はじめに 65 LDAの使用状況 低用量アスピリンによる 上部消化管出血・潰瘍抑制の EBM 10 岩 切 龍 一 複数の基礎疾患を有する患者も増加している。 達すると予想される。高齢人口の増加に伴い、 性潰瘍は増加傾向を示している。アスピリン自 剤 の 服 用 で あ る。 H. pylori に起因する潰瘍は 徐々に減少していくと予想される一方で、薬剤 見を紹介する。 次予防目的で抗血小板薬を投与することが推奨 ことが判明し、脳血管疾患、心血管系疾患の二 でも血栓性疾患の発症予防薬として効果がある 3) 1) 本稿では、低用量アスピリン︵LDA︶によ る上部消化管障害とその予防に関する最新の知 れるようになった。 このような状況下で薬剤性消化管障害も注目さ 約 年後には高齢人口の割合は、 ・9%にも 39 3、 200万人︵ ・1%︶と増加している。 25 体は古くから使用されている代表的なNSAI Dsであるが、330㎎ /日程度以下のLDA 2) 消化性潰瘍発症の2大要因は、ヘリコバクタ 本邦の平成 年 月現在の総人口は約1億2、 ー・ピロリ︵ H. pylori 700万人であり、うち 歳以上の高齢者は約 ︶感染と、LDAや非ス テロイド系抗炎症薬︵NSAIDs︶などの薬 25 (321) CLINICIAN Ê15 NO. 637 53 50 DAを服用している患者の6・5%に消化性潰 瘍が発生し、 ・2%に上部消化管びらんが発 ている。2000年にLDAが血栓性疾患の予 い、血栓性の心血管障害や脳血管障害が増加し 抗血栓薬の併用などが知られている。 歳以上の高齢者、潰瘍の既往、NSAIDsや に喫煙者や H. pylori 感染者で高かった。LD Aによる粘膜障害の他の危険因子としては、 生している。この研究では、潰瘍のリスクは特 防薬として保険適用を取得して以来、処方件数 が急激に増加している。 LDAによる上部消化管障害の抑制 り、LDA内服患者での消化管障害予防は必須 血管系の基礎疾患を有している患者での消化 管出血は死亡率を悪化させることも知られてお 一方、LDAの服用の際には多くの副作用を 伴うが、中でも消化管障害は最も注意すべきで である。 受容体拮抗薬︵ RA︶やプロトン 60 20 H2 H2 のびらん性病変が、約 ∼ %に消化性潰瘍が、 ポンプ阻害剤︵PPI︶などの酸分泌抑制薬が 7) 8) ある。LDA服用者の約 ∼ %に上部消化管 LDAによる上部消化管粘膜障害 12) を服用している。本邦でも高齢人口の増加に伴 29 されている。 000万人以 米国では、成人の約 %、5、 上が、心血管疾患の予防目的で定期的にLDA 40 40 10 1∼2%に消化管出血が発生すると報告されて は知られているが、酸分泌抑制効果の強いPP LDAによる粘膜障害の予防に有効であること Iのほうが予防効果が優れている。米国のガイ ドライン等でも、LDAによる上部消化管障害 予防のためにPPIの併用が推奨されている。 14) ースも存在する。 最近、日本で行われた大規模観察研究による と、脳血管疾患、心血管系疾患の予防目的でL 13) おり、出血や穿孔が原因となって死亡に至るケ 9) 10) 54 CLINICIAN Ê15 NO. 637 (322) 6) 11) 4) 5) 70 ラベプラゾールの上部消化管障害抑制効果 された。 16) DA︵ ㎎ /日または100㎎ /日︶を服用中 薬物代謝酵素であるCYP2C の作用を比較 作用も考慮する必要がある。ラベプラゾールは PPIの選択にあたっては、薬物動態学的相互 多剤薬物使用が多い背景があるため、併用する いる。LDA服用者は主に高齢者であり、また 割付調整因子とした動的割付を行い、ラベプラ 抗血小板薬または抗凝固薬の併用有無、施設を して、年齢︵ 歳未満/以上︶ 、LDA以外の 歴を有する外来患者を対象とした。被験者に対 であり、かつ胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往 様々な酸関連疾患に対する有用性が確認されて 年齢 歳以上の脳血管疾患、心血管系疾患等 ラベプラゾールは、速やかで強力な胃酸分泌 を有する患者で血栓・塞栓形成の予防目的にL 抑制作用を発揮するPPIであり、これまでに 20 81 的受けにくく、LDAと組み合わせるPPIと して適している。 今回、2011年7月から2013年3月に かけて、日本の 施設において、上部消化管障 ゾール ㎎ 1日1回、ラベプラゾール5㎎ 1日 70 1回、テプレノン ㎎ 1日3回、の3つの治療 し、 週間治験薬を投与した。