OP Cl Cl Cl - 日本化学物質安全・情報センター

SIDS 初 期 評 価 プ ロ フ ァ イ ル
Screening Information Data Set for High Volume Chemicals
OECD Initial Assessment
SIDS 初 期 評 価 プ ロ フ ァ イ ル (SIAP)の 日 本 語 訳 を 掲 載 し ま す 。
SIDS ホ ー ム ペ ー ジ で CAS No.検 索 に よ り SIAP ま た は SIAR の 原 文 を 見 る こ と が で き ま す 。
http:/cs3-hq.oecd.org/scripts/hpv/
三塩化ホスホリル
O
物質名:Phosphoryl trichloride
化学式::Cl3OP
P
CAS No.:10025-87-3
Cl
SIAR 結論の要旨
Cl
Cl
ヒトの健康
三塩化ホスホリルは水中または湿気のある大気中で数秒または数分で加水分解される。親化合物の代
謝及びトキシコキネティクスに関する試験は実行できない。体内への分布は加水分解のために制限があ
る。三塩化ホスホリルは侵入部位(portal of entry)で作用する毒性物質である。侵入部位から離れた器官
まで到達することはありそうにない。そのため、刺激影響に関連のない全身毒性はいずれのばく露経路
についても予想されない。加水分解生成物である塩酸及びリン酸も侵入部位で作用する。
吸入後の三塩化ホスホリルの急性毒性は高い。三塩化ホスホリルのラット LC50(4hr)は 48.4ppm
(308mg/m3)~11.1ppm(71mg/m3)、モルモット LC50(4hr)は 52.5ppm(335mg/m3)である。臨床症
状には重度の気道刺激、鼻汁、並びに眼の刺激が生じた。ラット経口 LD50 は 36 mg/kg bw~380mg/kg
bw と決定され、個々の試験で非常に急勾配の用量/死亡相関性を示した。ウサギ経皮 LD50 は>250mg/kg
であった。毒性症状は自発運動の抑制、壊死、並びにかさぶたであった。
三塩化ホスホリルは水と反応し、塩酸及びリン酸を生成する。この加水分解反応のために、三塩化ホ
スホリルは皮膚、眼、並びに気道に腐食性がある。感作性についての三塩化ホスホリルの試験は入手で
きない。加水分解生成物である塩酸はヒト及び実験動物について感作性を示唆しなかった。2 番目の加
水分解生成物であるリン酸についてのデータは入手できないが、その構造から特定の影響は予想されな
い。
三塩化ホスホリルのラット 4 ヶ月吸入試験で、最低ばく露レベルの 0.48mg/m3(=LOAEC)で体重
損失、呼吸器刺激、並びに腎臓重量の増加が依然として観察されたので、NOAEC を導くことはできな
かった。手法と結果については詳細な公表はほとんどなかったので、本試験の評価は限定的である。ほ
とんどの所見は最初の接触部位に限定され、本化合物及びその分解生成物の刺激性/腐食性により説明可
能である。塩酸の 90 日試験による LOAEC は 15mg/m3 であった。三塩化ホスホリルの加水分解により
生成した過剰なリン酸塩は、動物の腎臓、骨、並びにカルシウムレベルに対する影響の上で役割を果た
しているのかもしれない。他の経路(経口、経皮)によっても、三塩化ホスホリルは最初の接触部位で
影響(刺激性、腐食性)を生じると予想される。ヒトにおいて観察された長期影響(慢性気管支炎、喉頭炎、
睡眠障害)は、肺機能に障害をもたらす長期間の肺刺激による後遺症として考慮される。
三塩化ホスホリルは加水分解生成物の塩酸と同様にバクテリア変異原性試験において変異原活性を示
さなかった。三塩化ホスホリルは水性媒体で塩酸及びリン酸に分解するので、その結果生じる加水分解
生成物の酸性度は、in vitro 試験において、低い pH に起因する不特定な影響を引き起こすかもしれない。
情報 B
Vol.31
No.2
