倫 理 学習メモ 第 42 回 第 5 章 現代の課題を考える 環境・国際社会と人類の福祉 今回学ぶこと 国際化や情報化によって、現代の世界は複雑になっている。 地球環境問題や、国際平和、富の偏在など、人類規模で取り 組まなければならない問題がある。しかし、私たちの知恵と 想像力が、これらの問題に取り組み、さまざまな解決の方策 を考え出すことができるということを、これまで学んだこと を振り返りながら考えてみる。 今回のキーワード! 講師 和田倫明 地球環境問題/世代間倫理/適正技術/知恵と想像力 地球と環境 ▼ 地球環境問題の難しさは、国家主権の範囲を超えて影響を及ぼし合うことにある。 空気や水は国境を越えてつながっている。孔子の「仁」は、肉親の愛を広く人間関係に及ぼ すことだが、身近な人々のことは思いやっても、遠く離れた人々のことを配慮することができ ないと、地球環境問題には取り組めない。そのためには、知恵と想像力とが必要である。 現代に生きる私たちは、国際化・情報化によって、遠く離れた世界の人々の不幸について多 くのことがわかる。カントが『啓蒙とは何か』の中で言うように、知恵を持つようになった私 たちは、それを皆のために使うべきである。さらに、実際に困っている人の気持ちを思いやる 想像力を持つことも大切である。 − 85 − 高校講座・学習メモ 倫 理 環境・国際社会と人類の福祉 平和と福祉を考える カントは『永遠平和のために』の書き出しで、政治家たちが学者を単なる学問の世界の住人 として見下しているのならば、学者が「実現しそうもない理想」を述べようと何の心配もない、 と皮肉を効かせて述べている。第二次世界大戦のときの日本や、9.11 のときのアメリカにお いて、人々が戦争に反対することは非常に勇気のいることであった。戦争を避けて、平和を導 くことは、決して弱腰でできることではない。 福祉の問題は、世代間倫理の問題である。次世代のことを思いやるならば、現役世代が富や 資源を遣いつくすようなことはできない これらの問題でも、知識と想像力が欠かせない。 豊かに生きるとは 豊かさは経済的なことだけではない、と言われるが、人はまずは生きていかなくてはならな い。地球規模で考える場合、富のかたよりは大きな問題である。 『旧約聖書』の「創世記」で、人間は「地を従わせよ」と言われた。フランシス・ベーコンの言っ たように「知は自然を支配する力である」として、科学や技術の力で地球を支配してきた。し かしその結果、自然や環境を破壊し、人類に危機をもたらしてはいないか。 ▼ ダイナマイトを発明したノーベルは、それが戦争でも使われることを気にしていた。科学技 術は、使われ方によって人類の幸福も不幸も両方もたらす。たとえば遺伝子組み換え作物は収 穫量を高める一方、小規模農家の生活を脅威にさらす。小規模水力発電などの「適正技術」の ように、途上国の貧しい人々の暮らしをよくするような科学技術の使い方を見つけて、皆が満 足するような「リンゴの分け方」を求め続けることが必要である。 Wada ……コラム 道を開く力は… 科学技術における「適正技術」のように、 経済においても、 貧しい人々 の助けになるアイデアがある。バングラデシュの経済学者ムハマド・ ユヌスは、無担保でごく少額の融資をすることによって、貧困層に生 計を立てる資金を提供できると考え、グラミン銀行を創始した。高利 貸しからの借金の繰り返しから脱却して、手工業や商店などで安定した収入を得られるようになる人々が 増え、返済も順調だった。銀行と創設者に 2006 年のノーベル平和賞が与えられた。 今日、小さな事業を始める資金集めに、ネットを活用したクラウドファウンディングも普及してきた。 高度に複雑化した社会に生活していると、世の中を動かそうとか変えようとかしてもムリ、という気持ち になりがちである。しかし、あなたの持っているささやかな知識や技術、そして強い意思は、道を開く力 を持っているかもしれない。 − 86 − 高校講座・学習メモ
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