主要評価項目は、 群のいずれかに1 1 1に無作為に割り付け 50 19 週後における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の累 歴を有する患者を対象として、LDA投与時に ける出血性潰瘍の累積発症率、 Lanza score に よる胃粘膜傷害および十二指腸粘膜傷害の改善 積再発率とした。副次評価項目は、 週後にお 対するラベプラゾール5㎎ および ㎎ の有効性 おける胃潰瘍および十二指腸潰瘍の再発抑制に 害発症のハイリスク群である消化性潰瘍の既往 10 24 15) 率/悪化率ならびに上腹部症状の悪化率とした。 24 盲検比較試験︵ PLANETARIUM study ︶が実施 被験者472例のうち452例︵ラベプラゾ ならびに安全性を確認する臨床第2/3相二重 10 (323) CLINICIAN Ê15 NO. 637 55 24 63 ①投与24週後における消化性潰瘍の累積再発率 25 15 10 ⣼✚Ⓨ⋡咁 䠂咂 2.8ήό 5 RPZ 10mg RPZ 5mg TEP ίn=151ὸ ίn=150ὸ ίn=151ὸ (文献16より引用・改変) RPZ:ラベプラゾール、TEP:テプレノン 累積再発率は Kaplan-Meier 法による推定値 ール ㎎ 群151例、ラベプラゾール5㎎ 群1 大解析対象集団として評価可能であった。 週 50例、テプレノン150㎎ 群151例︶が最 10 率は、ラベプラゾール ㎎ 群で1・4%︵2 時点での胃潰瘍または十二指腸潰瘍の累積再発 24 テプレノン群で ・7%︵ 例︶であり、ラベ 例︶ 、ラベプラゾール5㎎ 群で2・8%︵4例︶ 、 10 プラゾール ㎎ 群および5㎎ 群はともに、テプ 21 レノン群と比較して有意に優れた潰瘍の再発抑 制効果を示した︵図①︶ 。 週後における出血 性潰瘍の累積発症率は、テプレノン群で4・6 %︵7例︶であったが、ラベプラゾールでは ㎎ 群、5㎎ 群ともに出血性潰瘍の発症は認めら れず、ラベプラゾール投与群は有意に優れた出 血 性 潰 瘍 の 発 症 抑 制 効 果 を 示 し た︵ 表 ② ︶ 。 による胃粘膜傷害および十二指腸 Lanza score 粘膜傷害や上腹部症状の悪化率の検討でも、ラ ベプラゾール ㎎ 群および5㎎ 群はともに、テ プレノン群と比較して有意に優れた胃粘膜傷害 10 32 24 56 CLINICIAN Ê15 NO. 637 (324) < 0.001 vs. TEP 䠄Log-rank test䠅 20 10 10 όP 21.7ή 1.4ήό 0 ②出血性潰瘍の累積発症率:Forrest 分類による評価 ラベプラゾール10㎎群 ラベプラゾール5㎎群 テプレノン150㎎群 (n=151) (n=150) (n=151) 0例 0例 7例 24週後累積発症率 (95% CI) 0% (0,0) 0% (0,0) 4.6% (2.24,9.48) Log-rank 検定 (vs. テプレノン) P = 0.001* P = 0.001* 出血例数 および十二指腸粘膜傷害の悪化抑制効果を示し た。 今回の研究は他の研究と異なり、対象患者は 明らかな潰瘍歴を有する患者で、かつ H. pylori 感染者も含まれている。本邦の臨床現場に則し た対象者での研究結果で、LDAによる胃・十 二指腸潰瘍再発に対するラベプラゾールの予防 効果の明確なエビデンスが示された。 おわりに ラベプラゾールは、5㎎ および ㎎ いずれの 用量投与でも、潰瘍の既往歴を有するLDA服 ︵佐賀大学医学部 光学医療診療部 診療教授︶ 薬として恩恵をもたらすことが期待される。 の潰瘍歴のあるLDA内服患者の潰瘍再発予防 用者の潰瘍再発抑制に効果がある。今後、本邦 10 (325) CLINICIAN Ê15 NO. 637 57 16) 17) 文献 厚生労働統計協会編 国民衛生の動向2014/2 015 衛生の主要指標 人口静態、厚生の指標、 1) (文献16より引用・改変) 累積発症率は Kaplan-Meier 法による推定値 *有意差あり 増刊、 ∼ ︵2014︶ 57 Ootani H, et al : Role of Helicobacter pylori infection and nonsteroidal anti-inflammatory drug use in bleeding peptic ulcers in Japan. 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