項構造をもつ名詞句 NP1のNP2 におけるNP2の研究

項構造をもつ名詞句 NP1のNP2 におけるNP2の研究
─ NP2の形態的・意味的特徴を中心に ─
金秀珍* 寺井妃呂美**
[email protected] [email protected]
<ABSTRACT>
This research is part of the effort to systematically present the characteristics and differences between Japanese and
Korean noun phrases (NP) by conducting a contrastive analysis of the NP ‘NP2 of NP1’ of both languages. The features
of NP2 examined were limited to the cases in which the NP1 within Japanese noun phrase is interpreted as the case of
action noun NP2.
The study provided an overview of NP2 used in the NP ‘NP2 of NP1’ with clause structure; moreover, the methods
of verbalization and types of nouns were covered in terms of form. Additionally, the semantic characteristics in the
perspective of temporal localization were examined. In previous research of NP with clause structure, the primary focus
was on adding スル to NP2, for which a Chinese noun is placed to interpret the case relation with NP1. However, it was
confirmed through this research that nouns derived from verbs, Japanese proper nouns, or foreign words may also take
place where a noun occupies the position of NP2, in addition to Chinese nouns. Furthermore, based on the fact that the
nouns taking place in NP2 are verbal nouns which require the case of NP1, it was found that verbal nouns show
“movement,” “condition,” “existence,” and “relation” through a semantic interpretation together with NP1.
【キーワード】 「NP1のNP2」(「NP2 of NP1」), 項構造(argument structure), 漢語名詞(Chinese noun), 派生名詞(derived
noun), 時間的限定性(temporal localization)
4)5)
1. はじめに
日本語と韓国語の名詞句にはさまざまなタイプがあり、両言語とも関連する多くの研究がみられるが、
名詞句「NP1のNP2」と「NP1의 NP2」を対照・分析して、それぞれの特徴や相違点を体系的に提示し
たものはみられない。金・寺井(2014)は、日韓両言語の名詞句を体系的に提示することを目的に据え、西
山(2003)の「NP1のNP2」の5つの分類1)に従って、韓国語名詞句「NP1의 NP2」の「의」の表出を
概観した。本稿は、金・寺井(2014)で考察した5つの名詞句のうち、格解釈が可能な名詞句を対象に、
特に修飾語NP1に格を要求する主要語NP2の類型に焦点を当て、動作性名詞の特徴を明らかにしたいと
思う。今回は対象を日本語の名詞句「NP1のNP2」に限定する。例えば次のような例である。
* 崇實大学校 日語日文学科 招聘教授、日本語学
** 弘益大学校 教養外国語学部 助教授、日本語学
1) 西山(2003:16)では次の5つのタイプをあげている。
タイプ[A]「NP1と関係Rを有するNP2」:洋子の首飾り、北海道の俳優……
タイプ[B]「NP1デアルNP2」:コレラ患者の大学生、ピアニストの政治家……
タイプ[C]「時間領域NP1における、NP2の指示対象の断片の固定」:東京オリンピック当時の君、大正末期の東京……
タイプ[D]「非飽和名詞(句)NP2とパラメータの値NP1」:この芝居の主役、第14回ショパンコンクールの優勝者……
タイプ[E]「行為名詞(句)NP2と項NP1」:パスポートの紛失、洋子の到着……
26 日本語教育(第76輯)
(1)「ロケットの開発っていうのはな、なけなしの予算の中でやりくりしてきた歴史なんだよ.あんたはウチの技
術のことなんかなにもわかっていない」(下町:32)
(2)「どうですか、被告側代理人。できればこの後、時間をいただいて計画審理の手続きに入りたいと思って
いますが、目録の対案について作成期日を具体的に設定できるだけの状況にまでなっているんでしょう
か」(下町:87)
(3) 電話に繋がったが、聞こえてきたのは留守番電話のアナウンスだった。(手紙:14)
(1)(2)(3)の名詞句は「ロケットヲ開発スル」「計画審理ヲ手続きスル」「留守番電話ガアナウンスス
ル」のように解釈できる。それぞれNP2の名詞にスルを付すことにより、NP1とのむすびつきから格解釈が
可能になってくる。このような名詞句のNP2には「開発」「手続き」「アナウンス」のように漢語、動詞
から派生した名詞、外来語のようにさまざまなタイプの名詞が表され、動作性を有することが条件となる。
本稿では、格解釈が可能な名詞句に現れるNP2のタイプについて考察を行い、その形態的バリエーショ
ンと意味的特徴を明らかにしたい。
2. 先行研究
詳細な分析に入る前に、項構造を有する「NP1のNP2」に関する研究について触れておく。西山
(2003)では「NP1のNP2」の類型を5つに分けており、本稿で考察する項構造を有する名詞句をその1
つのタイプとして認め、次のようにタイプ分けしている。
イ.NP1をNP2の内的項(対象)とみなす場合:「物理学の研究」(=物理学を研究する)
ロ.NP1をNP2の外的項(主体)とみなす場合:「田中教授の指摘」(=田中教授が指摘する)
ハ.二通りの読みが可能な場合:「英国の統治」(=英国を統治する/英国が統治する)
ニ.内的項と外的項の両方が登場する場合:「田中の物理学の研究」(=田中が物理学を研究する)
(西山(2003:40 41)より引用)
イ∼ハの名詞句はNP1が主体、対象、もしくはその両者の読みが可能なタイプである。ニは主体と対
象の解釈が可能な項が共に現れるタイプである。西山(2003)はNP2に現れる漢語サ変動詞系の名詞を
「行為名詞」と呼び、「行為名詞」にスルを付すことにより対応する動詞と同じ項構造がNP1とNP2の間
で成り立つとしている。しかし、格解釈が可能な名詞句の動作性名詞NP2には、1.でもみたように漢語名
詞以外に「手続き」や「アナウンス」など非漢語の名詞も位置することができる。またNP1との間の格解
釈において、(4)のようにスルを付して動詞化することができないNP2もある。
(4)おれのほうは何とかやってるよ。機械の扱いにはすっかり慣れた。(手紙:110)