規定の適用要件
いう。) を含む一帯に係る土地区画整理事業の施
「政策目的の実現を重視するのであれば、不動
行を認可した。
産の取得時に課税関係を確定させるのではなく、
原告は、平成 21 年 4 月 15 日付で、物件目録
2 記載 1 ないし 5 の各土地につき、物件目録 3 記
当該政策目的に適う不動産の取得について不動産
載 1 ないし 5 の各土地(以下「本件換地」という。)
取得税の徴収を猶予し、現実に一定期間内に当該
を換地として指定し、物件目録 2 記載 6 及び 7
不動産の取得者が当該不動産を当該政策目的に適
の各土地は金銭で精算する旨の換地処分の通知を
う方法で利用した場合に不動産取得税の免除をす
受けた。
るという制度を採用することも十分に考えられる
原告は、本件換地上に、乳児院及び児童養護施 (現に、不動産取得税については、地方税法 73
vol.7(2010.10)
vol.16(2015.4)
1
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新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.113
条の 27 の 3 ないし 73 条の 27 の 6 において徴収
猶予及び免除という制度が採用されている。)。そ
して、用途による不動産取得税の非課税を定めた
地方税法 73 条の 4 について、固定資産税との対
比から、不動産取得税においても直ちに非課税用
途に供されないときは一定の期間徴収猶予を行う
こととする制度を導入すべきものと考えられると
の指摘があるにもかかわらず、同条の枠組みに根
本的な改正がされていないことに鑑みると、立法
者は同条の非課税規定については、非課税用途に
供するために不動産を取得したことが真実である
のであれば、その後当該不動産が現実に非課税用
途に供されることがなかったとしても、なお非課
税とすべきであると判断したとみる余地もある。
したがって、政策目的によるという本件非課税規
定の趣旨から直ちに、当該不動産の取得者が現実
に非課税用途に当該不動産を供したことが非課税
要件として必要であることが導き出されるとはい
えない。」
「非課税規定について、条文の文言にない要件
を付加することは、上記のような厳格な解釈及び
運用ということはできず、納税者の予測可能性を
著しく害し、法的安定性を損ねるものであって、
租税法律主義に反するものとして原則として許さ
れないというほかない。」
以上に照らせば、本件非課税規定においては、
社会福祉法人等が、同規定の定める非課税用途
(略)に使用する目的を有していること(主観的要
件)は必要であるが、当該不動産取得後に当該不
動産を現実に非課税用途に供したこと(客観的要
件)は、その要件とされていないものと解するの
が相当である。
2 取得目的の認定方法
「当該不動産の取得が非課税用途に用いられる
か否かについては、課税庁が、当該不動産の取得
に係る契約書、事業計画書、当該不動産の取得者
の財産状況等の諸般の事情を総合した事実認定に
より決せられるべきものであって、当該不動産の
取得者が非課税用途に供する目的を有していると
課税庁に説明していることや当該不動産の取得に
係る契約書に非課税用途に供する旨の取得目的が
記載されていることによって、課税庁において当
該不動産の取得が非課税用途に供されるとの認定
を必ずしなければならないものではないことは明
らかである。そして、納税者間の公平の観点から、
2
非課税要件の存在については厳格に審査がされる
べきところ、当該不動産取得者による非課税要件
該当性の説明等に疑義があり、非課税要件該当性
について直ちに認定することができない場合に
は、不動産取得税の賦課の決定を保留し、不動産
取得後に現実に取得者が非課税用途に供したこと
の有無をはじめとする取得後の事情を考慮して、
非課税要件該当性を認定することも許容されると
考えられる。」
3 本件取得の目的
「被告は、本件公募に対する原告の応募につい
て、原告の社会福祉法人としての適格性並びに施
設整備計画、運営計画、援助計画、資金計画及び
地元市、地元住民等対応計画の妥当性などを検討
して、原告を本件従前土地の売却先として決定し
たというのであるから、原告の提案する児童福祉
施設の整備計画の実現性についても特段の問題が
ないと判断したと推認できる。次に、本件従前土
地等の売買契約では、原告が平成 22 年 4 月 1 日
までに本件従前土地を直接児童福祉施設の用途に
供さなければならず、これに違反した場合等には
被告に買戻権が付与されていた。また、原告は、
本件取得後も、関係地権者等と本件従前建物の解
体及び児童福祉施設の建築に必要となる工事用車
両の進入路確保のための折衝を継続していたとこ
ろ、関係地権者から本件土地区画整理事業への参
画を提案され、同事業へ参画すれば工事用車両の
進入路を確保することができるため、原告はこれ
に応じたものと認められる。本件仮換地処分に
