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キラルホルミウム触媒を用いる多置換ヒドロカルバゾール合成
千葉大院薬
○森川
貴裕、原田
真至、西田
篤司
【Introduction】ヒドロカルバゾール骨格は Strychnine や Vinblastine を代表とする生理活性物質の重要な部分
構造である(Figure 1)。高度に官能基化されたヒドロカルバゾール誘導体は、医薬品開発や天然物合成など、
広く有機合成に利用されているため、多置換誘導体を得る手法の確立は重要な研究課題である。この骨格を
有する多くの生理活性物質は、インドリンに融合した 6 員環が多官能基化されていること及びインドール 3
位に当たる部位に 4 級炭素を持つことが共通している。
触媒的不斉反応によるヒドロカルバゾール誘導体の合成法は少なく、特に 4 級炭素構築をも達成する反応
は分子内反応に限られている。そこで我々は 4 級炭素を有する光学活性なヒドロカルバゾール誘導体の新規
合成法の確立を目指すこととし、シロキシビニルインドール 1 をジエンとして用いる Diels-Alder 反応を考案
した(Scheme 1)。すなわち、得られる付加体 2 において、シリルエノールエーテルを起点とした分子間アルキ
ル化反応により、4 級炭素を有するヒドロカルバゾール誘導体 3 がわずか 2 工程で合成できると期待される。
また、ジエン、ジエノフィル、アルキル化剤の組み合わせにより、網羅的な誘導体合成も期待される。しか
し、シロキシビニルインドール 1 を用いる Diels-Alder 反応は我々の知る限り、1 例しか報告がなく、生成物
も十分な収率では得られていない。1) また触媒及び不斉反応への展開は達成されておらず、位置及び立体選
択性など未解決な部分が多く残されている。
【Results and Discussion】シロキシビニルインドールをジエンとして用いる場合、化合物の安定性が問題とな
った。そこでジエンの保護基を検討したところ、シリル基は TIPS 基、窒素の保護は Mbs 基が最適であった。
反応性の高いジエノフィルであるオキサゾリジノンを有するフマル酸誘導体 5、キラル触媒として、当研究
室が過去に Diels-Alder 反応への適応を報告した Yb/Bisurea 触媒を用いたところ、低収率ながら exo 付加体 6
を 52% ee で得た(Table 1, entry 1)。2) そこで、本研究における最適触媒の探索を行ったところ、中心金属とし
て Ho(NTf2)3、キラル配位子として Bisthiourea、塩基として DBU を組み合わせた触媒(以下 Ho/Bisthiourea)が
目的とする反応を高度に制御しつつ促進することを見出した。この触媒を用いる場合、exo 付加体 6 を収率
96%、87% ee で得ることに成功した。また、Ho/Bisthiourea は他のジエノフィルに対しても広い基質一般性を
示し、種々の置換基を有する付加体を良好な結果で得ている。
次に、得られた付加体の変換反応につ
いて検討を行った。付加体 6 に対して、
アルキルハライドとテトラブチルアン
モニウムフルオライドを用いたところ、
メチル化・アリル化・シアノメチル化の
いずれの反応においても単一のジアス
テレオマー7 を高収率で得た。(Scheme
2)。これにより 4 級炭素を含む 4 連続不斉中心を持つ誘導体をわずか 2 工程で合成する方法論を確立した。3)
また、天然物合成に向けた変換も検討中である(Scheme 3)。シロキシビニルインドール 4 とアクリル酸誘導
体 8 の Diels-Alder 反応で得られる付加体 9 に対し、アルキル化剤として、N-ベンジルヨードアセトアミド 10
を用いると、アミナール 11 がジアステレオ選択的に得られた。続いて CSA 触媒による脱水反応により、エ
ナミド 12 へと導いた。12 に対し、水素化アルミニウムリチウムを用いる還元を行うと、アミド並びにオキ
サゾリジノン部位の還元が進行し、エナミン 13 を得ることに成功した。更にアセチル化を行い、14 を得た。
また、4 から 13 までの 4 工程の変換は単一フラスコで行うことが可能である。その場合、13 の全収率は 15%
に低下するものの(Scheme 3 の 4 から 13 の合計収率は 27%)、スケールアップにも容易に対応できたため、本
研究の実用性を示す一例だと考えている。口頭発表では、天然物の合成研究並びに、その他変換反応につい
ても詳細に発表する予定である。
【Catalyst Structure】ホルミウムを不斉触媒として用いる反応例は他に報告がない。そこで錯体構造の知見を
得るべく、中心金属と配位子の混合溶液の質量分析を行ったところ、金属と配位子が 1:2 の比率で含まれる
組成のイオンピークが観測された(Figure 2)。この比率
は実際の反応においても最適混合比率であり、15 のよ
うに金属に対し、2 当量の配位子が配位した錯体の存
在が示唆された。
【Reference】1) Bleile, M.; Wagner, T.; Otto, H. -H. Helv.
Chim. Acta 2005, 88, 2879. 2) Harada, S.; Toudou, N.;
Hiraoka, S.; Nishida, A. Tetrahedron Lett. 2009, 50, 5652.
3) Harada, S.; Morikawa, T.; Nishida, A. Org. Lett. 2013, 15,
5314.
Figure 2. ESI-MASS Analysis