渡邉 真樹子さん 農村開発専門官

渡邉 真樹子さん 農村開発専門官
援助にも潮流がある。時代の要請によって、現場で求められるニーズが変わり、それに対応でき
る努力を先んじて行った人が、現場を率いる。日本で平和構築を真っ先に手がけ、その後、紛争
地でコミュニティ主導型開発に携わっているのが、渡邉真樹子(わたなべ・まきこ)さんだ。
外交官志望から JICA へ、そして紛争地におけるコミュニティ主導型開発へ
2007 年 11 月に入行した渡邉真樹子です。南アジア局農
業・天然資源・社会サービス課で農村開発専門官(Rural
Development Specialist)として、インド、ネパール、ブータン、
バングラデシュ向けの農村開発プロジェクト形成・実施を主に
担当しています。
私は幼尐の頃8年半メキシコに住んだのですが、小・中学
校時代に世界 55 カ国から人が集まるインターナショナルスク
ールに通いました。その時に国連や外交官というものを知り、
それ以来「外交官になる」と決意して、慶応大学法学部政治
学科に入り国際安全保障を学びました。ただ、次第に国際関
夫とは 2003 年に、世界銀行でインター
ンをしていたときに知り合いました。
同じ世界で仕事をしているので、お互
いを分かり合えていいですね。
係論は机上の空論のような気がしてしまい、就職にあたっては、より「人の顔が見える」仕事がし
たいと、JICA(国際協力機構)に入りました。
JICA では技術協力や無償資金協力で教育や農村開発プロジェクトの形成・実施を担当しまし
た。アジア、中南米、アフリカのプロジェクトを担当し、異なる地域の状況を学ぶことができ、大変
ためになりました。他方、JICA にいる間に国際安全保障と開発の接点である国際紛争に興味を
持ち始め、JICA 内の平和構築タスクフォースに入り、JICA では初めての平和構築に関する報告
書執筆に携わりました。援助が紛争対応へと移り変わる、まさにその時代の潮目でした。平和構
築を専門にすると決めたのが、このころでした。
JICA、ハーバード大学、世界銀行、そして ADB
2001 年から留学を予定していたのですが、出発直前に東チモールの国連 PKO ミッション
UNTAET(国連東チモール暫定統治機構)へのオファーがあり、留学は1年延期しました。2001 年
から東チモールの独立までの約 15 ヶ月間、UNTAET のドナー調整課でプログラムオフィサーをし
ました。その後、ハーバード大学のケネディスクールに留学。そこで社会開発と平和構築を学び、
紛争地におけるコミュニティ主導型開発に特化するようになりました。
卒業後、2004-06 年まで JICA アフガニスタン事務所に勤務し、そこでも地方開発や社会開発分
野のプロジェクトを主に担当しました。その後 JICA を退職し、世界銀行のコンサルタントとしてイン
ドネシアのアチェで約2年間、紛争後の復興支援
の一環としてコミュニティ主導型アプローチを使っ
た紛争被害者支援プロジェクトの形成・実施・評価
を担当したあと、ADB アフガニスタン事務所の職
員に勧められて、ヤングプロフェッショナル制度を
使って ADB に入りました。
紛争地の中でも、アフガニスタンには大きな潜在力
を感じました。アフガンの人たちは損得勘定がすば
やくできて、地頭(じあたま)がいいというのかし
ら、本能的な頭の良さがあるんです。
得意分野を広げたい、若くしてチームリーダーに
なれる
ADB を選んだ理由は3つあります。ひとつは、社会開発に自分を限定せず、農村開発分野の技
術を習得したかったこと。ふたつめは、スタッフが尐ないので若いうちからチームリーダーの経験
を積めると思ったこと。最後に、個人的な理由ですが、夫と二人で住める場所で生活基盤を整えら
れるところがいいなと思ったからです。
複雑な社会構造をもつ南アジアの国々で社会開発と紛争後の対応を手がける
現在は、ブータンでコミュニティの収入向上のための職業訓練プロジェクトや、震災後の復旧プ
ロジェクトの形成・実施を行っています。
ネパールでは女性のエンパワメントを経済面、社会面、司法面、そして制度面から包括的に支
援する ADB 初のジェンダーの有償プロジェクトを担当しています。コミュニティ参加型開発を用い
て、女性がコミュニティ全体の開発の意思決定過程にきちんと関われるよう支援をしたり、法的に
も社会的にも最下層に追いやられている女性のためにコミュニティにおけるインフォーマルな紛争
調停制度を構築したりするものです。その他にも、紛争被害にあった人々に対する生計向上支援
プロジェクトも担当しています。
インドでは川の浸食や洪水によって土地を失った貧困層に対する生計向上支援を、バングラデ
シュではミャンマーに隣接している地域で包括的なコミュニティ参加型地方開発を、それぞれ担当
しています。紛争が終わった直後のスリランカに出かけて、今後北部でどういった住民の生計向
上ができるのかといった調査も行いました。
フィールド調査を楽しむ
南アジアでは、貧困や政府の汚職に加え、紛争、民族、宗教、カースト制度、土地や水資源問
題、不法移民の問題などが複雑に入り組んでいるため、多面的な問題を理解したうえで、適切な
プロジェクトをデザインすることが必要です。ですから、フィールド調査を重ねることはかかせず、
地方の村でなるべく多くの時間を過ごすようにしています。現地ではお湯なしのホテルや、他人の
髪の毛がついているベッドでノミに刺されることも多い日々です。
また、プロジェクトの形成・実施にあたって、地元の NGO や学界の方々と協力することは必要不
可欠なので、関係する方々のフィールドでの仕事振りを観察することもやっています。
体力は必要ですが、机上の空論ではなく、実際の受益者と顔を合わせて仕事ができることは本
当に楽しいですし、「こういうことをやるために私はこの業界に入ったんだよなあ」と改めて実感さ
せられます。
(取材と構成:吉田 鈴香)