講演概要(PDF:219KB)

皆さん改めましておはようございます。ご紹介いただきました、明治大学の牛山と申し
ます。よろしくお願いいたします。本日は市民参加条例の検討ワークショップの第 1 回と
いうことで、日曜日の午前中からご苦労様でございます。皆さんには今日は、本来であれ
ばワークショップですから、ひざを突き合わせて、いろんな議論をさせていただければ一
番よいのですが、今日は最初ということで、講義形式でお話させていただきます。皆さん
が何回かワークショップを行われて、最後の時に私と議論させていただくということにな
っておりますので、また、その時までによろしくお願いいたします。
分権時代の自治体と市民
私が最近思っていることは、私たち、小さい頃から地方自治と教わっているのですが、
果たして私たち市民は地方自治についてどれくらい理解しているのか、というと非常に心
もとない気がするんですね。といいますのはね、大半の市民住民の皆さんにとって、たと
えばこの市役所というのはどういう存在かということなんです。
一昨日も神奈川県の研修所で全県の市町村の職員の皆さんにお話した時に、皆さん、市
役所や町村の職員の方が自ら「末端行政機関」と言うんです。つまり、市町村の職員の皆
さんは県庁の職員の皆さんを、あたかも上司であるかのように言ったり、県庁の職員はあ
るいは市町村の職員の皆さんは、あたかも国家公務員、官僚を上司であるかのように言う
んですね。有名な松下圭一先生が日本は官治集権の後進国だとずっとおっしゃっていまし
た。つまり国が頭脳、市町村、都道府県は手足としていろいろなことを実行する。こうい
うことが普通に行われていて、しかも住民の皆さんもそういうことに慣れ親しんでいるん
です。私は神奈川県の相模原市というところに住んでいるんですが、何年か前に中核市に
なったんです。政令指定都市とか中核市は大都市特例というのがありまして、大きな都市
だからと、県と同じような権限が与えられているんです。従って、県庁を通さずに国とい
ろいろな事をしたり、保健所を市役所で持っていたりするんです。何年も前に子どもを 1
歳児検診に連れて行ったんです。そしたら、ちょうど中核市になる時で、お母さんたちが
ざ わ ざ わ し て い た ん で す 。「 ど う し た ん で す か 」 と 聞 く と 、「 保 健 所 が 今 は 県 庁 で や っ て い
る け れ ど 、今 度 は 市 役 所 の 保 健 所 に な る ん で す っ て 。困 っ た わ 。」と 皆 さ ん お っ し ゃ っ て い
るんです。
「 何 が お 困 り な ん で す か 」と 聞 く と「 だ っ て 、県 庁 だ か ら し っ か り し て い る け れ
ど 、市 役 所 だ か ら 危 な い 。」と 言 う ん で す 。こ れ は 上 級 官 庁 が や っ て い る 方 が 安 心 だ と い う
ことのようです。だから、私「そんなことないじゃないですか。身近なところで物事が決
定 さ れ て 、 政 治 や 行 政 が 運 営 さ れ る と い う こ と は い い こ と じ ゃ な い で す か 。」 と 言 っ た ら 、
「 あ あ 、な る ほ ど ね 。」と 。つ ま り 、自 治 体 と い う も の が 自 立 し て い て 、そ れ ぞ れ が 決 定 権
を持っているということが理解されていない。しかも国と地方の関係が、さっき話した官
治集権といわれる集権的な仕組みでしたから、それが職員や市民の方の中で、上下関係が
出来上がってしまっている。でも、こんなこと何の根拠もないんです。法律にも憲法にも
そ ん な 国 や 県 が 上 級 官 庁 だ と か 、国 と 自 治 体 の 上 下 関 係 の 事 な ん か 何 も 書 い て な い ん で す 。
書いてないことをずっとやってきたんです。確かに霞ヶ関の官僚は大変優秀です。でも、
彼ら彼女らが絶対に春日部市役所の職員に勝てないことがあるんです。それは何かといっ
たら、春日部市の職員の皆さんは、皆さんのお近くにいて、皆さんが困った、大変だとい
うことを聞いてくれる。つまり地域のことを分かっている職員でしょ。各自治体が行うこ
とは、すごくでこぼこがあるんです。例えば高齢者が多くなっている自治体と、高齢化率
はまだ低くて子どもが結構多いよという自治体では、当然保育所を作るのか、在宅介護を
充実させるのか、自ずと政策の重点は違ってくるはずです。ですから、重点が違ってくる
