皮膚関連疾患 乾癬治療における 自己注射の意義と導入のコツ 小 寺 雅 也 静注といった投与経路や投与間隔が異なる。さ 乾癬治療にはこれまで外用剤、紫外線治療、 ビタミンA誘導体やシクロスポリン内服など多 ライフスタイルに合わせた治療選択が可能とな る。それぞれの投与方法の差を生かし、患者の はじめに 様な方法が使用されてきたが、バイオテクノロ っている︵表①︶ 。 らにアダリムマブは自己注射も可能な薬剤であ ジーの飛躍的向上を背景に登場した生物学的製 2014年 月現在、本邦ではアダリムマブ ・インフリキシマブ・ウステキヌマブの3剤が でもアダリムマブによる治療例では、自己注射 3剤全ての生物学的製剤を使用している。なか 当院では各患者の年齢、罹病期間、重症度、 剤は、乾癬治療に大きなインパクトを与えた。 関節炎合併の有無、ライフスタイルを考慮し、 乾癬、乾癬性関節炎に対して保険適用が承認さ ている。 れている生物学的製剤である。これらの薬剤は、 指導の後、ほぼ全例の患者が自己注射に移行し 標的分子や効果発現までの期間、持続期間の差 だけでなく、それぞれの薬剤で皮下注射や点滴 108 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (248) 11 ①乾癬に適応を有する各種生物学的製剤の特徴 アダリムマブ インフリキシマブ ウステキヌマブ 標的分子 TNF α TNF α IL12/23 p40 投与経路 皮下注 点滴静注 皮下注 投与間隔、 投与量 初回80mg、その後 2週毎に 40mg 0、2、6週、その後 8週毎に5mg/kg 0、4週、その後 12週毎に 45mg 自己注射 ○ × × (筆者作成) 自己注射のメリット 自己注射には、患者・医療従事者それぞれの 立場からのメリットがあると考えている。 患者の視点から考えると、まず一番のメリッ トは、日常の生活パターンを変えることなく治 療ができるという点であろう。日中仕事に従事 している方や子育て中の方など、通院日や治療 時間を確保することが難しい患者にとっては有 用な治療法であると考える。また、出張や旅行 に頻繁に行かれる方には、スケジュールの制約 が少なくてすむというメリットもある。 さらに、自己注射をすることにより、患者自 身の治療に対するモチベーションが向上すると いうメリットもある。乾癬治療の実臨床では、 重症度の高い乾癬でいくつもの治療法を試して きたが良くならず、長期間の治療に対して﹁あ きらめ﹂のような気持ちを持ってしまった方、 治療に対して自身で考えるよりも医療者に任せ てしまう方なども少なくなく経験する。そのよ (249) CLINICIAN Ê15 NO. 636 109 についての理解が深まり、自己注射をするなか うな方でも、自己注射指導の過程で疾患や薬剤 師も含めたチーム医療のモチベーションも上が 自己注射導入のコツ り、まさに win-win の関係を築くことができる と言えるであろう。 で、自分自身で症状をコントロールしている感 覚が得られることにより、治療に前向きになれ るのではないかと考えている。 が、自己注射に対する拒否感、恐怖心を抱く患 医療従事者の視点から考えると、主に注射業 前述のとおり、自己注射による治療を行うこ 務に携わる看護師の負担軽減という点は大きな とは患者と医療従事者の双方にメリットがある メリットである。自己注射導入時の指導には一 定の時間を要するが、自己注射へ移行できれば、 者もいることは事実である。 が、最初から無理に勧めることはしない。自己 外来での注射に関わる業務は不要となり、他の 当院では、アダリムマブの使用例では全例に 業務に時間を費やすことができると考えている。 対して自己注射へ移行してほしいと考えている また、患者の待ち時間軽減にも繋がるというメ 注射を拒否される患者には看護師が注射投与す や経済的負担についてなど、自己注射のメリッ リットもある。 さらに、自己注射指導やその後のフォローア ップの際には、医療従事者︵特に看護師や薬剤 トを少しずつ伝え、 歳代の若者や 歳代のご るが、その注射の際に通院回数が軽減すること 師︶と患者が一定の時間をとってコミュニケー 頼関係が構築できることにより、看護師や薬剤 構築できるというメリットもある。患者との信 ションをはかれる良い機会であり、信頼関係が するようになることが多い。 ていくと、やがて患者自身から自己注射を希望 高齢の方でも自己注射をされていることを伝え 80 110 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (250) 10 ②自己注射の補助具 補助具にプレフィルドシリンジを装着したところ。注射針が隠れて見えず、針への恐怖心を (アッヴィ合同会社・エーザイ株式会社提供画像) 和らげている。 また、自己注射の際の針に対する恐怖心があ る方には、自己注射の補助具︵図②︶を実際に 見てもらう。この補助具を使うと、針先がほと んど見えなくなるので患者の恐怖心が和らぎ、 また補助具と皮膚がしっかりと接着するので、 安定して注射することができる。補助具をうま く使うことも、自己注射導入のコツであろう。 また、自分自身で注射スピードをコントロール できるので、薬剤注入時の痛みを軽減できるこ とも伝えるとよい。 そして何より、患者が﹁できる﹂という自信 を得るまで根気強く、励まし褒めながら指導す ることが重要である。 最後に 筆者自身、自己注射導入を始める際には、患 者が問題なく注射してくれるか、自己注射指導 を円滑に行えるかどうか不安な点はあった。し かし、現在までのところ自己注射におけるトラ (251) CLINICIAN Ê15 NO. 636 111 ブルは発生しておらず、アダリムマブによる治 療を受けている患者のほぼ全員が自己注射に移 行することができている。 自己注射指導においても、外来自己注射指導 パスやテンプレートを作成し、看護師が積極的 に関わっている。インスリン等で自己注射指導 に慣れている看護師も多いと思われるので、信 頼し任せることも肝要である。医療スタッフ間 のコミュニケーションと信頼関係も、自己注射 への移行を円滑に行ううえでの鍵になろう。 乾癬の治療は長期にわたるため、有効な治療 をより長く継続してもらうことを考えた場合、 患者の生活パターンを変えずに治療を継続する ことができ、患者が治療に対して積極的に取り 組むようになるという自己注射の2つのメリッ トは、乾癬の治療を選択するうえで大きなポイ ントとなるであろう。 ︵中京病院 皮膚科 部長・ 膠原病リウマチセンター センター長︶ 112 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (252)
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