線形数学講義メモ (10 月 16 日)

線形数学講義メモ (10 月 16 日)
本日の講義の要点
1. 注意事項,ベクトルとスカラーについて
抽象的な線形空間では ⃗x ∈ V と α ∈ K という記号を使っている.そして和とスカラー倍が定義され
ている.しかし,具体例においてこのような記号の使い分けをすることは困難だ.その例において線形
空間とはどういう集合か,線形空間の要素(ベクトル)とは何か,スカラーは何か意識しなくてはなら
ない.例えば
√ √
• 問題 1.3 においては,線形空間は R である.だからベクトルは実数のことに過ぎない.1, 2, 3
√
√
はベクトルなのだ.ただしスカラーは有理数に取っている.一次結合は a1+b 2+c 3, a, b, c ∈ Q
である.
• 問題 1.4 と問題 1.5 では,線形空間は連続関数全体の集合だ.だからベクトルは連続関数のことを
言う.スカラーについては問題に明示されていないが,実数とするのが妥当だろう.もっとも連続
関数を複素数に値をとる連続関数とし,スカラーを複素数とみなしても構わない.この問題におい
て 1 次独立であるか否かは係数の取り方によらない.
• 問題 1.6 では,線形空間は C である.ここでは複素数がベクトルである.ただし係数は R にして
いる.
これらの例では数や関数がベクトルとして認識されているので,⃗x のような書き方はかえって分かり
づらい.複素数なら z ,関数なら f (x) のように書くのが普通である.
2. 注意事項,V のベクトルの組を V を成分とする行ベクトルと捉えることについて
V における積は考えていないので(具体例では関数の積など考えることができるが,それは線形代
数の対象ではない)標記の仕方は限定して扱うこと.講義では次の二つの場合のみを扱っている.
(
Pc = ⃗p1
(
⃗q1
⃗q2
⃗p2
) (
⃗qm = ⃗p1
···
 
c1 
n
) c2  ∑
· · · ⃗pn  .  =
c j ⃗p j
 ..  j=1
 
cn

a11 a12
) a21 a22
⃗p2 · · · ⃗pn  .
..
 ..
.

an1 an2
···
···
..
.
···

a1m 

a2m 

.. 
. 
anm
最初が 1 次結合であり,次が ⃗
q j を P の 1 次結合による表示をまとめたものである.各式の計算にお
いて,ベクトルのスカラー倍,およびそれらの和しか現れないので,問題なく定義されている.特に命
題 1.4 の証明では
Bd =
∑
d j⃗b j ,
B = AC, (⃗b j =
∑
ci j⃗ai )
i
という 2 つの表示から
Bd = (AC) d = A (Cd) = ⃗0
と結合法則を使ったに過ぎない.
m
∑
j=1
d j⃗b j =
m
∑
j=1