ところは自治体で考えなかったら無駄が多いわけです。
市民の皆さんの中には、会社を経営してきて人事や経営に詳しい方、コンサルタント会
社に勤めていてまちづくりに詳しい方、環境に詳しい方、学校の先生をやられていて教育
に詳しい方、皆さんいろいろな知識を持たれていて、場合によってはNPOとか市民活動
をやっている人の方が、役所の職員よりずっと詳しくて、政策についても問題提起される
方もいらっしゃいますよね。市役所と市民の皆さんがパートナーシップを組んで、一緒に
なって役所を作っていくそういう時代だと思うんです。その中で、これから新しい時代の
春日部市を作るというときに、今までどおりのやり方でいいのだろうか、という疑問がで
て き ま す 。や は り 、市 長 さ ん 、議 会 の 皆 さ ん が 意 思 決 定 機 関 と し て 機 能 す る の だ け れ ど も 、
もっともっと住民の皆さんも自治体行政に関心を持って、物事の決め方や、場合によって
は行政サービスについても皆で分け合って、支えていくということが必要になってくるん
です。税金ですべてやるというのは限界があるんです。税金でやって欲しいのなら、もっ
と払わなくてはならない面もある。もちろん役所に無駄があったり、やるべきことをやっ
ていないというなら、それを全部正した上でのことですよ。役所も精一杯やっている、そ
の上でやれというならば税金を払わなくてはいけない。そういうなかで、自治体を住民と
行政の協働で創るということは、どういうことかということなんです。例えば皆さんに対
して、市役所の方が「市としましてはこのように考えています」というでしょ。皆さんや
市役所の方が従来「市」と言っているのは、市の中の一部なんです。私たちは、通常、機
関を市と呼んでしまっている。意識の中で市長さんを市と考えています。市長さんには市
長部局という執行機関が従っていますから、市長さんの下に役所があるわけです。ここの
ことを「市」と捉えている。でも、本当は市=市長ではないんです。では市というのには
何があるかと言いましたら、まず議会があります。それに住民もいます。法律上は住民も
入っているんです。
協働の意味
今 、よ く 聞 く の だ け れ ど も 、よ く 分 か ら な い と い う 言 葉 に「 協 働 」と い う 言 葉 あ り ま す 。
研修なんかで話をしても、職員の方もよく分からない。市民の皆さんもよく分からない。
下手をすると、協働ってとんでもないという話もあるんです。例えばこの間も宮城県のあ
る 町 で 、 シ ン ポ ジ ウ ム が あ っ て お 話 を し ま し た ら 、 300 人 く ら い の 会 場 で 、 後 ろ の 方 に い
た男性が質問!って手を挙げて、
「 今 日 は お 話 を 聞 い て よ く 分 か っ た け れ ど も 、た だ 、協 働
と 言 う 言 葉 が 気 に 食 わ ん 。町 長 、協 働 な ん て 綺 麗 ご と 言 わ な い で 、正 直 に 勤 労 奉 仕 と 書 け 。」
と強く批判されました。町長はそういうことじゃないと反論していましたけれども。下手
をすると、役所が財政が厳しくなったから、市民に負担してもらおうというようなところ
が 前 に 出 る イ メ ー ジ が あ る の だ と 思 い ま す 。例 え ば 行 政 職 員 が 1 千 万 円 で 行 っ て い る 事 業
が あ っ て 、民 間 委 託 し た ら 800 万 円 だ と 、市 民 事 業 と い う の で や っ た ら 300 万 円 で す ん だ
と、これは良かったということを強調しちゃうと、確かに協働と言うのは胡散臭いと市民
に負担転化をする話になってしまうんですね。
しかし、公共サービスの提供として考えたとき、例えば介護福祉の分野なんかでもNP
Oとか市民団体の皆さんはすごいたくさん仕事をされていますよね。今はそういう公共サ
ー ビ ス を 行 政 だ け で は な く 、N P O や 市 民 活 動 、民 間 企 業 を 含 め て 広 く や っ て い る ん で す 。
公共サービスは行政だけがやるのではなく、区民や民間企業が行うんだというところも出
てきているのですね。今までは行政が結構情報を持っていて、物を決めるイニシアティブ
を持っていましたが、社会の様子が変わってくる中で、市民もそういう情報を持って、ス
タートラインが一緒であって、物事については何か決め事があってから行うというのでは
