平成24年度 教育課程研究協議会 発表要項 教科 研究発表主題 発表者

平成24年度
教育課程研究協議会
発表要項
教科
研究発表主題
発表者
国語科
読みの目的を明確にした「読むこと」の授業展開を目指して
仙台市立愛子小学校
~単元を貫く言語活動を軸とした単元構成の工夫~
1
教諭
野中
映里
主題設定の理由
新学習指導要領の実施に伴い,
「読むこと」の授業において「子どもたちに読みの目的を明
確に示す授業づくり」を意識して実践に取り組んできた。手探りではあったが,低学年であ
っても教材文の特性を捉えた単元構成を行い,単元の始めに読みの目的を示すことで,その
後の指導に一貫性をもたせることができるとともに,子どもたちは単元を通しためあてを意
識して学習に取り組むことができるということを感じていた。
しかし,その読みの目的が子どもの思考の流れに合わないものであったり,単元を貫く言
語活動との一貫性が感じられないものであったりすると,子どもたちに学習に対する必要感
や主体性をもたせ続けることが難しい。そのため,単元の導入において教材文を学習する目
的を自然と意識できる学習活動を設定し,単元構成を行うことが必要であると考えた。
以上のことから,単元における付けたい力を明確にするとともに,単元を貫く言語活動を
軸とした単元構成を工夫することで,子どもたちがより一層読みの目的を意識して学習に取
り組み,力を付けていくことができると考え,本主題を設定した。
2
研究の目標
主題の具現像として,以下のような児童の姿を目指す。
○
話の筋のおもしろさに関心をもちながら様子を想像して物語を読み取り,学習したこと
を生かしながら追究していこうとする児童。
登場人物の行動や場面の様子について言葉に着目しながら想像を広げて読み取る児童。
○
楽しんだり知識を得たりするために,進んで読書に取り組む児童。
3
○
研究の方法・内容(授業づくりの視点)
本研究は1・2学年の「読むこと」における物語文教材において取り組んだ2つの実践で
ある。実践にあたって,以下のような授業づくりの視点を設定し,手だてを講じた。
【視点1】単元を貫く言語活動の設定と単元構成の工夫
【視点2】興味・関心を効果的に高めていくことをねらう読書活動の設定
【視点3】読みの目的に合わせた学習過程の工夫
4
研究概要
(1) 実践1「おはなしをたのしくよんでつくっちゃおう『サラダでげんき』(東京書籍1年下)」
① 各視点における具体の手だてと授業の実際
【視点1】単元を貫く言語活動の設定と単元構成の工夫
単元の構成にあたって
・多くの動物が次々と登場し,サラダに入れる材料と理由を教える繰り返しで物語
教材の特性
が展開されている。
・登場人物の様子を表す言葉が多く用いられている。
付けたい力
単元を貫く言語活動
・言葉に着目し,登場人物の行動や様子について想像を広げながら物語を読む力
・物語をもとにして想像した簡単なお話を書く力
・「サラダでげんき」の一場面をつくる。
読みの目的 ・「お話をつくる」ためにこの物語のおもしろさの秘密を読み取る。
単元の指導計画
学習活動 (○数字は時数)
第
◆学習の見通しをもつ
1
1
次
出来事が次々と繰り返し起こるお話の読み
②
聞かせを聞き,そのおもしろさを述べ合う①
2
教材文のあらすじや特徴をとらえ,「お話づ
くり」をするという単元の見通しをもつ①
第
◆「サラダでげんき」を読む
2
1
サラダ作りを決めた様子を読み取る①
次
2
のらねこがやって来た様子と,教えてくれた
⑤
ことのおもしろさを読み取る①
と投げかけ,繰り返しの構成をも
つ2冊の絵本を読み聞かせする。
・感想をもとに登場人物の順序と構
成の特徴を押さえ,単元の見通し
と読みの目的を提示する。
・
「お話のおもしろさの秘密を読み取
る」という読みの目的を意識させ,
「登場の様子」「教えた材料」「お
他の動物が登場する様子を読み取る①
すすめの一言」の3点について,
4
他の動物が教えてくれたことを読み取る②