 m

 n
n ∑
∑

 ∑
∑



 ci j d j  ⃗ai
ci j d j⃗ai =
d j  ci j⃗ai  =
i=1
i, j
i=1
j=1
この変形と 1 年次の線形代数のテキスト 6 ページの,行列の積に関する結合法則の証明の類似性を確認
せよ.
3. 定理 1.7 の証明
1 年次の線形代数テキストの 88∼89 ページと定理 4.10 を一般的な枠組みで記述しなおしただけ,証
明も全く同じである.なお (1) と (2) は無限次元でも成り立つ.証明を見れば次元のことは何も使って
いないことに気づくだろう.
4. 定理 1.8
r 個の部分空間の和が直和であることを記述する定理である.(1)(2)(3) の 3 つの主張が同値なのでど
れを直和の定義としてもよい.しかし,直和を扱う時には,問題によって随時 (1)(2)(3) を使い分ける.
どの主張も直和の定義として使えることを意識してほしい.
(1)(2)(3) の同値性の証明は難しくない.理解できるまで考えてほしい.これに対して有限次元の場
合の (4) との同値性は難しい.Wi の基底を寄せ集めて W1 + W2 + · · · + Wr の基底を作るだけなのだが,
きちんと式として記述しようとすると添え字の種類が多くなりすぎて厄介である.細かい添え字を板書
で写すのは大変なので,ここに記述しておく.
• dim Wk = sk としてその基底を {⃗p1k , ⃗p2k , . . . , ⃗p sk k } とおく.
• これらをすべて集めたベクトルの組 {⃗p11 , ⃗p21 , . . . , ⃗p s1 1 , ⃗p12 , ⃗p22 , . . . , ⃗p s2 2 , . . . , ⃗p1r , ⃗p2r , . . . , ⃗p sr r } を考
える.
• ⃗x ∈ W1 + W2 + · · · + Wr は ⃗xk ∈ Wk の和として表せること,⃗xk ∈ Wk は {⃗p1k , ⃗p2k , . . . , ⃗p sk k } の 1 次結
合で表せることから,⃗x は {⃗p11 , ⃗p21 , . . . , ⃗p s1 1 , ⃗p12 , ⃗p22 , . . . , ⃗p s2 2 , . . . , ⃗p1r , ⃗p2r , . . . , ⃗p sr r } の 1 次結合と
して表せる.よって {⃗p11 , ⃗p21 , . . . , ⃗p s1 1 , ⃗p12 , ⃗p22 , . . . , ⃗p s2 2 , . . . , ⃗p1r , ⃗p2r , . . . , ⃗p sr r } は W1 + W2 + · · · + Wr
を生成する.
• (4) が成り立てば個数が和空間の次元に等しい和空間を生成するベクトルの組が得られたことにな
るのでこれは和空間 W1 + · · · + Wr の基底である.特に 1 次独立である.
• ⃗0 = ⃗x1 +· · ·+⃗xr ∈ W1 +· · ·+Wr と表し,これを {⃗p11 , ⃗p21 , . . . , ⃗p s1 1 , ⃗p12 , ⃗p22 , . . . , ⃗p s2 2 , . . . , ⃗p1r , ⃗p2r , . . . , ⃗p sr r }
の 1 次結合に書き直せば,基底であることから係数はすべて 0 になる.よって ⃗xk ∈ Wk は ⃗0 となり
(2) が成り立つ.
• 逆に (2) が成り立つとし
sk
r ∑
∑
c jk k ⃗p jk k = ⃗0
k=1 jk =1
とおけば
sk
∑
c jk k ⃗p jk k = ⃗0,
1≦k≦r
jk =1
なので,c jk k = 0 である.よって {⃗p11 , ⃗p21 , . . . , ⃗p s1 1 , ⃗p12 , ⃗p22 , . . . , ⃗p s2 2 , . . . , ⃗p1r , ⃗p2r , . . . , ⃗p sr r } は 1 次独
立であり W1 + W2 + · · · + Wr の基底になるので (4) が成り立つ.
この議論で次元と等しい個数の V を生成するベクトルの組は基底であることを利用した.何故なら基
底でなかったとすれば,それから次元以下の個数の基底が作れてしまい矛盾を生じるからだ.
5. 同値関係
数学のあらゆる分野で使われるもっとも基本的な概念である.商集合が分かりづらいので早く慣れる
ようにしてほしい.
今日の講義では同値関係の定義とその同値類の定義を与えた.ここまでは線形代数の議論ではない.来週は
線形空間での基本的な同値関係の例を与えるとともに商空間を導入する.来週の講義で第 1 章を終える.1 週
間空けて 11 月 6 日に第 1 章の試験を行う.
本日の提出課題とヒント
問題 1.12 と問題 1.13 を課題にする.問題 1.12 の (1) は f (x) + f (−x) が偶関数であり f (x) − f (−x) が奇関
数であることを利用する.(2) では A + tA が対称行列で A − tA が交代行列であることを利用する.違う線形
空間だが証明はほぼ同じような議論で行える.問題 1.13 は同値関係,同値類の定義に基づいて議論すること.
今の段階ではつかみどころがないように感じるかもしれないが,基本事項なので腰を据えて考えてほしい.