なくて、市民のいろいろな意見をベースにしながら、行政も柔軟に対応していくことが必
要だと思うんです。そういうことを行っていくというのが協働だとすると、例えばこの公
共サービスをどうやって提供するかということについても、一緒に話し合う、政策形成の
上での協働、これが必要なのだと、私は思っています。そこのところが、資料で5頁の3
番 の と こ ろ で 、協 働 の 意 味 の 再 確 認 と い う と こ ろ に 書 き ま し た が 、
「公共サービスの提供に
おける協働」それから「政策形成、決定における参加・協働」ですね。こういうことによ
って、協働というものが、単に役所が市民に何かやらせているんではないよと、それと結
果的にそれがコスト削減になることはすごくいいと私は思うんですけれども。だって意味
があるでしょ。住民の税金が無駄に使われないという。市民がやったら安くできたと。で
も 結 果 と し て で す よ 。こ れ を 目 標 に し て は い け な い け れ ど 。
「 協 働 」の 結 果 と し て コ ス ト が
削減されたり、公共サービスのあり方が変わったりしていくんだったら、私は協働事業と
いうものをどんどんしていったほうがいいのではないかと思っているんですけれど。
政策形成と市民参加
私は職員研修でも意地悪して、自治体職員の皆さんに「皆さんは政策のプロですよね。
では、政策って何ですか」と聞くんです。私は「すべきこと」だと考えています。地域住
民のためにすべきことを考えていくこと、これが政策だと思っています。そもそも行政と
い う の は 、す べ き こ と を や る た め に 作 ら れ た ん で す 。こ れ を 硬 い 言 葉 に な り ま す が「 作 為 」
というんです。反対のことは不作為です。今は大変ですよ。役所の皆さんだって。不作為
といったらつかまっちゃうんですね。場合によっては。自分がやるべきことをやらなくっ
て、例えば住民の皆さんが死んでしまった、これは何だと。これは不作為に基づく業務上
過失致死だとか言われて、逮捕されたりするんです。だから、必死になって政策を考えた
りするわけです。行政というのは作為、不作為は許されない。政策を作っていかなくては
ならない。その時に、政策を作る主体がもはや市町村になっているわけです。国や県では
なくて、もっとも身近なところである市町村なんです。だから、住民生活の身近な必要な
ことは基本的には全部市町村がやるんですよ。市町村ができないこと、例えば埼玉県全体
の振興計画とか、埼玉県のイメージアップ作戦とか、こういうのは春日部市だけでやって
もだめでしょ。そして県でもできないこと、外交とかこういうのは国が行うとかね。だか
ら、段々なんですよ。基本的には市町村。できないことは県、さらにできないことは国、
こういうのを補完性の原則といって分権改革で一番言われたことなんですね。
そういう観点から言うと、住民生活にもっとも身近なすべきこと、政策というのは市役
所において市議会と市長さんが話し合い、そこに住民の皆さんの十分な意見反映というも
のがあって、初めて分権時代にふさわしい政策というものができるというわけなんです。
それをやらないのだったら、極端なことをいえば国に任せておけばいいんですよ。日本国
埼玉支社春日部出張所。これだったらどれくらいコスト下がりますかね。市長選挙やらな
くていいし、議会選挙やらなくていいし。もしかしたらもっと人数少なくたっていい。だ
けど、それはだめなんですよ。霞ヶ関だけで政策を作っていては皆さんの意見は反映され
ないし、皆さんの困っていることは分からない。だから先ほどからお話しているように住
民の身近なところで政策作りをしていくということなんです。そういう中で、いざ政策形
成を住民と一緒になって考えていかなくてはいけないといったときに、いろいろなルール
が必要になってくるわけですね。
分権と協働のための条例を作ることの意味
条例というのは、春日部市のローカルルールなんです。条例でやりなさいと法律で決め
られているもの、法律に全然ないもの、それから、法律で決まっているけれどもさらに厳
し く し て い る も の と い う も の が あ る ん で す 。条 例 と い う の は 大 体 そ の 3 つ く ら い の パ タ ー
ンで、地域でいろいろなことを住民の実情にあった形で決めたり考えたりしていくものな
ん で す ね 。こ こ 、10 年 位 の 間 に 徐 々 に 考 え 方 も 固 ま っ て 、上 乗 せ 、横 出 し の 条 例 と か 、あ
