深海放線菌ゲノムを読み解く 〜多剤耐性菌を打ち破る新奇

深海放線菌ゲノムを読み解く
〜多剤耐性菌を打ち破る新奇抗菌物質の獲得
○上村萌佳(東京海洋大学),坪内泰志・西真郎・徳田真紀(海洋研究開発機構),
寺原猛・今田千秋(東京海洋大学),秦田勇二・丸山正(海洋研究開発機構)
【序章】放線菌は、形態学的にその多くがカビに似た糸状細胞や菌糸を呈するグラム陽性細菌の一群
であり、土壌中や水圏環境中に広く分布している。放線菌が生産する生理活性物質は、化膿や疾病に
対して抗菌物質として働くため、人類に多大な貢献をしてきた。人類は新規抗菌物質の探索や化学修
飾を行った合成抗菌薬の開発を進め抗生物質を多用してきた一方で、それは薬剤耐性菌を生む原因と
なった。多剤耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下 MRSA)は、臨床分野において切り札
であった抗菌薬バンコマイシンやリネゾリドに対しても薬剤耐性能を獲得していることから、多剤耐
性菌に対する新規抗菌物質の探索が急務とされる。
近年、我々が下北半島東方沖、水深 1,180 m の深海底泥(航海番号:CK06-06)から単離した
Streptomyces sp.str04 株は、最近縁株との相同性が 16S rRNA 遺伝子レベルで 98.7%を示す新奇放線
菌である。本菌が MRSA に対して強力な抗菌活性を有することが抗菌スペクトル解析から見出されたた
め、当該抗菌物質の精製および構造解析は、現在当研究グループにおいて進行中である。当該抗菌物
質は従来の抗 MRSA 薬 5 種とは異なる基本骨格を有することが示唆されており、またその比活性を考慮
すると、高付加価値の新奇抗菌物質開発が期待できる。その一方で同物質は生産性が低いことも明ら
かとなっており、臨床応用のラインに乗せるためには大量生産化が不可欠である。研究の一環として
本研究では、当該抗菌物質高生産化の誘導因子に着目した発現調節メカニズムの解明を目的として
Streptomyces sp.str04 株のゲノム解析を行った。
【方法・結果】Streptomyces sp.str04 株を ISP2-ASW 液体培地で振とう培養を行い、3 日おきに週2
回、計 10 回のサンプリング(集菌)を行った。得られたサンプルは培養上清と菌体に分画し、前者は
抗生物活性力価試験に、後者は引き続くゲノム解析に供した。検定菌 Bacillus subtilis を用いた力
価試験から、培養 4〜7 日目に抗菌物質の生産を開始し、以降持続的に抗菌物質を菌体外へ放出するこ
とを明らかとした。ゲノム抽出に関しては種々の抽出法を試した結果、石英砂酵素法が抽出効率およ
び純度が最も高かったため、同方法で str04 株の菌体画分よりゲノム DNA を抽出した。次世代シーケ
ンサーである Ion Torrent PGM から得られたドラフトゲノムデータは GC 含量 71.6%、213 コンティグ、
総塩基長 7.43 Mb (redundancy; 39.85)から構成されており、また GeneMarkS を用いて解析した結果か
らは、本菌のゲノム DNA は 6933 コード配列(CDS)を含むことが明らかとなった。抽出した CDS のアノ
テーション付けや引き続く当該抗菌物質生産関連遺伝子群の探索および、生合成物質の同定、代謝経
路の推定結果は本大会にて報告する。
【研究展望】抗 MRSA 物質を生産する放線菌 str04 株のゲノム解析を進めていくことで、抗菌物質生産
の遺伝子クラスター・制御因子の解明、代謝経路の推定のみならず、str04 株の新しい形質や性状、抗
菌物質の役割の分子レベルでの解明も見込まれる。今後は、本研究のドラフトゲノム解析を土台とし
て、詳細なゲノム解析と RNA-seq を用いた遺伝子発現変動、抗菌物質生産の制御メカニズムの解明を
行っていく予定である。