テレビ学習メモ 地 理 第 33 回 現代世界の地誌的考察【諸地域】編 ここに注目! ヨーロッパ ⑴ 監修・講師 ~ EU による地域統合~ 加賀美雅弘 学習のねらい ヨーロッパでは、欧州連合(EU)による地域統合が進められ、加盟国は2014年 現在、28か国にまで増えている。二度の世界大戦の戦場となり、多大な損害に 見舞われたことから、ヨーロッパの国々は互いに協力することによって経済を発展させ、国際的 な発言力を高めようとしている。国境を越えた人の移動の自由化、単一通貨(共通の通貨)ユー ロの導入、町おこし事業などを通して、EU域内における人やモノ、カネや情報の自由な流動を実 現させ、地域の統合が進められている。国家の連合体ともいえるEUについて詳しく理解しよう。 学習前チェック EUに加盟している28か国がどこにあるか、地図帳で確認しよう。 ユーロを導入した国がどこにあるか、教科書や地図帳で確認しよう。 EUに加盟することによって人々の暮らしはどのように変わったのか、調べてみよう。 ▼ 拡大するEU 二度の大戦によって大きな損害を受けたヨーロッパでは、第二次世界大戦後、戦争を繰り返さ ないために国家間の協力体制を強める努力がなされてきた。ベルギー、オランダ、ルクセンブル クからなるベネルクス 3 国関税同盟が 1948 年に発足したのを皮切りに、1952 年にはこれに フランスと西ドイツ、イタリアが参加したヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)、そしてさらに 多くの西ヨーロッパ諸国が加盟するヨーロッパ共同体(EC)を経て、1993 年に欧州連合(EU) が成立した。 これらはもともと東西冷戦によって分断された西ヨーロッパの経済発展を目的としたものだっ たが、2004 年以降、かつて社会主義体制にあった東ヨーロッパ諸国を含む 10 か国が一気に加 盟することによって、その領域は大きく拡大し、現在は 28 の加盟国からなっている。総人口は − 73 − 高校講座・学習メモ 地理 ここに注目! ヨーロッパ ⑴ 5 億を超えており、まさにヨーロッパを代表する巨大な組織に成長している。 域内の人々の生活の変化 EU は<経済統合>と<政治統合>をめざしており、国境を越えた人の移動の自由化が進めら れている。その結果、国境線を隔てた隣国への買物や通勤も珍しいことではなくなった。ドイツ からオランダに安いコーヒーを買いに出かけたり、フランスからドイツに高い賃金を求めて通 勤したりする人々が増えており、EU 域内では国境線はかつての障壁としての意味を急速に失い つつある。また、共通の通貨ユーロを導入する国が増えており、いちいち換金する必要がなくな るなど国境を越えた経済の発展を推進している。政治統合への努力も払われており、2009 年に 発効したリスボン条約では、外交・安全保障政策上級代表という外務大臣のようなポストや、欧 州理事会常任議長という EU 大統領ともいえるような役職が設けられ、さらには加盟国の国籍を もつ人々に、EU 域内のどこでも一定の生活を保障する制度も盛り込まれている。これによって、 EU はあたかも一つの国家のような体裁を整えるようになった。 EU が進める地域づくりと産業の発展 ▼ EU では、域内全体の発展を進めるために、経済が遅れた地域を支援して発展させる事業に積 極的に取り組んでいる。例えば、かつてヨーロッパを代表した工業地帯ルール地方は、豊富な石 炭を使った製鉄業で栄えたが、石油へのエネルギー転換と鉄鋼の需要の低下により、その経済は 停滞するようになった。そこで EU は、ルール地方の中心都市エッセンを 2010 年の欧州文化首 都に選定し、さまざまなイベントを開催する町おこし事業を支援している。また、観光による国 境地域の経済を発展させようとする企画もある。フランスとドイツの国境地域では、国境線を挟 んだ地域同士が協力した観光開発が行われており、国境線を越えた観光ルートも設定されている。 一方、企業による地域間の連携も目立っている。例えば、大手航空機メーカーのエアバス社は、 フランス南部のトゥールーズに本社を置く一方、ドイツやイギリス、スペインの企業が航空機の 各部分の製造を分担しており、それらがフランスには運ばれ、組み立てられて製品になっている。 EU 域内における国際分業が実現されており、アメリカのボーイング社に対抗する大手企業へと 成長している。 − 74 − 高校講座・学習メモ
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