るいは国が決めていないことについて地域のローカルルールとして決めていくことがとて
もたくさん出てきたんです。で、そういう風に市のいろいろな条例作りや政策運営が自由
になってくると、分権時代にふさわしいように、大本の考え方とか、市民と行政の関係だ
とかそういったものを決めるルールが必要だということで、最近いろいろな自治体で議論
されているものに「自治基本条例」というものがあります。これはいろいろな条例の上に
立つということからなぞらえて、自治体の憲法のような役割を果たすといわれます。その
自治基本条例というものも確かに大事なんですけれども、例えば、大枠のルールを定めな
くてもいいのではないかということなんです。私よく言っているんですけれども、無理や
り作る必要があるかどうかはその地域の議論になるんですよ。作らなくたって別に悪いこ
とはない、と思うんです。それは地域の皆さんが考えることなんですけれど。これは考え
方なんです。今回皆さんのワークショップの中では、そのうち自治基本条例の議論という
のが、文脈の中であっても出てくることはあっても、とりあえず市民参加条例を作ろうと
いうことで集まられていると私は認識しているわけなんですけれども。そうすると、その
中で、市民参加条例の制度設計をどうするかという話になってくるんですね。
春日部市の条例制定の基本方針なんかを読ませていただきますと、
「 合 併 」と い う 非 常 に
大きな状況の中でとにかく、2 つの自治体の方たちがいろんな形で関わって、市政のこれ
からのあり方を考えるということがありますよね。ですから、そういう観点で言うと当面
まちづくりをしていくルールとして、市民参加のルールというものを確立していこうとさ
れていると私は見させていただいたわけです。そうなってくると、広い意味での市民参加
条例を作るのではなくて、当面市民参加という仕組みについて考えるということを議論さ
れるのかなと。私は市民参加というものは、やはりこれから行政、議会がいろんな政策の
決定、政治的な決定をしていることに対して、市民の皆さんがどんな風に一緒になって物
を考えていくのかというルールだと思うんです。それで、ここに書きましたけれども「何
を 条 例 化 す る の か 」、ま あ 、分 権 自 治 体 の 理 念 と ま ち づ く り の 方 向 性 、や っ ぱ り こ れ は 大 枠 、
この条例の趣旨とか目的の中では何で市民参加なのかということがあると思うんです。そ
れから「参加・協働の手法と具体的な課題」と書きましたが、じゃあ、市民が意見表明す
るためにはどんな条件整備が必要なのか、ということもあります。この条件整備の上で、
じゃあどんな風に参加というものを実効あるものにしていくのか。今だって地方自治法の
中では陳情だって、請願だってありますけれども。あるんですけれども、やはりもう一つ
は行政が、政策を作り上げていくときに、行政側の政策形成の過程で市民の皆さんと一緒
になって、ワークショップをやったり、意見交換をしながら案を作っていって、行政とし
てもしっかりした市民の意見に根ざしたものにしていく。そして議会に提案していく。こ
ういうことになります。ですから、例えば最近の傾向としては、行政側に対して政策提案
するときに何人が集まって、それについてこういうことをやったらその意見を聞いて市長
は尊重するというものもあります。他に従来からある審議会や市民会議の公開やそこへの
意見反映のルールとかですね、こういったものが市民参加条例には入ってくるのかなと。
で 、こ の 市 民 参 加 条 例 に は 当 然 で す ね そ の 実 行 性 を 担 保 す る た め の 第 3 者 機 関 を ど う 置 く
か、そういった市民の委員会みたいなものをどう置くかですね。そういう仕組み、何らか
の仕組みというものを入れていくというのが市民参加条例の大事な部分ですよね。
大和市自治基本条例とパブリックインボルブメント
神奈川県の大和市というところで、自治基本条例を作ったときの市民の皆さんが何をし
たかというと、パブリックインボルブメント、PIといいますが、アメリカなんかで公共
事業を行うときによくやる手法なんです。例えば道路を通すといったら、近隣の皆さんに
集まってもらって、意見を聞いたり、議論をしたりする。で、このインボルブメントなん
ですけれども、これは巻き込むという意味なんです。大和市では市民の皆さんがPIとい
うことをすごく意識されて、自分たちは住民の代表ではない、それはそうですよね。皆さ
