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ファクトシート
ナムニアップ第 1 水力発電事業
ナムニアップ第 1 水力発電事業(NNHP1)は、メコン河の支流ナムニア
ップ川中流部に 290MW の水力発電用ダムを建設する計画である。発
電される電力の大半はタイへ輸出される。このダム建設には日本の
関西電力が 45%を出資している。ビエンチャン県ホム郡の 4 村、ボリカ
ムサイ県ボリカン郡の 1 村の一部住民が移転を強いられる。ダム開
発、および電力輸出によるラオスの経済発展を前提に調査が進めら
れ、ダム以外の代替案を検討していない。アジア開発銀行(ADB)、日
本の国際協力銀行(JBIC)、民間金融機関等による協調融資事業。
サイソンブン県ホム郡の影響村の様子(2012 年 7 月撮
1. 事業概要
影)
プロジェクト所在地:ラオス・ボリカムサイ県。ビエンチャンより東北に約 120km のメコン河支流ナムニ
アップ川中流部、メコン河との合流点から約 54km 上流
規模:発電能力 290MW(メガワット)
。主発電所で発電される 272MW はタイへ輸出、副発電所で発電さ
れる 18MW はラオス国内に供給
実施機関・事業費:ナムニアップ1電力会社(Nam Ngiep 1 Power Company)
。関西電力の 100%子会社で
あるケーピック・ネザーランド(KPN)社が 45%、タイ発電公社(EGAT)の子会社 EGAT インターナシ
ョナル(EGATi)社が 30%、ラオス政府全額出資の投資法人であるラオ・ホールディング・ステート・エ
ンタープライズ(LHSE)社が 25%を出資。事業費 3.45 億ドル。
2.日本との関わり
○日本政府 1996 年~2002 年にかけて、国際協力事業団(現国際協力機構=JICA)が実施可能性調査を実施。
自然・社会環境への悪影響が指摘されたものの、事業は実現可能であると判断され、その後の追加調査や環境
影響評価が進められている。
○日本企業 関西電力がナムニアップ1電力会社の株式のうち 45%を出資。
○国際協力銀行(JBIC) 2億ドルを限度とする融資契約を締結。初のラオス向けプロジェクトファイナンス。
民間金融機関及びアジア開発銀行等との協調融資で、協調融資総額は 6 億 4,300 万ドル相当。
○アジア開発銀行 日本がアメリカと並んで最大の出資国である ADB が 1 億4,400 万ドルの民間セクター融資。
3.経緯
1991 年 1 月 ラオス政府と Shlapac 社(アメリカ)がダム計画に関する覚書に調印
1996 年 7 月 Shlapac 社との覚書破棄
1989-91 年 Solgelerg Sogreah(フランス)が初期実施可能性調査を実施
1998 年~2000 年 国際協力事業団が実施可能性調査第 1 フェーズを実施
2001 年~2002 年 国際協力事業団が実施可能性調査第 2 フェーズを実施
2003 年 5 月 ラオス政府が日本工営と調査実施に関する覚書に調印
2004 年 1 月 関西電力と日本工営が JICA 実施可能性調査レビューのコンセッション協定を締結
2005 年 5 月 JICA 実施可能性調査レビュー報告書が完成
2006 年 4 月 ラオス政府と関西電力/日本工営がダム建設に関する契約を締結、
ラオス政府とタイ電力公社(EGAT)が売電契約を締結
2007 年 9 月 関西電力、EGAT、Rojana Industrial Park Ltd.がコンソーシアム契約書を締結
2007 年 9 月 Rojana Industrial Park Ltd.が撤退
2008 年 12 月 EGAT との売電契約書期限切れ
2008 年 1 月~8 月 補足現地調査実施
2013 年 4 月 12 日 ナムニアップ1電力会社の設立
2013 年 8 月 27 日 ナムニアップ1電力会社、EGAT、ラオス電力公社の間で買電契約を締結
2013 年 11 月 大林組が建設工事を受注
2014 年 5 月 7 日 ビエンチャンにて「公聴会」を開催
2014 年 8 月 14 日 ADB が 1 億 4,400 万ドルの民間セクター融資の供与を決定
2014 年 8 月 19 日 JBIC が 2 億ドル(JBIC 分)を限度とする貸付契約を締結
4.懸念される問題点
1996 年~2002 年に JICA が行った実施可能性調査1では、以下のような懸念が上げられた。
○ 淡水魚に蛋白源を依存する住民への影響
調査によりナムニアップ川の魚は 134 種が採取・特定された。予定される貯水池の上部・下部で観測された数
種は、メコン河流域でも生息が報告されており、回遊魚と考えられる。魚類の種および回遊魚に関して追加調
査を実施する必要がある。
○漁業への影響
貯水池内の水質変化は漁業にも影響する恐れがある。調査した 31 村すべてにおいて、各世帯平均 1 人以
上は漁業活動をしている。住民は 2~3 日/週、ナムニアップ川で漁業を営んでおり、1 回当たりの平均漁
獲量は 0.7kg/世帯。平均消費量は下流域で 137kg/世帯・年と算定された。
○ダム建設による森林の水没
森林から得られる生産物(木材、薬草、果実、野生動物)の経済的損失、自然保護価値、固定された炭素
の放出
○貯水池建設による野生動物への影響
○ダム下流域の影響
ダム完成後、雨季初期の流量は半分に、乾季には約 3 倍多くなる。河岸では乾季に菜園が営まれるが、
水位上昇は菜園面積を減少させる。また貯水による水質悪化の恐れ
JICA が指摘した以外にも、次のような問題ある。
○移転などにより 13,000 人に影響
1999 年 3 月に行われたダム下流域の社会経済調査では、ダム上下流で 2,300 世帯 13,000 人が居住しており、
移転を迫られる可能性がある。また、下流域、15 か村の 1,400 世帯 7,300 人が水質・流量変化の影響を受ける
と予想される。
○代替案の未検討
ダム開発、および電力輸出によるラオスの経済発展を前提に調査が進められ、ダム以外の代替案が検討され
ていない。これは、実施企業が「事業を実施しないという選択肢」を十分に検討することを要求している ADB の
セーフガード政策に違反している疑いがある。
○市民社会の参加プロセス
2014 年 5 月にビエンチャンで開催された「公聴会」では、参加者を「ラオスに事務所を登録した団体」に限定す
るものだった。ラオス政府が ADB の支援を受けて 2003 年に発行した「環境社会影響評価における民衆参加の
ためのガイドライン」に違反している。
本件に関する問い合わせ先:
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作成:2015 年 1 月 29 日
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Feasibility Study on the Nam Ngiep-1 Hydroelectric Power Project (Phase II) in the Lao PDR Reference
Documents for Third General Workshop Draft Final Report Workshop (Sept.18-20 2002 Vientiane)