NO13.気体の分子運動論

NO13.気体の分子運動論
<ボイル・シャルルの法則を分子論から説明する>
一辺の長さ L の立方体の容器のnモルの気体(n NA 個の気体分
子)について、次の 3 つの仮定
①
平衡状態にある気体分子は、乱雑にあらゆる方向に運動
②
気体は希薄で、分子間力や、分子同士の衝突は無視できる。
③
気体分子は壁に完全弾性衝突し、それにより圧力が生じる
のもとで考える。
1.
圧力
:
気体分子が壁に衝突したときに及ぼす力
(問 1)1 個の気体分子を考える。図の右側のピストンに分子が衝突するとき、仮定①よ
り完全弾性衝突するとして考える。
壁と衝突する時、
・壁に平行な速度の成分vy、vzは変化しない
・壁に垂直な成分vxは、完全弾性衝突より
同じ速さで跳ね返る。
:
vx
→ 衝突 →
− vx
となる。
よって、運動量と力積の関係より、気体分子の質
量をmとすると、壁に及ぼす力積は、
m(− vx)− mvx =−2mvx
よって、壁は分子の衝突の際に、逆向きに同じ大きさの力積を受けるので、
1 回の衝突で壁が受ける力積は
N= 2mvx
(問 2)仮定②より、途中で他の分子に衝突したり、分子間力で軌道が変わることなく直
進する。よって、この分子がピストンで跳ね返った後、左に進んでL離れた壁に衝突して
はね返り、再びピストンに衝突するために要する時間は、水平方向の移動距離が2L、水
平方向の速さがvx なので
2L
vx
よって、t秒間にピストンに衝突する回数は、
t
2L
=
vx
tv x
2L
-NO13 - 1 -
従って、t秒間に 1 個の分子がピストンに与える力積は、
2
N×
tv x
tv
mv x
= 2mv x × x =
×t
2L
2L
L
2
(問3)1 個の分子がt秒間にピストンに与える力積は前問より、
mv x
×t
L
これを、n NA 個の気体分子について足し合わせると
mv x2
m < v x2 >
×
=
×
×t
t
nN
å
A
L
L
i =1
nN A
2
ただし、 < v x >
< v x2 >=
はn NA 個の気体分子のx方向の速度の平均値で、
1
nN A
nN A
åv
i =1
2
x
これがt秒間の力積なので、n NA 個の気体分子が壁に及ぼす力Fは、力積= F tより、
m < v x2 >
F = nN A ×
L
(問4)
気体の圧力pは壁の単位面積当たりに働く力なので、壁の面積をSとすると、
p= F/S、
気体は一辺の長さLの立方体の中に閉じこめられているので、
壁の面積 S=L2より、
m < v x2 > nN A × m < v x2 >
F
p = 2 = nN A ×
=
L (a )
V
L
L3
ただし、V=L3 は気体の体積である。
2.気体分子の全エネルギー
E
e=
(問5) 気体分子1個の運動エネルギーは、
1
m < v2 >
2
ここで速度はx、y、z方向の速度を使い、 v = vx + v y + vz
2
2
2
2
ただし、仮定③より、気体はx、y、z全方向に等確率で運動するので、x、y、zの
各方向の平均速度は等しくなり、
< v x2 >=< v y2 >=< v z2 >=
< v2 >
3
-NO13 - 2 -
よって、nモルの気体があるとき、気体分子n NA 個のもつ運動エネルギーは、
1
1
E = å e = å m < v 2 >= m < v 2 > ×nN A
2
2
L (b )
3.温度T
(問6)気体分子の全エネルギーは、温度 T に比例することを示す。
nN A × m < v x2 >
p=
L (a )
V
(問4)の (a)式
pV = nN
A
より、
× m < v x2 >
ここで、右辺は、
(問5)の(b)式
E=
1
m < v 2 > ×nN A
2
L (b)
および、気体がx、y、z全方向に等確率で運動することより、
< v x2 >= < v 2 > 3
を使うと、
pV = nN A × m < v 2 > / 3 = 2 3 × E L ( a ' )
と書ける。
一方、ボイル・シャルルの法則は、
pV = nRT L (c)
(a')と(c)を比較して、
E = 3 2 × nRT
L (d )
つまり、気体分子の全エネルギーは、温度 T に比例する。
逆に、温度 T は、気体分子の運動エネルギーによって表される。
(問7)エネルギーの等分配則を示す。
前問より、
E=
1
m < v 2 > ×nN A
2
E = 3 2 × nRT
L (b)
L (d )
より、分子 1 個について運動エネルギーを考えると、
1
3 R
m < v 2 >= E / nN A = ×
×T
2
2 NA
ここで、R/NA =kB :ボルツマン定数
\
1
3
m < v 2 >= × k B × T
2
2
とおくと、
L (e )
-NO13 - 3 -
kB = 1.38 × 10 −23 (J/K)
また、各方向には等確率で運動するので、
< v x2 >=< v 2y >=< v z2 >= < v 2 > 3
よって、x、y、zそれぞれの向きの運動エネルギーは、
1
1
1
1
m < v x2 >= m < v y2 >= m < v z2 >= × k B × T
2
2
2
2
:エネルギーの等分配則
(問 8)気体分子運動論からボイルシャルルの法則を導く。
絶対温度Tを(e)で定義すると、(a')式
pV = nN A × m < v 2 > / 3 L ( a ' )
および、(e)式
1
3
m < v 2 >= × k B × T
2
2
L ( e)
より、
pV = nN A × m < v 2 > / 3 = nN A × k B T = nN A ×
R
T = nRT
NA
となり、気体分子運動論からボイルシャルルの法則が導かれる。
4.気体分子の内部エネルギー U
内部エネルギー U :
(問 9)
物質中の分子の熱運動の運動エネルギーと位置エネルギーの総和
気体分子運動論では、仮定②により分子間力を無視しているので、内部エネル
ギーは重心運動の運動エネルギーのみを考える。
つまり、内部エネルギー U =運動エネルギー E
となる。
これは、構成原子数が1の単原子分子(He、Ne、Ar など)について成立し、その場合の
内部エネルギーは、nモルの気体では気体分子がn NA 個あるので、
U=
1
3
m < v 2 > ×nN A = × nRT
2
2
また、単原子分子理想気体においては、ボイルシャルルの法則
PV=nRTが成立するので、
U=
3
3
× nRT = × pV
2
2
と書くこともできる。
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