ん選挙で選ばれたわけでもなんでもない。よし、やろう、春日部市を良くしようと思って
皆さんここに集まられているわけですよ。そのことはとても大事なんだけれど、でも代表
で は な い 。だ か ら 皆 さ ん の 決 定 と い う の が 民 意 か ど う か と い う の は 残 念 な が ら 分 か ら な い 。
でもなるべく民意に近づけようという努力をやったんです。大和市では自治会・町内会P
I、経済団体PI、NPO・市民活動PI、青少年・学校PI、議会PIなんて班を作っ
てね、回るんです。今自治基本条例を作っていますと。内容はこうですと、説明して考え
る場を設けたんです。市民の方が説明するんですよ。いろいろな意見が出ますよ。いろん
な意見を聞いてきて、そしてまた皆でワークショップをやって、整理して、もちろん受け
入れられるものは受け入れ、受け入れられないものは日を移してもう 1 回、2回くらいず
つ 説 明 に 行 っ た ん で す 。 そ の こ と に よ っ て 22 万 人 の 人 口 の う ち の 1,000 人 、 一 部 か も し
れないけれど、少なくとも地域の有力な団体や、大事な対象である子どもなんかの意見を
聞いてまわったんです。当然その中には行政の人も入っていますから、行政として法的な
ルールから言ったら出来るとか、出来ないとか、もちろん私も研究者として出来るとか、
出来ないとかということを議論しながら、PIで政策を作っていったんです。こういった
仕組みをどういうふうに条例に入れていけるかということもあると思うんです。
住民投票とは
住民投票についてはこの基本方針なんかを見ると、市民参加条例とは別立てにしている
のかなというイメージなんですけれども、これは将来的に住民投票条例や自治基本条例を
別に検討するということがあるのかもしれませんね。ただ一般論として私から住民投票に
ついてお話しておきますと、やはり住民投票はとても大事だと思いますし、住民投票の結
果が尊重されないのはよろしくないというように個人的には思っておりますが、ただです
ね、住民投票を乱発することにはちょっと疑義があります。私の親しい行政法の友人が言
っ て い た ん で す け れ ど 、住 民 投 票 は 最 終 兵 器 だ と 。議 論 を 尽 く し て 、情 報 を 全 部 提 示 し て 、
民意がずっと煮詰まってきて、それでも決まらない、後は数だというところまで来て初め
て住民投票なのであって、ですから大和市でも自治基本条例に住民投票を入れましたけれ
ど も 、か な り 議 論 の 末 、署 名 数 は 有 権 者 の 3 分 の 1 以 上 と し ま し た 。こ れ は 市 民 か ら 凄 く
批判がありました。でもこれぐらい煮詰まったらやる。実際に例はあるんですから。徳島
市 で 河 口 堰 住 民 投 票 。あ れ だ け 盛 り 上 が っ て 、い ろ ん な 議 論 を し て 、20 万 人 位 の 有 権 者 の
市 で 11 万 人 位 の 署 名 を 集 め た ん で す ね 。 や れ ば 出 来 る わ け で す よ 。 そ れ だ け 議 論 が 煮 詰
まって、これは住民投票をやらなければだめだとなってからやるんですよ。まあ、行政に
しても議会にしても、何でもかんでも住民投票をかけるとなったら自己否定ですからね。
私たち要らないということになるし。費用の面、制度の面でいうと住民投票というのは必
要な制度だと思いますが、いろんな議論が必要な部分だと思います。
市民の役割
行政の役割
市民参加の条例ですから、制定の手続の問題もありますよね。やはり今回、春日部市さ
んでは市民の皆さんと一緒に作ろうということで、こうやってワークショップをやられて
いるわけですれけども、この内容を市民の皆さんに公開されて、市民の皆さんに見えるよ
うにやっていく。さっきも話したようにPI。皆さんの意見が本当に住民の意見の平均的
なところに近いものなのかどうか。あるいは平均的でなくてもいいですよ。もちろん、こ
れは他の所でこれだけ進んでいて、どうしても入れたいということが合意されれば、これ
はいいわけですよ。皆さんが、市民の有志参加で集まって、この条例について市民感覚で
議論をされるわけです。そして、出来れば皆さんの時間の許す限り、皆さんの余裕の範囲
の中で、他の市民の皆さんと接して意見を聞く場を設け、案を出来るだけ市民の広範な意