よって、原告は仮換地の指定を受けたため、別紙
物件目録 2 記載 1 ないし 5 の各土地について使
用収益が禁止され(土地区画整理法 99 条 1 項)、
他方、本件仮換地についても、換地処分の公告が
される日までその使用が原則として禁止された。
そして、原告は、本件換地上に実際に本件建物を
建築し、本件建物を乳児院及び児童養護施設とし
て使用しているところ、被告は、本件従前土地等
の売買契約において有する買戻権を行使しておら
ず、本件従前土地等の売買契約に付された条件に
違反しているとは取り扱っていないものと推認で
きる。したがって、原告が本件従前土地に本件建
物を建築しなかったのは、工事用車両の進入路確
保のために本件土地区画整理事業に参画し、その
後の仮換地処分によって本件従前土地の大半を占
める別紙物件目録 2 記載 1 ないし 5 の各土地の
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る。
なお、地方税法における非課税規定は、各種の
政策目的、税制上の理由等により、全国画一的に
一定の範囲のものに対して課税しないこととして
いるものであり、その限りにおいて地方公共団体
の課税権を制限しているものといえる。したがっ
て、地方税法における非課税規定の適用は、条例
の定めがなくとも可能である。
2 課税庁による非課税規定の適用判断について
不動産を取得した者は、その取得の事実その他
不動産取得税の賦課徴収に関する一定事項を(大
阪府の場合 20 日以内に)申告又は報告しなければ
ならず(地方税法 73 条の 18)、申告を受けた課税
庁は、非課税規定にいう用途に該当するか否か調
査を行い、それが用途から見て非課税となれば納
税通知書の送付を行わず、結果として課税されな
いこととなる。なお、申告が行われない場合でも、
課税庁は登記等から不動産取得の事実を確認し、
納税者への調査を行っている。
地方税法上の非課税規定は、地方公共団体の課
税権の制限であるから、非課税要件を充足してい
る旨の申告がなければ非課税を認めないというこ
とはできないが、直ちに判断できない場合には、
本判決が判示するように、一旦、課税留保として
扱うべきことになろう。
非課税規定の適用基準について、各都道府県知
事あて通知には「非課税の範囲には、国等に対す
る非課税、用途による非課税、形式的な所有権の
移転等に対する非課税等があるが、いずれも限定
列挙したものであるから、拡張解釈して非課税
としないように留意すること」(地方税法の施行に
使用を禁止されたためであって、やむを得ない事
情があったということができる」
以上に照らせば、原告は、本件従前土地等の取
得時において、本件神社敷地を除く本件従前土地
を乳児院及び児童養護施設の用に供するという意
思を有していたと優に認められ、本件神社敷地を
除く本件従前土地の取得について、本件非課税規
定の適用があるといえるから、本件非課税規定の
適用がないとしてされた本件賦課決定処分(ただ
し、平成 22 年 8 月 5 日付で減免された部分を除く。
)
は違法であり、取消しを免れない。
判例の解説
一 はじめに
本件は、社会福祉法人である原告が、児童養護
施設の建築のため、被告から本件従前土地を購入
し、本件従前土地の一部について土地区画整理法
に基づく換地処分を受けた後に、本件換地上に児
童福祉施設を建築したところ、本件従前土地の購
入について、地方税法 73 条の 4 第 1 項 4 号の 2
の非課税規定の適用があるかが問題となった事案
である。
二 不動産取得税の非課税規定とその適用
1 非課税の根拠規定
不動産取得税(地方税法 73 条の 2 以下)は、
「不
動産の取得」を対象として課される都道府県税で
あり、不動産の取得という行為には一般的にその
背後に担税力があるものとして推認され、このよ
うな担税力に着目して課されるものである(最判
昭 47・11・16 民集 27 巻 10 号 1333 頁参照)。
地方税法 73 条の 4 第 1 項は、「道府県は、次
の各号に規定する者が不動産をそれぞれ当該各号
に掲げる不動産として使用するために取得した場
合においては、当該不動産の取得に対しては、不
動産取得税を課することができない」と規定し(同
柱書)、公共的性格を有する団体等による一定の
用途での不動産の取得について、一定の政策目的
から非課税としている。
「社会福祉法人その
そして、同項 4 号の 2 は、
他政令で定める者が児童福祉法 7 条 1 項に規定
する児童福祉施設の用に供する不動産で政令で定
めるもの」と規定し、社会福祉法人等による児童
福祉施設の用途での不動産の取得を非課税とす
vol.7(2010.10)
vol.16(2015.4)
関する取扱いについて(道府県税関係)
(平成 10 年
4 月 1 日自治府第 51 号)第五章・第一の四)と規定
されているが、具体的場面における判断基準は明
確でない。
