Science 2015 年1 月 9 日号ハイライト

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Science 2015 年 1 月 9 日号ハイライト
スイギュウの一つの感染症を治療することで別の感染症が拡大する
コンピューターが解くリミット・テキサス・ホールデム・ポーカー
柔らかい、長期間持続する神経インプラント
善い腸内細菌が炎症に負けない理由
Following is the embargoed advance information for the forthcoming issue of Science, the weekly journal
of AAAS, the science society.
Please mention the international journal Science and AAAS as the source of these items.
スイギュウの一つの感染症を治療することで別の感染症が拡大する
Treating Buffalo for One Infection Helps Spread Another
各個体から寄生性蠕虫を駆除することはその個体集団レベルで予想外の負の結果を招く可能性が
あるという。現在ヒトの蠕虫感染症を対象とした大規模な治療プログラムが世界中で展開されて
いることを考えると、この研究結果は重大である。Vanessa Ezenwa と Anna Jolles はアフリカスイ
ギュウを対象に研究を行い、スイギュウの駆虫で実際にその個体群の結核感染が拡大したことを
見出し、驚いている。こういった蠕虫は免疫系を抑制するとことが知られているため、Ezenwa
と Jolles は、スイギュウから蠕虫を駆除することで結核が減ると推測していた。しかしそうでは
なく、蠕虫駆除を行ったスイギュウは感染したまま寿命が延びただけで、その結果、より長期間
にわたり感染を拡大させることが判明した。本研究により、駆虫治療が直感に反して特定の微生
物病原体、特にこのような駆虫戦略による治療が検討されている 2 つの疾患、HIV/AIDS や結核
といった慢性感染症の蔓延を拡大させる可能性があることが示された。Ezenwa と Jolles によると、
結核を引き起こすマイコバクテリウムや寄生蠕虫といった多数の病原体の重感染は異常なことで
はない。しかし、一つの感染症だけを治療することが一つの個体群に予期しない結果をもたらす
可能性があると彼らは述べている。
コンピューターが解くリミット・テキサス・ホールデム・ポーカー
Computer Solves Limit Texas Hold’em Poker
Michael Bowling らは、2 人で行うポーカー・ゲームであるリミット・テキサス・ホールデムの弱
「解」を得ることができるコンピュータ・プログラムを開発した。このケースでいう解とは、こ
のゲームを人が一生のうちにプレイする範囲内で統計学的有意に負けなしとなるほど最適に近い
戦略をこのプログラムが計算したことを意味する。また、このゲームではディーラーが有利であ
ることが、このプログラムによって確認されている。このプログラムが「不完全情報ゲーム」を
解いていることから、この成功は、密接に絡み合うゲームとコンピューティングの歴史において
大きな一歩である。四目並べやチェッカー等のいわゆる「完全情報ゲーム」では、プレーヤー全
員がそれまでの動きを完全に把握している上、コンピューターによる解が既に得られている。し
かし、ポーカーはこれとは異なり、確かさが少ない。なぜなら、手札を知るのはプレーヤー自身
だけであり、また、プレーヤーは、この情報を使い、はったりや他のゲームプレーを駆使してさ
らに不確かさを加えることもできるからである。2006 年の年次コンピューター・ポーカー大会
以来、多くの研究者がリミット・テキサス・ホールデムの解に取り組んできた。Bowling らによ
って開発されたプログラムには、新しいアルゴリズムが含まれている。また、独自の方法でデー
タを圧縮し、プログラム操作に必要なメモリをより多く確保できるようになっている。この種の
問題を解くことは、単なるお遊びのためだけではない。Tuomas Sandholm は関連の Perspective で、
サイバーセキュリティ、医学上の意思決定、巡回警備といったほかの「不完全情報」問題の検討
にこのようなプログラムが役立つ可能性があると語っている。
柔らかい、長期間持続する神経インプラント
A Soft, Long-Lasting Neural Implant
硬膜(脳と脊髄の周囲にある保護膜)の柔らかく柔軟な機械的特性を持つ新しい神経インプラン
トは、ラットの中枢神経系と継ぎ目なく調和することが、新しい研究で示された。この移植可能
な物質は、電子硬膜( electronic dura mater:e-dura)と呼ばれ、従来の治療法よりも少ない副作
用で、麻痺した齧歯類の歩行運動を回復させた。また、多数の神経機能代替術に応用できると考
えられる。Ivan Minev らは、まず透明なシリコーン基板を使用し、次にソフトリソグラフィーを
利用して、薬物送達のための微少溶液チャネルと、電気インパルスおよび電気生理学的信号を伝
達するための柔らかい電極と伸縮自在の相互接続を作製した。この e-dura を健康なラットの脊髄
に移植したところ、従来の硬いインプラントで生じていた脊椎変形が生じなくなった。この柔軟
な e-dura は、神経組織の同時刺激・記録、ならびに標的部位への薬物の直接送達が可能である。
ラットを用いた結果に基づき、Minev らは、e-dura がヒトでは約 10 年間機械的に作動可能であろ
うと示唆している。Minev らは、麻痺ラットを用いた実験で、脳と脊髄用に作製した e-dura によ
って、リハビリテーション期間を通して信頼性の高い治療効果が得られ、ラットが再び歩けるよ
うになったことを明らかにした。
善い腸内細菌が炎症に負けない理由
How Good Gut Microbes Resist Inflammation
人間にとって有用な腸内細菌の多くは、炎症に対して、その外膜に保護作用をもたらす簡単な 1
つのスイッチを入れることで生き延びるらしいことが、T.W. Cullen らの新たな研究で明らかにな
った。 サルモネラなどの有害な微生物が腸に感染すると、体内では強力な抗菌ペプチドが放出
され、侵入した微生物を撃退しようとする。しかし、それらの病原微生物は多くの場合、腸内に
共生している「善い」微生物と似ており、研究者らにとって、そうした共生微生物がペプチドの
引き起こす炎症をどうやって回避して生き延びるのかが疑問であった。Cullen らが、人間の腸内
に認められる主要なグループを代表する 17 の共生微生物について調べたところ、それらの微生
物は抗菌ペプチドの引き起こす炎症に対する強力な抵抗性をもつことが明らかになった。例えば、
バクテロイデス門の共生細菌は、自らの外膜から 1 つのリン酸塩分子を捨てることで抵抗性を獲
得するという。このリン酸塩分子を外膜に保持している変異細菌は、炎症に直面したとき、抗菌
ペプチドの攻撃を逃れることができない。