腹水治療センター(KM-CART)

外 科
日本消化器外科学会認定施設、外科学会専門医修練施設、小児外科学会教育関連施設
〒730-0844
広島市中区舟入幸町 14 番 11 号
Tel. 082(232)6195 (代表)
Fax.082(234)7302
担当:日野、津村、金廣、清水、垰越
HP: http://funairi-hospital.jp/shinryouka/syounigeka.html
改良型腹水濾過濃縮再静注法(KM-CART)
-
緩和治療における癌性腹水の最新治療
-
腹水濾過濃縮再静注法とは
腹水を抜いて、癌細胞や細菌などを取り除いてきれいにして、アルブミンなど
体に有用なタンパク成分を回収し、濃縮して量を減らしてから、点滴で血管内
に戻します。
(図:旭化成メディカルホームページより)
英語で腹水濾過濃縮再静注法のことを Cell-free and Concentrated Ascites
Reinfusion Therapy と表し、CART と略します。
腹水の一般的治療法
1.
2.
3.
4.
水分・塩分制限
利尿剤
ステロイド
抗癌剤(癌性腹水)
これらの治療法が効かない腹水を
難治性腹水と呼びます。
難治性腹水に対する従来の腹水を抜くだけの治療
欠点: 腹水に含まれている栄養(血漿蛋白)の喪失に伴う衰弱。
栄養低下に伴い腹水貯留が亢進(貯まるのが速くなる)。
このことから抜けば抜くほど悪くなると言われてきました。
しかし腹水濾過濃縮再静注法は、腹水を抜いて捨てるのではなく、腹水から
栄養(蛋白質)を回収して点滴で戻すため、抜くだけの治療にない効果が期待
できます。
<難治性腹水による症状>
・強い腹満感・圧迫感
・食欲不振
・呼吸困難
・便秘
・尿量減少
<治療効果>
・腹部膨満感、圧迫感などの苦痛の軽減
・腹圧の軽減による消化管運動・呼吸の改善
・循環血漿量の増加による尿量の増加
・血漿浸透圧の上昇による浮腫の消退
以上の効果により、全身状態の改善だけでなく、食欲の改善、利尿剤の効果が
上がることで、家で食事が取れるようになり腹水も貯まる速度が遅くなること
で、入院から在宅での生活が可能になることも多くあります。
治療前(腹水 8400ml)
治療後
腹水濾過濃縮再静注法は 20 年以上前からある非常に良い治療ですが、腹水の
処理作業に手間と時間がかかるため忙しい医療の現場ではほとんど行われませ
んでした。そのためこうした治療法があることは世間一般ではもちろん医師の
中でも知らない方がまだまだ多くいます。
舟入市民病院外科では平成 10 年の開設時より、救急患者の血液浄化(CHDF、
エンドトキシン吸着療法、血漿交換など)に取り組むと同時に、その技術の延
長で腹水濾過濃縮再静注法も当初から施行しておりました。
腹水からアレルギーなどを起こさない自分自身の貴重な蛋白質(アルブミン
やグロブリンを多量に含み薬剤価格に換算すると数万円から数十万円に相当す
る)を回収してもどすことができる優れた治療ですが、欠点もあるため適応と
なる患者さんは限られていました。
<当科で採取された様々な腹水>
通常の腹水
乳び腹水
血性腹水
粘液性腹水
腹水の性状は人によって様々で、血性腹水、乳び腹水、粘液性腹水は
処理する機械がすぐ目詰まりすることで処理が難しい(癌性腹水に多い)。
従来の腹水濾過濃縮再静注法の欠点
1. 大量の腹水の処理が困難
2. 血性腹水、乳び腹水、粘液性腹水の処理が困難
3. 高頻度に発熱が起こる
これらは濾過機が目詰まりするため処理できる量に限界があることと、腹水中
に血液、粘液などが多いと目詰まりが早くなること、処理時間が長いと腹水中
の細胞が刺激・破砕され有害物質が産生されることによって起こります。
改良型腹水濾過濃縮再静注(KM-CART)
従来の腹水濾過濃縮再静注法の欠点を改良した、改良型腹水濾過濃縮再静注
(KM-CART)が、松崎圭祐先生によって開発(2008 年特許申請)されました。
開発者
略歴
:
:
松崎 圭祐 先生
1981 年 広島大学医学部卒業、広島大学医学部第二外科入局
その後 高知医科大学助手などを経て
現在 高知大学医学部臨床教授・非常勤講師
要町病院 腹水治療センター センター長
KM-CART の特徴
 シンプルな回路構成
 機械刺激による癌細胞の破砕、免疫細胞の活性化を軽減
 内圧濾過方式から外圧濾過方式への変更で目詰まりを減少させ
細胞刺激に伴うサイトカインなどの有害物質の産生を減少

洗浄機能があるため、濾過機の腹水処理可能量が飛躍的に増加、
さらに処理速度も速い
以上の改良により KM-CART では、
1. 大量の腹水が短時間で処理できる
2. 従来の方法では難しかった各種腹水の処理が可能
3. 再静注時によく見られた発熱を大幅に軽減
当科における改良型腹水濾過濃縮再静注(KM-CART)
舟入市民病院では、まだ一部の施設でしか行われていない改良型腹水濾過濃
縮再静注(KM-CART)を平成 25 年に導入しました。
外科の日野が広島大学医学部第二外科出身で松崎先生の後輩にあたることか
ら直接指導をしていただき、平成 25 年からは腹水濾過濃縮再静注はすべて
KM-CART で行っております。現在も松崎先生には腹水治療全般について豊富
な経験から貴重なアドバイスをいただいております。
腹水は癌が進行した状態であらわれますが、様々な癌の症状の中でも苦痛の
強いものの一つです。腹水による圧迫感や鈍い痛みは、今までの経験から麻薬
を用いてもなかなか取れないと感じています。しかし腹水の苦痛に対して
KM-CART は非常に有効な手段です。
その他にも食事が食べられる、楽に体が動かせる、尿が増える、呼吸が楽に
なるなど全身状態の改善から、劇的に QOL(生活の質)の向上を認めることもあ
ります。それは直接的な癌の治療にはなりませんが、貴重な体力の温存・回復
につながり、入院しなければいけない状態から在宅の生活が可能になったり、
あきらめていた抗癌剤治療に再度挑戦された患者様もおられます。
当科では、癌の緩和治療で多くの患者様を受け入れていますが、その中には
腹水に関しては抜けば悪くなると治療をあきらめている方が多くおられます。
そうした方々から KM-CART を受けられた後、こんなに良い方法があるのなら
早く来ればよかったとよく言われます。
当科では、いつでも受け入れできる準備をしてお待ちしております。腹水の
治療に関して、お気軽に御相談下さい。
広島市立舟入市民病院
外科