のらねこ以外の場面を横断的に読
◆自分の好きな動物を登場させて一場面を書く
3
1
み取っていく。
登場させたい動物とお勧めのものを考え「サ ・登場の様子を詳しく書くために「動
次
ラダでげんき」の一場面を書く見通しをもつ①
2
動物に合う登場の仕方を考えて,様子を表す
言葉を用いてお話を書く①
第
4
次
①
・
「お話の楽しいところをさがそう。」
3
第
⑦
指導上の留意点
き」「音」「場所」を表す言葉が使
われていることを押さえる。
・
「材料」と「できるようになること」
3
お勧めする理由を考え,お話の全文を書く①
の関係を捉えて全文を書かせる。
4
ペアで読み合い,推敲して清書する③
・付箋で感想を交流させる。
5
友達の作品を読み合い,感想を交流する①
・繰り返しの展開となっている他の
◆他の作品を読む
物語32冊(※教師選定)を読ま
1
せる。
出来事が繰り返し起こる他の物語を読む①
【視点2】興味・関心を効果的に高めていくことをねらう読書活動の設定
第1次では,繰り返しの展開で描かれた物語を学ぶ学習への興味・関心をもたせ,そ
の興味・関心を読みの目的につなげていくために,2冊の絵本の読み聞かせを行 った 。
また,日常的な読書に対する興味・関心を高めていくために,第4次では,繰り返し
の展開で描かれる他の物語を自由に読む活動を設定した。
【視点3】読みの目的に合わせた学習過程の工夫
第2次では,場面ごとの平板な読み取りをやめ,
「第3次に『お話をつくる』ために,
この物語のおもしろさの秘密を読み取る」という読みの目的に合わせた授業を展開した。
その際,従来の場面ごとの読み取りをする学習場面と,お話づくりの要素となる三つ
の事柄(「登場の様子」「教えた材料」「おすすめの一言」
)を観点にした横断的な読み取
りをする学習場面を組み合わせた。
② 実践1の成果と課題
ア
成果
○読みの目的を明確に示した単元構成をしたことで,この単元で何を学ぶかが明確に
なり,単元を通して付けたい力を効果的に身に付けることができた。【視点1】
○読み取りの観点が明確になり「書くこと」の学習への活用が見られた。
【視点3】
→一部横断的な読み取りの学習過程を設定したことで,
「登場する動物」と「材料」,
「おすすめの一言」のつながり,他の登場人物との違いなどの観点を明確にして
読み取りを深めていくことができただけでなく,
「登場の仕方」などの書き表し方
に目を向け,第3次の「書くこと」の学習に活用していくことができた。
イ
課題
●単元の導入で読書活動を取り入れ,学習への興味・関心を読みの目的へつなげてい
く手段としては効果があったが,目的や課題解決のための単元を貫いた読書活動を
設定することはできなかった。【視点2】
→目的や課題解決のための並行読書を効果的に位置付けた単元構成の追究へ。
(2) 実践2「シリーズのお話を読んでみよう 『お手紙』(東京書籍2年上)」
① 各視点における具体の手だてと授業の実際
【視点1】単元を貫く言語活動の設定と単元構成の工夫
単元の構成にあたって
教材の特性
付けたい力
単元を貫く言語活動
読みの目的
・全4巻20話からなる「ふたりは・・・」シリーズの一つのお話である
・登場人物の行動を示す言葉や,気持ちが表れている会話文が大半を占めている
・楽しんでシリーズの物語を読むことに親しむ態度
・登場人物の行動や様子を表す言葉に着目して気持ちを想像しながら物語を読む力
・「ふたりは・・・」シリーズの並行読書
・「お手紙」と「ふたりは・・・」シリーズの作品を読み,がまくんとかえるくんがどん
な友達か考える
単元の指導計画
学習活動 (○数字は時数)
指導上の留意点
第
◆学習の見通しをもつ
1
1「ふたりはともだち」の2作品と教材文を読む①
関係に焦点を当て「『ふたりはどん
次
2
な友達なのか。』を考える」という
②
◆教材文「お手紙」を読む
第
1
玄関に腰を下ろす二人の気持ちを読み取る①
シリーズの並行読書【視点2】
2
2
手紙を書くかえるくんの気持ちを読み取る①
