講義ノート

第二回 中心力と角運動量保存則
物理学講義 I
2014 年 4 月 22 日
¶
前回のポイント
³
• ある点の位置ベクトルとそこに働く力のベクトル積を力のモーメント(トルク)といい、
物体を回転させる能力を現す。
µ
1
• 運動量のモーメントを角運動量といい、回転運動の勢いを現す。
´
回転運動の法則
角運動量 L の成分、
Lx
=
m(yvz − zvy )
(1)
Ly
=
m(zvx − xvz )
(2)
Lz
=
m(xvy − yvx )
(3)
のうち、Lz を時間微分してみよう。
dLz
dt
d
(xvy − yvx )
dt
dx
dvy
dy
dvx
= m( vy + x
−
vx − y
)
dt
dt
dt
dt
= m(vx vy + xay − vy vx − yax )
= m
(4)
(5)
(6)
= x(may ) − y(max )
(7)
= xFy − yFx = Nz
(8)
このように、Lz の時間微分は力のモーメントの z 成分 Nz に等しいことがわかる。同様にして、
Lx 、Ly の時間微分もそれぞれ力のモーメントの x、y 成分に等しいことが示される。これらをま
とめて書くと
 
 
Lx
Nx
d  
 
(9)
Ly  = Ny 
dt
Lz
Nz
⇒
dL
dt
= N
(10)
となる。このように、力のモーメントは角運動量の時間変化に等しいことがわかる。これを回転運
動の法則という。
1
¶
³
回転運動の法則
dL
=N
dt
µ
(11)
´
例題:単振り子の運動方程式を回転運動の法則から求めよ。
O
θ
l
S
F
-mg
図 1: 点 O まわりにふれる振り子。
図 1 のおもり(質量 m)に働く力は、おもりに働く重力 −mg と糸の張力 S の合力 F であり、そ
の大きさは F = −mg sin θ である。よってこの力の点 O まわりのモーメントは、N = −mgl sin θ
となる。
おもりの角運動量 L は、角速度 ω(= dθ/dt) を用いて、
L = mlv = ml2 ω = ml2
dθ
dt
(12)
となる。よって回転運動の法則から、
dL
dt
d2 θ
∴ 2
dt
d2 θ
= −mgl sin θ
dt2
g
g
= − sin θ ' − θ
l
l
= N ⇒ ml2
(13)
(14)
となる。ここで θ は微小な角度として近似を行った。
2
中心力
ある物体に作用する力の作用線が、常に一定の点 O と物体を結ぶ直線上にあり、その強さが点
O と物体の距離 r だけで決まるとき、この力のことを中心力という。例えば、距離 r を隔てて空間
におかれた電荷 qA と qB の間には
1 qA qB
ˆr
(15)
f=
4π²0 r2
という力(クーロン力)が働く。ここで ²0 は真空の誘電率、ˆ
r は電荷 qA から qB に向かう単位ベ
2
qA
qB
r
図 2: クーロン力は中心力である。
クトルである。式(15)の形を見てもわかるように、クーロン力は電荷 qA と qB を結ぶ直線上に
働き、さらにその大きさは電荷の大きさが決まっているならば距離 r のみに依存して決まる。従っ
てクーロン力は中心力と言える。他にも万有引力やばねの変形に伴って生じる弾性復元力も中心力
である。この中心力の性質について調べてみよう。
3
角運動量保存則
回転の中心 O の周りに等速円運動している質点を考えよう。このとき質点には中心力 S が働い
ており、この中心力 S の回転の中心 O 周りの力のモーメントは 0 になることがすぐにわかる。な
ぜなら、中心力 S の力の作用線は回転の中心 O と質点を通るため、回転の中心 O から力の作用線
までの距離が 0 になるからである。よって、式(11)から
dL
=N
dt
∴ L = const.
(16)
(17)
となる。つまり、物体が中心力の作用を受けて運動する場合には、力の中心の周りの角運動量は一
定と言える。これを角運動量保存則という。これは中心力の持つ重要な性質の一つである。
L
O
p=mv
r
m
図 3: 中心力を受けて運動する質点。
次に、中心力の作用のみで運動する質点は、力の中心を含む平面上で運動することを明らかにし
よう。図 3 のように点 O まわりを中心力のみを受けて回転する質点(質量 m)を考える。角運動
量の方向は、速度を v とすると、運動量 p = mv と位置 r で張られる平行四辺形に垂直な方向を
向いている。回転運動の法則より、
dL
=N
(18)
dt
となり、N = 0 であるから、dL/dt = 0 となる。すなわち角運動量の大きさも方向も変化しないと
いうことになり、質点は角運動量 L に垂直な平面上を運動することになる。
3
¶
練習問題
³
1. 力 F(r) = −kr の作用を受ける物体(質量 m)の運動を考える。次のことを示せ。
(a) この物体の軌道が楕円になること。
(b) 角運動量が一定であること。
2. 速度 v = (5.0m/s)i − (6.0m/s)k で運動している 3.0kg の粒子が x = 3.0m、y = 8.0m の
位置にある。i, k はそれぞれ x, y 方向の単位ベクトルである。このとき、(a) この粒子の
原点まわりの角運動量はいくらか。次にこの粒子を −(7.0N )i の力で引っ張るとき、(b)
この粒子に働く原点まわりのトルクの大きさと方向を求めよ。また、(c) この粒子の角
運動量の時間変化率はいくらになるか。
µ
4
´
面積速度
P’
v∆t
d
P
S
F
O
図 4: 中心力を受けて運動する質点の面積速度は一定。
図 4 のように、質点が点 O からの中心力のみを受けて運動している状況を考える。とある時刻
0
での質点の位置と速度をそれぞれ P 、v とし、時間 ∆t 後に質点の位置は P の位置に移動すると
する。線分 OP が単位時間の間に掃過する面積のことを面積速度という。この面積速度が角運動量
とどのように関係付けられるかを調べよう。
0
図 4 において三角形 OPP の面積を S とすれば、
S = v∆td/2
(19)
となる。d は点 O から速度ベクトルを延長した直線までの距離である。質点の角運動量は、質点の
質量を m として、
L = mvd
L
∴ vd =
m
(20)
(21)
となるので、これを式(19)に代入すれば
S=
L∆t
2m
(22)
となる。ここで、質点に中心力のみが働く場合、角運動量 L は一定値となるので、単位時間に線
分 OP が掃過する面積は L/2m で一定ということになる。
4
万有引力も中心力の一種であるが、後に紹介するように惑星は太陽を焦点とする楕円軌道上を運
動している。惑星が一番太陽に近いときには惑星の速度は速くなり、一番遠い時には遅くなる。こ
れは面積速度が一定であるためである。
¶
この回のまとめ
³
• 角運動量の時間微分は力のモーメントに等しく、これを回転運動の法則という。
• 中心力が働く質点の角運動量は時間変化せず、質点は角運動量ベクトルを法線とする平
面上を運動する。
µ
• 中心力が働く質点の面積速度は一定である。
5
´