有機化学 - 日本大学生産工学部

ISSN 2186-5647
−日本大学生産工学部第49回学術講演会講演概要(2016-12-3)−
P-65
イミノスルホニウムイリドとイソシアニド金(I)錯体の反応
日大生産工(院) ○安達 愛結美
日大生産工
藤井 孝宜
1. 緒言
有機金属錯体は触媒活性や発光特性など
様々な機能を示すことから,幅広い分野で研究
が行われている。なかでも,カルベン金(I)属錯
体は近年になって著しく発展している分野で
あ る 。 カ ル ベ ン 金 (I) 錯 体 は , 1991 年 に
Arduengoらによってはじめての安定なカルベ
ン で あ る N- ヘ テ ロ サ イ ク リ ッ ク カ ル ベ ン
(NHC) の合成と単離が報告されて以来,盛ん
に研究が行われている (Figure 1) 1)。
2007―2008年にはEspinetらによって,イソ
シアニド金(I)錯体と第一級アミンもしくは第
二級アミンを反応させることにより,分子間水
素結合を形成する窒素非環状カルベン (NAC)
金(I)錯体2) と水素結合によって安定化された
カルベン(HBHC)金(I)錯体 3) の合成が報告さ
れた (Figure 1)。HBHC金(I)錯体はNAC金(I)
錯体とは異なり,1,6-エンインの骨格転位反応
やメトキシ環化反応の触媒として優良である
ことが明らかになっている4)。
Cl
Au
EWG
+
E=PPh3, AsPh3,
N H
Au
N
NHC
Au
Cl
Au
Cl
EWG = Electrone Withdrawing Substituent
Ph
Me S N Me
TfOPh
Me
Ph
N
Ph S
CH
R
Me
Ph
N
Ph S
CH
R
N H
NaH
R
NAC-AuCl
Me
N
N H
R
N
F
Ph S Ar
N
N
Cl Au
N
R
EWG H
N
一方,当研究室ではS≡N結合 (スルファン
ニトリル) について研究しており,2001年には
フッ化スルファンニトリルから2段階を経て脱
プロトン化することによって,はじめてのイミ
ノスルホニウムイリドの発生に成功している
(Scheme 2) 6)。そこで,このイリドをイソシア
ニド金(I)錯体と反応させることで,分子内で水
素結合を形成する新規なイリドカルベン金(I)
錯体(1) の合成を目指している (Scheme 3)。
本発表では,イミノスルホニウムイリドとトリ
フェニルホスフィンをもつイソシアニド金(I)
錯体の反応を試みたので報告する。
H
Cl
Me
E
Scheme 1
N
N
toluene, 35 °C to 50 °C
E
N
R
E
EWG H
N
Scheme 2
HBHC-AuCl
Figure 1
2013年にAlcarazoらによって,イソシアニ
ド金(I)錯体と電子吸引性基をもつイリドを分
子間求核反応により反応させることで,非環状
アミノイリドカルベン(AAYC) の合成が報告
された (Scheme 1) 5)。しかし,AAYCは溶液
中で容易に分解してしまうため,触媒としての
利用は困難であるとされている。
Ph
Me S N Me +
TfOPh
N C Au PPh3
TfO-
Ph
NaH
THF, 0 °C, 1 h
Ph
S
Me
N
H
N
Au
PPh3
HBHC-AuPPh3
Scheme 3
Reaction of iminosulfonium ylide with gold(I) isocyanide complex
Ayumi ADACHI and Takayoshi FUJII
― 841 ―
R
2. 実験
2-1. N-メチル-S,S-ジフェニル-S-メチルイミ
ノスルホニウムトリフレート(2) の合成
無水 DCM 中,メチル(ジフェニル)-6-スル
ファンニトリルとトリフルオロメタンスルホ
ン酸メチルを-20 °C で 1 時間反応させ,DCM
で抽出後,無水硫酸マグネシウムで脱水し,
減圧濃縮と減圧乾燥を行い,エーテルで洗浄
した。そして,メタノール/エーテルで再結晶
を行い,白色の結晶を得た (Scheme 4)。
Ph
Me S N
Ph
3. 結果・考察
イリド前駆体(2) とイソシアニド金錯体(3)
の反応は,まず,2 : 3 : NaH = 1 : 1 : 1.5 の比
で反応を行ったが,1H NMR測定の結果より,
反応が進行していることは確認できたが,同定
には至らなかった。次に,イリド前駆体(2) の
水素を引き抜くのにNaHの量が不足している
と考え,2.5当量に増やして反応を試みたが,
同様の結果となった。また,イリド前駆体(2)
を2当量に増やして反応を試みたが,同定には
至らなかった。
Ph
Me S N Me
TfOPh
MeOTf (0.8 eq.)