・自由に読める環境を設定する。
次
3
寝ているがまくんと手紙を待つかえるくんの気 ・読書カードに読んだお話を記録す
⑤
感想を話し合い,単元の見通しをもつ①
持ちを読み取る①
4
かえるくんが書いた手紙のことを話す二人の気
持ちを読み取る①
5
第
3
次
③
手紙が届いた時の二人の気持ちを読み取る①
・感想をもとに,二人の登場人物の
読みの目的を提示する。
るとともに,おもしろかった作品
の感想を付箋に書いて掲示コーナ
ーに貼り,感想を自然に読み合わ
せる。
◆シリーズの中から読んだお話の感想を話し合い, ・おもしろい作品を全員で読み,感
二人の登場人物について考える。
1
読んだお話の感想を聞き合い,読み直す①
2
がまくんとかえるくんにお手紙を書く②
想を聞き合わせる。
・学習を振り返り,登場人物に宛て
たお手紙を書かせる。
【視点2】興味・関心を効果的に高めていくことをねらう読書活動の設定
本単元では,「
『お手紙』と『ふたりは・・・』シリーズの作品を読み,がまくんとかえ
るくんがどんな友達か考える」という読みの目的をもたせ,並行読書に取り組ま せた 。
並行読書に進んで取り組ませていくために,一人一人に「読書カード」を配布し,読
んだ作品の記録を取らせた。また,教室に感想を付箋に書いて掲示するコーナーを設け,
できるだけ多くの子どもたちが本を読んでみたいという興味・関心がもてるようにした。
② 実践2の成果と課題
ア 成果
○シリーズで書かれた作品を読むことへの興味・関心が高まるとともに,関連を見付
けて読むことのおもしろさに触れることができた。【視点2】
→読みの目的を示したことや読書カードを配布したことで,子どもたちは意欲的に並
行読書に取り組んだ。読書に興味のもてない子どもも,おもしろそうなお話を選ん
で読んでいく姿が見られた。
→並行読書で発見したことを授業の中で進んで伝える姿が見られた。付箋に書かれた
感想や読み取りの学習では,がまくんの性格やかえるくんの優しさに触れた感想や
考えが書かれるようになった。
イ 課題
●単元を貫く言語活動の設定と読み取りの学習過程の工夫の難しさ【視点1】
→子どもの実態と読みの学習過程の工夫,単元を貫く言語活動とのバランスを取りな
がら一貫性をどのようにもたせていくか。
→「シリーズの中から好きなお話の紹介文を書こう」などの読みの目的を変えること
で,読み取りの学習過程をもっと工夫し,よりダイナミックな形で単元を構成して
いくことができたのではないか。
5
6
まとめと今度の課題
子どもたちが,読みの目的を意識して学習に取り組んで力をつけていくことをねらい,単
元における付けたい力を明確にするとともに単元を貫く言語活動を軸とした単元構成を工
夫したことについて,一定の成果を挙げることができた。
新学習指導要領の実施によって単元を貫く言語活動の充実が重要視されているが,言語活
動のおもしろさだけを追究するのでは,子どもたちに「読むこと」において付けさせるべき
力を身に付けさせていくことが難しい。今回の研究を通して,教材の特性と付けたい力を教
師がしっかり捉えた上で言語活動を設定し,読みの目的をもたせていく手だてを吟味して単
元構成を行ってきた。子どもたちは,思考の流れに即してこの単元で何を学ぶべきかという
ねらいを明確にもちながら興味・関心を深め,力を伸ばしていくことができると感じた。
今後は,年間を見通した指導と評価も考慮しながら計画的な実践を目指していくとともに、
他の教材文においてもその特性を捉えながらさまざまな単元構成の工夫を図り,
「読むこと」
の学習において,子どもたちがより充実した学びを得ることができる授業実践の展開に力を
注いでいきたい。
参考文献
・
「言語活動の充実に関する指導事例集~思考力,判断力,表現力等の育成に向けて【小学校版】」
平成22年度12月 文部科学省
・「国語授業の新常識『読むこと』低学年編」
編著 達富洋二 森山卓郎 樺山敏郎 水戸部修治 2011 明治図書