パラジウム-DHTP 触媒による位置選択的 クロスカップリングを活用する多置換ベンゾフラン類 およびインドール類のワンポット合成 静岡県立大薬 ○山口 深雪、勝又 はるか、鈴木 康平、秋山 知代、眞鍋 敬 ベンゾフランおよびインドール骨格は天然物や医薬品を始めとする多くの化合物に広く存在しており、有 機合成化学において重要な合成ターゲットである。これまでに数多くの合成法が開発されてきており、中で もパラジウム触媒を用いる2-ハロフェノールあるいは2-ハロアニリンとアルキンの薗頭カップリングと 続く環化反応により合成する手法は広く用いられている。しかしながら、同反応に汎用されるハロフェノー ルやハロアニリンは、反応性の高いヨード化合物やブロモ化合物であり、安価で誘導体が容易に入手可能で あるクロロ化合物からの合成の報告は限られている。また、ハロゲン化ベンゾフランやハロゲン化インドー ルを同合成法により得るには、オルト位選択的薗頭カップリングを達成するために、ベンゼン環上に異なる ハロゲン原子を有する基質を用いる必要がある。 我々はこれまでに、ヒドロキシ基含有ターフェニルホスフィン配位子である dihydroxyterphenylphosphine (DHTP)を開発し、これをパラジウム触媒と組み合わせる ことによりジハロフェノールやジハロアニリンのオルト位選択的にクロスカップリ ング反応が進行することを報告している。1 また最近、シクロヘキシル基をリン原子 上に有する Cy-DHTP をパラジウム触媒と共に用いると、ジクロロフェノール類と末 端アルキンからオルト位選択的薗頭カップリングが進行し、続く環化反応によりク ロロベンゾフランが収率良く得られることを報告している。 2 今回我々は、ジクロロフェノール類と末端アルキンからのクロロベンゾフラン合成とそれに続く鈴木―宮 浦カップリング反応による、二置換ベンゾフラン類のワンポット合成を検討した。その結果、パラジウム触 媒存在下、二種類の配位子 Cy-DHTP と XPhos を共存させて反応を行うと、それぞれの触媒が反応特異的に 作用し、様々な基質からワンポットで目的とする二置換ベンゾフラン類を収率良く得られることを見出した。 3 パラジウム触媒存在下、二種類の配位子として Cy-DHTP と XPhos を共存させて反応を行い、ジクロロフ ェノールのオルト位選択的に薗頭カップリング反応を進行させた。続いて水を加え環化を行い、クロロベン ゾフラン体とした。同反応系内に新たにボロン酸と塩基を加えたところ、鈴木―宮浦カップリング反応が円 滑に進行し、ワンポットにて二置換ベンゾフラン体を得た。本反応は種々のジクロロフェノールを用いた場 合にも適用することができた(Scheme 1)。 Scheme 1 また、2つの配位子の役割を明らかとするための様々な検討を行った。それらの結果から、本合成におい ては、薗頭カップリング段階においては Pd―Cy-DHTP 触媒が選択的に作用し、鈴木―宮浦カップリング段 階においては Pd―XPhos 触媒が反応を促進するものと考えている。 さらに、本合成法を用いてジクロロアニリン誘導体からの二置換インドール類のワンポット合成を検討し た。その結果、配位子に Cy-DHTP のみを用い、触媒量の tetrabutylammonium chloride (TBA‧Cl)を添加するこ とにより鈴木―宮浦カップリングが良好に進行することが明らかとなった。すなわち、アミノ基をトシル基 で保護したジクロロアニリン誘導体のオルト位選択的に薗頭カップリングを行い、続いて水を添加して環化 を進行させクロロインドールとし、さらにボロン酸、塩基と共に触媒量の TBA‧Cl を加えることによりカッ プリング反応が良好に進行し、ワンポットで二置換インドールを得ることに成功した。 本手法により、インドール環の様々な位置に置換基を持つインドール類を合成することができた。特に、 一般に合成が困難とされている4-置換インドール類についても 2,3-ジクロロアニリン誘導体から効率良く 合成可能である点は本手法の特徴である(Scheme 2)。 Scheme 2 また、Cy-DHTP の大量供給可能な合成ルートの開発を行った(Scheme 3)。2,6-dimethoxyphenylboronic acid 1 から鈴木-宮浦カップリング反応により化合物 2 を合成し、続いて Br 基をボリル基に変換した。鈴木-宮浦 カップリング反応により得た化合物 3 を脱メチル化した後、ホスフィノ基の導入を行った。その結果、従来 法と比較して工程数を 2 つ短縮し、全 5 工程で Cy-DHTP を HBF4 塩として得ることに成功した。本工程は容 易にスケールアップ可能であり、カラムクロマトグラフィーによる精製を必要としないことから、Cy-DHTP の簡便合成が可能となった。 Scheme 3 Pd―DHTP 触媒を用いることにより、様々な置換ベンゾフランおよび置換インドール類の効率的合成が可 能となった。今後、クロロアレーンを用いる新規クロスカップリング反応や位置選択的反応を活用した効率 的合成法の開発につながるものと期待される。 References 1. Ishikawa, S.; Manabe, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 772. 2. 勝又はるか,眞鍋 敬,日本薬学会第 132 年会,31E21-pm08s. 3. Yamaguchi, M.; Katsumata, H.; Manabe, K. J. Org. Chem. 2013, 78, 9270.
© Copyright 2024 ExpyDoc