ファンドマネージャーの視点『20年ぶりの大変化、賃上げ日本!』

2015年4⽉6⽇
⽇本株ファンドマネージャーの視点
『20年ぶりの⼤変化、賃上げ⽇本!』
※このレポートでは、⽇本株ファンドマネージャーが注⽬しているトピックなどを毎週お届けします。
今年の春闘も⼭場を越え、残るは中⼩企業の動向となりますが、製造業を中⼼に昨年以上のベースアップ(以下ベ
ア)が⾒込まれることが確実となってきました。春闘は「春季⽣活闘争」の略です。賃上げや労働時間の短縮などの
労働条件の改善を要求する⽇本の労働闘争で、今年のトヨタの英断が流れをつくったように、多くの企業が同時期に
⾏うことでより良い妥結結果を得るために⾏われてきました。
賃上げの交渉は⼀般的に⽉例給と特別賞与に関わる交渉となります。特別賞与はかつては⽣活給的な側⾯が強かった
のですが、近年は会社の業績連動と個⼈の評価を組み合わせた計算⽅法が浸透してきたため、交渉のメインは⽉例給
与となってきました。
⽉例給与の上昇(賃上げ)の構成要素は、定期昇給(定昇)とベアとなります。定昇は年をとれば定期的に上昇する
部分ですが、ベアは年齢、評価が同じ⼈の賃⾦が1年後どれだけ変化するかという変化幅のことで、モデル賃⾦カーブ
が上昇するということです。
最近のベア獲得のニュースに、⽇本の新時代の到来を強く感じます。私は10年ほど前まで⽇本の⼤⼿⾦融機関の労働
組合の地区役員を5年ほど務めていました。1⽉から4⽉まで毎⽇夜遅くまで賃⾦交渉の⽅針を組織討議し、組合員へ
の説明と擦り合わせを⾏い、それを本部へ要求として上げ会社への要求を作り上げていきました。ただ当時は今と違
い、⽇本は⻑期のデフレの中間点でベアなど夢のまた夢でした。討議する内容は特別給与の要求⽅針と、定昇の確保
でした。
「ベアが夢」というのはベアの意味に由来します。ベアは物価上昇⾒合いを反映するという建前になっていたので、
当時のマイナス消費者物価ではマイナス要求をしなくてはならなかったからです。ただ労働組合としてはマイナス要
求などありえないため、ベア要求なしが定番でした。
ここで重要なのは、⽉例給でインフレ率反映後の⽣活⽔準改善を要求するなら、定昇幅の拡⼤など、給与体系の変更
を要求する必要があります。ただ当時はデフレの時代で会社業績も下り坂でした。そのため定昇は現状維持の確保と
いう要求が限界で、業績連動⾊の強い特別給与の要求⽔準を妥結可能な限りでいかに⾼く設定するかが重要でした。
⽇本の労働者は⻑年のデフレで、定昇以外にベアを確保することに慣れていないため、このベアに意外感を持ってい
ると思います。ただベアが物価上昇分の反映と考えると、ベアがあって当り前と思わなくてはいけません。なぜなら
業績部分の変化については多くの⽇本の企業が特別賞与で調整する仕組みに、過去20年間で変化させたからです。
ただ⼀点、労働者にも弱みがあります。それはデフレの時代、ボーナスは減りましたが、よほど会社が苦しくならな
い限り、定昇などの⽉例給の仕組みは⽣活給的な側⾯から減額されずに温存されてきたからです。会社は職務給の導
⼊など給与の仕組みを変更することで調整してきましたが、業績連動給の⽐率の低い世代ほど実質給与は上昇してい
ると思います。これは給与における会社への潜在的な借⾦ともいえます。これは今後消費者物価の上昇と会社の業績
動向で調整されていくと思われ、物価が上昇してもすべてがベアに反映されるわけではないと思われます。
ただ今年の春闘では、物価が上がれば⽉例給与が上昇する流れが⽇本に戻ってきました。2年連続の上昇は労働者の潜
在意識を刺激し、期待インフレ率にプラスの影響を与えそうです。実際、消費者物価はエネルギー価格の変化もあり
消費税の影響を除くとゼロ近辺ですが、4⽉1⽇に発表された⽇銀短観における企業の物価⾒通しは+1.4%と12⽉調
査と同じ数値となりました。私は今回の春闘が後世、世界で最も早く需要不⾜によるデフレを経験した⽇本が、いち
早く安定的なインフレ基調に戻る第⼀歩を確認した春となると考えます。この点から業績の伸び以上にバリュエー
ションが切り上がりマーケットを引っ張る⾷品、⼩売などの⽇本の内需株の強さは中⻑期的にも継続すると考える必
要がありそうです。
株式運⽤部
永⽥ 芳樹
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