児玉 治美さん 上級コミュニケーション専門官

児玉 治美さん 上級コミュニケーション専門官
多くの国からの資金で成り立っている国際機関は、各国の政治家やメディアなど、民意を預かる
人々を動かすことが重要だ。自国の問題として国際的なテーマに取り組んでもらうことで、1 つの
目標に向けて多様なプレイヤーが動く構図を生むことができるからだ。児玉治美(こだま・はるみ)
さんは、世界各国の政界とメディアに深いネットワークを築き、プレイヤーの結集と動員に長けた
人材である。
国会議員の秘書を経て国際協力の途へ
2008 年に入行した児玉治美です。広報局メディア・コミュニ
ケーション・ユニットで上級コミュニケーション専門官(Senior
Communications Specialist)をしています。ADB に入行するま
では、日本の国会や国連、NGO でリプロダクティブ・ヘルス、
ジェンダー、人口問題などに関わってきました。
大学院では国際法や国際機関論を学びました。1994 年、
大学院卒業の前から、教授の紹介で女性国会議員の秘書を
始めました。そして、カイロでの人口会議や、北京での女性会
議など、地球規模の課題を扱う主要な国連会議に随行しまし
双子の男の子の子育て真っ盛りです。実家
の鹿児島で産んだのですが、マニラは住み
込みのヘルパーさんを雇える環境が整い、
子育てには最適だと思います。
た。
おもしろかったけれども、フルタイムで国際協力をしたくて家族計画国際協力財団(ジョイセフ)
という日本の NGO に入りました。1998 年のことです。始めは非常勤でしたが、すぐに正規職員とな
り、それから 2001 年まで働きました。バハマを担当し、思春期の若者向けの保健プロジェクトを任
されておりました。現地に駐在していたんです。
国際会議で見出される
そんな時、ニューヨークで UNFPA(国連人口基金)主催のシンポジウムがありました。パネリスト
の一人として出席したのですが、顔見知りだった UNFPA の幹部の一人と話をしていると、「各国の
国会議員や NGO とのネットワーキングができる人材を探していたんだ、ぜひ UNFPA に来てくれな
いか」と、その場で打診されたんです。ポストまで新たに創設してくれて、2001 年からニューヨーク
本部の広報局で国会議員と先進国の NGO とのネットワーキングを専門に行う担当官になりまし
た。
国会議員関係の仕事は大きく分けて 2 つでした。1 つは、各先進国の ODA 予算、あるいは途上
国の開発予算のなかから、人口/リプロダクティブ・ヘルスのための資金を拠出していただくこと。
もう 1 つは、立法府として人口/リプロダクティブ・ヘルスに関する政策や法律を作っていただくこ
とです。私が入った翌年から、人口問題に関する国際国会議員会議が隔年で始まりました。地域
ごとに存在する国会議員連盟と連携しつつ、地域を越えた世界レベルでの意思決定とネットワー
キングを目指しました。最初は大変でしたが、そのうち活動予算がついて、参加が増え、成果が上
がりました。国会議員に動いてもらうことは、国を動かすことにもなりますから、国連機関は成果を
上げやすくなるのです。
ADB 幹部へのサポートとメディア・コミュニケーションが仕事
ADB に入った主な動機は、ニューヨークという先進国の大都市から世界に向けてメッセージを
発信する仕事をそろそろ離れて、日本人として思い入れのあるアジアという地域の開発に関わる
仕事がしたくなったからです。個人的には 2008 年に双子の息子を出産したため、仕事と育児を両
立しやすいマニラに ADB 本部があったことも、転職を決心する大きなきっかけになりました。
ADB での現在の仕事は、大きく分けて2つあります。まず、総裁や事務総長など ADB の幹部が
国際会議に参加するときのコーディネーションです。ダボスでの世界経済フォーラムや APEC 財務
相会議などの重要な会議への参加に向けて、メ
ディアの取材や記者会見をアレンジしたり、ブリー
フィング用資料や想定問答集を作ったりします。
場合によっては幹部に同行し、現地での調整を
行ったりもします。
もうひとつは、ADB が取り組む様々な開発課題
について、メディア等を通じて広く広報活動を行う
ことです。気候変動やエネルギー、食糧、水、イン
ADB の女性国際スタッフ全員が会員である
International Women’s Committee の理事を 1 年半前
から務めています。ADB に入ってもジェンダーの問題
に関われることに、喜びを感じています。(前列右端)
フラ、都市化、ジェンダー、ガバナンス等、カバー
しなければならない問題が多岐にわたるため、一
つひとつのテーマを追うのは大変ですが、その分
勉強にもなり、やりがいがあります。
NGO や国連にいたころは、社会開発分野での草の根の援助に傾倒していたため、マクロ経済
や金融、インフラ整備等の問題にも深く関わる ADB での仕事に最初は少し戸惑いを感じました。
しかし、ADB での仕事を通して、社会開発と経済開発の両方に取り組むこと、そしてマクロとミクロ
の両方の視点を持つことがいかに重要であるかを改めて実感しました。これからは、ADB のプロ
ジェクトの仕組みについてもっと勉強し、プロジェクトレベルでのコミュニケーションをやりたいと思
っているところです。
(取材と構成:吉田 鈴香)