三 本件非課税規定の適否について
本件においては、本件非課税規定の適用要件で
ある「当該各号に掲げる不動産として使用するた
めに取得した場合」に当たるか否かが争点となっ
た。課税庁は、①不動産取得時に非課税用途に使
用する目的を有することのみならず、②当該不動
産取得後に当該不動産を現実にその用途に供した
ことまでも充足する必要があると主張した(本判
決では、①を主観的要件、②を客観的要件としてい
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るので、便宜、本稿でもこれを用いる。
)。
課税庁は、「不動産の取得の当事者が当初から
当該不動産を非課税用途に使用する目的を有して
いないにもかかわらず、当該用途に使用する旨の
外観を作出しさえすれば、非課税規定の適用を受
けることが可能となり、不正な手段によって本件
非課税規定の適用を受ける事例」が現れる懸念が
あることを主張した。
これに対し、本判決は、主観的要件の認定過程
において、上記懸念は排除できるものとした。
そのうえで、本判決は、不動産取得の目的の認
定にあたっては、「納税者間の公平の観点から、
非課税要件の存在については厳格に審査がされる
べきところ、当該不動産取得者による非課税要件
該当性の説明等に疑義があり、非課税要件該当性
について直ちに認定することができない場合に
は、不動産取得税の賦課の決定を保留し、不動産
取得後に現実に取得者が非課税用途に供したこと
の有無をはじめとする取得後の事情を考慮して、
非課税要件該当性を認定することも許容されると
考えられる」と判示した。
上記の判旨は基本的に相当と思われる。当該不
動産の取得後に非課税用途に不動産を使用しない
理由には、課税回避の意図以外に様々な事情があ
り得るものと考えられるため、現実に非課税用途
に不動産を使用していないことのみをもって、非
課税規定の適用がないと扱うべきとする課税庁の
見解は行き過ぎであろう。
1 租税法律主義との関係
本判決は、
「非課税規定について、条文の文言
にない要件を付加することは、……納税者の予測
可能性を著しく害し、法的安定性を損ねるもので
あって、租税法律主義に反するものとして原則と
して許されない」と判示し、租税法律主義に基づ
く文理解釈により、客観的要件は不要と結論づけ
ている。
もっとも、非課税規定は税負担の公平の例外で
あるから、客観的要件を不要とする解釈が正当と
されるためには、本件非課税規定の趣旨や、税負
担の公平性に反しないかといった点にも配慮する
必要があると思われる。本判決も、単に租税法律
主義を根拠とするだけでなく、こうした点にも配
慮したうえで客観的要件を不要とする解釈を導い
ている。
2 非課税規定の趣旨との関係
課税庁は、本件非課税規定は、児童福祉施設の
整備という政策目的の実現に資することを目的と
するものであり、当該不動産が実際に児童福祉施
設の用に供されなかった場合にも非課税とするこ
とは、児童福祉施設の整備という趣旨に反すると
主張した。
これに対し、本判決は、政策目的の実現を重視
するのであれば、現実に一定期間内に当該不動産
の取得者が当該不動産を当該政策目的に適う方法
で利用した場合に不動産取得税の免除をするとい
う制度を採用することも十分に考えられるが、現
実にはそのような制度となっていないことから、
立法者として、
「同条の非課税規定については、
非課税用途に供するために不動産を取得したこと
が真実であるのであれば、その後当該不動産が現
実に非課税用途に供されることがなかったとして
も、なお非課税とすべきであると判断したとみる
余地もある」と判示した。
不動産取得税について、地方税法 73 条の 27
の 3 ないし 73 条の 27 の 6 において、徴収猶予
及び免除という制度が採用されていること、また、
非課税用途に供されないときは一定の期間徴収猶
予を行うこととする制度を導入すべきものとの指
摘が現実にされていることも本判決は事実として
指摘しており、これら事実を踏まえれば、上記判
示は説得的といえる。
3 税負担の公平性との関係
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四 最後に
本件は、換地処分という後発的な事情により、
原告が本件従前土地上に児童福祉施設を建設する
ことができなくなったものであり、本件換地上に
は現に児童福祉施設を建築しているのであるか
ら、課税を回避するために外観を作出した事案と
はその性質が異なることが明らかであり、非課税
規定の適用があるという結論自体も妥当と思われ
る。
●――参考文献
碓井光明「不動産取得税――不動産取得の意義」租税判例
百選〔第 5 版〕(有斐閣、2011 年)168 頁
占部裕典「租税法における文理解釈と限界」(2013 年、慈
学社)789~895 頁
弁護士 西堀祐也
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