pH の変化は染色体異常及び他の DNA 損傷を誘発するかもしれない。三塩化ホスホリルによる特異的影
響は迅速な加水分解のために予想されない。in vivo において、加水分解生成物である低濃度のリン酸及
び塩酸は生理媒体により即座に中和されるだろう。pH 値の低下は結果として三塩化ホスホリルの侵入
部位での染色体の変化及び DNA 損傷になり得るであろう。しかしながら、三塩化ホスホリルへのばく
露による身体の pH 変化が、侵入部位から遠く離れた組織または器官において、この遺伝的影響を及ぼ
すほど十分な程度生じることは考えられない。三塩化ホスホリルの腐食性のために、腐食影響を誘発す
る用量で動物試験を実施することは認められない。
三塩化ホスホリルの発がん性試験は確認されなかった。加水分解生成物である塩酸は実験動物生涯ば
く露で腫瘍発生率の増加を示唆しなかった。2 つ目の加水分解生成物であるリン酸に関するデータは入
手できないが、特定の影響は予想されない。低濃度では、加水分解生成物であるリン酸及び塩酸は侵入
部位において生理媒体中で即座に中和されるだろう。それにもかかわらず、長期の刺激は局所において
細胞増殖を定常的に促進させ得た。
生殖及び発生影響に関する三塩化ホスホリルの試験は入手できず、加水分解生成物のリン酸及び塩酸
の受精能への影響についてのデータもなかった。三塩化ホスホリルは、その加水分解生成物と同様に侵
入部位に作用する毒性物質であり、生殖器官または胚/胎仔に達することはありそうにないので、哺乳動
物類における生殖・発生毒性は三塩化ホスホリルの何れの経路によるばく露後でも生じることはないだ
ろう。三塩化リン(PCl3)の試験はそれぞれの影響を示さなかった。三塩化リンのその他の加水分解生成
物及びその後の部分的中和による生成物であるモノ亜リン酸ナトリウムも長期経口ばく露による発がん
性を示唆しなかった。
環境
三塩化ホスホリルは湿気/水に敏感な液体で、融点が 1.3℃、沸点が 105.1℃、並びに密度は 1.675g/cm3
(20℃) である。本物質の蒸気圧は 53.3hPa(27.3℃)である。logKow、水溶解度、他のパラメータは加水
分解のために決定できない。三塩化ホスホリルは水中(20℃)において 10 秒以内で完全に(加水分解中間
体のホスホロ二塩素酸(POCl2)を経由し)加水分解し、リン酸及び塩酸を生成する。水、大気、または陸
生区分へのいずれの排出も湿気により影響され、加水分解物を生成する。塩酸は容易に水中で解離して、
水生生物に対する三塩化ホスホリルの影響を決定する pH シフトを引き起こす。水生生物の pH に対す
る耐性は様々である。OECD ガイドラインにリストされた試験生物種に対する pH 勧告値は 6 と 9 の間
である。
リン酸は中程度の酸性度(pKa=2.1)であり、水中で部分的に解離し、pH シフトを引き起こす。リン酸
及びリン酸塩はそれらの施肥作用により水生生物に影響を及ぼすかもしれない。水生毒性試験のいくつ
かは非-緩衝液で実施されている。これらの試験において観察された毒性影響は分解生成物の酸性度に起
因している可能性があり、有害性評価には用いられない。三塩化ホスホリルの魚急性毒性は三塩化リン
及び五塩化リンで行った魚の試験を用いて評価された。三塩化リン(緩衝液)の Danio rerio に対する毒性
(ドイツの提案ガイドライン“Brachydanio rerio に対する致死影響”に従って試験された)は
LC0(96hr)≧1000mg/L(設定濃度)であった。
無脊椎動物を用いた試験が三塩化ホスホリル及び三塩化リンで実施され、評価アプローチの有効性を
示している。Daphnia magna の EC50(48hr)>100mg/L(緩衝液)が両物質で決定された(92/69/EEC、
C.2 方法)。藻類の毒性が三塩化ホスホリル及び三塩化リンで決定された。 Desmodesmus subspicatus
の生長阻害試験(92/69/EEC、C.3 方法)で、緩衝液においての影響は 100mg/L(設定濃度)で観察され