見 に な る よ う に 作 っ て い く 。そ の 後 市 長 さ ん の と こ ろ で 、法 制 担 当 が 法 律 の 精 査 を し ま す 。
だ け ど 、 役 所 の 法 制 担 当 は 、 大 抵 堅 い 。 こ の 本 (『 分 権 時 代 の 地 方 自 治 』) に 行 政 法 の 先 生
が書いていますけれど、
「 自 治 体 が 新 た に 政 策 を 立 案 し 、法 的 裏 づ け を 得 よ う と 庁 内 の 法 学
部出身者の助言を求めようとするが、こういった人たちはどうしても行政法思考、がちが
ちの法治主義、消極行政的な厳格下位社会、認知的教条が頭にあるので「あ、それは出来
な い ね 。 難 し い ね 。」 と 言 う 結 論 に 辿 り 着 き が ち で あ る 。」 な ん て 書 い て あ り ま す 。 春 日 部
市の法制担当がこうだというわけではなくて、やはり皆さん自身がそういう中で、あれを
したい、これをしたいという想いの部分は、想いの丈を言っていただいていいと思うんで
すけれども、プラス、皆さんご自身も、これは役所の法制担当に出来るか出来ないかを聞
くというだけではなくて、本読んだり、大学の先生や法律家に聞いたりして物を言ってい
か な い と 。や は り P I プ ラ ス 市 民 の 方 の 学 習 み た い な と こ ろ が 必 要 か な と 思 い ま す 。ま あ 、
短い時間ですからどこまでできるかという問題もありますけれども。また、行政の方も出
来るだけ耳を傾けて議論していく。そして出来上がったものは議会を通すんですよ。議会
ともまた、いろいろな議論があって、ここで認められれば本当に市民、行政、議会の 3 者
の合意によってローカルルールが成立したことになるんです。
市議会との関係
だから、議会の方でもここはしっかりと勉強していただかなくてはならなくて、市民の
意見だから議会を否定しているではなくて、議会が最も重要な機関で、だから最終的にこ
こで決定してくださいよって私は言っているものと思っているんです。だから、議会をな
いがしろにするなんて言っていないで、議会もこのようにやればいいんですよ。住民の意
見を聞いて。最近だと北海道の栗山町というところで、議会基本条例というものを作った
んです。議会がどうやって住民と協働するか、議会もこうやっていかないといけない。だ
っ て 、議 会 っ て 今 凄 い 批 判 を 浴 び て い る で し ょ 。だ か ら 、議 会 も 頑 張 っ て こ う す る こ と で 、
私 は 議 会 と 首 長 の 二 元 代 表 制 が 、非 常 に う ま く 機 能 す る ん じ ゃ な い か と 思 っ て い る ん で す 。
そういった意味でこれから皆さんが検討する中身というものは非常に重要なものである。
皆さんが作る市民参加条例というものは、こういうことを定めるんだということをきちん
と確定をして、中身を検討していき、その中で参加の手法や仕組みなどがどんな風に考え
られるか、あるいはこういう内容によって皆さんの意見が本当に政策に反映されるか。そ
の手続とルールを春日部市らしい、春日部市の実情に応じた形で考えていくということに
なると思います。
最後に
よく言うんですけれども、条例を美しく、法的にきちんと適合した、文言の間違いもな
いものにするのであったら、皆さんが集まってやらなくたって、行政がいろいろな学者や
行 政 法 の 専 門 家 を 集 め て 、日 本 で 一 番 良 い 条 例 を 作 っ て く れ と 言 っ た ら 作 っ て く れ ま す よ 。
だけど、それではだめなんですね。やはり春日部市の自治会がどうなっているか、NPO
がどうなっているか、行政の仕組みがどうなっているか、そういうものを踏まえて、地に
足が着いた実際に効き目のある条例を作る。春日部市らしい条例を作るべきなんです。そ
ういった意味で、市民の皆さんが入ってきて、議論をして行政の仕組みを知ることによっ
て、行政の側も、市民が知らないからこうやってしまえと簡単に出来なくなる。そして市
民の意見を聞いてやらなければいけなくなる。そのことがさっきから言っているように協
働という意味では、春日部市行政にとっても、とてもいいことになる。そういう風に考え
ていただいて、この市民参加条例を議論していただければと思います。皆さんもお暑い中
大変だと思いますが、頑張っていただきたいと思います。時間が延長してしまい大変申し
訳ありませんでしたが、これで私の話を終了させていただきます。ありがとうございまし
た。