『テキサス』東京公演レポート 大人計画所属の役者として、また音楽界を

★『テキサス』東京公演レポート
大人計画所属の役者として、また音楽界をにぎわすミュージシャンとして、各方面にファ
ンをもつ星野源。昨冬には宮藤官九郎脚本のドラマ『11 人もいる!』で真田ヒロユキ役を
演じ、人気・知名度ともにグンとアップした彼が、現在上演中の『テキサス』で待望の初
主演を務めている。元々は 11 年前、まだ 26 歳だった長塚圭史の作・演出により、河原雅
彦率いる演劇ユニットのメンバーを中心に上演された伝説の作品。前回は出演しなかった
河原が演出と出演で加わるほか、星野を始め木南晴夏や野波麻帆、岡田義徳、高橋和也、
松澤一之ら、ぜいたくなキャストで贈る 2012 年バージョンとなっている。
舞台は東京から遠く離れたマサル(星野)の実家。恋人の伶菜(木南)を連れて帰郷する
と、すっかり顔の変わった姉の聖子(野波)や長内駐在員(松澤)、友人のヤノケン(伊達
暁)らが出迎える。さらにかつての“村のルール”も変わり、強面の川島(高橋)に負け
て伶菜を取られてしまうマサル。落ち込む彼に取立屋の四ツ星(岡田)が返済を迫るなか、
村人や伶菜の様子が徐々に変わり始めて…。
ほぼ満席の客層は演劇ファンのほかに、舞台や客席を興味深げに見ている“ミュージシャ
ン星野源”のファンらしき人々も。芝居の前半、姉の恋人・沼田(政岡泰志)や友人の牛
沢(福田転球)
、マサルを好きな元同級生の千鶴子(吉本菜穂子)とのやりとりにはあちこ
ちで笑いが起こり、ドラマなどで見かける等身大の星野が楽しめる。だが後半、何かに憑
かれたようなマサルが暗い表情を見せ始めると、客席も次第に長塚作品がもつ闇に引き込
まれてゆく。絶叫し、文字通り裸になって舞台に立つ星野。まさに“芝居と音楽、そのど
ちらも同じ気持ちでやってきた”という星野の真骨頂だろう。
同時に、疾走感と熱気にあふれた本作の軸を担っているのは、福田や吉本、政岡(動物電
気)
、伊達(阿佐ヶ谷スパイダース)
、さらに山岸門人(劇団鹿殺し)や湯澤幸一郎といっ
た、十年来の小劇場ファンなら誰もが知る面々。かれらの実力を知る河原の演出は、一筋
縄ではいかない小劇場の遺伝子を充分に伝えて楽しい。その他、繊細な表情を見せる木南
や独特の存在感を放つ岡田、物語に唯一の温かみをもたらす高橋など、異なる味わいをも
つ役者たちとのバランスも新鮮。演劇好きならずとも、ぜひ観ておきたい一本だ。
取材・文 佐藤さくら