なかった。
慢性毒性についての入手可能な結果はない。活性汚泥を用いた、三塩化リンの EC50(3hr) 9450mg/L(設
定濃度)及び EC0 3520mg/L(設定濃度)が ISO 8192(pH は未報告)に従って測定された。3 つの栄養レベ
ル(すべて緩衝液中で)から急性試験の入手可能な試験結果がある。最も低い急性試験結果(>100mg/L)
及び評価係数 1000(EU TGD)を用いて、PNECaqua>0.1mg/L が得られた。
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No.2
ばく露
三塩化ホスホリルの世界の製造量は 2002 年に約 15 の製造企業で 20 万トンであると推定された。製
造量 約 15 万トン/年は OECD 諸国、5 万トン/年が非-メンバー国である。
三塩化ホスホリルは基礎化学物質であり、中間体として工業的に用いられる。その反応性故に、三塩
化ホスホリルは化学工程の中間体として多くの用途がある(2001 年の USA で報告されている割合):
・プラスチック及びエラストマーの添加物(55%)
・機能性液体、例えば、リン酸エステル油圧油(22%)
・農薬(7%)
・潤滑油添加物(4%)
・界面活性剤及び金属イオン封鎖剤(2%)
・その他(10%)
担当国内の 1 企業で、三塩化ホスホリルは閉鎖工程で製造及び加工されている。三塩化ホスホリルの
製造及び加工(充填も含めて)からの排気ガスは大気清浄ユニットに接続されている。よって、この企業
で生産及び加工中に実際上、三塩化ホスホリルが大気中に排出されることはない。無水条件下での製造、
加工、および迅速な加水分解のため、三塩化ホスホリルは廃水中に検出されない。この企業において作
業者ばく露は作業場大気における三塩化ホスホリルの最大許容濃度(MAK)である 1.3mg/m3(0.2ppm)を
十分に下回っている。加水分解生成物である塩酸への作業者ばく露も塩化水素の MAK 値である 8mg/m3
(5ppm)を十分に下回っている。三塩化ホスホリルに対する免疫グロブリンは検出されなかった。
直接の用途は知られていない。三塩化ホスホリルはノルウェー及びスイスの製品登録にリストされて
いない。フィンランド及びスウェーデンの製品登録において、合計して約 12 の工業用調剤があるが、
いずれも閉鎖工程における非-開放的使用である。デンマークの製品登録名簿は秘密保持されている。三
塩化ホスホリルへの消費者ばく露は生じないと考えられる。
凝固点降下実験の際の溶媒および一般の無水溶媒としてのそれぞれの三塩化ホスホリルの使用は、何
カ所かの科学試験所に限られている。三塩化ホスホリルは複数段階の化学合成により神経ガスに転換可
能である。そのため、三塩化ホスホリルの製造及び輸出は国際化学兵器条約に基づき厳重に管理されて
いる。
勧告とその理論的根拠と追加作業の特徴
ヒトの健康
本化学物質はヒトの健康について有害性(急性毒性、腐食性)を示唆する特性を有する。担当国によっ
て提出された(全世界製造量の 5-25%を製造する 1 企業に関連し、更にいくつかの OECD 諸国の用途パ
ターンに関連する)データに基づけば、ば く 露 は 担 当 国 の 職 業 的 背 景 に お い て 技 術 的 に 可 能 な 程 度 に
ま で 制 限 さ れ て い る 。消費者ばく露はない。そのため、SIDS 計画の範囲では追加作業の勧告は確証さ
れない。生殖影響に関する有効なデータはないが、迅速な加水分解のために POCl3 が最初の接触部位か
ら離れた器官及び組織に到達する可能性はありそうになく、腐食性のために、動物試験は認可されない。
本化学物質は現在のところ、追加作業の優先度が低い。
環境
本化学物質はその危険性プロファイルが低い為に、現在のところ、追加作業の優先度が低い。
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