DCM, 0 °C, 1 h
4. 今後の予定
イソシアニド金(I)錯体(3) のシクロヘキシ
ル基の立体障害が大きいと考え,シクロヘキシ
ル基をトリル基に変えたイソシアニド金(I)錯
体(4) を合成し,イミノスルホニウムイリド(2)
との反応を試みる (Scheme 7)。
2: 38%
1
Scheme 4
2-2. シクロヘキシルイソシアニドトリフェ
ニルホスフィン金(I)錯体(3) の合成
無水 DCM にクロロシクロヘキシルイソシ
アニド金(I)錯体とトリフェニルホスフィン
を溶解させ,-78 °C で冷却後,トリフルオロ
メタンスルホン酸銀を加え,17 時間反応させ
た。反応終了後,ろ過と減圧濃縮,減圧乾燥
を行い,DCM/ジエチルエーテルで再結晶す
ることで白色の結晶を得た (Scheme 5)。
Ph
Me S N Me
TfOPh
2
N C Au PPh3
+
TfO4
Me
N
S
H
Ph
N
Ph
NaH
THF, 0 °C, 0.5 h
Au
PPH3
HBHC-AuPPh3
N C Au Cl
PPh3 (1.5 eq.), AgOTf
DCM, -78 °C, 17 h
TfO-
3
4: 45%
Scheme 5
2-3. イリド前駆体(2) とイソシアニド金(I)錯
体(3) の反応
無水 THF に水素化ナトリウム(NaH) とイ
リド 2 を溶解させ,0 °C で冷却後,イソシア
ニド金(I)錯体 4 を加えて 1 時間反応させた。
反応終了後,減圧濃縮し,茶色の固体が得ら
れた (Scheme 6)。
Ph
Me S N Me
TfOPh
N C Au PPh3
+
TfO-
2
3
Me
N
S
H
Ph
N
Ph
NaH
THF, 0 °C, 0.5 h
complex mixture
Scheme 7
N C Au PPh3
5. 参考文献
1) A. J. Arduengo, R. L. Harlow, and M. Kline, J.
Am. Chem. Soc., 113, 361 (1991).
2) C. Bartolomé, M. Carrasco-Rando, S. Coco, C.
Cordovilla, P. Espinet, and J. M. Martín-Alvarez, J.
Chem. Soc., Dalton Trans., 5339 (2007).
3) C. Bartolomé, M. Carrasco-Rando, S. Coco, C.
Cordovilla, P. Espinet, and J. M. Martín-Alvarez,
Inorg. Chem., 47, 1616 (2008).
4) C. Bartolomé, Z. Ramiro, P. Pérez-Galán, C.
Bour, M. Raducan, A. M. Echavarren, and P.
Espinet, Inorg. Chem., 47, 11391 (2008).
5) E. González, J. Rust, M. Alcarazo, Angew.
Chem. Soc., 52, 11392 (2013).
6) T. Fujii, T. Suzuki, T. Sato, E. Horn, and T.
Yoshimura, Tetrahedron Letters, 42, 6151 (2001).
Au
PPH3
1: not obtained
Scheme 6
― 842 ―